48ペット化が広がりまして
疲れた。ユウリにペットを渡した後疲れて動けない気分になる。これはもう帰ろう。村の広場に戻ればもうユーリカさん達が帰って来ていた。
「あら、遅かったですのね」
「早かったですね」
俺は思わず声を返した。てっきり厳選に時間がかかると思っていた。声をかけてくれたユーリカさんの足元には猫がいる。色は黒と言っていたが、黒一色ではなく首から上が黒、首から下は茶色?遠めなら黒一色に見えそうな色だ。
「すぐにこの子に会えましたからね」
ごろごろと喉を鳴らす猫は満足げに撫でられている。
「名前はなんて付けたんですか?」
「ナイトよ。黒いからぴったりだと思って」
思っていたより単純な名前だった。
「サムソンさんはどうしました?」
「とれた素材に面白い物が多かったの。搾り汁がみりん風味のオレンジでみりんかんとか。早速研究に向かいましたわ」
やっぱりサムソンさんも採っていたか。みりんを入れると料理にコクが出るとかTVで言ってたから煮物がおいしくなるかもしれない。
「あ、そういえばポーションを売って欲しいんですが、いくつありますか?」
やるべき事を思い出した。ポーションを買わないといけない。狂戦士脱却の第一歩だ。
「そうないですわ、今から作るのは簡単ですけれど、材料があるなら値引きしますわよ」
それなら有難い。金はセンスを買うのに使う事が確実だ。ありったけの素材を出そうと思った所、整理が出来ていない事に気が付いた。
アイテムボックスは基本的に○種類まで入るようになっているが後は本拠地にしている宿屋などに溢れかえる。俺は最初は自重して、というかビギの草原とカラーズの裏山、ビギの砂浜しか行っていないのでアイテム種類数はそんなにない。
いやなかった。現在色々な所へ出掛けては増えていくアイテム種類数を知ってはいたが数えてはいないので借りている部屋の中はアイテムだらけになっているかもしれない。
正確には仕様で部屋の中にある宝箱に自動で入っていくので宝箱を空けない限り部屋は寝る分には問題ないし綺麗なままだ。宝箱を開けるのが怖くなってきた。
「あの、検証パーティ、コナン・リドルの人ですか?」
何で俺に声をかけてくるんだろう。そう思ったがユーリカさんの方を見てみる。ユーリカさんの方にも誰かが話しかけていた。この話しかけてきた人物の共通点は女性という事とプレイヤーという事だろうか。
「協力者の方ですね、あちらが検証パーティの人です。何かご用ですか?」
プレイヤーが話しかけてきた理由が分からない。逆に聞き返す。
「あ、あの、コナン・ドリルの人に初心者フィールドの案内をお願いしたくて」
そういえば初心者フィールドと呼んでいる場所は最初は村人に教えてもらえなければ入れないんだった。
「ちょっと、ちょっとお待ちなさいな」
ユーリカさんに何人かのプレイヤーが話しかけていた。混乱状態のようだ。
「全員そこで止まれ!」
大声が村に響き渡る。スキルも何か使用されたようだ。声の主であるサムソンさんが片手に鍋。片手に剣として使っている包丁を持って仁王立ちになっていた。
「全員整列!」
おっと、俺は対象でないはずなのに整列しそうになった。強力なスキルなのかもしれない。
「助かりましたわ、サムソン」
「俺の方にも来たからな」
ユーリカさんと熱々ぶりを振りまいているサムソンさんは整列しているプレイヤー達を睨みつけている。
「これ、一体何があったんでしょう?」
俺はサムソンさんに聞いてみた。
「何もかにも、ペット化の情報のせいだろう。ペットを欲しがるのにカラーズの裏山の猫や森の犬なんかは基本だろうしな」
リルさんが情報を上げていたんだろうか?
「今リルと相談しましたわ。知り合いの初心者支援ギルドのメンバーと連絡を取ったそうです。今こちらに向かっているから、もうすぐ来るでしょう」
ユーリカさんが俺達だけでなくプレイヤー達に情報を伝えた。
サムソン、待つ間彼らにご飯を用意してあげてくださいな。私も屋台をやりますから」
「そうだな、暇つぶしにはなるだろう」
おお、かつての宴会の前座が再びか。
「あれ、すると後のサポートはどうなりますか?」
俺の役目が無くなった。
「ごめんなさいね、今日はもう出来ないみたい」
「すまんな。今日は解散しよう」
仕方ないか。何か手伝う事はと二人に聞いても、店頭販売と料理なのでやれることはないそうだ。リルさんに聞いてくれと言われた。
「それじゃあ今日はここで、また明日」
部屋に帰っておくとしよう。ログアウトする事も考えておく。
そして部屋に帰って何となく宝箱が目に入り、先ほど考えていたことを思い出す。
「怖い物見たさというやつだな」
宝箱を開けると、ウィンドウが展開した。ここで詳しく説明するのもおかしいが、現在俺が倒したモンスターの素材がそれなりに浮かんでいる。宝箱は無限の容量だから良い物のここを出たらどうしようか。
宝箱から食品になりそうなアイテムを取り出す。アイテムボックス限界まで取り出して再びサムソンさん達のいる広場へ。
「あ、サムソンさんここに食材置いておきます」
「おう、足りなくて困っていたんだ、有難う。…って。何だこりゃあ!」
大量に置き過ぎたようだ。ついでにアイテムボックスの掃除を兼ねたのが悪かったか?
食材アイテムで俺が持っていたのは、ビギの草原のクックなどの肉の他、
ニードル・ビーの蜂蜜
ウィップ・スネークの肉
レインボー・バーディの肉
スタッフ・ウッドの林檎
スタッフ・ウッドの蜜柑
スタッフ・ウッドの梨
スタッフ・ウッドの葡萄
グラップラー・オクトパスの脚
ストーン・シェルのむき身
ウォーターガン・フィッシュの白身
などである。採取アイテムは薬草系以外全部渡した。調味料にしかならないから丁度いい。クロココのジュースは出していない。あれはもう残りが半分もない。大事に飲みたいのです。
セカの海ではまだ狩りをしていないのでアイテムはない。海鮮丼を作っていたぐらいだからサムソンさんは沢山持っていると思う。
「ちょっと待て、流石にもらい過ぎだ。代金を持って行け」
『サムソンさんからトレードが来ました』
サムソンさんは金銭で払う様だ。
「だったらこのお金でポーションお願いします、ユーリカさん。暇が出来てからでいいですから」
「わかりましたわ」
ポーションはジュースの代わりになるんだろうか。
「あ、ナント」
「青華さん、お帰りなさい。どうでした?」
大量の食材を屋台の後ろに山盛りにして部屋へ戻ろうとすると残りの検証パーティの面々が戻ってきた。
「結構大量だったよ。それで、ユーリカ達は?」
「あそこで屋台やって時間を稼いでます」
「凄い数ね」
リルさんが広場を見て驚いている。その隣に見た事がない人が一緒に居る。
「あ、ナントは初めてかしら。彼女は初心者サポートギルド予定で行動している「Tea Party」のリーダーでミカエルよ。ミカエル、この人が初心者フィールドで協力してくれたナント」
「初めまして」
「初めまして、早速ですが、「初心者の初心者」をお持ちだそうですが、うちに来ませんか?歓迎しますよ」
俺が挨拶をすると同時に早速勧誘された。
「いえ、聞いていませんか?入るなら弟と同じギルドに入りますから、それまでどこにも入りませんよ」
するとミカエルさんはどこからか出した小冊子を差し出してきた。
「これは初心者用のパンフレットです。何か困った事があったらお気軽に連絡くださいね」
「はあ」
何か押してくる人だ。
「だから言ったでしょう。この人は入らないって」
リルさんはちゃんと説明してくれていたようだ。
「だってぇ、何かギルド発生イベントはないし、初心者らしい子達もネットで情報集めて勝手に進んでいくからやる事ないんだもん」
さっきまでのミカエルさんに感じていたクールな部分が消滅した。
「ギルド換装イベントは噂だと現実で初版から3か月後に発売の第2版のイベントで行われるって話でしょう。そこでかっこいい所見せて入ってもらいなさい」
そんな噂があるのか。結構この世界で活動しているのにまだ現実では一か月経っていないというのも何かおかしな感じはする。
「それで、もう少ししたらうちのメンバーも来ますので、初心者フィールドの案内をお願いしたいのですが」
「いやいや、俺の出る幕ではないでしょう」
何人いるか知らないが、現在この場所にいるプレイヤーは多すぎる。
「安心してください。こういう事もあろうかと、私達は全員良い職業称号を持っています」
ミカエルさんの見せたウィンドウには確かにうってつけの職業名があった。
『ツアーコンダクター
プレイヤー、またはNPCとの旅行に同行し、観光を主導する職業』
観光を主に案内を繰り返しているとつくと言う職業だそうだ。これでパーティーの上限枠が旅行として移動している間は外れるので一気に移動させるらしい。
「村長さん達に挨拶はするけれど、この状況をどうにかしないといけないから、第一陣だけ一緒にお願いできないかしら」
「分かりました。案内するだけですよ。厳選には付き合いませんからね」
人が多すぎるのは村人も困っているのでさっさと案内した方が良いと思う。しかし案内だけと念を押しておかないと、厳選に付き合っていたら日が暮れるどころではない。
「それじゃあ、まずは私達が日を越えても良いと言う人たちとさっさと行こうと言っている人たちと分けるわ」
リルさんが検証パーティのメンバーに指示を飛ばす。俺は待ちながら当分まともに狩りが出来なくなると思った。




