112鍛冶は間違っている?
「兄ちゃんは何を熱心に調べているんだ」
「何って、鍛冶の仕方」
「鍛冶をできるようになったのか?」
「なってないな」
俺の言葉に本を読んでいた弟が顔を上げた。
「何をしたいのか相変わらず分からないな」
「何って、鍛冶をして一本ぐらい剣を打ってみようというだけの話だぞ」
「生産職になる訳じゃあないんだろ」
「ならないというか、俺程度じゃなれないだろうな。全体的にゲームやってる人のログイン状況よりも俺は短いログインしかしてないと思うし」
廃人と呼ばれている弟に合わせる気はない。
「俺も廃人とは呼ばれるほどじゃない。ああいうのはこのゲームで言うと黄金騎士団か、あれがそれっぽい集まりだな」
弟がそうなら俺はエンジョイ勢の中でもかなり少ないログイン状況なような気がする。
「俺はエンジョイ勢というやつだと思っている」
「それは間違いない。でもなんにでも手を出すのは初心者によくあることだぞ」
俺は初心者だから間違ってはいない。
「兄ちゃんの場合は慎重と回りくどいのが混ざってるからな。才能系の熟練度は全部+99まで上げたんだろ」
「この前てイベントで手に入った≪精神才能≫はまだそこまで行ってないから鍛えている所だ。全部の才能系が+99になったらセンスを上位に移そうと思う」
「それを回りくどいというんだ。というか、鍛冶って要は攻撃力を上げるためだろう確か」
「その通り」
「鍛冶で上がるのは間違いじゃないけど、それ以前に鍛冶を打つところまでに攻撃力が必要だぞ」
「何だその矛盾」
もしかして鍛冶を打つのは難しいのだろうか。
「要は、鍛冶を打つと一言で言っても鉄を打つなら鉄の防御力みたいなものを超える攻撃力を持たなければ鍛冶として剣の形に変えたりできない。そのための必要最低限の攻撃力とかがある訳だ。それを魔術とか道具とかで補っているのが普通の鍛冶だな。上質な素材ほどこの防御力は高いから鍛冶を続けてそういった金属を叩いていれば必然的に攻撃力が上がる」
思ったよりも鍛冶は難しそうだった。そして勘違いをしていたことに気付いた。
「つまり、金属の防御力みたいな物を超えるために攻撃力に判定が入るから続けてやっていると攻撃力が上がるだけだと。じゃあ実際には攻撃を鍛えるためには戦い続けた方がいいという話か?」
俺の勘違いを修正して弟に聞いてみる。
「いや、攻撃を鍛えるためには戦闘を続けてもどうにもならんな。そういうのはやっぱり武器の強化やクエストで上昇系センスをとるか特殊な薬でも飲んで上がったという限定クエストを探してやるかというのがいいんだろうな」
そういうクエストがあるのか。
「兄ちゃんケチだから上昇系センスも神殿では買わないだろう」
「失礼な、今は金があるから買う必要があるなら買うぞ。必要ないと思っているだけで」
自分でもセンスを取りすぎな気がするので控えているというだけだ。
「それじゃあ俺のようなセンスの取り方をしている人間は普通どんなセンス構成にするんだ」
「そうだな、兄ちゃんが魔術師と仮定すると普通は戦闘センスとしては才能系を3つ、詠唱に必要な杖とかのセンスが一つ、魔力拡大なんかの威力上昇系センスを一つ、防御か速度かの守りに必要なものが一つという感じだな」
「俺魔術師かどうかは決めてないぞ」
弓を使うかもしれない。
「それでまだ決めてないのが問題の一つだろう」
「それは自覚してる」
魔術の爽快感というのは好きだが、同時に魔力が切れると何もできないというのは駄目だと思ってしまう。
「兄ちゃんが慎重なのがいいのか悪いのか」
弟は肩をすくめる。
「まあ鍛冶は半分お前のギルドができるまでの暇つぶしというか趣味だから、おいおいやっていく程度だよ」
「それを信じたいがな~」
弟は信用していない。気持ちは分かる。どうも俺は変なクエストでNPCに引っ張られているからそっち方面に何があるか分からない。
「話を変えよう。何か面白い話はないか」
「自分で話しといて」
俺の話だとよくある事なので弟も慣れている。
「先に聞いておくが兄ちゃんに面白い話はないのか」
俺の面白い話、特にないな。
「特にないな。王都に行って鍛冶をやろうとしているだけだし、小人族の村を歩き回ってるだけだし」
「小人族の村で鍛冶をやろうとしているように聞こえるぞ。何があった」
「そうか?鍛冶は普通に王都で人間の大きさでやる予定だぞ」
「じゃあ小人族の部分はなんなんだ」
「小人族の一人と観光旅行みたいなものをすることになってな。まあレンジまでだけど。それで今、王都で観光をしているんだ」
「王都に小人族がいたのか」
「いたよ。ええっと、今回はまず神殿にある村でプリンを食べて、今度図書館にあるという村へ行く予定だ」
図書館の村は楽しみだ。
「村ってたくさんあるのか」
「どうも逃げるのにそう大きな規模の町とかは作れないから小さい村を複数作っている感じだな。神殿には屋根裏と床下の2カ所に村がある」
図書館の村は本の種類ごとに分かれて10カ所ぐらいあると嬉しい。
「逃げること前提の村か。小人族ってどういう立ち位置なんだ」
「知らん。前が神様のお告げで逃げたわけだから、当分大規模発表しない方針なんじゃないか.
そうそう、お前に言うまでもないが、正式発表までは黙っておいてくれよ」
「今更だけど、孫んあ事だろうと思ったから周りには言ってない」
交流する準備みたいな事を言っていたから交流しないわけでもないだろう。
「そういえば、小人虹鉱が硬貨の代わりに使われていたな。希少だから硬貨代わりに使ってるみたいな話をしていた」
「それが今回一番重要だよ。鉱山の村とか話はないのか」
「王都に鉱山の村はないと思うがな」
王都には村が施設ごとにありそうな気がするから、そこを巡るだけでも大変だろう。
「どうにかしてサンプルを手に入れて、兄ちゃんは目立つのが嫌なんだったらそのサンプルを誰か有名なプレイヤーの商人とか鍛冶屋とかに持ち込んでくれ。そうじゃなければ兄ちゃんが鑑定系のセンスを取って調べるんだ。性質がどういうものか知りたい」
「もらえるかな?上の肉と交換しようと思ったら出来なかったしな」
「そりゃ上の肉なんてある意味どこでも手に入るからな」
弟とは言っている意味がおそらく違うと思うが別に手に入らないのは変わらないので話を続ける。
「まあやってみる。それで、お前の面白い話はなんだ」
「面白い話ね、そうだな、兄ちゃん、この前公式インフォで第二都市インディとかいう場所が解放されたのは知っているか?」
「知ってる。偽王国騎士団さんも頑張ったよな」
王都にあるのは確実と言われていたのに何処か分からなかったハイドルートを見つけたんだから大変だったろう。
「あれで見つかった第二都市インディは地下にある街でな、地下都市とかいうあだ名がもう出ている訳だけど、そのダンジョンが見事にアンデット系メインなんだ」
「お前がそういうということはドラゴンゾンビでも出たか」
ゾンビ系は匂いがきついというのがVRゲームでのお約束だ。
「いやドラゴンゾンビは出なかった。ゾンビ系は人気が低いから、出さないゲームもあるくらいだし」
バイオハザード系だと常連だから普通に出ているな。
「いや、インディの六大ダンジョンには必ずアンデット系のモンスターが出てくるし、ゾンビ系のランダムダンジョンは見つかっているから将来は分からないけどもスケルトンなんかが多いいな」
「ほー」
スケルトンが多いのか、ボーンドラゴンかドラゴンスケルトンが出たようだ。
「ドラゴンスケルトンはきついな」
「いやドラゴンスケルトンは出ない。白骨塔ってダンジョンでボーン・ゴーレムが出る」
ゴーレムか。
「骨のゴーレムは脆いのか強いのかで別れると思うんだが、お前が面白いというと強いんだな」
プレイヤーが面白いというのはゲームとして面白いので大体強いと相場が決まっている。
「強さはバラバラだ。その時の材料で強さが変わる。人間の骨だとそこまで強くない」
「材料がドラゴンの骨の時があるんだな」
「そう。それが分かってから何度か王都に行く時はついでに地下都市によって攻略することにしている」
「ドラゴンボーン・ゴーレムって、俺にはきついぞ」
「そこは兄ちゃんに期待してない。骨素材しか手に入らないし、そこまで必要なタイプじゃないから」
「ドラゴンの骨は重要なアイテムだと思ったけど違うのか」
「必要だし重要なのは変わらないけどな、必要量を採ると後は革とか鱗とかが必要になる。それなら最初からそういう部分が採れるドラゴンをランダムダンジョンで見つけて狩りに行った方がいいだろう」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
骨が採れなかった時の予備ぐらいの扱いか。まあ確実に採れるわけでもないようだしそんなもんなんだろう。
「ところで行ったことがない場所というと、サズの村とフォウの村というのも俺は行ったことがないわけだが、お前は行ったことあるか?」
「ないな」
「ないのか」
「初心者フィールドに当たる場所に今頃行くわけないだろう」
「ドラゴンは出なかったんだな」
「そう、出なかった。特殊な薬草が必要になるとかでもない限り、まず行かない場所だな」
弟の言葉に俺はどうしようかと悩む。
「まあクエストが全部発見されたわけでもないだろうし、兄ちゃんが行くのは自由だよ、兄ちゃんに必要かどうかは知らんけど」
「必要ね、体力を鍛えるために農作業しようかと思っていたけど、どうだろう」
「農作業やるくらいならって言いたいが、兄ちゃんだからな。何かしでかしてその都合で農業をやりそうな気はする」
どういう意味だろう。
「しでかすというのは違うんじゃないか?」
「クエストを引き起こしそうな気がすると言ったらいいか?」
「別に知り合いでもないから早々クエストに巻き込まれるとは思わないな」
サズの村長とかとも別に顔見知りでもないから、何か言われることはないだろう。
「まあ満足したらレンジに来てくれ、登録しないといけないから」
「分かってるよ」
弟はそれだけ言って本を読むのに戻った。
「ところでそれは俺がまだ読んでいない俺の本だと思うんだが、なんで読んでいる」
「そこに本があったから」
「別に読むのは構わないけど一番に読むのは俺だといってるだろうが」
弟が読んでいる本を取り返すために俺は立ち上がった。




