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3始めました

最初の予定では2個1して1話あたりを増やすことを調整していました。断念しましたが。その名残があちこちに残っています。

 ステータス振りをやった暗い場所から気が付くとよくある中世風の村の広場だった。足元には魔法陣が見える。

 どうやら俺にしか見えないというか、俺が出てきたのがこの魔法陣らしく他の人の足元には何も見えない。魔法陣はすぐに消えて、後ろに次の人が出てきた。

「おっとっと」

 慌てて前に出る。背後に大きな石碑が立っている広場に出て来た様だ。石碑の周りに次々と魔法陣が生まれ、人が出てくる。さっさと移動しないと人の波に巻き込まれそうだ。

 しかし俺は布の服なのに何人か既に重武装の人間がいる。あれはβ版からやってきた人間なんだろうか。


「うん?」


 頭の上に矢印が出た。これは俺、正確にはナントのプレイヤーを探している印だ。

 俺がきょろきょろしていると髪の毛が金髪になった弟がいた。


「兄者か?」

「お前は、レグルスという事は弟者か?」


 冗談でかえしながら耳元で本名を言って確認する。


「そうだ。というか、兄ちゃんほとんど姿変えてないじゃないか」

「何か問題でも?」

「何かあった時にその顔が出るとまずいだろうが」


 何かってなんだろう。


「まあ有名にならなければそれでよしとしてプレイするわ」


 俺にまだ言いたいことがあるようだがいつもの事なので気にしないでおく。


「じゃあまずは通信登録な。フレンド登録で良いだろ」

「ええと、こうか」


 目の前でやっている事を真似して登録する。


「このソフトはフレンド登録って電話みたいな機能と、今使った拡声器みたいな呼びかけって機能があるから、間違えるなよ」

「さすがに間違えない…」


 スピーカーを通したような機械的な音が響き渡ってその場にいた人間がこちらを見る。目的の人物を設定しないと全員に伝わるのね。


「だから兄ちゃんは駄目なんだ」


 何も言えない。とりあえずこそこそと別れる事になった。


 このソフトは初期装備として取ったスキルの武器がついている。現在俺は装備していないが剣、弓矢、盾を持っているわけだ。

 とはいえ重装備のプレイヤーがいるのは気になる。近くにいた一人に話しかけてみた。


「もしもし、ちょっと話を良いですか」

「なんじゃな」


 民話のお爺さんのような話し方をするプレイヤーだった。


「何でもう鎧を着てるんですか?」

「お前さんはオープン版からのプレイかの」

「はい」


 よくある騎士風の鎧は兜のバイザーが下がっているので顔は分からない。


「ワシ等はβ版からプレイしておっての。持ち込めたのは金だけだったが、チュートリアル中にこの村で買える装備を買えるようになっておったんじゃよ。この鉄の鎧が現在買える一番良い装備なんじゃよ」

「へえ。俺でも買えますか」


 武器はあっても鎧がなくては命が危ない。俺のモットーは命を大事にだ。


「そうさな、三日ぐらい始まりの草原でモンスターを狩れば買えるかもしれないと言うところじゃな。勿論、β版で出てきたモンスターだけという話でだが」


 結構時間も金もかかるようだ。


「ありがとうございます。早速行ってきます」

「頑張れよ」


 話を聞いた俺は早速村を出て草原へ向かった。


 さて、門を出て街道に出る。街道は一本道で左右には石垣を積み重ねている。この石垣の向こう、右側が始まりの草原で左側が初心の砂浜というそうだ。

 街道には普段モンスターは一切出ない。街道は王都につながっていて、β版の時『王都防衛』のイベントで街道にモンスターが溢れたらしい。

 左右のフィールドは村の門の近くに入り口があるものの、別に石垣を乗り越えていっても良いそうだ。

 それでは、初めての戦闘だ。俺は武器の練習も兼ねて始まりの平原に入っていった。


 草原に風が吹き渡る。ひょろっとした木が何本かあるだけで後は俺の腰ぐらいの草が生えている。向こうには背よりも高い草が生えていて、そこから動物が出てくるのが見えた。さらに向こうには断崖絶壁が見える。別エリアの境界線かなんかだろう。


 俺は最初の説明は大まかな所を読むが後は随時分からない時に攻略本を読んだりするタイプなので、始まりの草原と初心の砂浜については読んできた。

 それぞれ共通事項としてまず出てくるモンスターは昼夜で違って合計6種類。自分から攻撃はしてこないが攻撃するとやり返すノンアクティブモンスターだそうだ。ただしβ版とオープン版は違う事が多いので今回は半分あてにならない。


 パッと見、現在目に入る動物は羊、牛、鶏だ。おかしい、このゲームは6種類がベースと聞いていたのに3種類しかいない。同じフィールドでも崖の上とかで違いがあるのだろう。そして初めて見たモンスターの見た目はというと、普通の動物と形はほぼ一緒だった。ここが初心者用の訓練を兼ねたような狩場だからだろうか。

 羊は毛が白くふわふわだ。ああいうのは冬に布団に使いたい気分になる。羽毛布団でも良いが、家鴨はいないので鶏の羽になるか。

 そして鶏は何故か他の動物よりも目が鋭い。何か全体的に鋭い印象を受けた。デザートイーグルとかいう名前持ちが居るんではなかろうか。羊や牛はのんびり草を食べてるのに背筋を伸ばして歩いているせいかもしれない。鶏冠がある物もない物もある。アイテムに差があるかどうかだな。

 牛ものんびり草を食べているが姿かたちがどう見ても乳牛で、白黒のホルスタイン種だ。ホルスタインが敵に出るゲームは初めてだ。俺がやった中では、大体家畜として戦闘には出ないゲームの方が多い。


 早速まず武器を装備してみる。強くウィンドウと念じると目の前に光る画面が現れた。これは他人には見えないつくりらしい。

 だからもし一人で笑ってる奴がいてもおかしくない。と、思いたい。

 装備の所を選択して剣、盾、弓を装備する。光と同時に腰に剣が、左手に盾が、背中に弓矢が装備された。


「おお」


 剣を抜いてみる。当たり前だが重くない。格好つけて居合抜きをやろうとした。失敗して引っかかる。


「やっぱり刀じゃないと無理か」


 ≪剣≫のセンスを上げていくと≪刀≫のセンスに進化するらしい。一段階余計にかかるから使う人は少ないらしいが俺はどうしようか。

 先の事なので気にしない事にする。


 次に弓を構える。弓道をやっている訳ではないので恰好は見よう見まね。矢を放ってみる。システムアシストがあっても見事に外れた。


「ふっ俺の射撃能力が悪いのは先刻ご承知よ」


 そう呟いて≪命中≫のセンスを発動。さらに最初から覚えるスキル『目標固定』を選択しそこから狙いをつけた岩に向かって打つ。見事命中。


「ふう、何とか弓矢は出来そうだ」


 かつてゲームセンターの射撃ゲームでワースト一位を取った腕は伊達ではない。じゃあなんで弟は俺を射撃に任命したのかと言えば恐らく魔術で大規模攻撃でもさせようというところだろう。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという。


「で、魔術はどうやって使えばいいんだ」


 最初の武器の説明では杖は棍棒やメイスにするらしい。魔術師は何かのセンスでも使うのだろうか。そこを調べるのを忘れていた。


「仕方ない。先に弓と剣を鍛えよう」


 ゲームによっては矢が有料の場合があるが、このゲームでは基礎の武器、この場合初期装備の弓の矢は無制限で出てくる形式だ。ただし、矢尻もついていない木の矢なので威力はほとんどない。

 初心者の装備は何か新しい同系統の装備、例えば剣なら普通の青銅の剣をゲットして装備すると初心者の剣は消えてなくなる。


「普通にやっていれば熟練度+20でスキルが出るそうだからそれまでやるとしよう」


 俺はモンスターを探し始めた。岩に昇って探してみるがモンスターの種類が分かる訳はない。どれがどれやら分からない。


「まず普通に探すか」


 慣れない事をするよりは先に基本を鍛えた方が良いと思った俺は草原を歩き出した。


 目の前に羊がいる。のんきに草を食べているがこれも立派なモンスターである。早速倒そうと剣を取り出して思いっきり首目がけて振る。

 ふわふわの羊毛で弾かれた。それと同時に羊が鼻息荒くこっちを見ると突進してくる。


「おの~っ」


 悲鳴を上げて俺は吹っ飛ばされた。

 初めての死に戻りでした。


「う~ん」


 目を覚ます、という言うか目を開けると初めに来た広場でした、と。


「そうか、死ぬとここに来るんだな」


 しかしここにいるのは俺しかいない。


「ゲームをやっている奴らは皆王都に行ったのかな?すると俺も行った方が良いのかな?」


 少し考えたもののやめておくことにした。慣れない人間が行っても仕方ない。


「まさか羊にやられるとは思わなかったしな」


 鎧も着てない状況ではどうにもならないという事が判明した。布の服じゃあ防御力もしれている。


「確かデスペナルティと言うやつでゲーム時間6時間ぐらい戦闘は出来ないんだな」


 ためしに武器を抜いてみようとすると武器が現れない。センスも使えない。


「まあ仕方ない。情報収取するか」


 俺はRPGの基本、村人からの聞き込みをすることにした。


「ビギの草原には、羊、鶏、牛がでるんだなや」

「ビギの草原では薬草が取れるところがあるんだなや」

「ビギの草原には、驢馬、家鴨が出るんだなや」


 と、俺が適当な村人と会話を聞いていく。ここで初めて始まりの草原がビギの草原という名前なのが分かった。


「夜と昼で出る奴が違うと言ってたからそれだろうかな」


 今は太陽がてっぺんにある。6種類のモンスターの情報を貰って俺は考え込んだ。

 ネットでβ版での傾向を見て覚えている限りでは、始まりの草原では武器、防具の強化につながる6種類がいたと言うので変わってないと思える。


「ビギの浜辺では海星が空を飛んでるだ」

「ビギの浜辺では飛魚が飛んでるだ」

「ビギの浜辺では貝がうまいだ」

「何じゃそりゃ」


 別のNPCに話しかけると訳の分からない事を言って来た。魚は海にいる物ではなかろうか。それに貝、食えるのか。

 ネットで見た情報では初心の砂浜は状態異常や群れとの戦いなどになれるための方向らしい。

 始まりと言い初心と言い名前からして素人用の訓練場なんだなあ。使っている人をあんまり見ないが。


「おいお前さん」

「うん?」


 俺がデスペナルティの時間切れを待ちつつ考えていると話しかけられた。鉄の鎧を着ているからβ版プレイヤーだ。


「俺ですか」

「そうそう。お前さんは今から王都に行くのかい?」

「いや、しばらく始まりの草原とかでスキル上げをしようと思ってます」


 俺の言葉を聞くと目の前の男は顔を大きく歪めて笑った。


「それは良い。頼みたい事があるんだけど、いいかい。礼はするよ。俺はMC(エムシー)ってんだ」

「話を聞いて、俺に出来る事なら。俺はナントです」


 MCという男はどこからか本を取り出した。


「俺はモンスターの図鑑を集めるのが趣味でね。とりあえず始まりの草原と初心の砂浜のモンスターは12種類集め終わったんだ」

「はあ」


 俺が頷くと目の前に本を広げて見せる。


「この通り何だが、新しいモンスターがいるかもしれない。そうなったら教えて欲しいんだ」

「ああ、それならいいですよ」

「そうかい。ありがとう。お礼に何か、短剣一本くらいなら上げるよ」

「いや、そういうのは。あ、それなら図鑑見せてもらえますか。調べてる最中何で」


 ただ見つけたのを教えるだけというのは心苦しい。この時点なら図鑑でも見せてもらって大丈夫だろうと思いついて言ってみる。


「ほう。図鑑に興味があるのかね。まだまだ未完成だがどうぞ」


 完成しているページだろう始まりの草原、初心の砂浜と書かれているページを見せてくれた。ただし間がない。そこに何らかのモンスターが入るのは確実なようだ。


「何々、あのヒツジはボウシープ。弓の素材が取れる羊か。攻撃は体当たり、上位のフィールドでは毛を矢の様に飛ばしてくる」


 モンスターは住んでいるフィールドによって同じ名前でも強さが違うというのは掲示板で見た。しかしまだ初心者の草原と名前の付いているビギの草原程度では体当たりが主な攻撃方法の様だ。

 簡単に目を通して本を返す。モンスターは見ただけで付属のモンスター図鑑に絵柄が浮かび、倒すか、他の人から見せてもらうと図鑑に掲載される形だ。俺のステータスウィンドウのモンスター図鑑項目に今見たモンスターが加わった。


「それで、見つけたとしてどうやって教えればいいんですか?」

「フレンド登録してくれればそれでいいよ。まあすぐに連絡を返せるとは思えないけどね」


 弟以外で初めてのフレンドである。連絡を返さないとはどういう意味かと聞くと、とにかく沢山のプレイヤーに顔を見せておいて情報を集めるという事らしい。俺はまだ初めの方でやってるから空いているページを埋めるのに丁度好さそうというのだ。


「俺は王都に帰るから、何か出たらよろしく」

 

 光になって消えたMCさんにあっけにとられた。どういう能力を使ったんだろう。


「王都に帰るという事はもう一回王都に行って、そこを拠点としてるんだな」


 さすがにβ版からやってる人は違う。俺も頑張って鉄の鎧を買わないとな。それに何か集めるのを目標にするのは良いかもしれない。

 俺は大体モンスター図鑑があるならそれをフルコンプ、もしくは特定の武器の派生のフルコンプを目指しているのが目安だった。今回は何をしようかと思っていたが何かのフルコンプになるのは確かだ。モンスターをあのMCさんがやってるなら俺は別のにしようと考えて、開始時間を待とうかと思った。


 じっとしているのは性に合わない。という事で待とうと思っただけで終わってしまった。現在いるのはビギの草原である。モンスターはノンアクティブだから見ているだけなら大丈夫だという訳で、観察する事にした。

 まずは現在いるのは羊ことボウシープ、弓の材料が取れる。

 鶏ことソードクック、剣の材料が取れる。

 槍の材料が取れるスピアホルス。

 材料と動物が一致しないような気もするがあっているような気もする。正確には生産職は材料を使って武器防具を作れるのだが戦闘職は作れないので肉を狩る事が多いようだ。

 防具の方は羊から布製品の毛が、鶏から羽が、牛から牛骨が取れる。いや牛の骨だから牛骨が取れるのは当たり前だろうなどと、そんなことを考えていると急に暗くなってきた。同時にモンスターたちの姿が薄くなっていく。


「何だこりゃ」


 モンスターのポップとか変換とか言われている物を初めて目の前で見た。モンスターが一斉に種類が代わっていく。同じところでなく別の場所に現れるのはぶつからないようにするためなのか。どちらにしろ見た事のないモンスターが目の前に現れた。


「昼と夜じゃあなかったのか」


 現在VR内時刻は真夜中の0時である。午前と午後でモンスターの種類が代わるようだ。

 現れた新しいモンスターは、まずは驢馬ことクラブドンキー、棍棒の材料が取れる。幅は狭い骨なので牛の骨が胴鎧に使われるならばこちらは手甲に使われるとネットに乗っていた。しかし驢馬でも乳牛でも取れるのは一種類の素材ではないので一動物で一つのフル装備を作ろうと思えば作れる。

 投げナイフの材料になる家鴨、スローイングズ・ダック。

 魔術師用の短杖の材料になるワンドツリー。

 夜のせいか動物はもそもそと口を動かしても寝ているようだった。

 なかなか珍しい物が見れたと感動していると武器が腰と背中と手に現れる。ペナルティが解けたらしい。


「じゃあ早速もう一回行ってみるか」


 動きが鈍そうな驢馬に狙いを定めてみる。しかし今度はうまく狙いをつける事すらできなかった。


「何でだ。あ、もしかして夜の能力がいるのか?」


 何とかの目、と書いてあったセンスには暗闇透視という能力があるというものがあった。でも居場所は分かるが今のプレイヤースキルの腕では目でも見ないと分からない。


「しょうがない、今日は諦めて出直そう」


 俺は武器を仕舞うと草原を出て行った。



Name:ナント

戦闘スキル:≪剣≫≪弓≫≪盾≫≪隠蔽≫≪峻脚≫≪魔術≫

予備スキル:≪火才能≫≪水才能≫≪土才能≫≪風才能≫≪命中≫≪方向感覚≫

生産スキル:≪修復≫≪採取≫≪合成≫≪鍛冶≫≪細工≫≪サバイバル≫


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