96王都に戻りまして
朝である。思えばゲームの中で眠った事がなかった。最近は眠らないと動けないゲームもある中、このゲームは人間の現実の睡眠時間を守るために超過活動できないようになっているだけだ。中々良い眠りだった。
「いっせーのせで飛び乗るのよ」
「そんなことして怒らないか?」
「良いのよ、ナントだから」
扉の外で声がする。まあ誰だか分かるので起き上がって先手を取って扉を開けてみる。
「あっ」
「わっ」
「おはよう」
思った通り驚いた顔のジュリアとユーが居た。
「何よ、起きてたんなら早く来なさいよ」
「脅かすなんてひどいぞ」
「脅かすつもりはなかったけどね」
俺はそういって部屋を出る。
「というか、珍しいね、二人が俺を起こしに来るなんて。何かあったの?」
俺が起きる、というかゲーム内で寝るのは初めてなせいか?普段はログアウトで寝ているという事になっていたから。
「ロゼが出発するって」
「ナントが来たらすぐに出るってさ」
「それを早く言って欲しい」
最後の一人が現れるなんて物凄く目立って恥ずかしい話だ。慌てて村長宅に向か会おうとすると、村長宅前の広場に何か人だかりがしていた。
「何があったんだ」
俺はまた襲撃でもあったのかと思ったが殺気立ってはいない。
「ちょっと通してください」
「あら、ナントさん来ましたか」
メイドのディーナさんが外で待っていてくれた。物凄く気まずい。
「すいません、お待たせしました。ところで、これは何かあったんですか?」
メイドさんと会話するのに俺に視線が集中するのは耐えられない。それでも効かなければ話が進まない。
「皆さん、王都までの警護を手伝って頂けるそうです」
王都までそんなに時間はかからないけれどいいのだろうか。
「とにかくすぐに出発ですか?」
「ナントさんが来ましたから、村長さん達にご挨拶してきます」
ディーナさんが家へ入っていった。視線から逃げようと俺も続いて入る。
「あ、リルさん」
「ナント、おはよう」
「おはようございます。皆王都に行くようですけど、何でまたこんな大行列に?」
俺はプレイヤーの情報を知るためにリルさんへ尋ねた。
「イベントは終わったけど結構いい稼ぎになったし、まだあるかもしれないから。ほら、終わってすぐエメラダのハイドルートがクリアされたってインフォが流れたでしょう。あれで解放されたのがアーツや特別なアイテム、他にもいろいろあるけどそういった物を教えてくれるNPCなのよ。王都に居る分のそれを聞きに行くからついでってところね」
ああそうか。
「リルさんは王都へ行かないんですか?」
「行くわよ。ただ、ジュリアが狙われるかもしれないから少しずらしていくつもり」
リルさんはジュリアの護衛をしてくれるようだ。有難い。
「ああ、そうだった。このお金なんですが、半分返しますというか預けます。一回PKされたので大金持ってると怖くて仕方ないんです。足りなくなったらもらうという事で」
リルさんにお金を渡すためにステータスウィンドウを開く。
「そう?それでいいなら構わないけど、無利息よ?」
「いや別に銀行じゃないでしょう。増やしてくれるんならいくらでも運用してくれて構いません」
俺の考えとしては非常用に取っておきたい金額なので増えなくても問題ない。
「それに俺の戦い方だとポーションを大量注文するでしょうし」
ある意味アイテムでのごり押しな戦い方だ。
「まあね、狂戦士化してたとはいえああいう戦い方じゃあアイテムがいくつあっても足りないわよね」
「アイテム代にしてくれてもいいです」
これでしばらくポーション代を考えなくてすむ。俺はこれで決定とリルさんにお金を渡した。
「ナント、おはようだの」
「あ、ロゼ、おはよう。挨拶は済んだの?」
「終わったのう。ナントも来たし、それでは出発じゃ」
馬車に乗りこむロゼとメイドさん。俺はまた御者台に乗せてもらう。隣には黒天狗さんが馬に乗って準備している。
「黒天狗さんも、おはようございます」
「おうおはよう」
俺が黒天狗さんに挨拶している間に儀式のような雰囲気で村長とロゼが別れの挨拶を交わしていた。
「それでは村長、またのう」
「またおいでになる事を心から願っております。道中、御無事で」
「ナントも元気でね」
「死ぬなよ」
ジュリアとユーが声をかけて来たので手を振ってこたえる。そして周りの視線が痛い。フードつきのマントか何か買った方が良さそうだ。
「しゅぱーつっ」
馬車の上扉からイーナさんが声を張り上げて馬車は動き出した。周りにと帆のプレイヤー達が居るので実は行よりもゆっくりになっているという。
大きく団子に固まって、馬車はビギの村を出発した。
王都にはすぐについた。襲撃らしい襲撃はなく、一度だけあったリゴブリンの襲撃も普通の襲撃だったので数の暴力ですぐに終わった。攻撃しなくてもそのまま前進していれば踏みつぶしたかもしれない。
目的地の冒険者ギルドに着くとプレイヤー達は目的なんであろうNPCを探す為に散って行く者、同じく冒険者ギルドに行く者と、あっさり解散した。
「おお、ナントさん、黒天狗さん、御無事で何より」
グジラさんが満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。嬉しいけれどこの人の笑顔は結構怖い。
「ええと、クエスト終了の報告をしに来ました」
「はい、受け取りました。まさか襲撃があるとは思いもよりませんでした。皆さん無事でよかった。どうぞこちらへ」
グジラさんに連れられてぞろぞろと応接間に向かう。
「ナント、それではこれでさよならだのぅ」
「ここでお別れか。元気でな。城には間違ってもいかないけどロゼがこっちに来るならまた会おう」
ありがちなお別れの台詞ですよ。
「ふむ、クエストを出すかのう」
「待って、どういうクエストを出すつもりなの」
ロゼの言葉に俺は反応する。城に連れて行かれそうな気配が凄くする。
「大したことないのう。わたしが行きたいところに連れて行ってくれるだけだのう」
「それならいいか。でも俺はこの世界の事を全くというほど知らないぞ。今までビギの村を中心に狩りばっかりしてたし」
「そこは考えておくのう」
「姫様、お早めに」
「わかったのう」
エーナさんの言葉にロゼは軽く手を振って、メイドさん達と扉をくぐって消えていった。応接間にある隣の部屋行きだと思っていた扉はちらと見えた通路からすると隠し通路の一種かもしれない。そのまま通路が続くのか魔法陣でもあってワープするのかは知らない。
「さて、報酬は荷物の運搬と護衛ですから、受付でもらってください。黒天狗さんはどうしますか?」
「俺はこのまま偽王国騎士団に帰る。ナント、ありがとうな。それじゃあ」
黒天狗さんはあっさりと帰っていく。
「それでは俺もここで」
「おや、ナントさん、まだふさわしいクエストがあるんですが」
「いや疲れました。それに用事も出来ましたから、遠慮しておきます」
俺にふさわしい用事って、またビギの村にとんぼ返りになる気がする。グジラさんのお誘いを断った俺は受付で今回の報酬を貰って逃げるようにギルドを出た。
さて、今日は寝ながら考えた予定では忙しい。まずは忘れずにジュリア達に上げるお菓子を買おう。しかし小人族の事があるとはいえ見事にトンボガエルなのだ。
「宿をお願いします」
流石にすぐ帰るのもきついので普通に毎度の宿屋に泊る。
「はい、いらっしゃいませ、一泊ですか」
ミミリアさんだったか、兎耳の娘が迎えてくれる。
「あ、そうだ、一つ聞きたいんですが、ここら辺で子供が喜びそうな菓子ってどこがあります?」
「お菓子ですか」
「土産に買っていく事になったんですが、ほぼ一泊して戻る事を繰り返していたので地理をしらないんですよね」
宿帳に名前を書くついでにミミリアさんに話を振ってみた。
「そうですね、子供向けだとクロッケアさんのクッキーケーキとかモモチェさんのプリンとか人気ですね」
プリンあるのか、中世的なので冷やした菓子はプレイヤー製だけだと思ってた。
「あ、それじゃあ一つお願いがあります。お金は払いますので買って来てくれませんか。プリンを2ダースほど」
俺は良い事を思いついたとミミリアさんにお使いを頼む。この後センスを買って鎧を買ってとするので省略できるならそっちが良い。
「お使いですか。案内しますよ?」
「ちょっと今日は急ぎでして、案内は次回にお願いします」
案内を頼むのもまた話が面倒になる気がする。例のファンクラブの事で。ジュリアの所は村長一家、ユーは網元一家…兄弟がいるのかいないのかも知らないな。
セカの村長は一家何人だろう。実際の数は何人家族か分からないが24個もあったら行き渡るだろう。俺は銀貨を取り出してミミリアさんに渡す。
「銀貨って、多すぎます!」
多いのか?適当に取り出したので銀貨という事も気付かなかった。今まで貰っていたのが主に銅貨だ
し、3万デン貰った時はステータスウィンドウで確認しただけだから貨幣で払うのに違いがあるとは思わなかった。
「まあ、何だったらさっきのクッキーケーキとかお奨めの物をいろいろ買ってきてくれたら嬉しいです。おつりはお駄賃で」
西洋風だからチップをあげてもおかしくはない。
「分かりました。でも、こんな大金は出すのは良くないですよ。泥棒が来ます」
「そこは宿屋の方に守ってもらうという事で」
嘘か誠か知らないが、このミミリアさんも兎拳法を使うそうだから一度見てみたい気もする。
そろそろ一連のイベントの区切りも付いたのでログアウト、長いイベントだと中々ログアウトの区切りが難しい。




