65ゴウワンサヴァが
蜘蛛だけを狩っていくのは難しくはない。問題は物欲センサーが発動して網が取れるかどうかだ。幸いにもかからなかったらしく網は普通に採れた。
新しくして貰った鎧は防御力が上がっている。野犬に噛まれても鎧の場所なら牙が通らない。隠蔽能力はよく分からない。ゲーム中の夜遅くまで毎日狩って網玉3つ分の網は採れた。早速届けに行く。
「もう取れたのか」
アガインさんが驚いたようにように渡した蜘蛛網を見る。
「半分の90枚ですが、何か問題がありましたか?」
「いや、早い分には問題ない。網ができるのは明日になりそうだ。先に前の報酬を支払っておこう。これがさっきの報酬のゴウワンサヴァの腕と1000デンだ」
うわ、いらない。とはいえ報酬なので有難く貰っておく、後で売る事決定だ。再び取って返して蜘蛛を狩って残りの90枚をセカの村へ運ぶ。そのままビギの村へ戻りログアウト、今日は長い1日だった。
現実24日目、網ができているかとセカの村へと進む。
「あ、ナント、おはよう」
「おや、ユー、おはよう」
家の前でユーが体操みたいなことをしていた。
「アガインさんは居るかい」
「父ちゃんならまだ寝てる。ナントは今日の漁には一緒に来るのか?」
「さあ、一緒に行くのはいいけど、特に言われてないから網をもらってリベンジに行こうかと思ってる」
今日の夜に行くのは5匹同じ所にいるらしいゴウワンサヴァの討伐だから、ベテランの漁師さん達と行くんだろう。
「え~。ナントも行こう。この前と同じような繰り返しだから、難しくないし」
「いや、漁師さん達の邪魔になりそうだ」
なんでユーは俺を連れて行こうとするんだろう。
「騒がしいな」
「あ、お早うございます」
「父ちゃんお早う」
「ナントが来ていたのか」
アガインさんが俺とユーの声で起きたようだ。悪いことしたか?
「はい、網球をもらいに来ました」
俺の目的を言うと、アガインさんは頭をかいた。
「それなんだがな」
できてないのか?
「ほら、ナント、網球だ」
ユーが網球を持って来てくれた。
「ナントが助けてくれたからな。頑張って作ったよ」
アガインさんが作ったんじゃなくてユーが作ったのか。
「ありがとう」
お礼を言うとユーが照れた。
「ちゃんとなっているとは思うが、ユーが作ったのは初めてだから、うまく開かないときは諦めてくれ。材料を持ってきたらただで作るから」
ユーに配慮してかこっそりと耳打ちされた。
「わかりました」
使えないことはないだろう。一度使ってみてからだ。
「なあ父ちゃん、ナントを連れて行ったら駄目なのか?」
ユーがアガインさんへ話を持って行った。
「今夜の漁にか。そうだな、この前の事を考えると別にいいが、ナントはどうだ、ついてくるか」
「ついて行っていいんなら連れて行って下さい」
急ぐ用もないので面白いところへはついて行ってみたい。俺は漁師さんたちの後で見物でもしていよう。
そう考えていたのはフラグだったんでしょうか、5匹どころか10匹は居そうなゴウワンサヴァに襲われました。
「なんでこんなにいるんだ」
「ナントはユーを守ってくれ」
夜になってついて行った漁場は前とは違う漁場だった。ここは前よりもはるかに広く水平線が見える。アガインさん、ユーに加えてセカの村の漁師4人と一緒にゴウワンサヴァ討伐に大きな船で漕ぎ出したところ、早速ゴウワンサヴァが現れた。
「よし、まずは1匹目だ」
前と同じように網球がついた銛が投げられて1匹目が倒される。帆船だが人力でも動くタイプの船で、俺は櫂をこぐ係でした。俺でリズムを崩すようなこともあり叱られながら船を動かす。
順調だったのはそこまでで次の場所へと移ると、なぜか群れになったゴウワンサヴァがこっちに向かって泳いできたという話です。
飛び上がったゴウワンサヴァはどういう理屈か知らないが魚の下半身で立ち上がり、腕を大きく広げて威嚇してくる。漁師さんたちが銛を構えると襲い掛かってきた。上に5匹、下に5匹は居るようだ。追加が来たら負けるかな。
アガインさんたちが船の上のゴウワンサヴァと戦っている。どうも弱い相手から狙う習性なのか、ユーがよく狙われる。目の前に漁師という敵がいるのに時々吹いてくる水の矢はユーを狙ってくるのだ。
俺は盾を取り出してそれを防ぐ。後は毎度の通り命中を使って海の中のゴウワンサヴァを減らすことにする。
「ナント!」
ユーの声と指にそちらを見れば飛び上がったゴウワンサヴァが追加で船に上がってきた。
「ユーは何か武器を持っていないのか?」
「ナイフならある」
解体用の奴だろうがユーが持つようなナイフではあまり役には立たない。
「うわっと」
盾を噴き出してきた水流に向かって突き出す。そのまま盾を構えつつユーを後にかばう。
「ブライト・アロー」
こういう時俺としては一斉広範囲攻撃を仕掛けるのが趣味に合ってるんだが乱戦でそれをやったら馬鹿というのである。特にNPCは耐性を持った装備をしている訳もない。
ちまちまと敵に魔術をぶつけていくとあっけなく倒れた。そこまで強くないモンスターのようだ。
「ナント、こっちの敵にも魔術を」
アガインさんに声をかけられて光の矢を放つ。炎の矢は味方が火傷するか?後で調べておこう。≪命中≫センスで味方には当たらないとはいえそこから火の粉が出るのはどうなるのか知らない。≪命中≫センスではずれがないのはありがたい。
ちまちまと撃ってゴウワンサヴァを倒していく。俺がHPを減らして漁師さんたちがとどめを刺すという形だ。村長達がそうだがNPCなのに強すぎるような気がする。
ユーも殴りに行こうとするのでこれを止めるほうが大変だ。
「なんで駄目なんだ」
「駄目というか、武器がないだろう」
俺の言葉にユーが口をへの字に閉じる。
「今度俺の銛を作ってもらおう」
「なんだ、ユーは銛を持ってなかったのか」
「まだ早いって作ってくれないんだ」
ここでは銛を持つのが一人前の証なのかな。
「っと、ブライト・アロー」
杖を持って盾を持ってという姿は疲れる。指輪か何かに変えて魔法戦士やっているプレイヤーはこれが嫌なんじゃないだろうか。
「うおっ」
漁師さんの銛が飛ばされた。転がってきた銛をユーがとって突撃していく。
「このお!」
「待てちょっと」
杖が邪魔だ。杖を消して盾で銛を刺したユーとゴウワンサヴァの間に入る。ゴウワンサヴァは簡単にユーの突き出した銛を弾いて手をふるった。鰭か爪かわからないものが盾を削るように当たる。
「力が足りないんだからまだ無理だ」
俺はユーを引き吸ってまた船の真ん中に戻る。
「畜生、もっと力があれば」
「そう思うなら力がつくような訓練をすればいい。ただし、今は子供な上力は弱いからあれとは戦えないな」
ユーにとにかくおとなしくしてもらわないといけない。
「こっちに魔術を頼む!」
「はい、ブライト・アロー」
なんだかんだと魔術を放つのが多い。ユーがおとなしくしているのもあって、ゴウワンサヴァ退治は終わった。
「これで終わりですか」
船に上がったところを倒す、ということを繰り返していたので安全だった。水の中での戦いになったら苦戦していただろう。やはり餅は餅屋だ。
「ああ、終わりだ。ナントが魔術を使えて助かった」
アガインさんにお礼を言われて、魔術タイプにしたのは偶然です、とは言えないので俺は笑ってごまかしておく。そしてアガインさんの視線は俺からユーへと移る。
「ユー、お前は子供の中では強いかもしれないが、まだまだなんだ、漁師の仕事を子供としてはよくできているが、まだ大人にはかなわない。漁師の娘として、やっていいこととやったらいけないことをちゃんとしないと駄目だぞ」
何かすごいカミングアウトじゃないな、暴露というのか?とにかく聞き捨てならない言葉があった。
「すいません、ユーって、女の子だったんですか」
「え、知らなかったのか?」
近くの漁師さんに確認する。やっぱり女の子だったようだ。
「なんだ、知らなかったのか、ユーは、ユーリアという名前の女の子だぞ」
父親からも証言が出た。
「なんだよ、わからなかったのかよ」
「男の子と思ってた」
ユーが口をとがらせて俺に言うので正直に言う。
「ひどいぞ」
「いや、悪かった」
子供の性別なんてわからない。女子とわかったらできるだけ離れている生活をしているとそういうものです。
「まあどっちにしても、漁師になるならこれから鍛えないと、力は子供の間はないからな。いや、女の子としてはごつくなったらまずいのか?」
ごまかしのつもりでユーに言おうと思った事は自分の言葉で疑問が出てきた。
「うむ、親としては娘には美人に育って欲しい」
「なんだよ、それ、強くなったらいけないのかよ」
「いや強くても美人はたくさんいるぞ。王都で女騎士とかやってる人みたいに」
掲示板でそんな人がいるのを見た記憶がある。
「まあ親としては子供は健康に成長してほしいと願うものだから、そこらへんはまだ考えないということで、アガインさん」
「あーっそうだな。とにかく、ユーは反省するように」
「はーい」
アガインさんはごまかしに入ったのでそれを助けてみる。ユーはあんまり反省してないような気もするが、これで一件落着だ。
村に帰ると解散ということになった。
「ナント、今回は助かった。それで報酬だが、ゴウワンサヴァの腕ももう一本と、使わなかった網球を一つお前に追加でやる」
サヴァの腕は正直いらない。網球はいくつあってもいいものだから、ありがたくもらっておこう。
「ありがとうございます」
「いや、何しろあれだけ大量に出るとは思わなかったからな。魔術師がいて助かった」
こういうセリフを聞くと魔術師一本に絞ってみようかと思う気持ちになる訳です。まだ決まってないですが。




