81ギルドで依頼をうけました
ビギの村の一員か。大体のゲームがそうであるように、最初の方の村はイベントがない限り行く人はいない。俺も普段のゲームでは本拠地を置くのは王都のような大きな街か必要なアイテムを買うのに便利な町だった。
ゲームによっては最初の街でしか手に入らないアイテムがありその場合はそれなりに常駐するプレイヤーも居たけれど、俺はあまり行きそうにないな。申し訳ない。
「本拠地を王都に置いても、この称号を持って入ればビギの村などの場所からしか行けない所へも行くことができます。そうそう、おそらく知らないでしょうからあそこのクエスト掲示板の方を見てください。
空旅人の方ならウィンドウを通してみてみると、面白い事があります」
グジラさんに言われてクエスト掲示板を見る。結構な人だかりがある物の何故かプレイヤーはウィンドウを開いてみている、結構奇妙な光景だ。
「こうするのか」
俺もウィンドウを開いて、そのスクリーンを通して掲示板を見る。掲示板のクエストが光って見えた。
「光ってますね」
「空旅人の方はこうやって自分に丁度いいクエストを見つけます」
グジラさんの言う事には、安全確実なクエストが青く光るそうだ。
「これ、レベルと熟練度のどちらを目安にしてるんですか?」
「主に熟練度ですね。それでも人柄で無理というクエストもありますので、クエスト処理の時に言っているんですが、人によっては無理に挑んで失敗という事もあります」
ああ、よくあるプレイヤーが自分の能力を過信してという話か。俺はそういうのは無理と言われるとやらないタイプなのであんまりない。人柄を見られるんでは自分ではどうにもならない分野だと思う。あれ、でもゲームの解説にはクエストは時間がかかるがすべて実行可能とあったはず。何か違いがあるんだろうか。
「今ナントさんが実行可能そうなクエストは…」
「すいません、急用で先にビギの村に確認する事が出来たので先にビギの村に行くんです」
リルさんにお金の事を確認しないと先に進めない。
「そうですか。それではついでと言っては何ですが、ビギの村へのクエストを受けてもらえませんか?ついでで結構ですので」
俺はギルドからの依頼という物はまだ受けていない。グジラさんが言うならでためしに受けてみよう。
「分かりました、ついでなら」
「ありがとうございます」
さて、初依頼だ。どれを選ぼうか。
「こちらを全部お願いします」
そう言って手渡されたのは10枚を超える依頼用紙だった。
「ちょっと待って下さい。一つじゃないんですか」
「ビギの村への運搬依頼は少ないので、普段はクレイさんの馬車を待つのです」
依頼用紙の内容を見てみるとこれは薬草や鉱物などが主で確かに量は少ない。
「今回依頼したいのは急ぎの物と少ない物です」
『ビギの村への運搬依頼一覧(13枚)
クリムゾンライト鉱石×1の運搬
スノードリップの果実×10の運搬
ハニービービーの蜜×10の運搬
サクラインの水薬の運搬
リトル・ライオンキングの爪×6
グレイウルフの毛皮×10の運搬
スーパーヘビーアイアンの剣の運搬
蛇蝎の鞭の運搬
名鉄「黒鉄丸」×10の運搬
王女の護衛
流星鉄の粉×5の運搬
妖精羽のブラジャーの運搬
シャイニングナックルセット×2の運搬』
「ちょっと待って下さい」
依頼を確認した俺はストップをかけた。
「いくつか拒否したいんですが」
「おや、どれでしょう」
不思議そうな顔をするグジラさんに俺は依頼用紙を分けて目の前に出す。
「まずはこの妖精羽のブラジャーというのはやめてください。下着は色々まずいです」
「大丈夫です、頼んだのは男性ですよ」
何で男性が頼むんだ?そういう趣味か?いや恋人にプレゼントするんだな、そうであってくれ。
「年頃の男としては下着を持っていると思われたくないです」
わざわざ素材を使って下着を作るとか、怪しすぎる。
「次にここら辺のアイテム、どこかのプレイヤーが特注で作るような物です。俺みたいな初心者に運ばせて何かあったらどうします」
シャイニングナックルセットというのはきっと籠手の鎧パーツだと思う。名前からしてプレイヤー製の何か特別な鎧だろう。
「それからリトル・ライオンキングって、これは確かどこかのボスのドロップだったと思います。俺が盗んだらどうするんですか」
「盗むんですか?」
「盗みません」
俺が例えで言った言葉をグジラさんに返されて慌てて否定する。
「最後に王女の護衛って、どう見ても最重要任務が入っているんですか。初心者同然の俺にやらせる事ではないでしょう」
初心者同然というのは多少初心者から抜け出せたと思いたい見栄です。
そして俺が実際に言いたい事としては、面倒くさそうな事に巻き込まれそうだからやりたくない、という話だ。
「大丈夫ですよ。これでも人を見る目には自信があります。まず貴方は少なくとも、盗まず、壊さずに、無事に運ぼうとしてくれるタイプです。もし壊れたら正直にそれをいう性格に見られます」
何か自分の性格を過大評価されている気はする。
「例えモンスターが襲ってきても、闘う事が出来るぐらいは強いでしょう」
「え、そうですか?」
まあリゴブリンぐらいならまあ何とかなりそうだけども、何か先達の偉い人に言われると嬉しいし照れる。
「いやちょっと待ってください。モンスターが襲ってこなくて人間が襲ってきたらどうするんですか。わざわざこんな時期に王女の護衛でビギの村に行くなんて普通ない話でしょう。襲ってくるのはどう考えても騎士とか盗賊とかの人間です」
そう、俺は人間同士の戦いはやったことがない。
「大丈夫。王女の護衛ですが、一人でやらせません。必ずおつきの騎士が一人は付いてきます。逆に貴方が守ってもらえるという方法です」
成程、初心者同然の俺が守ってもらえるのは楽だ。
「王女の護衛の依頼は、何よりも信頼できる人間に任せる事が第一です。貴方が信頼できるから依頼をお願いするのです」
おおう、そんなに信じられていたとは。まあどちらかというと悪いことしない人間という方向性でだろう。戦闘は騎士に任せられるのか。それならこの依頼をついでに受けた方が金になる。
「分かりました。それなら引き受けます。ただし、戦闘にはあまり役に立たない事を王女の護衛の騎士に言っておいてください」
これは結構重要だ。後で何か言われそうだから先に言っておいてもらおう。
「ありがとうございます。出発はどうしますか?こちらとしては明日が良いのですが」
「明日ですか」
出来ればきょう出発したかった。まあ宿屋をキャンセルするのも悪いし、一晩泊まるのは良いか。
「それでは明日の朝にギルドにおいでください、お待ちしています」
「分かりました。それでは失礼します」
俺はグジラさんに挨拶してギルドを出る。
「あれ、そういえば他の称号を見たんじゃないか?」
「小人族の友」の称号を話されると困る。しかしグジラさんも話したら駄目な事は話さないだろう、多分。
宿屋に戻ると前を何かウロウロしている人が居る。構わずに入ろうとすると呼び止められた。
「ちょっとそこの君」
「はい?」
俺を呼び止めたのはプレイヤー製の鎧を着ている普通のプレイヤーだ。
「君はここの宿屋に泊るのかい?」
「はい、明日には出ますが」
「そうか、それならミミリアちゃんファンクラブに入らないか?」
「はい?」
俺は男の言葉に疑問形の声を出す。
「何ですかファンクラブって、この宿屋とどう関係が?」
ファンクラブの勧誘というのも初めての経験だ。現実にはそんな人間は周囲にいない。
「ここの看板娘の子を見たかい?兎耳の獣人何だけど」
「それは見ました」
「あの子のおばあさんがミリアナちゃんと言って、我らのアイドルだったんだ。残念ながら死んでしまったが」
β版の時代から百年ぐらい経過しているそうなので知り合いが死んでいたという報告があるのは知っている。
「そこで孫娘で同じ兎の獣人であるミミリアちゃんファンクラブとして再起したんだ。とは言っても新しいアイドルを見つけた人間も居て旧ミリアナちゃんファンクラブの全員が現ミミリアちゃんファンクラブになった訳ではない」
「はあ」
俺の知らない世界なのでこういう応じ方しかできない。
「そこで、おそらくミミリアちゃん目当てで宿を取っているだろうプレイヤーに声をかけているんだけど、君はどうだい?入らないかい?」
ファンクラブね、俺には理解できない話だし、行動を制限されそうな気がする。
「すいません、俺はただここに泊まっただけですし、後でレンジの方に行く用があります。ファンクラブに入る訳には行きません」
「そうか、残念だ」
男性プレイヤーは俺の言葉におとなしく引き下がった。
「変わった事もあるんだな」
俺の感想はそれに尽きる。問題はこれが後を引くかもしれないという話だろう、ファン心理というのは怖いから。注意だけはしておこう。




