53死に戻りました
「ナントが弱いのはどうでも良いけど、これからどうするの。アパート出るんでしょ」
ジュリアの言葉はどうも俺を目下に見ているような気配がある。俺の方が大人なんだけれど、この感じは子分とか思ってないか。
「どうって、またビギの平原なんかで野宿しますよ。寝たら体力回復するし、狩りでスタミナ回復すればいいだけだし」
雨風の振らないVRだから出来る事だよな。
「アパートには戻らないの?」
「金がない」
正確には宿代に使うような金がない。
「おい、アパートに空きが出来たんだって?入るから手続きしてくれよ」
どこから聞いたのかプレイヤーがやって来た。
「待ちなさい、今、彼と話をしてるでしょう」
「そいつは出ていくんだろう。入ってやるからさ」
俺はアパートから出ていくがこの村にはまだ居るつもりだ。
「誰があんたなんかに貸すもんですか」
ジュリアがプレイヤーに舌を出す。
「何だと、こいつ」
「ちょっと待て、子供に剣を抜くなんて大人げない」
流石にそれはやりすぎだと思う。俺は立っていただけだったのにジュリアは何故か俺の後ろに隠れる。
「何で俺の後ろに隠れるんだ」
「良いでしょ、盾持ってるんだから守ってよ」
盾は持っているが死に戻りしたばかりですよ。
「何だ、やるのか」
「いやいやビギの草原で死に戻ったばっかりの人間が勝てる訳ないでしょう」
「ぶっ」
何故かプレイヤーと、その周囲のプレイヤーが大爆笑を始めた。
「あんなところで死に戻るなんてよっぽどの素人だな。デスペナ中みたいだし、闘うのは勘弁してやらあ」
プレイヤーはおとなしく剣を仕舞った。
「それで、さっさと部屋を貸してくれ」
話が初めに戻ってしまった。
「それなんだけど、今いる状況がどういう状況下は分かるでしょう」
「新しいフィールドが出来たから新規のアイテムを集めに集まってるんだろう」
リルさんがプレイヤーと話し出した。
「そうよ。それで村に場所が足らなくなったの。だから、部屋が空いても貸すことは出来ないわ。一人優遇すれば後が困るから」
俺の代わりに入った人が妬まれるのだな。
「ちっ分かったよ。コナン・リドルの姐さんに言われたら仕方ない」
凄いあだ名がリルさんについてた。プレイヤーは話が終わるとさっさと立ち去っていく。
「ねえナント。さっきの人にも言った理由の為なんだけど、しばらく村に居てくれない?なまじ一つだけ部屋が空きが出来るともめそうなのよ」
「そうですか」
俺は別にどっちでもいいと言う考えだ。アパートは無料期間が過ぎたから出ていくだけだし、金がないから再び入らないだけだ。
「それではまた部屋をただで貸してやるから入らんか?期限はこの馬鹿騒ぎが収まるまでじゃ」
「それが良いよ。ちゃんと休まないともっと弱くなるよ」
村長の言葉にジュリアが同意する。現実でなくゲームなので疲れは普通に取れる。弱くなる事はないと言いたい。そして村長の案は結構な時間かかりそうな気がする。まだ悩んでいた俺はさっき村長に言った話を思い出した。
「リルさん、さっき村長にも言ったんですが、牧場のやり方は別に広場を作ることが可能ですか?」
「広場を?」
さっきの村長との会話をリルさんに説明する。
「成程、別の場所にね。やってみる価値はあるわね。でも私達が居なくなっても管理できるように管理人を募集しないと」
それが重要だ。俺はいつかレンジに行くわけだからな。リルさん達もここでずっと検証をする訳でもない。
「うむ話は分かった。ならば管理人が居ればよいという事じゃな」
「そうですが、王都に募集の張り紙を出してからだから結構時間がかかりますよ」
アレク村長の言葉にリルさんが説明を繰り返す。
「まてまて、儂としてもこの状況をどうにかしたいという気持ちはある。そこでじゃ、うちの息子を管理人とすればどうじゃ?」
「お父さんが管理人をやるの?」
「そうじゃ、それならばすぐにでも出来るのではないかね」
「そうですね…」
村長が丁度いい案を出してきた。ジュリアも身内が関わると聞いて顔を突っ込んでくる。牧場の作り方を俺は知らない。リルさんが何を迷っているのか分からない。
「リルさん、牧場の作り方を教えてくれませんか?」
取りあえず牧場自体について質問してみた。
「牧場を作るにはね、まず管理人を決めるの。それからどこに牧場を開くかを決めて、その場所に必要なアイテム集めや出てくるモンスターの討伐等の試練をしないといけないわ」
イメージ的に開拓の様だな。
「問題はどこに牧場を作るか、という事と、今のお祭り騒ぎをどうするかという事よ。あの近くに作りたいんだけれど作る為の村の外縁に沿った部分には皆屋台が居るでしょう。プレイヤーの自由意思でやってるわけだからそこをどいてくれと言う訳にはいかないわ」
「交渉できないんですかクレイさんとかやれそうですけど」
「彼は行商人だし、そこまで発言力を持っている訳でもないのよ」
リルさんの説明は俺の質問を見越していたようだ。一番クレイさんが交渉上手に見えたんだけれど無理なのか?次点でリルさんがうまそうだ。
「じゃあ場所を教えてください。頼んでみます」
俺は早速交渉に向かおうとした。
「やめて、交渉にならないから。私達が担当した方が良いと思うわ」
酷い事を言われた。しかし自分の交渉向きかと言えばそうでないと胸を張って言えるので任せられるものなら任せた方が早い。
リルさんのパーティは、ドワーフ二人も帰ってきて現在6人のフルメンバーが動けるので俺が入る必要はない。仮にボス戦に俺が入ったら寄生プレイになってしまう。俺は無理に入るのは嫌いなので行かなくてよさそうなのにほっとする。
「それでは、俺は調べ物があるので失礼します」
「調べもの?」
「はい、俺が遭遇した馬のモンスターについて調べないと」
今首を傾げているリルさんが知らないのだからスレに載っているかは微妙な所だ。何といっても検証パーティで初心者フィールドを調べようとしていた訳だから知っていたなら教えてくれるだろう。
「そんなの調べてどうすんの?」
「再挑戦するのに決まってるだろう」
俺の言葉にジュリアは意外そうな顔を、リルさんはそれもそうかという顔をした。
「ナントってそういうのにあったら逃げると思ってた」
「プレイヤーは死なないからな。これが最前戦で一瞬の敗北で前戦が下がるとかならともかく、後ろの方だから迷惑はかけないだろうし、やれるまでやるよって、何で皆そんな微笑ましそうな目で見るんですか?」
特に村長の何故温かい視線何だ。
「いや、あの「初心者の初心者」の称号持ちが随分と立派な事を言う様になったなと思ってな」
いやこれがゲームとしては当たり前の事だろうにと思うがNPCでありゲーム内の人間からするとやってることが違うのかと思いついた。
『称号:「初心者の出世魚」を得ました』
変なインフォまで出た。出世魚って、初心者から脱出したのかしていないのか分からない称号だ。確認は後回しにする。
俺としては普通のゲームとして、ボスを倒さないと先に進めないなら倒すまで何度でも挑む。その延長線上でしかない。
「人は足りてるから頑張ってね。新しいモンスターの検証も大事だし。でもお肉は定期的に頂戴。お金は払うから。それからこれが今回のお金」
ステータスに50000デンが追加された。さっきのデスペナで減ってしまった分と相殺して少し多いくらいか。
「上質の肉を売ってくれるならもっと増やすけど」
「先に整理させて下さい。部屋を使えるなら数を確認します」
リルさんとの交渉を後回しに回す。
「ナント、じゃあ案内してあげるね」
「いや俺の元使っていた部屋なら分かる…」
「案内させてあげなさい。それが大人でしょ」
耳元で囁かれた。気遣いという物は苦手でよく言われるから、リルさんに従っておこう。
案内されて入った部屋には違いはなかった。案内と言っても屋台が溢れている所に裏道を案内されて思ったより早く部屋に入る事が出来たのは有難い。ジュリアにはお礼に屋台の食事をおごっておく。さっき掃除したから綺麗だ。
それはそれとして、今からさっきのモンスターの事を考えないとならない。出現条件すら分からないのだ。
考えられる出現条件としては、一つ目にはリルさんの言っていたリベンジ・モンスターだ。これはゲームによっては出てくるので知っている。この場合狩りを続けていたら出てくる。
二つ目は前の小人のディアトリマイベントと同じどこからか追い出されたモンスターという形だ。これはよく分からない。近くに馬が出現するフィールドがあるのでそちらをスレで確認するしかない。
三つ目は何かのイベントモンスターだ。例えば検証パーティで攻略したハイドルートは攻略後アクセサリ・モンスターが増えた。同じように何かのイベントの結果増えたモンスターかもしれない。リルさん達は自分たちに流れていた情報をスレに上げていたけれど他の人は上げていたり上げていなかったりする。弟の所は上げていない。周回するからだろう。
俺にはこれ以上思いつかない。後はスレを探すとしよう。




