34コナン・リドルと
現実17日目、ログインし、自分に割り当てられた部屋で目を覚ます。一週間だけしかいられないのが残念だ。
何か外が騒がしい。何かと思って窓から覗くと、大八車と馬車が並んで荷卸しをしていた。リルさんがいるので生産職の何かの荷物だろう。
「おはようございます」
外に出て挨拶をする。リルさんは誰か見た事がないプレイヤーと話していたが、荷物を下ろしているのも全員プレイヤーの様だ。
「あら、丁度いい所に。皆、少し良いかしら」
俺を見たリルさんが荷物を持ったプレイヤー達に声をかける。プレイヤー達の注目がこっちに集まった。何か具合が悪い。注目を浴びるのは苦手だ。
「この人が、今「初心者の初心者」の称号を持っていて、初心者のフィールドの噂を体験しているナントさん。ナントさん、このメンバーが私の所属する生産系検証ギルドのコナン・リドルのメンバーよ」
変わった名前のギルドだ。謎を解きたいのならコナン・ドイルじゃないのか?
「ちょっと、石破、そんな格好で止まってないで降りてきなさい」
大八車の上の方にある荷物を取ろうとしていかにも不安定になっていた男性プレイヤーにリルさんが声をかける。
「それじゃあ自己紹介しましょう。改めて私は鍛冶師のリル」
リルさん言葉に手を上げてポニーテールの娘さんが声を発した。
「はいはーい。あたしは裁縫、木工の青華。よろしくっ」
「俺は石破。金工、石工担当だ」
「俺は石動。建築、大道具担当だ」
何だろう。現在ドワーフはいないはずなのにドワーフそっくりで同じ顔の二人のプレイヤーがいる。
「二人は双子の兄弟だから、顔はそっくりなの」
リルさんが似ている部分を説明してくれたが、それよりもドワーフっぽいのが気になる。
「俺は料理人のサムソンだ。後、攻略では剣士をやっている」
背中に背負っているのはてっきり刀かと思った。
「生産職なのに攻略もやるんですか?」
俺は誰にともなく疑問を口に出していた。
「そうだよっあたしは弓で後方支援担当」
「格闘家で近接担当」
「大斧で前線担当」
この二人が同時に言うようにしているのはわざとだろうか。大工の方が大斧使いだ。
「そして、真打、魔術師で薬剤担当のユリーカですわ」
「待て待て、まだ俺がのこってるやん」
ローブをまとっていかにもな恰好をしたユーリカに軽くツッコミを入れて7人目が現れた。このゲームのパーティは6人だからてっきり6人かと思っていた。いや、ギルドとパーティでは人数が関係ないか。
「商人をやっとる、クレイや。行商でおらんこともあるから、逆に手が足りん時に入っとる」
クレイさんは関西弁の様だが商人プレイの為にやっているそうだ。
「リーダーはクレイなの。ただ本人も言ってるようにいないことが多いから私がまとめてるんだけどね」
真のリーダーはリルさんでいいんじゃないか?
「それで、一つ頼みがあるんだけど良いかしら」
「なんですか?」
「この先にもう一つ村があるのよね。明日到着のお祝いの会をしたいからそちらへも招待状を出したいの、案内してくれる?」
「それは良いですが、行けますか?」
この前行けるかどうかやってみたがリルさんはカラーズの裏山には行けなかったと聞いた。
「経験者が一緒ならいけるかもしれないでしょう?」
「そうですね、村長に相談してみたらいいんじゃないかと」
思えばビギ村の村長はセカ村の村長と兄弟だと言っていた。という事は村長に頼めば行き方を教えてくれ、イベントとして行けるようになるんじゃないか。
「と思うんですがどうでしょう」
「それはありそうね。後で検証してみましょう」
何を試すのか知らないが、まずは村長に挨拶だ。
「こんにちわ村長。少し良いですか?」
「おう、お主か、リルさんも一緒で、何か用かな?」
村長は家の前で本を読んでいた。本の題名が『孫を可愛がる方100』なのはジュリアに黙っておこう。
「実は…」
リルさんの話に村長はあっさりと認めた。
「うむ、儂の村にリルさん達が来て自慢できるいい機会じゃ。是非とも呼んで下され」
「分かりました」
「それでは案内をジュリアに頼もうかな」
村長がジュリアを呼ぼうとした所をリルさんが止める。
「待って下さい。今回はナントさんに案内を頼んでいますから、ジュリアちゃんはまた今度という事で」
「そうか、それでは、ナントや、しっかり案内頼みますぞ」
「分かりました」
検証の為に何かするのか?車から荷物を降ろした後にセカの村へ出発という事なので俺も荷物を下ろすのを手伝う。
「そういえばナントはまだ初心者なのか?」
「「初心者の初心者」の称号はまだありますが、それが何か?」
サムソンさんに言われて俺は言葉を返す。
「いや、最初の職業系称号は戦士とか剣士とかに初心者とか見習いとかつくだろう。そっちだよ」
そういえば気にしてなかった。
「リルさん、どうでしたか?」
この前俺の称号を見たリルさんに聞いてみる。
「そうね、残念ながらまだついていたわ。もしかすると「初心者の初心者」の称号が影響を与えてるかもしれないけれど」
嫌まだそこでクエストを受けていないだけなんだけど、でも「家畜虐殺者」称号がどうにかなるまで触らないでおこう。
「「家畜虐殺者」って経験値とかが入りにくくなる称号だろう?外さないのか?」
「王都以外にしか外す方法がないみたいですし、ビギの草原へは技の練習に行くだけなので大丈夫だと思います」
「そうなのか。するとレベル上げの経験値は話に聞いたカラーズの裏山という場所でやるんだな」
「そうです。あそこは最初からアクティブモンスターなのでちゃんと経験値は入ります」
それでも雀の涙ほどですが。俺は初心者用フィールドなんて言われている場所から出ないから仕方ない。
「なあ。他にも経験値や熟練度が、しかも結構多めに手に入る方法があるんだが、知ってるか?」
そんな物があるのか。
「いや、知りません。何ですか?」
「それはな、決闘だよ。という事で、一勝負行こうぜ」
サムソンさんが笑顔で俺にPvP、プレイヤーVSプレイヤーの機能を使ってくる。
『プレイヤー、サムソンさんからPvPの対戦が申し込まれています。対戦しますか?
Yes/No 』
「え、何々対戦するの?」
「へえ、初めて見る。ナント決闘するの?弱いのに」
青華さんとジュリアがやって来た。いつの間にか仲良くなった様だ。
「いや今日はやらない。今から案内しなければいけないし、ジュリアは知ってるだろう、あそこにはリゴブリンが出たから体力は取っておきたい」
という事にしておこう、負ける喧嘩はしたくない。
「モンスターが出るのか」
「道の上だけですが」
「じゃあそれはイベントモンスターかもしれないわね」
「いえ、ジュリアと出会う前から出てきましたよ?」
俺が塩を買いに初めてセカの村に向かった時にもリゴブリンは出た。
「普通道の上には出ないはずなんだけどね」
リルさんはまだ唸っていたが、β版との違いという物ではないかと俺は思った。
そしてコナン・リドル一行を村の出口である倉庫へ案内するのに待ったがかかった。
「ちょっと待って、私達はパーティをいったん分けるわよ。私のとそれ以外ね。もし私の方にだけ見えたら村長から許可を貰う事が新しいフィールドの発生条件という事になるわ」
検証ギルドというのは色々考えて大変だな。俺は案内だけだから気が楽だ。
「どう、見える?」
「倉庫なのは分かるけど、どうなんやろ」
リルさんとは別のパ-ティリーダーになっているクレイさんが首を傾げている。その後で石破さんと石動さんもシンクロしたように首を傾げている。ごつい男がやっても可愛くない。
「ここに扉があるわ」
「あかん。俺には壁にしかみぃへん」
どうやら村長の許可が必要なようだ。
「じゃあ次に私がクレイのパーティに入るわ」
「了解」
そうやって今度はクレイさんのパーティからリルさんが見れば見えなかったようだ。再びパ-ティを解除して組みなおす。
「パーティリーダーが許可を貰っていないと駄目みたいね」
「今度はちゃんと見えますわ」
リルさんの結論にユーリカさんが応じている。
「それじゃあ、行きましょうか」
勝手知ったるなんとやら。俺は扉を開いて倉庫の中に入る。
「へえ、結構広いんやな。ここ、倉庫やって?」
「そうらしいです。穀物を置くのに使うとか」
以前聞いた話を説明する。
「ここ、貸してもらえんかな。倉庫作るのにはまだ時間かかるしな」
クレイさんが商人の目で中を見渡している。
「それは後で村長と交渉してください。ほら、行きましょう」
目の前には次の村に続く道が続いている。意外と近いらしいが、地形のせいか目には見えない。
「ああ、それから。兵士さんが門番としてここにいますから」
「本当だ。おいっす」
「こんにちは」
青華さんが元気よく、リルさんが頭を下げて頭上の兵士さんに挨拶した。
「おう、気をつけろよ」
俺の時と違って何もなく村を出発した。
今回はリゴブリンが出なかった。何故だ。
「ふうん。すると、塩を買って始まりの村に届けたら商人の称号を貰ったのか」
「そうです。宿屋のおっちゃんから塩を買って来てくれと言われてセカの村に行き、購入してから宿屋のおっちゃんに塩を渡すと、インフォが鳴りました」
「NPCでもプレイヤー間でも金銭を使った取引をすれば商人の称号が手に入るから、おそらく事実ね」
サムソンと話しているとリルさんが考えを口にした。
「ところで全くモンスターが出る気配がないんですが、何かしてますか?」
俺よりも先を行っているプレイヤーだとレベルが高くてモンスターが出てこないのかもしれない。
「弱いものスター避けに護符を石破に作ってもらっているからそのせいじゃないかしら」
それでか。俺もいつか作ってもらおう。
「それに人型モンスターと獣型モンスターの知性が高い者や勘が鋭い者はレベルが高い相手は襲わないの」
リルさんの言葉から行くと俺はリゴブリンよりもレベルが低いのか。それとも容姿としてリゴブリンが戦えると思ったほど弱そうなのか。
「帰りにはあっちにある泉で休憩してからビギの村に戻りました」
「泉があるの?泳げるくらい綺麗?」
「ジュリアに案内されて飲み水に使ったので、おそらく泳ぐのは大丈夫と思いますが、飲み水だから泳ぐのはやめた方が良いかと」
「真面目ね~」
泉の話に青華さんが食いついてきた。
「皆王都に行っちゃって、今は村で依頼を受ける人はいないからね。でも、王都に行く前に職業が取れるならもっと早く先に進めると言う事よね」
行動をより速くするという事か。しかしそれではリルさん達が検証したがっている「初心者の初心者」の称号は取れないと思う。
「「初心者の初心者」の称号は取りたい人が取れば良いから。そこは個人の自由よ」
そんな話をしながら、俺としては拍子抜けするほどあっさりとセカの村に着く。
「待て、ここは村の入り口だ。検問を受けてもらおう」
この前も会った門番の兵士がストップをかける。
「冒険者カードで良いですか?」
リルさん達は慣れた手つきで検問を済ませる。おとなしく並んでいると俺のカードを見た門番が顔を上げた。
「おや、お前さんはこの前来たんじゃないか?」
「どうもお久しぶりです」
挨拶すると門番は俺のカードを返しながら言葉を続ける。
「いや、この前は大量の肉を有難う。つまみが増えて嬉しい限りだ」
呑兵衛だったようだ。
「今日は何しにうちに来たんだい?」
おそらくこっちが本命の質問だろう。
「この人たちは今度からしばらくビギの村で仕事する事になった人たちで、有名な生産職らしいです。セカの村長に紹介に来ました」
門番はリルさん達を見る。
「へえ、生産職。本拠地は王都のようだが、ビギの村に移すのかい?」
何の事だろう。
「しばらくは住むようです。腕は確かだからそういう事は相談してください」
俺がいう事でもないけれど、リルさんを見ると頷いていた。許可は貰ったという事で。
門番が扉を開けてくれたので俺達は中に入る。
「村長に連絡しておいたから、会って行ってくれ」
俺の時にはなかったイベントだ。
「おお、久しぶりだな。肉は有難く食っている。それで、今日はどれくらい持って来たんだ?」
「いえ、今日は案内で来たので肉は持って来ていません」
どれだけ肉好きなんだこの人は。
「そうか。それで、こっちの冒険者がビギの村に滞在するんだな」
「初めまして。俺は代表者やってる、クレイっつうもんですわ」
自己紹介が始まった。
「うむ、お主らはなかなかの腕の様だ。ここらのモンスターでは狩り足りないのではないか?」
「いえ、色々調べる事がありましてん」
イベントの前振りかと思ったらまったくそんな事はなく普通に顔合わせで終わってしまった。
「宴か、是非行かせてもらおう」
ビギの村に来たことを記念してパーティを開くという事を話すと村長の顔が大きな笑みに包まれた。そういえばアクス村長はビギの村出身だった。
村長の家を出るとリルさんが俺に問いかけてきた。
「それで、ここからはどこへ行けるの?」
「え、いや、今までこっちからは言ったことないんで、知りません。聞いてきます」
何だかコントの様に今閉めた扉を開けて村長宅に戻る。
「おやどうした」
「すいません、聞きたい事があるんですが」
村長にビギとセカの村周辺の地形を聞くことにする。
「おや、お主はこちらからは行った事がなかったか」
「まだ弱いので技の練習に家畜を倒しています」
今度はアーツの練習をしないといけない。しかし、俺はそうそうコンボを考えるのは面倒なので全部基本的な物になりそうだ。
「そうだな、簡単に説明するか。まず、ビギの村とセカの村だが、元々は一つの村だった」
「へえ」
村長の話は村の歴史になっていた。
「こちらには塩を作る役目の物が家族で住んでいたのだが、だんだんと漁や海を使っての交易がされるようになり、俺の代で兄弟が二人だし分けようという事で別れた」
そんなに簡単に村を分けていいのか?
「だからという訳ではないが、王都の様に6つも狩場がある訳ではなく、二つの村で6つの狩場という事になっている」
まだ一つの村の扱いなのか単に発展してないだけか、探していないだけというのもありそうな。
「まず王都方面、ビギの村には近くに家畜系モンスターの草原、海産系モンスターの砂浜、カラーズの裏山がある」
それは普段の俺の狩場になっている。
「次に海側、セカの村に近いのはカラーズの森、泳ぎの為の海、塩を作る場所近くの磯場となっている」
カラーズの名前が複数あるな。
「カラーズの森にもカラーズはいるんですか?」
「当たり前だ。カラーズは王都のダンジョンに赤、青、黄色、白、黒、透明といるんだぞ。裏山に三種類いるならもう三種類がここにいる」
カラーズがいるからカラーズの森だった。村長にお礼を言うと、俺は待っている皆の所に戻る。
「と言う訳で、もう三か所行けるようです」
「カラーズの森、第一歩の磯辺、入門者の海ね。見事に初心者用のフィールドだわ」
おや、名前を知っている。今まで来たことがないんじゃないんだろうか。
「何か情報が流れていたんですか?」
「え、何が?」
「だって、今、セカの磯辺や海の事を言ったでしょう」
「え、貴方が言ったんじゃないの」
「名前は言っていませんが」
「?」
「?」
俺とリルさんは互いに分からない顔をした。
「ちょっと待ちぃや。ナントは何を言いたいんや」
「だから、俺はさっきセカの村から行ける磯辺と海、カラーズの森と言う単語を言いましたが、リルさんは第一歩の磯辺とか、入門者の海とか、フィールドの名前を言ったので、情報が流れているのかと思いました」
クレイさんがリルさんと俺の間に入って質問を始める。
「おかしいな。今、何で入門者の海とか第一歩の磯辺の名前を二回言うたん?」
「え、一回しか言っていないですが」
何か知らないがおかしいのは分かる。
「もしかしてあれじゃない?イベントを勧める速度が違うと、別の名前に聞こえるっていう現象」
ユーリカさんがそんな情報を告げてきた。別の名前に聞こえる?
「もしかして、俺が始まりの草原の事をビギの草原と呼んでいるのは、周りには聞こえても聞こえていなかったのか?弟も変な顔をしてたしな」
「今貴方は始まりの草原を二回言ってたわよ」
「え、独り言言ってました?」
ユーリカさんの言葉が正しいようだ。
「この場合、やっぱり村長に聞かないと駄目という事かしら」
「NPCの人ならだれでもいいと思いますよ。カラーズの裏山に入るのは猟師さんからでしたし」
リルさんの言葉に俺が返す。
「ちょっと聞いてくるわね」
「あ、アタシも行こう」
女性陣が走って村の中に散って行った。
「男性陣は行かなくていいんですか」
「こういうのは、検証の為に行かない人間も必要だからな」
サムソンが俺の質問に答える。
話を聞くだけなのですぐに女性陣は戻ってきた。
「じゃあ今から言うわよ。ビギの草原、ビギの砂浜、カラーズの裏山、セカの磯辺、セカの海、カラーズの森。なんて聞こえた?」
リルさんが俺の普段使っている名称で言った。
「ビギの草原、ビギの砂浜、カラーズの裏山、セカの磯辺、セカの海、カラーズの森。って聞こえたよ」
「私も」
「始まりの草原、初心の砂浜、カラーズの裏山、第一歩の磯辺、入門者の海、カラーズの森、やな」
「おう、俺もそう聞こえた」
「同じく」
「同じく」
今まで俺の言葉が正しく伝わっていなかったのが分かりました。




