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4村長に会いましたよ

 村で何かやろうと思いついて、早速生産をすることにした。弟程強い訳ではないので、今の所のプレイのイメージとしては防具を中心に作って、強力な威力の弓矢で多少遅くても攻撃する、もしくは周りに使ってもらう、である。魔法を使えたら変わるだろうが。

 夜なので人影はないが酒場らしい場所は開いている。早速近くの人に生産するための技能持ちが集まる生産場はどこか聞いてみた。


「生産場?そんな物は都クラスの街にしかないぞ」

「なんと」


 名前にひっかけた冗談ではない。本気でそう思った。再び色々な人から話を聞いてみる。


 つまり、生産するためにはそれぞれの生産能力を持つ人の所で練習をしないといけないらしい。

 俺のセンスでいうと、剣と盾を作るには鍛冶屋、弓を作るには弓職人の所へ行かなければいけない。弓は材料が色々あるのでどの材料の弓を作るかでセンスも異なる。

 俺は基本的な生産は攻撃を上げる鍛冶師になる予定だ。

 魔術は魔術師ギルドが王都にあって、そこか冒険者ギルドに行けば教えてくれるそうだ。冒険者ギルドの方は初級だけだそうだけれど。

 後、俺が持っている生産センスは≪修復≫≪鍛冶≫≪細工≫がそれにあたる。ただし細工をするのは現実の意味での芸術的センス、も必要なようで村ではあまり役に立たないから練習場所はない。必要な護符的な効果アイテムを作るのに選んだんだが。≪採取≫は採取できるアイテムの質や量に関係するらしいが、なくても採取そのものは出来る。


 今は夜の時間でここは酒場である。今から突撃してたたき起こすなんて真似は出来ない。酒飲んで頭がぼけている状態で教えられても問題だ。


「おい、大丈夫か、お前さん」

「そんな所で頭抱えて震えてるなんて病気か」


 親切なのか何なのか酒瓶持って村人が二人寄って来た。


「いえいえ、これからどうしようという事を考えてただけです」


 これはログアウトして時間を置くしかないと考えていると、別の村人も寄って来た。


「何だ、堕落人間が悩んでるんで変な病気でも持ってるのかと思った」


 失礼な言い方である。天から落ちてきたと言いうのがプレイヤーの設定ではあるが、何だ堕落人間って。何だが人生失敗したみたいな言い方だ。酔っぱらっているか、このNPCの口が悪いだけと思いたい。 NPCが全部こう言ってたら嫌だな。


「何か悩みがあるなら、村長に聞けばいい。堕落人間の悩みは、前から村長が担当してた。おーい、村長~」


 失礼な言葉のおっさんは酒場の奥へ声をかけた。村長も飲みに来てたのか。


「この堕落人間が何か悩みがあるそうだ、聞いてやってくれ」


 相談相手を教えてくれるのは有難い。善人だと思っておこう。


「何じゃなんじゃ。話に聞いていたのと違って空旅人は来なくなったから、別にかまわんぞ」

「あ、どうもこんばんは。ナントと言います」

「おお、礼儀正しいな。儂はビギの村長でアランという」


村長は俺より背が高い、目に見える腕は筋肉の塊のようながっしりとした体格だった。老人らしい白い髭が似合ってない。βテストの頃からやっていた相談窓口のようだ。丁度いいので相談してみるとしよう。何を相談しようか。そうだ、魔術の事を聞こう。


「すまんが。持っているセンスを見せてくれないかな」


 NPCもステータスが見れるようだ。プレイヤーはNPCのステータスを見れるんだろうか?ウィンドウを開いて村長の方に向ける。村長は何かぶつぶつと言った後、カッと目を見開いた。


 そしてこれが現在取得センスである。


戦闘センス:≪剣≫≪弓≫≪盾≫≪隠蔽≫≪逃げ足≫≪魔術≫

予備センス:≪火才能≫≪水才能≫≪土才能≫≪風才能≫≪命中≫≪方向感覚≫

生産センス:≪修復≫≪採取≫≪合成≫≪鍛冶≫≪細工≫≪サバイバル≫


「何というか、お主のやりたい事がさっぱりわからん」


 俺のセンスを見たアラン村長がそんな事を言いました。


「≪剣≫≪弓≫≪盾≫のセンスは良いじゃろう。話を聞く限り弓を主にするようじゃから弓で接近戦用に剣盾を持つのは分かる。しかし≪魔術≫は何じゃ」

「魔法を使おうと思って」


 弓が駄目なら魔術で広範囲攻撃しようと思っている。


「それなら何故≪杖≫でも≪詠唱≫でもいいから取らん。魔術発動の道具がないと魔術は使えんぞ。王都なら金次第で指輪型や武器型も売っているじゃろうが、こんな小さな村ではなあ」

「そうなんですか」


 参考にした人のセンスは王都に行くのが前提だったらしい。


「次に生産センスじゃが、これは言わんでも分かるな。この村では王都のようにまとまった生産場などないし、技術も王都ほどではない」

「別にそれでも構わないから、明日教えてもらいに行くつもりです」


 何倍で時間を伸ばしているのかは忘れた。ログアウトして時間を計算しないとな。


「聞いた所ではお主一度死んで持ち金がないそうじゃのう。材料費か材料は持ってるのか」

「始めの一回はサービスとかしてくれませんか?」

「こちらも生活が懸かっているのでのう」


 金が必要なのか。ファンタジー世界でも人生金なんだな。


「最後に予備センスじゃ。何故≪火才能≫≪水才能≫≪土才能≫≪風才能≫と、才能系のセンスが四つもあるんじゃ」

「魔術に使おうと思って」


 才能系と呼ばれるセンスは≪魔術≫センスと一緒に持っていると普通の魔術と違う元素的な魔術が使える。最初に全部練習してみるので取ってみたのだ、目指すは全属性とは言わないまでも苦手がない方が良いだろうと思っていた。


「普通、魔術師は一つ二つの、魔術とその才能を選ぶ。開いた所に感知系のセンスを入れる訳じゃ」


 成程。


「さらに、どこでどんなセンスが必要になるか分からん。そこでセンスのランクを上げるまで一つは空きを作っておくのが普通なんじゃよ」


 今現在自分のセンスに空きは一つもない。センスを整理して空きを作るのは神殿やギルドホームで出来るとなっているが、今の場所から一番近いのは王都の神殿だ。


「まあ、お主のような存在を一種の馬鹿と言うんじゃろうな」


 呆れられた視線が周囲からも飛んできた。


『称号:「初心者の初心者」を獲得しました』


 頭の中で変な称号を得たファンファーレが聞こえた。


「うむ、まあお主がその称号を持つと言うのは納得した。そして実はその称号を持つ者にはある秘術を使う事が出来る」


 何故か俺の称号がわかるらしい村長がそんな事を言って来た。


「村長、何だその秘術って」


 周りの村人から声がかかってきた。


「これは代々の村長にしか教えられないもんじゃ、お主らは使えんし、使う意味もないよ。何しろ、先代村長が空旅人用に女神からもらった物じゃからな」


 村長は真面目な顔で周囲を見渡した。空旅人というのが普通のプレイヤーの言い方のようだ。良かった堕落人間でなくて。


「村長、頑張ってその秘術覚えますから是非ともジェリアさんを嫁に下さい!」

「馬鹿者!お前みたいなやつに可愛い孫娘をやれるか」


 何か話が脱線してきた。


「すいません、村長、その秘術というのは」

「おお、すまんの、流石にここで話すのも問題じゃから儂の家に行こうか」


 村長はコップを置いて立ち上がった。


「今日はいくらじゃね」

「一杯しか飲んでないし398ですね」

「あ、そのくらいなら払います。自分がお願いしたので」


 まだそのくらいはお金が残っていた。


「そうか。それじゃあ遠慮なく」


 RPGというのは延々と狩りを続ければそれなりにお金も経験値も入るのだ。武器も現在持っている初心者の○○と言う装備は決して壊れない。

 ただしドロップでも購入でも同じ系統の武器道具を装備したら消滅する様になっている。


 そんな意識があったのでお世話になる事だしお金を払う。


「さて、それでは秘術を使おうかのう。秘術というのは本来神殿で行うセンスの整理を一度だけやらせる物じゃ。条件は称号:「初心者の初心者」を持っている事じゃな」


 初心者救済処置か。さっき最近来なくなったと言っていたし、βテストの時はやり直す人も多かったんだろう。


「それではやるが、あくまで整理であって何か新しいセンスを取るにはクエストを受けるなりせねばならん。良いかな?」

「お願いします」


 ぴかっと村長の禿てもいない頭が光ったような気がして、見るとステータスが目の前に浮かんだ。その長は額に青筋立てて唸っている。


「ええと、とりあえずはまだ何もできないから≪合成≫をはずそう」


 何か脳溢血でも起こしそうな村長の姿なので手早く外す。≪合成≫は合体魔法が出来ないかとか武器を合体できないかとか思っていた能力なので先にならないとどうにもならない。


「ふう。それで、お主は何か欲しいセンスはあるのかの?」

「あ、はい。出来れば夜にも行動できるように感知系の能力取ろうと思っています」

「そうか、なら猟師のハンスを紹介しよう」

「ありがとうございます」


 お礼を言って外に出ようとすると村長に呼び止められた。


「お主、これからどうする気じゃな?」

「え、外で野宿しようと」


 宿屋は村にないので野宿するとWikiにあった。


「お主のような初心者が野宿してみい、朝には食われておるか凍死しておるわ。物置でよかったら今日だけ貸してやろう」

「それは、ありがとうございます」


 頭を下げると笑って案内された。


「一杯とはいえ酒をおごってくれたからのう、このくらいは良いじゃろうて。さて、狭くて悪いが寝るスペースはある。ゆっくりと寝ておくれ」

「はい。おやすみなさい」


 部屋を貸してくれるとは思わなかったが、確かに朝になったら死に戻るよりは良いだろう。有難く寝かせてもらって、ログアウトした。


「おう兄ちゃん、初のログインはどうだった」


 夕食後のだらだらする時間帯、弟が感想を聞きに来た。


「結構面白そうだ」


 思った事を素直に口にする。


「そうか、なら進めた甲斐があった。で、どこまで進んだんだ?」

「始まりの村から動いてないな」

「なんで?」


 俺は弟にセンスの事を説明する。


「阿保か、ちゃんと確認しないから」

「失礼な、参考にしたのが王都直行型の人のやり方だっただけだ」

「そこに気付かないのが兄ちゃんのうっかりというかドジというか」

「それは認める」


 でもこれは遊びなので気にしない。


「ま、取りあえず金を貯めて王都に行かないといけないな。戦闘経験もないから修行ついでに溜めてから行くわ」

「そんな所だな」


 弟はそんなもんだろうと納得している。


「お前はどこ行ったんだ?」


 逆に俺が聞いてみると、


「俺もレベル上げだな。王都から行ける場所に行ってるよ。俺の所はギルドホームを遊戯の街レンジに置く予定だからそっちに行きつつやってる」

「へー」


 話題を変更する。ホームはこの場合まだパーティの拠点という意味だろう。


「レンジって、確か賭博都市とかネットで流れてたな。物価が高そうだ」

「確かに物価が全体的に高いな」


 うむ、俺としてはいつかTVで見た一か月一万円生活みたいなものに憧れているので実行してみようか。


「何しろ砂漠近くの荒野に出来た街だからな」

「何でそんな所を拠点にするんだ」


 砂漠なら一万円生活するほどの採取が出来ないじゃないか。


「まあ、兄ちゃんは本で基本知識見た後行き当たりばったりで動くから先に言っておく。砂漠だから初心者用の装備じゃ間違いなく死ぬからな、仮にギルドホームがあったとしても、そこでの生活も金がかかる」

「所詮この世は金か」

「冗談と分かっているから無視するけど、ここは独自の素材が採れて、それが俺達のギルドに必要だからあそこに本拠地を置いているんだ」


 そう言えば弟はギルドを作る事をもう決めているβプレイヤーの一種だった。


「弟は何の素材を求めているんだ」

「ドラゴン系の素材だな」


 ドラゴンが砂漠で採れるのか?


「砂漠だと化石が採れるのか?」

「化石も採れる。けど、何処からか知らないが行商がドラゴンの素材を持ってくるんだ」


 ドラゴンの素材を持ってくる行商人ね、もしかしてドラゴンキラー軍団が居たりしないか?


「行商ならどこでも良いような気がするがな」

「それは浅はかさというのだよ、兄ちゃん。行商の場合、先に着いた場所で販売と仕入れを繰り返すから最初の方の街でないと素材がないという場合もある」


 それは分かる。


「β版でドラゴン素材を追っかけて行商人と追いかけっこをした事を思い出すぜ」


 何をやったんだ。


「でもβ版だと設定が変わる場合もあるんだろう。そこらへんはどうなってる、レンジで変わらないのか?」


 もうちょっと物価が安い所に変わっていたら嬉しい。


「そこは調べている所だから完全じゃないけど、おそらく変わってないだろうと思う」


 変わってなかったか。


「砂漠だと隕石が発見しやすいとは聞くけどな」


 他に物がないから。南極の方が良く見つかるとも聞く。正確には良く知らない。


「隕石というか、流星鉄とかいう隕石らしいアイテムも砂漠を探せばある時があるな。でも、隕石的なアイテムって課金の方で普通に流通してるからわざわざ探す意図が居ないというか」


 課金ね、俺は金を出さないほうなので特に興味はわかない。


「ドラゴン素材って、行商人が運んでくるしかないのか?」

「いや、他にも各地のダンジョンで採れるな。ただし珍しい物とかこっちじゃ取れないような物は行商人が運んでくる。後、正式にはドラゴンじゃないけどシーサーペントみたいな海のドラゴンの素材は海に面した水上都市の方で採れる場合もある」


 水上都市か。何となくドラゴンでなく中華、日本的な竜の素材が採れるような感じだ。


「それにしてもお前の話を聞いていると、行商人の行く道をたどってドラゴン素材が手に入る場所まで行ったみたいな話だけど、今回はないのか?」

「いや行商人にはどれだけ頼み込んでも付いていけなかった。それで後をつけて行ったんだが、壁に妨害されて無理だった。どうもまだ実装前の場所らしい」

「将来行けるようになったらいければいいな」

「そしたらそっちに移動するかもしれないぞ」


 それは予想が付く。


「それにしてもドラゴン素材か。ドラゴンキラーの称号とかある?」

「あるよ。ただ一匹倒しただけじゃ身に着かないし、厳密にドラゴンじゃないとつかないみたいだけど」

「厳密じゃないドラゴンってなんだ」


 蛇か?それとも竜か?爬虫類はありそうな。コモドドラゴンとか。


「名前だけのドラゴン、コモドドラゴンみたいなやつは駄目だし、弱いのも駄目、後デミが付く亜種の種族もいるんだ。それを倒しても純粋なドラゴンじゃない扱いらしくて称号はない。デミドラゴンキラーというのなら付いたから無駄でもないだろうけど、こっちは純粋なドラゴン素材を探してるから」


 亜種は強いゲームがあるけどこのゲームはそうでもないのか?


「それにしても何でドラゴンだ?」

「かっこいいじゃないか。それに何かで統一するのがいい」

「成程、納得した」


 弟と感性の似ていると思う一瞬だ。俺としては、ドラゴン素材以外にも統一した素材、例えばキメラ素材とかさっきっ言ってたデミドラゴン素材とかで統一するのもかっこいいと思う。でもきりが無くなるかな。


「そういえば感知系スキルを取れと言われたんだけどお前は何取ってるんだ?お前と別のにするから教えてくれ」


 弟に頼まれてやってるわけだし、別の識別方法が良いだろう。


「俺は≪気配察知≫だな。敵味方に有利なんだ」

「そうか、じゃあ俺は夜目が効いた方が良いからそういうのにするか」

「いや別に感知系持ってれば普通に夜も大丈夫だし、松明使えば戦えるぞ」

「そうなのか」


 松明なんてあったのか。


「まあいいやネットで調べよう」


 早速俺はWikiを調べてそれっぽいセンスを選んだ。


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