12戻ってきました
「すいませーん。村長さんはいますか」
「なんだ小僧、儂に何か用か」
ビギの村の村長に負けず劣らず武闘派というか、いかにも元漁師、というキャラが現れた。
「村長さんですか。俺は、ナントと言います。ビギの村の宿屋さんから塩を買うように言われてきたんです。これがお金と紹介状」
「おう、お使いか。俺はアクスという。「初心者の初心者」なんて称号もちには丁度いいな」
この称号どうにか出来ないのか。
「よし、ついてこい。それにしても何かあったのか?この値段で行くといつもは樽一つの所を3つは買う様だが」
「ああ、俺みたいなのが肉をこぞって持ち込んで、干物にでもしないと保存がきついようです」
「そうか、ここにはまだ来んからな。そういえば、お主のような初心者が何故うちの村に来た?お使いとはいえもうすぐ定期便が出るから急がなくてもいいはずだが」
え、そうだったのか。
「きっと、俺も塩を欲しがってるから買ってくるようにという事じゃないかと」
「成程な空旅人は不思議な鞄を持っているからな」
アイテム収納能力の事だろうか。
「それなら樽で買えるだろう、ほら、合わせて四樽。持って行け」
「ちょっと待って、俺は今現在金がないから買えないですよ」
「何だ、文無しが塩をどうやって買おうと言うんだ」
「いえ、肉を持ってるのでここの雑貨屋で売ろうかと」
「何!?」
何故そんなに目を光らせるんだ村長さん。
「何の肉だ?」
「え、始まりの草原で取れた肉全種類をそれなりの量持ってる…」
「すべて買う。出せ」
「ちょっと待て、何故俺に詰め寄って来るの」
それまで無愛想だった村長がいきなり胸倉掴んで俺を揺さぶってきた。
「落ち着いてください」
思わず突き飛ばしてしまった。転げた村長が頭をなでながら立ち上がる。
「いやすまん。俺は元はビギの村出身でな。肉を食って育ったんだが、ここは魚はあっても肉はない。自分で食いに行っていた若い頃はともかく、最近旅人が来なくなったので肉が全く回ってこなくなったんだ」
「はあ」
「助けると思って肉をくれんか」
「良いですが、いくら分ぐらいですか?」
「あるだけ買う。全部だ」
「一種類につき、普通の肉が50個はありますが」
俺の分を残して切りの良い数を出すことにする。
「う、それは流石に多いか?、いや、塩を現品払いでやれば何とか」
肉の相場がどれくらいか知らないが、六種類の肉×50個は流石に多いようだ。
「じゃあ雑貨屋にも持っていく分もありますから、雑貨屋でまとめて買ってもらって、後は相談して分けるという事では」
塩は欲しいが、一樽もいらない。というかただで作り方を聞ける様子じゃなくなった。仕方ない装備をどうにかしたいので現金が欲しい。
「そうか、それならそうしよう。早速行くとするか」
村長がすぐさま扉を開けて連れて行こうと俺の腕を引っ張る。
「痛い痛い、歩くから引っ張らないで下さい」
何でこういう目に合うのか。雑貨屋まで走らされた。急ぎ過ぎだろう、逃げる訳でもないのに。
「それじゃあ、一種類につき150デンで」
「合計は、45000デン…」
高っWikiである値段は最初の段階の肉の値段なので一つ10デンだ。やっぱりあれか、初心者用の称号が効いているのか、それとも物流の都合で足りない所に持っていくからか。
「あ、塩を欲しいので一樽分引いて下さい」
「はい、一樽だと、10000デンです」
塩も高い。樽で買うからかな。
「じゃあ、はい。これで」
貰った金がステータスに明記されている。現実世界では現金派だけどもここでは計算が面倒なのでこの方式になりそうだ。
「どうじゃ?肉は?」
「結構いいやつですから、ステーキは今日明日販売して、最低半分は干しますよ」
雑貨屋の女将さんとアクス村長は何か相談している。
「それでは早速干してきます」
「すいません、俺も手伝っていいですか?」
俺は二人の会話に入り込んでみた。干し肉の作り方を知っておけばあとで自分で作れるから丁度いい。
「手伝ってくれるんですか?」
「正確には教えて欲しいんです」
雑貨屋の女将さんに頼み込んで、干し肉作りを手伝えるようになった。一緒にまだ持ってる俺の肉も干し肉にする事にする。
「頑張れよ、出来がよかったら売ってくれ」
そんな事を言って村長が帰ると、俺は女将さんに連れられて雑貨屋の裏に来た。
「まあそんなに難しい事はないんですけどね。まず肉を塩水漬ける。一日たったら塩を抜くために水につけて、適当な大きさに切る。日の当たらない、風通しのいい場所で陰干しにする。これだけです」
確かに干し肉と言えばそんなもんだった。現代は塩水でなくて調味料だし、薄切りで早く乾くようにしている。
「そこで、手早く済ませる為に魔術を使います」
こんな所でファンタジーが発動するとは。思えば魔法を初めて見る。
「料理魔術『浸透』」
初めて聞く名前の魔法だった。この世界の魔法はファイア・アローとかウィンド・カッターとかそんな名前だとWikiに載っていたんだが。NPC専用魔法だろうか。
「初めて聞いた魔法ですが、代々伝わる秘伝魔法とかですか」
俺の言葉に逆に驚いたように女将さんがこっちを見る。
「いやいやそんな凄い物じゃないですよ、誰でも使える料理魔術です」
何だそれ。詳しい説明を希望する。なんでもセンスに≪料理≫と≪魔術才能≫がある人が一定以上上げると新しいセンスが発動する。それがこの≪料理魔術≫だそうだ。
センスは合成されるような場合もあるのは知っていた。≪火才能≫と≪魔術才能≫で≪火魔術≫になると言うのは基礎的な事だから。しかしある意味全く関係ない≪料理≫でそれが起こるのは知らなかった。
いや、俺みたいな初心者が知らないだけでWikiにも上げない秘密の部分で使ってるんだろう。または言わなくても勝手に起こるのか。
「はい、どんどん運んでください」
自分で売った物だけれど量が多かった。肉はホルスの肉なんかは大きな塊なもんだから抱えるだけはある。
「そういえば、塩抜きは真水なんですか?」
「え、そうですが何か」
別にそれがどうという事はない。
「薄い塩水を使うといいと聞いたことがあるので、ここなら海も近いしやってみても良いですか」
「へえ、そんな事が。どうぞやってみてください」
肉を外に運び終えたのでためしに某少年料理人の漫画で見た知識を使ってみる。
早速たらいに水を入れて塩水を作る。それに塩漬けした肉を入れて
「浸透」
女将さんに魔術をかけてもらう。
「へえ、これはこれは」
「どうしました」
「いえ、『料理人の眼』というスキルで味の様子を見る事が出来るんですが、肉の味が落ちていないのに塩が出ています」
「つまり?」
「肉の味が濃い物になりそうです。これは良い事を教えてもらった」
ああ、こっちの世界の人が知らない知識があるんだなと思った。これで一種の知識チートやる人も満足だろうな。俺はやらないが。今はとにかく王都と飯と宿屋だ。
味を確かめる意味もあって半分を塩水で、半分を真水で干し肉を作ることになった。ついでに俺の肉もどちらが良いのか試す意味で同じように分けてもらう。
水につけて浸透の術をかけてもらい、ある程度の大きさにに切ると干す。
「それでは、『乾燥』」
乾かすのも一瞬、魔術が機械の役割を果たす世界なんだよな。大量の干し肉があっという間にできた。
「ありがとうございます」
「こちらも助かりました」
干し肉を倉庫に収めると俺のステータスウィンドが開く。いきなりだったので驚いた。
『イベント:初心者のためのセンス獲得04クリアーしました
センス≪料理≫が選択肢に入りました。有効化しますか?』
何か変な物が発動した。干し肉作りって料理に数えられるのか。初心者の為、というならもしかするとビギの村でやるのが普通なのかもしれない。というかビギの村の村長に
せっかく開けてあるスペースに入れる訳にもいかないので有効化はしない。というか俺は料理をする気がないのでセンスストックの肥やしだな。
女将さんにお礼を言って俺は村を離れる事にする。ついでに俺の分のを少し女将さんの作った干し肉と交換してもらった。味の違いを確かめてみよう。さて塩を手に入れたし、しばらくはビギの草原で肉を狩って弓を次の段階まで上げてから王都に行こう。
目標を決める俺の前に、アクス村長が現れた。
「おう、もう帰るのか」
「はい、お使いですから、個人的な用をしてしまったし、急がないと」
何だか面倒事を押し付けられそうな予感がしたのでさりげなく断ってみる。
「ビギの村に行くなら丁度いい。俺の孫で、ビギ村の村長の孫のこの子を送り届けてくれないか。流石に一人で返すのは不安でな」
後ろから出てきた孫というのは来たときに変な事を言っていた少女だった。
「ジュリアよ、よろしく」
「まだ受けるとも何とも言ってないんですが」
「何、旅は道ずれ世は情けというだろう。どうせ歩いてそんなにかかる訳もないし、頼むな」
強引に押し付けられた。護衛なんてやったことないから、どうやったらいいんだろう。
じっとジュリアという少女を見ていたら逆に睨み返された。
「何気持ちの悪い目でこっちを見ているの。さっさと行きましょ」
本当にさっさと歩きだした少女を一人で行かせる訳にもいかないので、俺は村長に挨拶して後を追った。
てくてくと歩いてビギの村まで進む。目の前には村長の娘であるジュリアちゃんが同じように歩いている。何で護衛任務なんか受けないといけないのかと思いつつ、受けた以上は無事に届けなければならない。
そういえばこの前酒場でジュリアちゃんを嫁にと言っていた酒飲みがいたな。ロリコンはこの世界にもいるのか。
一本道なので迷いようがない。
俺はリゴブリンが出たらどうやって逃げるかを考えていた。子供とはいえもう大きいので担いで逃げる事が出来るほど俺の現実の力は強くない。スキルも他人を抱えて発動するのかどうか疑問だ。
来るときはスキルを発動して急いできたのでよく見なかった景色を見つつのんびり進む。
「ちょっと、遅いわよ」
「え、何が?」
「あんたが歩くのが遅いと言ってるの。こんなんじゃ日が暮れるわ」
ゆっくり歩いていたのは否定しない。子供の歩幅に合わせるとどうしてもゆっくり行くか小さく動くかになってしまう。
「すまないけど、ゆっくり、注意して歩いてくれないかな。察知するようなセンスを持っていないんだ」
リゴブリンが出てくると、かばいながら戦うなんてやった事ないので死んでしまう。この子だけは無事に届けなければいけないし、難しい物だ。
「ん?」
「あっ」
こういうのをフラグが立ったと言うのか、リゴブリンが待ち伏せしているのが見える。
「ちょっと、どうするのよ。あんなにいるわよ」
6匹だから最初に遭遇した数と変わりない。
「よし、あいつらがどこかに行くまで待つとしよう」
「何でそんな事をしなくちゃいけないの。あんた空旅人でしょ。さっさと行って倒してきて」
俺は降参のように両手を上げる。
「無理。さっきもリゴブリンに殺されかけたのに」
正確にはその前に逃げたんだが。
「情けない。ならあたしがやるわ!」
「え、ちょっと」
捕まえようと手を伸ばしたものの、俺の手は空を切る。多少とはいえ敏捷性には振ってあるはずだが。
「覚悟しなさい!」
どこから出したのかナイフを振り上げてジュリアがリゴブリンに突進していく。
「ああいうのを無茶無謀っていうんだよ」
どう見てもリゴブリンがジュリアに攻撃するまでの時間には間に合わない。≪逃げ足≫センスのなかからスキルを使おうと思ったがさっきの今で便利な技が湧いてくるわけはな。
「ボアストレート!」
吹き飛ばす意味を含めて、スキルを実行。これしかジュリアに追いつく方法がない。
「きゃっ。え?」
あっさりとリゴブリンに攻撃を防がれて反撃を受けようとしたジュリアの前のリゴブリンに突撃する。
「ぐっ」
リゴブリンを突き飛ばしてビリヤードの球のようにジュリアの前に現れる。しかしリゴブリンの剣が刺さってしまった。
「無傷は無理だったか」
別に気にしてはいない。このくらいの傷だとなんか戦闘らしくてハイな気分になる。
「ラビットジャンプ!」
ジュリアを抱えて一気に距離を取る。あ、他人と一緒の場合どうなるのか考えるのを忘れていた。
幸運にも俺一人だけ逃げ出すという事はなく、抱えたジュリアもすっぽ抜けなかった。
「さて、どうやれば倒せるか」
これがイベントなら、リゴブリン達はあそこに居続けるだろう。さっき一体吹き飛ばして気絶したらしく動かないリゴブリン1体に残り5体。突撃してきた俺を警戒してか剣を構えだした。
「とりあえず勝たないといけない訳だ」
戦闘力が少ないので武器を全部使う方向性で攻撃を開始。まずはいつも通り弓、盾、剣を取り出す。
「面倒だ。一気にやろう」
取り出した初心者の矢は最大一度の戦闘で最大もてる10本。スキル『目標固定』を発動した後狙いをつけずに上に向かってまとめて放つ。
今、始めて『目標固定』のスキルって凄いんだなと思いました。
上にあげた物は下に落ちていくだけである。余程の名人でない限り適当に射った矢が必ず命中すると言う事はない。目標固定の能力で弱点に当たるかどうかはともかくどこかに当たる訳なので適当に射っただけで全弾命中。そして、今回は高い所から落とす勢いが加わっていつもよりも威力はある。
結果、リゴブリンの5匹に矢が刺さって結構なダメージを与えました。
倒れていた1体と、5体のうちの2体が急所に当たったか大ダメージを受けたかで消滅した。しかも杖を持っている事から幸運な事に魔術師のようだ。ダメージを負っている残り3体に、俺は剣を抜いた。単純なHPなら俺の方が上、そして武器は初心者の剣と錆びた剣は一緒。つまり数が減れば何とかなるはず。
問題は合計HPも似たような物だから本当にギリギリだ。
「ほら、これ持って」
「え、何よ盾なんてどうして私に」
「いや死んだらいけないだろう」
ジュリアに盾を渡して、俺は剣を相手に垂直に、腰に構え、突撃した。
なんでも見ておくものだ。昔の渡世人の戦闘シーンでこういう攻撃をしていた。これは外さないで絶対に相手に刺さるように体ごと突っ込む戦法らしい。命知らずな一人一殺殺法というやつだ。今回は外さない事を第一に防御はHPに任せて突撃する。
「ギュヘッ」
「痛っ」
リゴブリン一体を倒した。代わりにすぐ横の一体に刺されたが、まだHPはある。もう一度突撃。2体目撃破。今度は攻撃を貰わなかったのでHPは十分だ。3体目は必ず倒せる。
「ギュギュッ」
剣を振りあげてくるリゴブリンに向かって突撃。方に剣が食い込んだが体のド真ん中を貫いて、戦闘が終わった。
「大丈夫なの!?」
ジュリアが声をかけてきた。ああ、喉が渇いた腹が減った。空腹システムでスタミナは肉を食えば戻るが渇きという言う異常はないので水は持っていない。他人はポーションを使う様だ。しかし、戦闘を終えた今精神的に無性に水が飲みたい。今度から用意しようアイテムドロップのインフォも聞く気がない。
「ジュリア、このあたりに水飲み場はないか?」
「水?水が欲しいのね、ちょっと待ってなさい」
「いやまた敵が出てくると困るから一緒に行くよ」
知っている場所に走って行こうとしたジュリアを止める。ゆっくりと体を動かして異常がないことを確かめると、ジュリアに案内を頼む。
「こっちよ」
道を外れてるけどこれは新フィールドなのか?いや、マップには「セカへの道」から変化していない。含まれる場所に存在するようだ。そんなに遠くないだろう。
道の両側にある少し高い所を越えるとあった。
頭から突っ込んで冷たさと潤いを補充。その後ゆっくりと水をすくって飲む。
「あ~、うまい」
「そう?普通の水じゃない」
戦闘の後の水はうまい。激しく運動した後はむしろスポーツドリンクでもそうだが濃い味の物はきつい。
「海に近い村の事を知ってるんだから水が大事な物なのは分かるだろうに」
「まあね」
素直になった。さっきまでの急いでいると言うか焦っていると言うかな雰囲気が消えている。まあ俺もしばらく動きたくないので丁度いい。
「そういえばさっきジュリアって呼び捨てにしたでしょう」
「嫌だったら謝るよ。ごめんなさい」
こういう事で嫌われたくはない。
「良いわ。許してあげる」
何か偉そうな娘さんだ。
「ところで、空旅人って人間じゃないって本当?」
この世界ではそうなるんだろうな。
「人間ではあるな。違うのは戦闘で死なない、というか女神に生き返らせてもらっていると言うか」
そんなことがホームページに書いてあった。
「何で生き返らせてもらえるの?」
「何かの役目を持っていて、その役目が終わるまで死なないようにされてるんだよ。寿命で死ぬけれど」
意外と好奇心旺盛な少女だったジュリアは俺に応えられない事を含めて色々と質問してくる。俺の情報源はホームページとWikiだけ。
「案外知らないのね」
「いや、まだ魔術の使い方知らないのに魔術の方程式を聞かれても困る」
ジュリアは魔術に興味あるようだ。
「センスなら少しくらい分からないの?」
「今覚えている物すら分からないな」
無垢な視線が胸をえぐる。帰ったらまずスキルの確認をしよう。
「ジュリアは取りたいセンスでもあるのか?」
「私?私は将来魔術師になりたいからそっち系ね。無詠唱で攻撃出来たらかっこいいけど」
無詠唱というセンスがあるのか、スキルがあるのか。しかしそれなら俺でも武器を持たない状態で使えるから出来そうだ。覚えておこう。
休憩時間はおしゃべりだけで済んでしまった。楽しかった。体力は十分回復したし、さて戻ろうか。 幸か不幸かその後まったく敵は出ずにビギの村までついた。そしてボロボロの俺とジュリアを見て門番さんが慌てて村長を呼びに行く。
「どうしたのかな」
俺は暢気にそんな事を言っていたが、アラン村長が親戚であろうアクス村長と同じぐらい凄い勢いで走ってきた。
「ジュリア、一体どうしたんだ」
「別になんでもないわよ」
物凄い勢いで孫を揺さぶっている村長の肩を俺は叩いて注意を引く。
「すいません。アクス村長から護衛を頼まれて彼女を送り届けたんですが、もういいですか?」
「うん?お主はボロボロじゃが、一体どうしたんじゃ?」
今まで気づいてなかったのか。ジュリアを両手でつかんだまま村長がこっちを向いた。
「単に途中でリゴブリンに襲われただけです。それで、あくまでも帰るついでに送ってきたわけなので、俺は雑貨屋さんに用を果たしに行きたいんですが、良いですか?」
「何と。ありがとう。しかしそれならせめて傷の手当てを」
「大丈夫です。商品引き渡しの仕事なので先に渡してきます」
多分アイコンタクトだと思うが、助けを求めるようなジュリアの眼が俺を見ていたが、爺孫間のスキンシップを邪魔してはいけない。俺は二人から離れて雑貨屋に進んだ。同時にインフォが鳴る。
『イベント:初心者のための職業イベント01クリアーしました。
称号:戦士見習いを取得しました。』
何か称号を貰った。しかし、初心者という部分がひっかかるな。戦士というのは戦い方だろう。職業は戦い方で周囲の反応から決定するそうだ。俺は魔術師か狩人が目標だったんだが、今回の戦い方は間違ってもその二つではないのは分かる。
これはジュリアを送る護衛イベントを成功させたせいか?依頼で職業的な称号が手に入るって本当なんだな。
さらに結論、塩の樽3樽を納品するとこういったインフォがありました。
『イベント:初心者のための職業イベント05クリアーしました
称号:行商人見習いを得ました。
600デンを報酬として貰いました』
リゴブリンとは護衛して闘って戦士の称号を、そして今回は恐らく人から人への金銭と商品のやり取りがあった結果ついた称号だろうと考える。塩を買うのを頼まれて、買ってきたという行動がきっかけだろう。あちらでも肉を売って塩を買ったのにつかなかったのはなんでだろう。いつか誰かが検証するだろう。
この調子でいくと、魔術師は魔術で護衛任務か討伐任務を実行すればもらえるかな。
「ちょっと」
「あれ、ジュリア。どうしたのそんなに息を切らせて」
「あのね、お爺ちゃんは自分が馬鹿力なの自覚してないから、いっつも逃げるのは大変なの!助けてくれても良かったじゃない!」
ああそうなのか。セカの村の村長の姿も合わせて考えると、もしかして村長は腕っぷしで決めてるのかもしれない。
「ところであんた、これからどうするの?」
「まずは王都に行ってセンスをどうこうした後、ビギの平原と砂浜で訓練かな」
ようやくお金がたまったので早速行くとする。でも今日はもうログアウトして明日にしようか。疲れた。
「じゃあさ、お爺ちゃんがお礼に何か上げるって言うから、貰ってから行きなさいよ」
「何を貰えるかによるな。じゃあ」
「え、もう行くの?」
「疲れたから、どこかで寝るよ」
初心者用フィールドならモンスターは襲ってこない。プレイヤーキラーなら襲ってきそうな気もするが、木の上で寝たら大丈夫と思う。
「ならうちに泊まっていきなさいよ。部屋はあるから」
「分かった。分かった引っ張らないで」
何故かジュリアは俺を引っ張っていこうとする。祖父に似て怪力なんじゃないだろうか。
「ここが私の家よ。入って。お爺ちゃん、連れて来たわよ」
当たり前だが村で一番大きい家がジュリアの、というか村長の家だった。
「おう、来たか。お主にお礼の品を渡そうと思ってな。何が良いかの」
村長はテーブルに道具を並べだす。
「すいません、良いですか。そこまで大したことはやってないのでお礼は良いです。出来れば、また物置なんかに泊めてもらえるとありがたいんですが」
イベントだったのにもらうのは何か悪い。これがポーションとかならいいんだが、テーブルの上には剣や盾や水晶球という今の俺のレベルの物じゃないだろうという物ばかりだ。
実際は、せっかく生産系もやる予定なので自分製の武器で初めてを固めてみたいだけなんだけども。すぐに人が作ったものに切り替えるとは思うけれど最初ぐらいは、という気持ちなだけだ。
「欲がないな。しかし、お礼はちゃんと受けてもらわないといかん」
「じゃあ、もうしばらく物置を貸してもらえますか?一度王都でセンスの整理をした後、ビギの草原や砂浜で訓練する予定なので寝起きする場所が欲しかったんです」
何とか落としどころを持ってきてみよう。
「ふむ、それでいいならいいが、流石に物置はまずい。客間が開いているので帰って来てから一週間、部屋を貸すと言うのはどうじゃろう」
「十分です、有難い」
早速案内してもらい、泊めてもらう(ログアウト)する事にする。
「それではまた明日」
挨拶して、ログアウトする。護衛任務は初めてだったので充実感はあるな。




