30弟に頼みました
弟はまだ出ていなかったので時間をつぶしにWikiやスレを見てみる。
弟が所属しているドラゴンロアーというギルドは戦闘型のギルドで、賭博都市にいるのはあそこでしかドラゴン系素材が手に入らないからだと言う。今はまだ六大都市までしか解放されていないのでドラゴン素材の鎧を作るにはカジノの景品になっているドラゴンの一部を使用するしかないようだ。ドラゴン素材で鎧や武器を作るのがこだわりのギルドだそうだから、金稼ぎをするのにイベントを起こしてディアトリマイベントを出している可能性がある。
ちなみに東洋風の蛇に近いドラゴン、竜系統の素材が湖上都市で採れる。
「おや、スレでOディアトリマの丸焼きが出ている。これはうまそうだ」
今度狩るときには一口もらいたいものだ。
食事を作ろうと言うSS付スレがあった。どれもうまそうだ。ディアトリマは鶏肉と同じ扱いで、Oディアトリマは主に焼く料理で使われていた。話を見れば油が多いので焼いて油を落としてから料理に使うのが当たり前なようだ。
「あ、これ、もしかして俺の倒したディアトリマじゃないか?」
見た覚えのある鶏肉が皿に乗って出ていた。何故わかるかというと、鶏肉の肌の色が違う。他の物はじっくり焼いた時に焦げ目がついているが俺が焼いた鳥は魔術のせいか焦げ目は付かなかった。違ったとしたらこの鳥を魔術で調理した物だと思う。
「あれ兄ちゃん、もうこっちに戻ったのか」
そんなに籠っているつもりはないんだが、弟には籠っているように思われているのかな?
「一つ頼みがあるんだが、明日は暇か?」
早速話をしてみる。
「頼みによるな」
「今、お前のギルドかパーティか知らないがディアトリマを連続して狩っているんだろう?俺も狩ってみたいから手伝ってくれ」
「狩るって、レンジの方に来るのか?俺達が兄ちゃんの言う崖の上に行くのか?」
「いや上に来た分は俺が退治して、崖から飛び降りる」
正確には小鳥に乗せてもらう。
「またそういう無茶をするな。まあ良いけど。昨日と同じ感じになると思うんだけど、どうなんだ。上の2匹を倒してから降りてくるんだろう?」
「そうなるな」
またOディアトリマが来たら楽なんだけども。
「ああ、出来れば、内臓か羽か、一匹ごとに少しずつもらいたいな。知り合いの装飾生産者に無効化用のアイテムを作ってもらえるかもしれない」
何かを無効化するシリーズのモンスターだからアクセサリなら作れるだろう。肉は食料になるようだから羽毛なら大丈夫か。
「そういえば、うちのギルドでは羽から作れたぞ、そこまで凄い物ではないけど」
「毒を無効化できるのなら有難いな」
「毒無効もあったよ」
本当にそういうアクセサリーがあるようだ。どこかで実際に作ってもらった方が良いかもしれない。勿論今回は小人族の依頼の為のでまかせだ。
「それでいいよ。それで、手段なんだが」
先に柵を作っておけば全部下で勝負がすむかもしれない。それを説明してみる。
「柵ね、確かに出来そうだけど、飛び越えそうだな」
「それは俺も思うけど、やってみて損はないかと思うからな」
「やるのは構わないよ。ただし、ちゃんと上に行ったら戦えよ」
「了解」
話は付いた。時間を合わせておいて狩りを開始する。
「そうそう。お奨めのアーツがないか?」
「もしかしてまだアーツ作ってなかったのか」
弟が呆れ顔になった。
「仕方ないだろう、ようやく弓がスキルを2つ覚えたんだぞ。魔術は一撃でビギの草原とビギの砂浜のモンスターを倒せるようになったからそれなりかな」
魔術師として活動した方が良いかもしれない。
「まあ基本は、武器が当たると同時に魔術が何か発動するアーツだな。例えば低い威力の矢でも威力を上げられる。矢が当たったと同時に火がつくとか。遠距離攻撃できない魔術は矢に付けるのが常識だ」
それはそうだ。そしてその技は俺の目標固定とのセット攻撃に相性がよさそうだ。
「弓はこれが丁度良い。兄ちゃんはあと魔術と剣だったっけ、魔術は二つか三つ同時に使うのが普通か」
「どうやって使うんだ」
「相性のいいものなら、例えば風が火を増幅してウィンドカッターが炎の刃みたいになる。落とし穴で相手を固定してから時間がかかるとか命中率の悪いとかの大技だな」
やっぱりそういうのが基本だな。
「お前の所に行くのは戦争の為だし、広範囲な攻撃をアーツにした方が良いか?」
イメージとして、真っ先に相手へ攻撃する役割な気がする。
「いや、兄ちゃんまだレンジにも来てないし、アーツのセット枠3つしかないだろう」
始めからセットできるアーツ枠は3つです。アーツの組み合わせの記録なら20が30ぐらい記録できたはず。
「まず自分の戦いに丁度いいアーツから始めてくれ。まだ戦争が決まってもないのに俺達に合わせようとしても意味ないだろう」
最初から合わせておいた方が楽だと思うんだが。そういうならそうしておこう。
「あと、何を発動用のセンスに使ってるかによるけど、手に剣を持って魔術を発動して炎の剣、とかできる。ネタが主だけど」
それは某竜の冒険に出てくる魔法剣というやつだろう。
「大体、アーツって何となくネタの為に存在するような気がするんだよな」
「そうなのか」
弟が腕を組んで遠い目をしている。
「そう。攻撃に使うスキルにしろ、魔術にしろそういう事ができやすい感じになってる」
「魔法剣とかか」
「そんな感じ。何だったらネタアーツのスレを見ればいい」
そういうのがあるのか。そこで弟が何故遠い目をしているのかが気になった。
「何か変なアーツでも食らったのか?」
「何でそんな事を聞くんだ」
「何かあったような目をしているから」
こういう目を弟がしている時はあほらしい何かがあった時だ。
「いや、≪格闘≫センスのスキルに、「気功拳」という気を飛ばす技があるんだが」
≪格闘≫はいかにも素手で近距離殴り合いと思っていたが飛び道具あったのか。
「うちのギルドにも使い手がいるんで分かるんだが、エフェクトがよくある気を使った格闘物漫画みたいに出るんだ」
別に珍しくはない話だ。その漫画のゲームだったら普通にそういうのがある。
「ある時その使い手とパーティ組んでいる時、別のパーティと鉢合わせしたんだ。そっちにも≪格闘≫の使い手がいて、「気功拳」を使えたんだが」
喧嘩でもしたのか。どっちが強いかで。
「「気功拳」の掛け声がカメハメハーかハドウケーンかでもめて喧嘩になった」
「なんだそりゃ」
確かに似たような技ではあるけれど、喧嘩するほどか?
「何かどちらが良いかで派閥があるらしい」
そこまでか。まあゲームにでも夢中になれるのは良い事だ。俺が巻き込まれなかったらどうでもいい、ともいう。
「そんな派閥他にもあるのか?」
「そうだな。竜球系と格闘ゲーム系以外にはスーパーロボット物で派閥があるみたいだ」
どんな派閥だろう。見物だけはしてみたい。
「でもスーパーロボットなら結構似た技が多いだろう。喧嘩する必要がないと思うけど」
「兄ちゃん、こだわるやつはこだわるんだ。どっちでもいいとは言わない方が良いぞ」
処世術だな。気を付けよう。
「ネタと言えばそうだけど、アーツもネタでやってるけど強いというやつがあるだろう」
「さっき言った昇竜拳とか普通に強いぞ」
俺の言葉に弟が応じる。
「俺にも分かりやすい例として、何があるか教えてくれないか」
それを真似するのがアーツとしててっとり早いので実例を求めてみる。
「兄ちゃんと俺と見る漫画、一緒のやつもあるけど結構ずれてるからな。有名な漫画のやつしか分からないと思う」
「有名な奴って?」
「そうだな、北斗の星のやつは、汚物は消毒だ、で火炎放射するな」
「いや悪役じゃないのが良いんだが」
「冗談だ」
弟のチョイスがよく分からない。
「まあ有名なのはいろいろあるけど、兄ちゃん弓矢か剣か魔術だからな。手っ取り早いのは鎧伝の話の分」
「ああ、それは分かる。というか、火炎放射を剣と組み合わせたらどうなるんだ。炎が剣の状態になるのか?」
「どっちかというと、剣から火炎放射しながら斬るみたいになる」
「剣以上に火炎放射が伸びて先端は切れないんじゃないか?」
「スキルで切るタイプの技を使っていると、延長線上に見られるらしく斬撃の判定が入る」
「どっちかというと最初の忍者レンジャーのロボの技に見えるな」
「戦隊モノの技をそこまで知っている人は珍しいんだぞ、兄ちゃんは普通に話してるから俺も知ってるけど」
そういう物か。
「雷の斬撃もまあ似たような物、弓は、真空がどうとかいう魔術ってあったっけ?」
「あれは真空なのか風なのか?よく分からないから自分が好きな方の解釈でやればいいよ」
解釈次第というか、幅が広いのはゲームとして良い事だ。
「後は、仮面のライダーとかは最近剣やら弓やら使ってるから想像しやすい」
「炎に包まれてキックをかませと」
「それは無理があるだろう。全身炎に包まれるような魔術はまだなかっただろうし、剣だって言ってるだろう」
「ライダーの剣というと、腹から出した後相手に突き刺す分しか思い出せない」
「昭和で思考が止まってるな。他にも剣なら色々あるんだぞ」
「何がある」
「ええっと、そうだな、ええっと」
俺が知る限りそこまでアーツらしいものはなかったと思う。基本的にエフェクトでどうこうするタイプだから剣もそんなにない。
「駄目だ、俺もみじん切りにすると言って輪切りにするぐらいしか思いつかない」
「ああ、そんなのもあった。でもあれはスキルでないか?」
「スキルで相手を真っ二つにする技を両手で出すアーツになるな」
「成程」
思ったより難しかった。
「消滅呪文は出来ないのか」
「それは出来ないな」
そうか、物質消滅はないか。
「火と氷でやった奴はいるし、魔術師孤児の方から単体で出来ないかとβ版で頑張った奴もいたけど存在しなかった」
物質消滅は難しいからあっても先の方だというのは理解できる。
「というか、どういう編成になってるんだ兄ちゃんの能力」
「今はとにかく魔術使うのが楽しくて使いまくってる。ぐんぐん上がるな」
「楽しければ、それは結構な事だけどな」
何故か弟は一呼吸おいて、
「兄ちゃんは面倒になると何やるか分からないのが問題だ。魔術師になるような感じだけど、魔術師になるか?兄ちゃんは魔力が無くなるといきなり両手に大剣持ってヒャッハーとか言いつつ突っ込みかねないから」
「それ、良いな」
取ったのは≪刀≫で≪両手剣≫ではないけれど、刀も一種の両手剣だし、大剣二刀流で振り回すのは面白いかもしれない。
「まあ、別に敵対するわけじゃないから遠距離攻撃出来ればどれでもいいけどな」
「それはしっかりやるから安心しろ」
「なんだろう、安心できない」
冗談を飛ばしながら聞きたい事を聞けたので、次に進もう。
「それじゃあ早速いこう」
「待て兄ちゃん、俺は今休憩に来たんだぞ」
「俺は人から頼みごとも混ざってるんだ。倒すんだからついでに依頼を取ったような感じで」
さっさと行こうと思ったら止められた。急がないと時間はあちらの方が速いから長くかかってしまう。
「イベントが混ざっているのか?」
「まあ、納品イベントだよな」
「アクセサリーのイベントなんてあったっけ?」
「アクセサリーは俺の都合だぞ」
弟の勘違いを訂正してやる。しかし全部言うわけにもいかない。
「イベントが混ざってるんなら、兄ちゃんのバイオコンピューター使って時間軸が調整されるようになってるからイベントの間はログアウトしても進みは速くないぞ。次ログインしたら朝になってるとか、昼寝した後になってるとか」
「そうなのか。それは便利だ」
それならあわてる必要もないか。時間だけ決めてそのまま用事を済ませる事にした。
「あら、起きたの?」
現実15日目。一か月まで折り返し地点だ。部屋を出た所で会ったユウリに長く待たせた文句を言われる訳でもなく普通に朝食に案内された。
「おや、おはよう。今日は頑張ってくれ」
「はい、ところで、この食事は何でしょう」
俺の座った椅子の前に食事が並べられる。
「うむ、依頼を一所懸命してくれるんだ、食事ぐらい奢ろう。うちの食事はうまいぞ」
有難い。おいしく食事を戴くことにした。
「いただきます」
パンとサラダに卵焼きというおかずだった。目玉焼きは醤油派なので卵焼きなのは助かった。
弟の助力は得た。
それではまずは柵を作ろう。小人族から大工を助っ人に呼んで指導してもらう。今思ったが≪木工≫をつけた方がうまくいくんじゃないだろうか。つけなかったものは仕方ないが。
あくまで一時的に飛び越えさせない目的なので、俺の背よりも高い木を2本選んで切る。選んだのは大工さんだ。俺にも切りやすい木を、と刀で切れる物を選んでくれた。≪斧≫センスを持ってないし、先に魔術系を上げようと≪刀≫はほとんど使ってなかったので熟練度は上がっていない。初期のスキルではないから上がりにくいと言う部分もあるようだ。
それでも本職の眼は確かで、結構切り倒すのは思ったよりも早かった。後はこれを打ち込む訳だが、時間の都合もあるので両端だけ打ち込んで後は間に縄を渡す形にした。その縄に大きな枝を括り付ける。上と下は渡していた縄で結んでつないでいく。ぶらぶらしてはいないが大丈夫か、これは。
鼠返しの形を説明して、崖の近くに持っていく。根元を打ち込んだ杭にしっかりと縛り付けて、完成。やったのは大工さんが主ですが。なんとなく斜めの鼠返しができた。
「どいてくれ。術をかけるから」
「術?」
村長が何かを柵に沿って撒いた後、呪文を唱える。カッと目を見開くと掌から緑の光が放たれた。
撒いたのは何かの植物の種だったようだ。柵の根元から芽が出てぐんぐん伸びていき、蔓となって柵を覆っていく。
「一つ思ったんですが、これで柵を作ったら普通に解決したんじゃないかと?」
あのディアトリマが柵を飛び越せないならもう事件は解決した事になる。俺は疑問を村長にぶつけてみる。
「根本的な解決にはなっていない。あくまで魔術で一時的に生やしただけで一日も持たないし、何より空旅人がこれからまだ鳥を狩ろうとするならば、有形の壊れやすい物よりも無形の魔術香料の方が長持ちする」
村長はそんなものか。それともこれはイベントがなければ出ない話なので柵の維持を考えていないのか。いつか≪木工≫を上げたら作っても良いかもしれない。弓矢の生産の為にとったセンスだが、1回くらい役に立つ日を作っておきたいので、それも良いだろう。
「それで、そろそろ時間ですが、この柵どれぐらい持ちますか?」
俺の戦い方から行くと柵に押し付けて切り付ける事もあるので作った人達に聞いてみる。
「5回か6回蹴られても倒れないくらいには頑丈だ。下から駆け上がった時に体当たりをしてくる事も考えたからな」
「とはいえ煉瓦なわけでもない木と草の柵だからな。鋭い爪は貫通するだろうし、はーど・であとりまだったか、固いモンスターの攻撃が通るかもしれない」
村長と大工さんの言葉はよく分かる。木の柵だからな。
「火の魔術は使わない方がいいですかね?」
柵を燃やさないならその方がいい。
「いや、柵を越えられたら意味はないから、柵を越えたら火だろうと大地だろうと使えばいい」
大地って土魔術の事か?崖の端っこで土魔術は使うと崩れそうだ。そこまで考えて一つアイディアが思い浮かんだ。ただし成功する確率はないので言わないでおく。
「それじゃあ俺はあの木の上で時間まで待ちます。村長たちはどうしますか?」
「わたしは戦うわ。他の人から爆弾を補充してもらったし」
ユウリは当たり前のようにこっち側に来た。
「それでは帰らせてもらおう。いざというときの避難もあるからな。成功を祈るぞ」
村長たちは帰っていった。ディアトリマは大きいから、ゴジラが来た市民みたいになるんだろうな。見てみたい気もする。
「ほら、木に登るんでしょ、早くしなさい」
ユウリにせっつかれた。
「ユウリ、俺と反対の木に行ってくれないか。Oディアトリマなら火が物凄く効くから、こっちとそっちで来た方が攻撃という事にしよう」
「そうね、あれなら爆弾も効きやすいし。でも両方とも違ったら?」
「魔術の効かないCディアトリマなら最初任せる。道具の効かないMディアトリマなら先に俺が引き受ける。後の奴は近くにいる奴を、爆弾で相手の気をそらしてくれるとありがたい」
2匹同時に戦う何て死にフラグという物だ、気をそらしてくれればありがたい。
「分かったわ。じゃあ登らせて」
エレベーター役をしてから俺も木の上に登る。子供の頃は登ったので結構体が憶えていた。
時間は丁度ぐらいになった。そろそろだと思うんだが、木の上から下は覗けないので音頼りになる。俺は考えていた攻撃を実行しようと柵を見続けた。
「クケーッ」
小さく何か聞こえた。俺は体を起こして構えておく。ユウリも爆弾を手にしていた。
「クケーッ」
「クキュケーッ」
2匹登って来ているようだ。俺は音に合わせて魔術を発動させる。
「リトルトルネード」
風の魔術の竜巻で、うまくいけばバランスを崩すことが出来るかもしれない。
「キュケ?」
脚を丁度柵に突っ込んだディアトリマに当たった。しかし何もならなかった。ディアトリマの足が柵の蔓に絡まってしまったようで、それ以上動けない代わりに攻撃も出来ない。脚だけが柵から突き出ているのは結構不気味だ。
もう一匹はうまく柵が効いた、というか柵に爪を食い込ませて頑張っている。木から降りて確認した結果、脚を突っ込んでいるのは黄色いディアトリマ、爪でだけでぶら下がっているのがこの前も倒した赤い羽根のCディアトリマだ。
「やっぱり古人の知恵というのは効くんだな」
「こんなに効くとは思わなかったわ」
俺もここまで効くとは思わなかった。しかし、バタバタと羽をばたつかせて2匹とも動こうとしている。爪をひっかけた方は持ち上がりそうだ。
「じゃあ、俺は俺から戦いに行ってくる。ユウリは隠れてみてくれ」
「わたしは戦わなくていいの?」
「考えている事が正しかったら行けるはずだ」
俺はまず爪をひっかけている赤い方に攻撃を加える。うまくいけば落とせるはず。
「む、しっかりと食い込ませているな」
「クキュケーッ」
落とされてたまるかというように羽ばたきが激しくなった。俺は落としたいので刀でガシガシと爪を攻撃する。
「落ちろーっ」
でも落ちない。
「痛っ」
後ろから攻撃が加えられた。何だと思ってみると片方だけでなく両足を突っ込んで黄色いディアトリマが柵に捕まっている。俺を攻撃したのは付きこんだ足の様だ。
「仕方ない。やりたくなかったが、覚悟しろ」
俺は気合を入れて2匹のディアトリマを見る。俺の言葉に何か思ったのか、ディアトリマはこちらを見て少しおとなしくなった。
「ハァッハッハッ」
俺は刀を柵を支える蔦へと向けて使う。さっき刀で切る事の出来た柵は、魔術で生やした蔓があっても簡単に切れた。ディアトリマの動きを封じたまま、柵は抜けた。柵は崖の端に作ってあるのでそのまま崖の中空に飛び出す形になる。
結論、自由落下。
「クキュケェェェェェ」
「クケェェェェェー」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
絶叫系と違って体が浮いた。こういうのはVRだからの体験だ。そんな関係ない事が頭の中に浮かんだ。やっぱり実際に飛び降りるとなると体験は凄まじい。絶叫系は苦手で乗る事は少ないから余計にだ。気絶しなかった自分を褒めてやりたい。
空中から地面に叩き付けられる衝撃で意識が飛ぶ。
「かはっ」
着地しようと思っていても背中から地面に叩き付けられた。動けない。しかし体は無事なようだ。HPバーが半分以上減っているのが見えた。
「よく、生きてるな」
今度から飛び降りるのはやめよう。地面、というか柵に手をついて起き上がろうとした。
「ん?」
俺は落ちている自分に夢中で気付かなかったが、ディアトリマを下にして落ちたのでそれがクッションになっていたようだ。見れば足を取られていたディアトリマは死んでいる。
「く、け」
声がおかしい黄色いディアトリマも派手なダメージを受けたようだ。お互いふらふらとしながら起き上がる。
普通ならスプラッタな光景になっているだろう。しかしゲーム仕様でそうはなっていない。俺も相手のディアトリマも立ち上がって攻撃をかけようとしているが、落ちた衝撃で動きが悪い。
「くけけけ」
「うっっかっけっ」
変な声が出た。どっちがモンスターだかわからない。痛みでギシギシいう気のする体を何とか動かすように刀を振りあげようとした。
杖の代わりに地面に刺して体を倒れないようにするのが精一杯だった。
「あ、杖にするなら杖があった」
初心者の杖を取り出して支えにする。魔術を使えば良いとようやく思いついた。
「ファイア・ボール」
「くえっ」
黄色い翼の一はたきで防がれた。俺の魔力が弱いのかあっちの、おそらくHディアトリマだと思う相手が硬いのか。
「さて、どうするか」
ポーションという物を買っていない。自分で作る気だったからな。仕方ない薬草を食べて体力回復をしよう。
「くけっ」
ディアトリマが攻撃を仕掛けてきた。よろよろと蹴りを放ってくるが、動きが悪い俺には命中する。命中した脚は俺に薬草を落とさせる。回復させないつもりらしい。
「おのれ、仕方ない。一撃で決めてやる」
決めてやるとは言っても俺に攻撃手段がない。アーツは自動運転も出来るから楽らしい。しかしまだ決めてない。一番攻撃力があるのは何だろう。センスが下位から上がっているのは≪剣≫から≪刀≫、≪盾≫から≪盾術≫、≪逃げ足≫から≪逃走≫の三つ。そして一番使っているのは、
「「ボアストレート」」
盾を構えて相手に突っ込む。崖に向かって一直線に進み、ディアトリマを挟んだ。
「グギュエ」
叩き付ける音がして、それでも押しつぶそうと全力を出す。体は痛くていう事を聞きそうにないのでこれが最後の攻撃だ。
「おい、もう終わってるぞ。大丈夫か」
気が付けば人がいて後ろから声をかけられた。
「ああ、大丈夫だ」
振り向けばたしか鬼神丸だったか、弟がパーティを組んでいたプレイヤーがいる。
「一体どうしたんだ、凄い音がしたぜ」
「柵を作って、柵ごと落ちた」
柵の方を見ていると弟が俺が柵で潰したディアトリマに何かしている。
「崖から落ちるって、凄いダメージだな。前とは大違いだ」
「そりゃ、落ちる事覚悟の上で落ちるのとは違うだろうさ」
鬼神丸が手を貸してくれた。
「所でこのディアトリマはどれなんだ?」
「Hディアトリマだな。一番堅い奴だ」
予想通りだった。弟もこっちにやって来た。
「よく2匹も倒せたな」
「柵にうまい事引っかかったんだよ。俺の実力で倒すために無茶をしたからこんな感じだ」
弟が剥ぎ取りをしている。パーティも組んでいないのに出来るのか。泥棒が横行しそうだ。
「言っとくけど、兄ちゃんが無意識でも許可を出しているから俺は剥ぎ取りが出来るんだからな。やめろと一言いえば俺は触れない」
弟に心を読まれた。
「それで、イベントで必要なのは何だ?羽でアクセサリーを作るって言ってたな。後は何?」
「内臓を全種類くれ。そういえば肝臓とかは薬の材料に使われるか?」
「薬にはなる。だから胃腸とかになるけどいいか」
「特に指定はなかったから大丈夫だろう」
弟の好きなもので良い。実際はフンでもいいわけだし。イベント中のせいか死体が消えない。俺が指定した場所がアイテムボックスに入ってきた。
「何だったらうちの生産者にアクセサリー作るよう言いましょうか?安くしますよ」
「それは有難いけど、いくらで、いつまでかかるんだ」
「一週間から一か月かかると思います」
プロポリスさんの説明に少し考える。一か月後までに作るツテがあるか?俺にはない。
「じゃあお願いします。弟、届けてくれないか」
弟宅急便を使おう。
「良いけど、出来たら持っていくのか?」
「そうしてくれ。どこにいるかは将来的に分からないが」
とは言っても今の予定だとビギの村周辺にいるのは分かっている。モンスター図鑑埋めとセンスの熟練度上げだ。
俺は帰るのに崖を登らないといけないので、ここでこのパーティと別れる事にした。貰ったのは各ディアトリマの胃腸と羽、羽はアクセサリー用に渡したから胃腸だけだ。
「ああ、体が痛い」
休憩でHPを回復するならいいが、持っていた薬草全部を食べても全快には遠かった。




