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6子供にやられました

 現実の3日目、ログイン開始。目が覚めると、そこは物置だった。当たり前だが。


「おや、ナント、まだおったのか。もう王都に行ったかと思っておった」

「いや、こっちで多少金を作らないと何も出来ないので、まだもう少しお邪魔します。ところで村長、聞きたいんですが、ここって採れたアイテムは何処で売れますか?」


 ログインして直行で狩りに行って死に戻って、クエストに行ってを繰り返してログアウトしたので村を見ていなかった。ついでなので村長に聞いてみる。


「何じゃ、ハンスの所に行かなかったのか?」

「ハンスさんの所に行って、スミスさんの所に行きました。そして、金がないのに打ちのめされました」


 半分冗談めかしてみる。


「そうか、金がないのは首がないのと同じというからなあ」


 何か思った以上に不憫がられているんですがどうしましょう。


「そうだな、ビギの草原で採れた肉なら肉屋に持って行くのが普通だ。お主、ビギの草原へは行ったか?」


 ビギの草原というのは何処だろう。


「すいません、ビギの草原というのは何処ですか?」

「うん?空旅人も肉を狩っているだろう」


 始まりの草原の事だろうか。


「俺達は始まりの草原と呼んでますね」

「ほほう、するとこの村は始まりの村かな」

「そうなります」


 そう表記されているのでそう呼んでいた訳だが、どうも違う様だ。イベントがらみなのか?


「儂らはこの村の事をビギの村と呼んでいる。この村では、空旅人がやって来る空の門があるので、最初の装いを整える最小限の店があるからな」


 公式には乗っていない説明だ。確か公式の設定は、


『始まりの村

 まずはここからスタートする村です。西の道を行けば王都があります。近くにある始まりの草原、初心の砂浜を使ってレベルを上げるもよし、すぐ王都に向かうも良いでしょう』


 このくらいだ。


「ビギの草原ではアイテムを採れていないので、あるのは裏山のアイテムだけですね」


 羊やら海星やらに死に戻りさせられたのでそちらのアイテムはない。


「すると難しいな、何しろ裏山なら、村の物ならそれなりに入れるからな」


 猟師が入るぐらいだから予想は付いていた。ええ、付いてましたよ。


「金が入りそうな依頼を受けるのは儂が一括している。まあ猟師と鍛冶屋もそれにあたる訳じゃが、後3つぐらいしかない」


 後3つほど初心者の金稼ぎイベントがあるのか。取りあえずそれを全部受けてから考えよう。弟の取っていない感知系センスがあるかもしれない。

 でも実は真っ先に猟師のハンスさんが紹介されたあたり他にはないような気の方が多い。


「その依頼を教えてもらえませんか?やってみたいと思います」

「そうか?とはいっても、儂が知っている残りは、薬師のオババの薬草を納品する仕事が一つ、畑を耕す手伝いを一つ、塀を直すのが一つだな」


 薬師さんのクエストが何となく≪採取≫を貰えそうという以外全く何がもらえるか予想できない。


「それから、金を稼ぐ間は物置を貸してやろう」

「ありがとうございます」


 安全なログアウト場所は有難いです。村長にお礼を言って受けてみるだけ受けてみようと聞いた場所へ行ってみる。

 どれにしようかなと足の向くままうろつくと農民の人が目についたのでまずは畑の手伝いに決定する。


「どうも、村長の紹介で来ました、ナントです」

「ああ、アンタが話に聞くナントさんか、俺はカンスだ」


 今までのクエスト連続して聞いた名前から運営の手抜きのような名前の気がしてきた。


「俺の仕事は土起こしの手伝いだ。いつもは婆さんと二人でやるんだが、婆さんが風邪をひいてしまってな」


 そういってカンスさんは鍬をくれる。


「まずはやってみな」

「はい」


 農作業は初めてだ。そして俺は鍬を振り上げておろし、止められた。


「駄目だ駄目だ、腰が入ってない」


 うん、分かってた。農業系のイベントで良くある台詞だ。


「こうやって、こうだ」

「こうやって、こうですか」

「いや違う、こうやって、こうやって」


 穴を掘っているんだか耕しているんだか分からない行動をしばらく続けた。


「うん、はっきり言って土起こしにはなってないが、耕すぐらいの土は動いた」


 最後まで腰が入っていないと言われつつ、土をひっくり返すように掘っては埋めを繰り返したらなんとかOKが出た。


「報酬の300デンだ。一生懸命やってくれたのは分かるから、ついでに野菜も持って行け」

「あ、有難うございます」


 何か追加の報酬も貰った。


『イベント:初心者のためのセンス獲得02クリアーしました

      300デンを報酬として貰いました。

      センス≪農耕≫が選択肢に入りました。有効化しますか?』


 農耕か。別に農夫になる気はないので有効化はしない。それで、野菜って何だ?


『ツチイモ

 どこでも取れる代表的な芋。一番旨いのはフライドポテトだと思う』


 何か運営の感想が入ってた。フライドポテトは俺も好物だ。良い物が手に入った。


「芋は好物のひとつです。ありがとうございます」

「おお、そうか、じゃあまた手伝ってくれたらやろう」

「機会があれば、またお願いします」


 酷く時間がかかった。疲れたので一旦ログアウトする。今日はもうやめておこう。


 ゲーム3日目に突入。ゆっくりだと言う人も居るだろうが別に急ぐ理由もなし、元々エンジョイ勢と言われる方なので気にしない。正確には廃人に勝てるわけないのでそっち方面に向かってはならないとブレーキがかかってます。


 物置で眼を覚まして、確認すればまずは一つ目クエスト達成。次のクエストへ行こう。次は、何にしようか。

 薬師のおばあさんの所へ向かって歩いていたら塀の修復場所へと付いた。じゃあ次は塀の修繕でいこうか。


「すいませーん。村長から紹介を受けたナントですが」

「おう、待ってたぞ。早速やろうか」


 出てきた農夫姿のおじいさんに引っ張られる。


「ここの塀が崩れたんで直すんだ」


 煉瓦と石が混ざって下に土台としてあり、土台で挟んで木の板が差し込まれて塀の役目をしている簡単な塀だ。土台が崩れたので塀の板が倒れている。


「じゃあこれとこれが材料だ、よろしくな」

「ちょっと待って下さい。俺は塀の修繕何てやったことありません」


 家の罅すらホームセンターで買ってきた接着材もどきで修理する便利グッズに溢れた現実の人間です。煉瓦とセメントだけ渡されてもどうすればいいのか分からない。


「何だ、情けないな、こんな物はこうやってセメントを塗って、レンガを積む、これだけだぞ」


 おじいさんは目の前でやってくれる。


「隙間がありそうなのは石で埋めますか」

「そうだ。分かってるじゃないか。材料はこれだけしかないから気をつけろよ」


 さっさと言うだけ言って家に入って行ったおじいさん、名前を聞けなかった。

 家の前に立つと壊れている場所は2か所見える。ぐるっと一回りして4か所あった。

 全部直さないと金はもらえないか?仕方ない聞いておこう。


「そうだな、4か所全部直すのにあれだけだ」

「ところでおじさんの名前を聞いていないんですが、名前はなんと言うんですか?」

「おりゃあ、ミロスという。もう聞くことはないか?」

「分からなかったらまた聞きます」


 また家に入ったミロスさんに声をかけて俺は煉瓦を見る。


「こうか?こうか?」


 間に石を詰めるのはどうも決定事項のようなのでパズルでもやっている気分だ。


「ここで板をはめて」


 根本をある程度固めたら板を指しこむ。倒れないのを確認して残りの高さを埋めていった。


「これでいいのかね?」


 人間単純作業は早い。とはいっても朝だった時間帯は頭の上に太陽が来ている。昨日よりは早いという程度か?とにかく終わったのでミロスさんに確認を頼む。


「うん、まあ応急処置としては良い方だ」


 応急処置程度だったか。


『イベント:初心者のためのセンス獲得03クリアーしました

      300デンを報酬として貰いました。

      センス≪大工≫が選択肢に入りました。有効化しますか?』


 有効化はしないが、センス≪大工≫?塀とはいえ建物を直したから建築的な物が手に入ると思っていた。大工は職業ではなかろうか。ちょっと詳しく確認する。


『≪大工≫

 建築の基礎、および小道具に対しての能力を覚える。』


 分かった、俗にいう日曜大工の能力だ。建築にはたしか小道具という項目はなかった。広く浅い能力が意外と多そうだ。

 思った能力は手に入らなかったが、役に立つかもしれない。どこかに小屋を建てるとか。気分はロビンソン・クルーソーのイメージでやってみると面白いかもしれない。

 男の子なので秘密基地はいつか作りたいと思っています。

 それはそれとして今は金だ。最後の薬師のおばあさんの所へ行くか?でも疲れた、ログアウトするか?


 …、別に急ぐことでもないので、ログアウトはしないけどぶらぶらとしよう。


 ぶらぶらと村の中を歩く。とはいっても始まりの村と別の名前があるだけにそんなに物がある訳ではない。村の中央に広場があり、西に王都へと続く道と門がある。北に行けばカラーズの裏山に行ける。東は行き止まりというか倉庫があってそこで終わりになっている。南は広場というか、空き地というか、建築途中の家があるので、村は南に向かって広がるんだろう。

 家は目立つ村長の家と肉屋、雑貨屋が広場に面してある。その他の家は10軒と少ない。始まりの村だからこんな物とも思える。


「あれ、ハンスさん、スミスさん、カンスさん、ミロスさん、村長、肉屋、薬師。おお、村の半分くらい内容を知っている」


 指折り数えてみる。確かに半分だ。小さい村では村人が全員何かの仕事をしているのが当たり前、農家と猟師がいたので他の家も何かをやってるはずだ。薬師の家は覗くとイベントが発生しそうなので置いておくとして、他の家を覗いてみよう。

 覗くと言っても堂々と扉に頭を突っ込む訳にもいかない。昔ながらのゲームだとそういう仕様の物もあるがそういう物と明記していないならば普通に常識的な範囲の行動をしなければならない。つまりもの珍しそうにきょろきょろするだけになる。


「お前、怪しいな」


 歩いていただけだけれども子供が3人やってきて俺に向かって警戒してきた。腰や手に木の剣のような物を持っている。


「お前、堕落人間だな。何をしているんだ」


親が口の悪いタイプの家庭らしい。


「いや、ただ散歩してただけです」

「あちこち見ながら歩くのが怪しい」


 自分でも怪しいような気はしていた。それを言われるとどうしようもない。


「本当に散歩です。今はお金がないので、仕事はないかと思っていました」

「物凄くあやしいな」

「でも散歩してるだけだって」

「仕事探すなら村長の所に行くはずだろう」

「やっぱり怪しい」


 子供達、ひそひそ話のつもりで大声で話さないでほしい。


「怪しい奴め、捕まえて村長に突き出してやる」


 ちょっと待て、何でそうなる。流石に子供に暴力をふるう訳にはいかない。逃げるのも面倒だ。


「え~い!」

「痛っ」

「とうっ」

「あたた」

「やぁ!」

「うわあ。やられたぁ」


 チャンバラごっこな気分である。木剣なので普通に痛い。そのままうつぶせに倒れる。わざとらしかったかな?


「よし、村長の所に行くぞ」


 俺が倒れると腕を持たれて引っ張られる。流石に子供に引っ張られるほど体重が軽くない。


「重いよ、村長呼んできた方が良い」

「よし、じゃあドップ、こいつを見張っておけよ」

「分かった」


 ドップという子供を残して2人の子供が走って行く。起き上がるとまた面倒事になりそうなので村長が来るまで俺は倒れていた。


「何をやっておるんじゃ」


 少年2人に連れられてきた村長が呆れたような声を出す。


「村長、こいつ、村をきょろきょろして探ってたんだ。盗賊かもしれない」

「怪しいからやっつけました」

「彼は空旅人じゃ。きょろきょろしていたのは仕事場を探していたんじゃろう」


 好意的に解釈された。そう言えばまだ村長に畑と塀の仕事が終わったと報告してないからな。


「なんで空旅人が村で仕事探すのさ」

「彼は『初心者の中の初心者』の称号を持っている。どうもドジでな、宿に泊まる金もないので王都に行くための金を稼いでいる所だ」


 まあ普通のプレイヤーは一直線に王都に行く人も多いようなので俺みたいなのは珍しいだろう。


「ところでいつまで寝ておるんじゃ」


 流石に村長にはばれていた。


「まあ何となく倒れてないと悪いかと思って」

「わざわざ子供に付き合わなくても良いだろうに」


 俺が起き上がると子供たちは驚いた顔をしている。


「やられたんじゃなかったのか」

「いやさすがに子供の木剣でやられるほど弱くはないよ?」


 まだ装備を買ってないから布の服同然ですが。


「でも倒れたじゃないか」

「わざとに決まっているじゃろう。彼は裏山に行ける程度には強いんじゃぞ」


 裏山って、子供には行けない土地だったのか。


「ところで、どの仕事を探しておったんじゃ?」


 村長が俺の仕事を聞いてきた。


「ああ、はい。畑と塀の仕事は終わったんで、薬師のおばあさんの所へ行くついでに村の見物をしてました」

「ああ、成程」


 村長は子供たちの軽く頭を叩いて俺を指す。


「まずは謝るんじゃ」

「「「え~っ」」」


 子供たちが頬を膨らませる。合わせてもいないのに同時に声を出すとは仲良いな。


「迷惑をかけたら人に謝る、返事は」


 村長はリーダー格の子供の顔面に手を当てた。


「そんなの怪しいこいつが悪いんだ」

「あ・や・ま・り・な・さ・い」


 村長のアイアンクローだ!村長は手が出るタイプか。


「痛てててぇ!」

「僕たち謝ります。ごめんなさい」

「ごめんなさい」


 残りの子供は素早く俺に謝って来た。


「謝る、謝るから」


 村長の手が離れて子供がふらふらしている。


「さっさと謝れい」

「分かってるよ、ごめんなさい」

「はい、分かりました。それでは村長、俺はおばあさんの所へ行きたいんで、失礼します」


 俺は子供たちの謝罪を貰うと次の仕事に行こうと村長に挨拶する。


「ちょっと待ってくれ、お前達、彼に迷惑をかけた罰じゃ。薬師のエレメン婆さんの所へ連れて行ってあげなさい」


 村長がそんな事を言い出した。


「え~っ」


 再び文句の声を上げる子供を村長は掌を見せるだけで黙らせる。俺もどっちかっていうと一人で行動した方が気が楽なんだけど。

 これが弟にぼっちと言われる原因でもある訳だが。


「ええと、それじゃあ、案内をお願いします」


 睨み合っている村長と子供達がそのままでは話が進まないので俺から声を出す。


「俺はナントです。よろしく」


 俺は子供たちに名前を言う。


「俺はフリッツ」

「僕はデクスです」

「僕はドップです」


 ガキ大将とその友達二人な関係かな?


「それじゃあ儂は帰る。ちゃんと案内しろよ?」


 村長は念を押してから来た道を戻って行く。


「仕方ないから案内してやるよ。ほらこっち」


 フリッツが剣で先を示しながら歩き出した。


「待ってよ」

「待ってよぉ」


 リーダーの後を追いかける子供二人に、俺も付いていく。


「まったく、あんたが怪しいから怒られたんだぞ」

「それは悪かったと思います。すいません」


 俺も自分が挙動不審だと思っていたのでそれは謝っておく。物を探す時には別に気にならないのにただ見物する時は覗きな様で悪い気がするのは何でだろう。一般家屋だからかな?

 俺が謝ったのが変だったのかフリッツが変な顔をする。

 真っ先に動く赤髪のリーダー格の子がフリッツ。茶色の髪でフリッツがやられると同時に謝った要領が良さそうなのがデクス。黒髪で太目の、最後に謝ったのがドップ。何となく赤黒中間と覚えておこう。


「謝るなんて変な奴だな」

「そうだな、大人って謝ったら許してやろうっていうのが多いよな」

「良い人だね」


 だからひそひそ話は小さい声でやって欲しい。聞こえてますよ。俺は他人の評価を気にする方だからそっちに気を取られて失敗する事が多いんだ。


「あいたっ」


 ほら足を柵にぶつけてしまった。


「ドジってのは本当だな」

「分かったドジで相手に謝る方が多いんだよ」

「悪い人じゃないみたい」


 そんなに広い村でもないのですぐに目的地についた。村から少し間を空けて離れた裏山側の家だ。


「ここがエレメン婆さんの家だ」


 フリッツが剣で指しながら俺に説明する。すると中から何か飛んできて良い音を立ててフリッツに当たった。落ちた物を見れば木の小皿だ。


「痛ぇ!」

「誰が婆さんだい。小僧」


 おお、よく小説で見るお約束の場面だ。こういうのを生で見ると嬉しい。


「初めまして、薬師の人に依頼を受けに来たナントです。貴方がエレメンさんですか?」


 フリッツの頭から血が出ている訳ではないので大丈夫だろう。テンプレで大けがするようなバイオレンスは遠慮したい。


「おや、丁寧な子だね、私はエレメンティア。依頼した薬師は私だよ」


 俺も手が出されるのは嫌なので先に挨拶する事にする。


「私の依頼は裏山で薬草を取ってくる事だよ、大丈夫かい?」

「取って来るだけなら大丈夫と思います。どんな薬草ですか?」

「説明しよう、ああ、あんたらは帰りな」


 俺を家の中に案内しながら子供達に言い、俺はその後について行った。物凄く後のテンプレが読める。


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