56鎧の修繕ですよ
装備を持って行かれて暇になった。デスペナの事もあるので動けない。
「ナント、MCと連絡が付いたわ。今セカの村にいるからすぐに来るそうよ」
「本当ですか」
さて、大変だ。誰だか思い出さないといけない。
「もしかして思い出せないのかしら。フレンドリストに入っているそうだけど」
「フレンドリストに?」
フレンド通信が出来るリストを見る。うん、見事に弟ともう一人しかいない。
「一人しかいないのでこの人ですね。思い出しました」
最初に村で俺に話しかけてきて、モンスターの話をした人だ。そういえばモンスター図鑑を埋めるのをテーマにしていると言っていた。
「結構進んでそうな人ですが、何でセカの村にいるんでしょう」
「そりゃあお前、新しいフィールドが出来て新しいモンスターが出て来たからに決まってるだろう」
俺の疑問に後ろから返事が来る。初めて見た時よりもはるかに先に進んでいるだろう装備のMCさんがそこにいた。
「お久。ナント、だったよな」
「お久しぶりです。ナントです。MCさんですね」
装備は金属ではなくモンスターの革鎧で、背中に槍を背負っている。その装備がどう見てもドラゴンとかアイアンゴーレムとかの強そうな材料に見える。
「凄い装備ですが、どのくらいまで行ってたんですか?」
「ああん?装備は大したことはない。ボス素材を適当に組み合わせただけだから」
MCさんは大したことのなさそうに言う。どう見ても最前線プレイヤーだ。
「それよりも、俺の目論見通りに動いてくれて何よりだ」
下手な数撃った鉄砲の弾がまぐれ当たりしたというだけです。
「それで、あのモンスターの事なんですが」
「まあ待ちたまえ、チミはボスモンスターにある程度のルールがあるのを知っておるかね?」
何故急に前時代的なネタ貴族みたいな言い方をするんだ。髭もないのに髭を捻るような仕草のMCさんはそっくり返っている。
「知りません。何ですか?」
「何だノリが悪いなあ」
ノリが良い性格ならこんな所でボッチ、じゃなくてソロをやっていない。
「まあいいか。そのルールから行くと、ナントが遭遇したのはバクやイベントモンスターではない。ボスモンスターだ」
「ボスモンスターですか。弱点とか分かりますか?」
何か知ってるようなので勢い混んで質問する。MCさんは俺の問いかけに首を振った。
「全く知らん」
何だそれは、と言いたくなる。
「分からないって、知っているんじゃ?」
「さっきも言ったルールの傾向からボスモンスターというのは分かる。しかしまだ遭遇していないので分かる訳がない」
何だろう。その答えには納得したが気持ちは納得いかない。
「実はあれから初心の砂浜を含めて一か所づつ間が空いているんだ。その馬がクリアできればこの始まりの草原のモンスターのページが埋まって、他のモンスターの情報も入ると思っている」
本当に馬がボスモンスターだとすれば確かに図鑑は埋まるだろう。
「ところでルールというのは何ですか?」
「Wikiの方が詳しく乗っているからそっちを探してくれ」
放任主義というか投げっぱなしというか。MCさんとの会話で対策はなかったので俺はどうしようもないので考えていた対策をそのまま使う事にした。
「おい、ナント」
どうしようもない気分に浸っていると石破さん石動さんが揃ってやって来た。今度は何だ。
「材料が足らないから出してくれ」
「材料って、何ですか?」
さっきたくさん持っていた上質な素材はどうしたんだ。俺はアイテムボックスを開きながら話してきた石動さんに向き直る。
「お前は隠蔽を使うのに初心の砂浜のハイド・フィッシュの鱗を使っているだろう。まずはあれが足りない」
そういえば最近、俺は肉と馬モンスターへの対応の為にビギの草原ばかり行っていた。他の場所の材料は死に戻りもあって少ない。
そして≪隠蔽≫センスか。あれは今は獲物に近寄るまで使っている。例えば狩人は隠蔽したまま狩りをする能力をもつ。俺はそこまで能力がないのと≪命中≫で必ず当たるので弓は射程距離ぎりぎりで撃っている。自分の体当たりなプレイを考えるとまともに使ってない能力だな。
「分かりました。デスペナが開けたら採りに行きます。他にいる物はありますか?」
「上質な素材はあればあるほど良い。熟練度の上りが高いからな」
「隠蔽用の素材はハイド・フィッシュだけではない。色々な種類の組み合わせでさらなる効果があるから採れるだけ採って来てくれ」
狩りをし過ぎると他の土地でもボスが出て来るかもしれない。ほどほどに採っておこう。ひとまず石破さんと石動さんに持っているアイテムを渡しておく。
「ところでリルさんは鍛冶ですが、魔物素材は使わないんですか?」
ついでにリルさんに聞いてみた。
「魔物素材はね。難しいのよ。骨ならまずインゴットにしないと私の腕じゃあ加工できないわ」
流石ドワーフを選んだだけに石破さん、石動さんの腕は凄いという事か。
「鍛冶は金属かインゴットを加工する能力だから、金属を落とすモンスターの物ならできるけど」
ちょっと違ったようだ。
「インゴットって、それ自体が鍛冶の分野だと思いますが」
リルさんの言葉に疑問を覚えて言葉を返してみる。
「そうね、骨は叩けばどうにかインゴットに出来ない事はないわ。ただ、鍛冶よりも魔物素材だから錬金術の分野の方が強いのよ。上質なモンスターのインゴットを使うなら、錬金術師に依頼してるわ」
錬金術にそんな物があったとは。錬金術も役に立つかたたないか色々ある職業だ、こういう能力があると一定の需要がありそうだ。
「それはそれとして、売ってくれるなら買うわよ」
クレイさんよりもリルさんの方が商人に見える。
「さてと、デスペナで時間をつぶさないといけないけれど何しようか」
アイテム集めはデスペナが解けてからにしよう。今までは家の方で休むとか見物に行くとかが主な潰し方だった。今回はどうしようか。そうだ、どうせだから修理の仕方を見物しよう。≪修復≫を使うのに役立つだろう。
「装備の修復を見ていても良いですか?」
「構わんぞ」
「確かお前さんも≪細工≫を持っていなかったか?」
ドワーフ二人への問いかけにいい返事と質問が返ってきた。
「確かに持っていますが、王都に行ってから生産の上を磨こうと思っていました。だから熟練度は全く上がっていませんよ」
この前王都でやった生産の行動は少し遊んだ鍛冶が上がっただけだ。
「見てるだけでも勉強にはなるぞ」
石破さんの許可により俺はアパート内に作られた生産場へと入ってみる。俺が提供した骨の素材をどうにか加工するには魔力炉が必要と聞いている、二人はどうなんだろうか。
「魔力炉?その通りこれが俺達の移動式魔力炉だ」
俺の疑問にあっさりと目の前の火を紹介された。携帯用のガスコンロにしか見えない。
「これは携帯用だから別に魔力を込めた触媒が必要になるが、動き回る俺らには丁度いい」
触媒が魔力なのかポーションの一種なのかは知らないがどう見てもガス缶にしか見えないのが一番コンロに見える理由だと思う。間違えてサムソンさんが鍋でも作りそうな雰囲気だ。それはそれで何か特殊な効果が付随しそうで食べてみたいけれども。味はどうなるんだろうか。
「魔力炉はイベントでしか手に入らないと聞きましたが」
「よく知っているな、ドワーフに種族を変更した後、その足でドワーフの試練のNPCの所に行って受けて来たんだ」
「へー」
ドワーフはよくあるゲーム通り鉱物に詳しく鍛冶がうまいのがゲームの設定だ。一体どんな試験を受けたんだろう。
「参考までに、どんな試験を受けたんですか?」
俺も後でという事になるが魔力炉は使いたい。石動さんに聞いてみた。
「大したことはしていない。魔力炉を使用できるかどうか魔物素材で道具を作っただけだ。一定以上の評価で魔力炉がもらえる」
俺には当分無理な方法と言うのが分かった。最初からもらえていたらブーストが効いたのに残念だ。生産方法が確立するまでこの方法は駄目と。
俺と話しながらも石破さん、石動さんの手は動いている。
俺に必要と言ったのは表面に張る鱗なので、枠や土台に当たる部分は骨や革が使われている。
「『素材融合』」
石動さんが手をかざすときらきらとした光が振り注ぐ。その下、鎧とその上に重ねられていた骨が溶けていく。文字通りどろどろに溶けて下の鎧に染み込んでいくのだ。
「凄いですね、スキルですか?」
≪細工≫センスも変わったスキルがある物だと石動さんに聞いてみる。
「いや、これは魔術じゃ。知らんかな、生産用の魔術が出来たのは」
ああスレでも評判になっていたし、セカの宿屋で女将さんが使っていた。
「生産用魔術は伸びが遅いがその分有用だ。これはいわば防御力等の効果の成分的な部分だけを与えて回復に使える」
能力成分抽出とか出てきそうな魔術だ。
「革の方は表面がぼろぼろになるが芯はしっかりしているから新しく取り換えて張り替えれば十分だ。作ったのは腕のいい職人だな」
石動さんが鎧を褒める。
「王都のプレイヤーの集まる屋台街みたいな所で作ってもらった物です。確かユーキさんという名前だったと思います」
クリアしたらボスモンスターの素材で作ってもらおう。
「おお、よく聞く名前だ。良い所で作ってもらったんだな」
まだ生産職として武器防具の良し悪しなんて分からない俺でもいい買い物だったのは覚えている。フレンド登録しようか?いや単なる顔見知り程度がするのはおかしいか。




