61リルさんに話します
それではどうにかアイテムを採ってこないといけない。ここで注意しないといけないのは百個集めるとボスが出そうなので狩りすぎない事だろう。
普通の人はやらないようだがやってしまう自分が恐ろしい。そういう主義というか、性格なのでどうしようとも思わない。ぼーっと同じこと繰り返しているだけなので。
ビギの村に戻ってリルさんを探す。ユーに聞いた漁師の現実を説明しておく為だ。真っ先に屋台広場とでも名付けたくなる場所へ行ってみる。
見事に屋台が無くなって昔の素朴な村の広場が生まれていた。
「皆どこへ行ったんだ?」
「おう、ナントじゃないか」
顔見知りの村人が寄って来た。
「どうもこんにちは。ここに居た人はどうなったんですか?」
リルさんの牧場を利用する話が進んだのだろうと当たりをつけて村人に居場所を聞いてみる。
「おう、あいつらか。あのリルさんが向こうに広場を作ってくれてな。そこに移ったよ」
するとクエストか何かあったのは終わったんだろう。もしかすると俺も受けるかもしれないので参考に聞いておきたい。
「ありがとうございます」
お礼を言って教えられた方に進む。
「何だこれ」
おそらく入口らしい大きな門は、何故か上の看板部分に『ビギの村商店街』と描かれている。それは良いけれど何で周りに豆電球のような光るアイテムを使って昼なのに光ってるのかが分からない。
入ってみれば屋台がそのまま移っただけでもなかった。いくつかは店になって立派な店を構えている。ビギの村には店舗はなかったから便利になったんだな。
「それで、コナン・リドルはどこだろなっと」
時には暖簾をくぐって覗きこんだりして探したが屋台の中にサムソンさんはいないようだ。その後の俺の手にはいくつか屋台の品が並んでいた。
「商売上手な人が多い」
俺が一つ興味をもつと三つになって渡される感じだ。
「おう、ナントやないか」
「あ、クレイさん」
ようやく一人見つけた。
「今日の肉の受け渡しか?もらおう」
肉は商人であるクレイさんから配給される形だ。ここで渡しても問題ない。
「それにしても凄いですね、どうなっていったんですか?」
牧場と同じ形と言ったのは俺だったので気になる。どこがどうしてこうなった?
「この場所で店開いとったプレイヤーはあっちで店舗構えてる」
指さす方には焼肉屋の看板が出ている。
「あそこに店を構える事を条件に場所を譲ってもらったんや。その後、牧場のシステムを利用して開拓を始めたんやけどな」
クレイさんは一拍置いた。
「これから先は面倒事やったけど、ナントは聞きたいんか?」
何でそんな事を聞くんだろう。
「いや、ナントは面倒事よけまくっとる印象があるからな」
うむ、事実だ。俺は面倒事を避けまくっている。
「弟の所に行かないといけませんからね、長期はきついんですよ。仮に牧場の管理人になれと言うのは逃げますけど、一時戦闘で片が付くなら別に構いません」
俺の意見にクレイさんが頷いた。
「そうか。開拓というんは一定以上モンスターを狩るとか木を切るとか、その時に応じて条件が変わる。今回はモンスターの方やった。リゴブリンの巣があるから広げられないと言う理由で、リゴブリン討伐やった」
へえ、リゴブリンはイベント担当モンスターなのかもしれないな。
「まず、第一はプレイヤー全員に告知しておく。次に入り口になる場所を開けてもらう」
クレイさんが指を2本上げる。
「次にモンスターを倒しに行く。この時、ウルクさんを連れて行って守りながら戦うのが面倒やった」
「何でそんな事に?待っていてもらえばいいのに」
「牧場を作るのは人が住めるための結界用の石、ワイらは牧場石って呼んどる石を管理人になる人が持って、指定範囲の中央に設置せんといかんのや。範囲は石に先に設定できるんやけど、管理人の護衛が必須やな」
成程面倒という訳だ。
「その後は管理人の人が石を発動させると一気に周囲の風景が変わる。いや、リゴブリンの巣は岩山の中やったのに平地になっとってびっくりしたわ」
それは驚くだろうな。
「ま、後は先に告知しとったように半分力技で屋台やっとるプレイヤーを連れて行って、終わりや」
その力技というのは何だろう。
「力技って、引っ越しに時間がかかったんですか?」
「いやあくまでも村から出ないと言い張るプレイヤーを決闘したり屋台動かしたりよりおいしい料理で心を折ったりして移動を承知させただけや」
恐ろしい。俺なら屋台をやめてしまうぞ。
「ちなみに金はやったらいかん。味をしめて値を釣り上げようとするからな。何か問題があったら解決してやる方向に持って行ってやるのは良い。これが交渉の基本や」
良い事も聞いたと思うんだが何か背中ぞくぞくしますよ。やっぱり本当にトップレベルでやっているプレイヤーは違うなあ。
「ところでリルさんを含めて話したい事があるんですが、リルさんはどこにいます?」
聞きたい事も終わったので俺は本題に入る事にする。
「リルはアパートの方におるで。見いひんかったか?」
直接屋台の方に来たので見ていなかった。どっちにしろクレイさんもいた方が話はしやすいので一緒に来てもらう。
「こんにちは」
「あら、ナント、いらっしゃい」
「あ、ナントだ」
リルさんが机で細かい細工をしていた。ジュリアも一緒に細工をしている。
「ジュリアもこんにちは」
「クレイ、ナントを連れてきて、何かあったの?」
「いや、ナントが来てくれと言うたんや」
椅子を勧められたのでクレイさんと同時に腰かける。
「ねえ、何と見て綺麗でしょ」
「綺麗だけど何だこれ」
ジュリアが出した曲線が折曲がっている模様は良いけれど複雑すぎて何を作ったのか分からない金属板だった。
「鳥よ。見て分からないの?」
「自慢じゃないが審美眼皆無と評判だ」
普通の絵は分かるけれどピカソや幼稚園児の絵は分からない程度には見る目がない。
「それで、ナントは何の用かしら」
ジュリアの相手をしていたらお茶が用意されていた。
「これは有難うございます。実は、セカの村で聞き捨てならない事を聞いたので報告しようと思いまして」
ガアインさんから聞いた情報を説明する。
「NPC用の漁場があったのは驚きね、でも納得したわ。ここの人もどこかに狩場を持っていると考えるべきね」
「いや、ナントの言いたい事はそれとちゃうやろ」
検証パーティ的な思考になったリルさんへクレイさんが突っ込みを入れる。
「分かってるわよ。NPCが必要としている物が取れなくなるようなプレイをされると困るし、村長を窓口に依頼場所を作った方が良いかしら」
俺はてっきりまた牧場を作ってそこをプレイヤー用の海水浴場にするのかと思っていた。
「牧場は作らないんですか?」
「作っても良いけど、管理人を探すのが大変なのよ。青華が今ペットの動物達でふれあい牧場を作ろうとして管理人募集してるんだけど、村には余分の人手なんてないし、王都まで行ってるわ」
村というからには基本自給自足で暇な人がいないという事かな。
「広場の屋台はすぐに…、あああれは村長の息子さんが管理人をやったからか」
「そうよ。もし、海水浴場を開くなら、王都で募集しないと駄目でしょうね」
これは物凄く面倒な話になって来た。よし、今は考えるのをやめよう。今はボスモンスター退治に集中している所なのに他に構っていては王都にも行けなくなる。
「分かりました、後回しにさせてもらいます。どうせ王都にはボス退治した後行きますので」
リルさんとの話は終わった。ついでと言う訳でもないが、さっき屋台で買った物をいくつか取り出す。
「さっき屋台で買ってしまったんですが、お茶菓子にどうですか?」
お茶を出してくれたお礼もあるので甘い物を出す。
「これもらい」
ジュリア、真っ先に手を伸ばすな、行儀の悪い。
「ありがとう。お茶を追加するわね」
「じゃあわいもおいしく頂くわ」
クレイさんも手を伸ばす。こういうのんびりとした雰囲気も悪くはない。
「ナントってお菓子が好きなの?」
ジュリアはお菓子を口を動かしながら両手に持つと言うある意味子供らしい状態になっている。
「炭酸と苦いのが苦手だから酒は飲めない。甘い物の方が好きだ」
現実の部屋には何かの菓子を常備してある。
「じゃあ今度良い物上げる」
「何をくれるんだ?」
ジュリアみたいな子供ならくれるのは果物くらいか?
「その時のお楽しみ~」
何かジュリアが嬉しそうだ。
「分かった、花の蜜を吸うんだろう。俺も昔やっていた」
「違いますぅ~」
何だろう?分からない。
「花の蜜で思い出した。つつじは蜜に毒を含んでいるから赤ん坊や幼児は死んでしまう場合もあるそうだ。大人には微毒でも子供や赤ん坊には効く場合がある。そんな花は色々ありそうだから蜜を吸うなら気をつけろよ」
ある意味どうでも良い注意をしてみれば、ジュリアが真面目な顔になって頷いている。普段から花の蜜を吸っているようだ。
「お前さんら、仲良いよなあ」
クレイさんがお茶を飲みながら笑っている。
「そうですか?あ、そういえばジュリア、俺の事を子分扱いにしてたろう。ユーが俺の事をジュリアの子分だからって話を持って来たんだぞ」
「ナントは弱いから子分で十分よ」




