2.さぁ、剣を買いに行くぞ!あれ、この剣どっかで見たような
「おお…こころなしか、目が冴えてきたぞ!」
「そうだろ? なにせこいつを飲むと眠気がぶっとんで、元気になるからな」
俺は案内してもらう直前、見かねたフミンから渡されたある飲み物を飲んだことで、眠気がすっかりなくなっていた。その飲み物は俺が前の世界にいた時に飲んでいたエナジードリンクのような味だった。その飲みものの名前は『カイブツ』と言うらしい。
「じゃあまず、ここの商店街の案内をするぞ。ここには色々な飯や武器、防具など様々な店が出店されているんだ」
フミンはあちらこちらの店を指しながら説明した。
「最も私は、眠りながら使えるスキルがあるから、武器はいらないんだけどな」
「え? 眠りながら使えるスキル!? 俺も習得したいんだけど!」
俺はフミンが言っていた眠りながら使えるスキルが気になってしょうがなかった。
「いや…お前が想像しているのとはだいぶ違うぞ。敵の攻撃を弾く防御スキルだ。盾を直接使う以外にも盾に書かれている呪文を念じれば、自分だけじゃなくて味方にもバリアを張ることができるんだ」
「いいじゃんそれ!」
「本当にそうか? バリア張るなんて直接相手にダメージを与えられる訳じゃないし、なによりドルミールにモンスターや隣国の奴らが襲いかかることはここ100年なかったから、これから先スキルを使う機会すらないんだぞ。私の場合、この街で囁かれているいつか来る襲撃に備えてスキルを鍛えているんだがな…」
フミンはため息をつきながら盾を取りだした。そして、盾に書かれている呪文を見て、またため息をついた。
「いやフミン。戦う時以外にも防御スキルは使えるぞ」
「…どんな時だ?」
「誰にも邪魔されずに寝たいときだ。自分の周りにバリアを張れば、絶対に邪魔されることはない」
俺はドヤ顔でスキルの使い道を提案した。しかし
「そんなアホみたいなことに防御スキルを使わせてたまるか!」
フミンにとってこの使い道は言語道断だったようだ。
「取り敢えず、そこの装備屋に入ろう。この街は戦いが起こっていないとはいえ、いつか来る戦いのために戦士は武器を持つことが義務となっているからな。それに、私の盾を買ったのもそこだしな」
「あ、そうなん」
俺は二つの意味での返事をした。一つ目はフミンが自分の盾をこの店で買ったこと。そして二つ目は…このいかにも平和な街なのに武器を持つことがルールになっていることだ。てか、さっきも言ったいつか来る戦いってなんだ。
とか色々考えているうちに俺達は装備屋に入っていた。
「おおフミンちゃん! 久しぶりだな!」
店に入ると、屈強な男がフミンに声をかけた。どうやら知り合いらしい。
「で、隣にいるその子は彼氏かな?」
「ち、ち、違うわ! こいつはそんなんじゃねぇ!」
フミンは顔を赤らめて俺との関係を否定した。なんだよ。そこまで言う事ないだろ…。
「ははは。冗談だ。で、今日はそいつの装備ためにうちに来たんだろ?」
「まぁ、そんなところだな。こいつ、この街の出身者じゃないし、戦闘経験もなさそうだからな。あんたの店は初心者のための装備が多く揃っているからな」
「そうかそうか。今日はうちの店に来てくれてありがとうな。俺の名はスイバ。フミンちゃんとはうちの盾を買ってくれてからの付き合いだ」
「は、はい…俺は眠目夢太郎です」
俺は少しビビりながらスイバさんからの握手に応じた。
「なぁ、フミンちゃん。ユメタロウには何の装備がおすすめだ?」
「あーこいつは剣だな。ユメタローは剣とか持って俺は最強だーとか言ってそうな顔してるから」
どんな顔だよ! 俺は心の中で突っ込んだ。
「よし、じゃあとっておきを見せてやろう」
そう言ってスイバさんは倉庫に行き、剣を探した。
「確かここに…おっ、あった! こいつだ」
スイバさんは取り出して来た剣を見せてきた。その剣は紋章が書かれている青色の鞘に収められていた。
「ん…?」
俺はその剣をじーっと見つめていた。なんか、既見感がる。そう思っていた。
「この剣は、今日の朝に鍛冶職人から託されてな。なんでも、戦いに慣れていない奴でもまるで上級者のように使いこなせるんだ」
スイバさんは剣の説明をした。だが、それ以上にこの剣が俺の頭に引っかかっていた。
「その剣の名前は、ビギナーシニアというんだ」
「あの! これ…これ、ください!」
「おっ、いいのか? まだ一つしか武器を紹介していないが…」
「はい! 俺は、どうやらこの剣に会う運命だったのかも知れません」
スイバさんは少々俺に気圧されていた。まぁ、いきなりがっつくような態度取ってしまったからな…反省反省。
「運命か…お前がそう思うならそうなんだろう」
そして、俺はこの剣をスイバさんから託された。
「本来なら、対価として金を払って貰うところだが…お前はこの街に来たばかりだ。ある程度街に慣れて稼げるようになったら、一括で払いにきてくれ。利子はつけないぞ」
「あ、ありがとうございます」
俺はスイバさんにお礼を言い、お辞儀をした。
「おっ、ユメタローもう武器が決まったのか。早いな」
フミンは俺が早速腰に巻いた武器『ビギナーシニア』を見つめていた。
「なんでも、この武器に運命を感じたんだとさ」
「…運命?」
フミンは不思議そうな顔をした。
「あ、ああ。この剣、初めて見るはずなのになんか見覚えがあるんだよ…なんか、夢に出て来た気がするんだよね」
「ユメタロー…」
「ん?」
「それって、予知無なんじゃないか?」
フミンはしばらく考え込んだ後、恐らく既見感の正体であろうものを口にした。