42アーツを習います
現実19日目。パーティを組んで2日目の朝です。昨日は青華さんが暴走して酷かった。厳選してペットを探すのに付き合わされてへとへとだ。ログアウトしたのも当たり前という物だ。
そしてその青華さんは現在目の前で小猿、兎、小犬、子猫と戯れている。名前は小猿のシロちゃん、小犬のクロちゃんの他、兎がチャチャちゃん、子猫がミケちゃんと色の情報通りの名前だ。兎は何故小が付かないかというと、この中では一番大きいからだ。二足で立つと耳の先端が俺の肩ぐらいまである。
「う~ん。今日は一日この子達と遊んでいたいよ」
そんな青華さんの周りに村の子供たちがペット達と遊ぼうと集まっていた。
「今日は海側に行くから動物要素は少ないわ」
リルさんの説得に渋々腰を上げる青華さん。まだユーリカさんたちをはじめとしたメンバーは帰って来ていないので来てもらわないと手が足りない。
「じゃあ皆、村の中で待っててね。危ない事しちゃ駄目だよ」
これはペットへの台詞。
「皆も、この子達と遊んでくれるのは嬉しいけど、嫌がる事はしないでね」
これは村の子供達への台詞。俺にはどっちがどっちやら、という感想だ。両方とも同じように聞こえる。
「さあ、行こうか!」
気分を切り替えた青華さんの言葉にパーティは出発する。
今日は一度アーツの実地例を見せてもらいたい。昨日はペットの厳選で大変だったのでそれどころではなかった。
「まずは私から」
弓のアーツを青華さんに見せてもらう。今いるのは第一歩の磯辺ことセカの磯辺で、前にリルさんたちが調べたところではここはモンスターがアクティブ、ノンアクティブ混合でうろついていた。
今回ゆっくりと周りを見渡せば、半分水中半分陸上のフィールドで、ごつごつした岩場のそこここに水溜りがあり、海につながる水場がある。
陸上にいるモンスターはまずは鴎が空を飛んでいる。ヤドカリが岩の上で寝ている。蛸がボクシングしている。蛸がヨガをやっている。蛸が三角関係の様に1匹を2匹が引っ張り合っている。蛸が多すぎないか?
青華さんが狙いを定めたのは鴎だ。弓に矢をつがえて離れて飛んでいる1匹にアーツを放つ。
「必殺、フレイムシュートアロー!」
遠くの目標でも当たるシュートアローのスキルにフレイム・アローの魔術をかけて全体が燃えている矢が鴎へと命中、獲物は炎に包まれて落ちていく。パーティとしてアイテムボックスにウィンド・シー・ガルの羽が追加された。
「やってみる?」
「はい」
システム的な物なのでアーツ自体は簡単だ。自己流アーツもそれなりにやってたし。青華さんの技を真似してファイア・アローを矢の先につけて、≪命中≫も発動。「シュート・アロー」をセットしてアーツにする。
「必殺、ファイア・アロー・シュート!」
真似して離れていた鴎へ矢を射た。時代劇に出てくるような火矢となった俺のアーツは命中して鴎を地面に落としたものの倒す事はなかった。そのままアクティブモンスターになって襲い掛かってくる。
「おっと」
後でクレイさんの声が聞こえた。
「ナント、貴方はクレイの方へ行って。鴎は私が引き受けるわ。クレイ、剣のアーツを教えてあげて」
リルさんがハンマーを振り上げて俺と交代する。クレイさんはヤドカリに囲まれて襲われていたが危なげなく避けて剣を振るって距離を取る。俺は武器を刀に変えておく。
「ええか、武器のアーツのやり方は基本3通りある。一つは青華みたいに武器にまとわせる方法、今からやるのは」
クレイさんは言葉を区切って剣を振るう。剣はヤドカリに当たったが、その殻の当たった剣先の、触れた部分から殻が凍っていく。
「とまあ、当たった場所から発動する物やな。接近戦やと相手を驚かすのにまとわせる以外は、どんな効果が出るか分からんようにこの方法を使うプレイヤーの方が多い様や」
殻が凍ったところに衝撃を与えると簡単に殻が割れた。さらに中で爆発が起こったらしくボンと音を立ててヤドカリが煙を上げる。どうやってるんだ。
「氷で相手の動きを止めつつ体内に爆発を起こさせるアーツや。当たった場所を起点に設定しているからこうなる。爆発系の魔術は反動が体にきついから纏わせることはあんまりないな」
クレイさんの説明と同時に、その周りを囲んでいたヤドカリはあっという間に倒された。
流石に手慣れた動きだ。
「あれ、リルは何をやっとん?」
リルさんの方に振り向けば俺が火をつけた鴎にペット化の石を使っている。
「ちょっと考えがあってね、もし明日サムソンが達が来て手が足りなかったら協力してくれない?」
「何をですか?」
ペット関係で検証に何かあったのか?
「それは後でもいいわ。この子を選んだのは偵察に使えるし、雨にも多少強いから伝書鳩みたいに使えるかと思ってね、名前は元の名前から海風にするわ」
今の名前は何か知らないが鴎は嬉しそうに大きく翼を広げて、差し出されたリルさんの腕の上に乗った。平たい脚なのに器用な物だ。
「まあええわ。最後のやり方はまずこう発動したら」
剣先で指した蛸が炎に包まれる、ほぼそれと同時にクレイさんの姿は消え、蛸を突き刺していた。
「え、いつの間に」
アイテムボックスに蛸のアイテム、グラップラー・オクトパスの吸盤が入っている。
「とまあ、これはさっきとは逆に魔術を先に発動させて武器で攻撃というパターンや。魔術が的になってるから、オートで動かすと瞬間移動みたいになるから裏技になっとる」
さっきと魔術とスキルの発動順番が逆なだけで違う技だ。これは面白い。
蛸は一匹が攻撃を受けると連鎖するタイプのモンスターだったらしい。次々と蛸が拳をボクシングスタイルに構えてやって来る。狙いはクレイさんだ。
「一つ、俺の大技見せたるわ」
クレイさんが2本の剣を取り出す。センスで≪二刀流≫を覚えると2本の武器で攻撃が出来るそうだ。斧と剣とか杖と鞭とかの別種類でもO・K。と、考えている間に巨大な竜巻が発生していた。その中心にはクレイさんが剣を水平に持って立っている。
「どりゃっ!」
クレイさんの声と同時に竜巻が蛸の群れに突っ込んでいく。中のクレイさんも高速回転しているような気がするが気のせいだろうか。竜巻はいつの間にか雷も放電しだして周囲の蛸を次々と焼いていく。ここが初心者フィールドというのもあるだろうが、襲ってきた蛸が全滅してしまった。早い。早すぎる。
「ま、宴会芸兼用の見せ技やから特別なもんやない。こんな事も出来るで、という例やな。あ、アーツの使用個数は6つやからまだナントには無理やで」
アーツは最大6つまで使用して作ることが出来る。これはレベルに依存し、俺はまだレベルが低いので3つしかない。
実際、いつか弟にアーツの事を聞いたら「無理、無駄」の一言で断られた。弟がケチなのではなく、トップの最前線を走っている弟はアーツの使用スキルは3段階目のセンス、使用スキルも6個5個が普通という事だ。
他にもネタ動画で見た、流星拳で相手との距離を縮めながら相手に接触すると腕なり棘なり持って一本背負い、からのジャンピングエルボーで同時に剣を刺す、という技ならスキルが全部初期的な物だったので出来そうだが出来ない。センスを取っていないと言う以前にプレイヤー自身の能力による部分が大きいようだ。
「それじゃ、あいつらアーツ使って全滅させてみよか」
指さす方を見ればどこから蛸が大挙して押し寄せてくる。
「ちょっと待って下さいまだアーツを設定していない」
「あ、そうなんか。仕方ない、とりあえず全滅させといて」
クレイさんがスパルタだ。いつも通りの態勢にするために盾も取り出して地面に置いておく。
「死に戻りも困るからほどほどに協力するわ」
「頑張ってね」
心底最初から倒すのに協力してほしい。リルさんは真面目に、青華さんは楽しそうにこちらを見ている。蛸はヒョウモンダコのような食欲をそそらない格好だ。触るのは出来るなら遠慮したい。矢をいつも通り放つ。ただし思いつきでさっき練習で作ったファイア・アローのアーツを利用しておく。火の矢が降り注いで火傷した蛸もいるようだが倒せてはいない。流石にリゴブリンよりは頑丈なんだろう。
「ええい、男は度胸!」
二度目をつがえる事も出来ない距離だったので刀を取って突っ込む事にした。
俺が持つのは刀なので突くよりは斬る方が良い。盾を構えて頭と体を攻撃される防ぎつつ上下左右に刀を振る。一発で蛸を真っ二つに出来た。これは気持ちがいい。
「うごっ」
蛸の拳?を受けて頭を揺さぶられる。ああ、ボクシングの試合でこんなの見たな。走馬灯が頭の中を走るかと思った時、背後から飛んできた矢が刺さって追撃しようとした蛸をポリゴン得へ変える。
体勢を取り戻して盾を顔に持って来てからちらりと後ろを見れば青華さんが弓を構えていた。援護はあるようだ。
「このっ」
再び蛸に向き直って刀を振り回す。蛸の手が切り飛ばされてポリゴン化するのが見える。手が再生する事はないので一本一本切っていくように戦い方を訂正する。
「大丈夫?」
「まあ何とか」
酷く手間をかけて結構な数の蛸を倒し、膝をついて倒れそうになるのをこらえる。水が欲しい。今度水筒を作るか買うかしよう。
「はい、ポーション」
声をかけてくれたリルさんはポーションもくれた。ありがたや。実は初めて飲むポーションだ。HPポーションとアイテム名があるポーションは、HP回復というよりも体力回復疲労除去と言ったように体を直していく。オレンジ味でうまい。薬草とは大違いだ。
「うまいですねこれ」
「プレイヤーメイドだからね、調子はどう?」
リルさんが持っているという事はユーリカさん製だな。味をどうやっているのか今度聞こう。
「杖はユーリカの方がうまいから帰ってきたら聞いたらいいわ。それで、アーツ、というよりもセンス全般に言える事なんだけれど、注意事項があるの」
盾を構えて何があるかに備える。
「いえ、モンスターをけしかける訳じゃないからそれは安心して」
リルさんに笑われた。




