73ジュリアの宴会芸
この黒ひげ危機一髪ゲームだった物はどう使うのか?それはそれとしてリルさんが立ち上がるのが見えた。
「あれ、リルさんも宴会芸あるのか」
「リルは凄いよ、この前は空中でインゴットから剣を作ったのよ」
「インゴットを投げるだろ?その後ハンマーを連続して投げてだんだんと剣の形に加工していったんだ」
ジュリアとユーが口々に説明してくれるけれどイメージが出来ない。どうやったんだ?
「今日はそこまで凄くないわ。クレイ、手伝って」
「はいな」
クレイさんが背中に大きな籠を背負ってくる。弁慶のような姿のクレイさんは籠の中には柄が長いの細いのと全部ハンマーが入っているようだ。
「行くわよ」
リルさんが腰のハンマーを片手でお手玉、いや玉ではないのでジャグリングし出す。左右の腰から抜いたハンマーを片手ずつ投げて回してから回転方向を変えて両手で回しだす。
「いくで!」
クレイさんが籠の中から少し大きなハンマーを取り出してリルさんへ投げる。エイ瑠さんはそれを受け取り3つのハンマーをジャグリングする。
そこから先は言うだけなら簡単だ。ハンマーの大きさがだんだんと大きく、多くなってく。最初の小さいハンマー10個のジャグリングからだんだんと投げにくそうな柄が長いハンマーへ、俺にはもてない巨大ハンマーへと投げる物が変わっていく。
「はいっ」
クレイさんもハンマーを投げ渡すのに必死だ。クレイさんのセンス構成は知らないが力が必要な物は取ってないと思う。全身に汗をかいてハンマーを投げているから。
はっきり言って、リルさんの芸はハンマーが落ちてきそうな怖さもあるけれどそれも迫力だ。何度もゴクリという息をのむ音が聞こえた。普通は出来ない、ファンタジーだから出来る事だ。
あ、何故か近づいて行った村人の頭をかすめたような。
「ふう、疲れた」
「ご苦労さん」
芸が終わってタオルを渡すクレイさんがマネージャーに見えてきた。
「おうい、芸が終わったらこっちをやってくれ」
おや黒ひげゲームの方で何かやるようだ。ついでだからよく見ておこう。
「これを突き刺せばいいの?」
「そうだ。樽のどこでもいいから刺してくれ」
もう出番の終わった猟師さんがリルさんに剣を渡して樽を教える。本当に黒ひげのゲームなんだろう。剣は刃が付いていないように見える。
「えい」
どすっと音を立てて剣が樽に刺さる。特に何も起こらないようだ。
「これでいいの?」
「ああ、樽の中身のこれが飛びだしたら宴会は終わりだ。昔、十日十晩騒いだら当時の空旅人が呆れたとか怒ったとかでそういう決まりを作ったらしい」
β版の頃だから設定上百年以上前かな。
「これ、私達の所では玩具なのよね」
「そうなのか。言い伝えでは当時の村長がその空旅人の荷物から選んだらしい」
玩具づくりの生産職だったのか?そうでもないと等身大の黒ひげゲーム何て持ってる理由が分からない。リルさんと猟師さんの会話は続いている。
「ナントはやってみたいの?」
「え?」
聞くともなしに聞いていた会話の方に意識が行っていたのを悟られたのか、ジュリアが俺の服を引っ張った。
「いや興味はあるけど、俺は芸をやらないから」
「あ、そっか。じゃあ次私が芸をやるね」
「え、ちょっと」
突然の話に驚いたが、俺が口を開く前にジュリアは駆け出して行った。
「あんな小さい子が何の芸をやるんだ」
「ジュリアが芸をやるのは初めて見るな」
「ジュリアが芸をやれるほど成長していたとは」
ユーも村長も知らないようだ。ジュリアが焚火の前に立つと周りから拍手が上がった。
「ジュリアちゃーん」
「頑張れよー」
子供の初めての芸だからか、皆微笑ましそうに見ている。
「ユニ、来て!」
ジュリアが呼ぶと元ボスモンスターがダッシュでやって来た。そのままジュリアが乗りやすいように膝をつく。物凄くなついているな、俺と違って。
「いくよー」
馬に乗ったジュリアが広場をぐるぐると回る。鞍や手綱は付けていない。今度王都で買ってくるかな。2回、3回と回る。中々堂に入った乗り方だ。ここの村で馬に乗った人は見ないので馬に乗る事自体が芸なのか?
「えい」
ジュリアが手を離した。走りながら馬の背に立とうとしている。
「ちょっと待て、遊牧民族のあるあるじゃあるまいし出来るのか?」
俺は思わずジュリアを凝視した。今にも落ちそうだがゆっくりと膝で立ち、体を起こす。両手を広げようとしてバランスを崩した。危ない。
「危ない!」
村長の声の方が大きくて逆に驚いた。村長の声が聞こえていないようで、ジュリアはゆっくりとバランスを取り戻して膝立ちで立つ。
「はいっ」
「おおおお」
ジュリアは膝でしっかりとユニの胴体を挟み、両手を広げてたっている。齢と時間を考えると見事な乗馬に周囲が湧いた。今までで一番盛大な拍手が沸き起こる。ジュリアが照れて笑いながら手を振っている。可愛いもんだ。
「いや凄いな」
「クレイさんが教えたんですか?」
額に遠くを見るように手をかざしているクレイさんは驢馬をペットにしている。という事は簡単な乗馬を教えたのかもしれないと予想する。
「いいや、村長にならったみたいや」
予想は外れた。村長は以外と多芸だ。
「ねえ、見てくれた?」
「見たよ、凄いな」
俺もエクレウスがなつけばああいう事をやってみたかった。いや無理か、仔馬だからジュリアぐらいの子供じゃないと潰れる。後で馬をペットにしよう。
「凄いでしょ。あれからアクスお爺ちゃんと練習したのよ」
弟の方の村長か。海辺に新しい村を作ったという事と合わせて考えると、昔は色々と行動するタイプだったのか?
「それで、はいこれ」
「黒ひげの剣じゃないか、刺さないのか?」
「ナントにやらせてあげる」
有難いような有難くないような。俺としては有難いんだけれど、目をジュリアの背後で光らせている村長兄弟が恐ろしい。
「流石に初めての宴会芸での物は悪いから、自分で何とかしよう」
「何とかって、どうするんだ?」
俺の横にいたユーが俺を引っ張る。
「ちょっとアイディアを思いついた。取り合えずその剣を刺しておいで」
「ふうん、分かった」
ジュリアが走って樽の方へ向かう。
「思いついたって、何を思いついたんや」
クレイさんが俺に聞いてくる。
「いや、黒ひげがどんな風になるのかというのを考えていたら、出来るような気がする事が思いつきました。宴会が終わったら最後にやってみます」
これが俺の初宴会芸だ。
「きゃっ」
ジュリアの声が聞こえて振り向くと、そこでは強く光が点滅している黒ひげの樽があり、ジュリアが刺した剣の前で尻餅をついていた。
「どうしたんだ」
「剣を刺したらいきなり光り出したの」
そういう仕様なのか。危険はないと思ったものの、ジュリアを起こして後に下がる。
「よしよし、皆の者、宴会芸はこれまでじゃ。人形が飛び出すぞ!」
アレク村長が大声で周りに告げる。初めてみるのか、何人がプレイヤーも寄って来た。
「5」
アレク村長が声を上げて数字を読みだした。
「4」
今度はアクス村長だ。
『3』
何人かの声が重なった。光り始めてからどのくらいで飛び出すのかが分かるのか。俺にはさっぱり分からない。
『2』
村の合唱になって来た。プレイヤーも交じっている。クレイさん、リルさんも声を出している。
『1』
声を出さない雰囲気ではないので俺も声を出す。蚊の鳴くような声ですが何か。学校の合唱ならともかく人前で大声出すのは苦手で、声がうまく出ない事もある。
『0』
今度は声が出た。それとは関係なく、樽の底から白い煙がもうもうと吹き上がって来た。どうなるんだ、爆発するのか?
ゴゴゴゴゴゴゴ
擬音を間違えている気もする。目の前の黒ひげゲームが元になっただろう髪の毛の長い人形は、どう見てもロケット発射の様に煙を噴き出して飛んで行った。
「何だありゃ」
「凄いねぇ!」
「凄い凄い!」
ジュリアやユーは何かはしゃいでいるがロケット見たいと思ってしまったのでそこまで面白いとも思えない。いや普通に面白いですが、何か違う気がしてならない。ところで人形は飛び上がったのは良いけれど戻って来るのか?
パーン
銃声のような音がすると空に七色の光が円を描いて放射線状に飛んでいく。これは凄い。
ヒューーー
今度は間の抜けた音がする。光に気を取られていた俺は、その音の方を見ると、人形がすっぽりと樽に入る所だった。さっきの光の位置を考えると真上に飛んで落ちて来たのか。よし、俺の宴会芸の参考になった。
空に光の筋はまだ輝いている。人形の方はと言えば髪の毛が真っ白だ。やる事をやり遂げて灰になったのか。
「さあ、芸は終わった。今度は飲み会じゃああ」
村長の宣言に俺は「えっ」っという顔で振り向く。
「人形が飛んだら終わりじゃないのか」
「宴会芸の部は終わりじゃ、後はひたすら潰れるまで呑む、これがこの村の宴会じゃ」
かつてこの村に人形を贈ったβプレイヤーさん、貴方の願いは全く届いていないようですよ。




