11新しい場所です
現実7日目、物置の天井を見ながら起きる。早速、肉屋はないので雑貨屋へ肉の買い取りを求めに行く。
さて結構取れたがいくらぐらいで売れるだろうか。
「何だと、買えないってのはどういう意味だ」
聞いたことのない声が村に響く。何か騒動が起こったのか?
「だから、村で消費する以上の肉を持ってこられても困るんだよ。朝からひっき
りなしに肉を売りに来る人たちがいるんで、うちはもう金もないぐらいだよ」
そうなのか、それじゃあ俺の分の肉も売っても金にならないのか。仕方ないか
ら王都の方へ行こうか。王都ならまだ買ってくれるところがあるかもしれない。
「ふざけんな。NPCはルール通り品物を出してりゃいいんだよ」
流石に大声を出していかにもな声を上げだしたので何となくそのプレイヤー達を見ていた。プレイヤーはNPCを「キル」出来るのか?まあ流石にそうなったら止めようか、というぐらいの考えで。
「何見てんだよ」
矛先がこっちに来てしまった。半分はNPCの親父さんに用があるので待ってますよ、というスタンスでいたんだが、やっぱり人目があると気になるんだろう。
「いや、別に、その親父さんに用があるから待ってるだけで、気にせずどうぞ」
本当に気にしないで欲しい。殺気を浴びると言うのは怖くて気分が悪い。
「さすがにここではプレイヤーはキル出来ないよ。もう行こう」
仲間が止めた。PKは出来る使用になってるからな、このゲーム。一度でもやるとPKとしての人生になると言う訳でもなく、PKした相手との間に『復讐の絆』という名前の一人対一人型の称号モドキが付くぐらいだ。
称号モドキと呼ぶのはそれぞれが出会った場合にだけ発動し、戦闘するかしないかを尋ねてくる。そして戦闘すると答えると被害者側にプラスに働く形で付加が付き、再び戦うという物だ。勝負を一回でもして負けた場合称号モドキを維持するかどうか尋ねてくる。そして否定すると消えてしまうのだ。
実際はレベルの高いPKプレイヤーには返り討ちにあったとも聞くのでPKプレイヤーにはやりやすい環境だと思う。
「おう、あんたか。助かったよ」
「いや、助けたんじゃなくて見てただけです」
「何にしろ助かった。で、俺に何か用かい?」
さっきの今で言いにくいな。少し言い方を変えるか。
「俺は実は一晩どこかに泊りたかったんですが、金がないので現金というか、一泊分の肉で」
「ううん、さっきの連中に肉いらないって言っちまったからな」
雑貨屋の親父さんは頭をかいて向こうを見る。
「よし、こうしよう。うちの物置は人が増えた時には部屋として使うから、そこに泊めてやる。助けてくれた礼もあるから無料で。ただし料理とかは出ないぞ」
「ありがとうございます。でもそれなら村長の所の物置に泊めてもらってますから」
物置に泊めるのはデフォルトなんだろうか。食事もとりたかったが仕方ない。金を稼ぐという事に変な妨害でも入ってるんじゃなかろうか。
アイテムは宿屋では整理することが出来る。宿屋がなくてどこかでできないかと情報を探していたら安全な泊まる場所でなら出来るという事なので早速やってみよう。
ステータスウィンドウを開き、アイテム欄を開く。さっきまでとの違いはアイテム欄が30枠だけではないという事と何か種類が最低倍に増えている。
「ええと、何々。」
所持アイテム:『獲得アイテム:ワンドツリーの実
ワンドツリーの葉
ワンドツリーの幹
ドンキーの革
ドンキーの骨
ホルスの乳
ホルスの肉
ホルスの骨
シープの毛
シープの肉
シープの骨
ダックの羽毛
ダックの肉
ダックの骨
クックの羽毛
クックの嘴
クックの肉
クックの骨 』
全く変わらなかった。
「何故だ」
流石に分からない。後で調べよう。薬草の方は分かった。取れたのは合計31本。一か所でしか薬草は取れなかったが何かよく分からない草なら他の場所でも取れた。
『激辛草
ピリッと辛い草。体が熱くなる。一本食べると悶絶するだろう』
『痛毒消し草
一部の毒を消す能力を持つ。』
『体薬草
体力回復の能力を持つ』
『吐き草
食べると吐き気がする』
『苦々草
苦い。しかしその苦味がいかにも効きそうな気になるが、薬草的な効果はない』
何だこれ。ダジャレが酷過ぎる。そして味付けに使いそうなものが多い。あれか、料理に使えという事か。でも一番とれている激辛草の辛さは俺は苦手だ。ピリッと辛い辛さは最近味という分類から外れたようだし、やっぱり辛さだけでは食べづらいんだろう。代わりに日本の旨味の味が味として仲間入りしたとかなんとか。ちなみに苦手なだけで担担麺などが食べられないわけでもないんですよ。
≪サバイバル≫が使える事で初期の≪採取≫の能力が現れる。≪サバイバル≫のセンス、よく見れば最初から覚えるスキルに『初期判別』という能力があった。これが肉にも使えればいいのに。
さらにセンスの整理は出来ないか試したが物置のせいか出来ない。金を貯めるまで出来ないか。とにかくアイテムだ。俺はログアウトしてから解決方法を探すことにする。
休憩のログアウト中に調べてみると、モンスタードロップ品の内細骨とか広骨とかいう分類をするためには≪解体≫のセンスを持っていないと出来ないという事が分かった。取らないといけない物が多すぎる。
「ま、いっか」
重要なのはこれからどうするかという事だ。別に急ぐ話でもなし、急ぐのは弓をどうにか鍛える事だろう。それはそれとして。
「やっぱり塩と胡椒が必要だ」
料理のセンスを取る気はないが流石に味なしの料理は辛い。もしかすると辛いのはどうにかなるかもしれないが調味料は普通にあった方がいい。
「それでは目的も決まったし行きますか」
ログインして表に出ると、雑貨屋のスミスさんに会いに行く。
「おう、どうした?」
「聞きたい事がありまして。肉料理に使う塩なんかはどこで出に入れているんですか?」
まずは塩から行こう。
「おや、欲しいのか」
「はい。昨日何もかけないで食べて失敗しました」
「馬鹿だな、アンタ。流石称号持ちか」
いや称号とは関係ないと思うんだけども、話をすすめよう。
「それで、塩なんですが」
「ああ、丁度いい。何だったらアンタ、俺の分も買ってきてくれないか」
「買ってくると言うと、どこでです?」
王都ならついでがあって楽なんだが。
「ああ、この村のあっち、王都の反対だな。その道をたどっていくと海辺の村がある。そこで買ってるんだ。さらに向こうに行けば交易の港町があるから香辛料も買えるが、そこまで行くと逆に異国の塩しかないから高くてな」
あっち側にも町があったのか。Wikiに載ってない所を見ると新規かな。
「良いですよ。ただ、俺は塩の良し悪しなんて分からないんですが」
「普通に買う分にはどうという事はないさ。分からなかったらあっちの村長に言えばいい」
そして金と紹介状を預かって雑貨屋の出入り口から出ようとして思いつく。村を一周してみた時には門は草原側の一か所しかなかった。
「すいません、海側に出る門はどこなんですか?」
振り返って雑貨屋さんに聞いた。
「ああ、よその人には分かりにくいか。あっちに倉庫があるだろう。あれは通り抜けが出来てな。その向こう側にある」
基本倉庫自体に入れないので、おそらく新しいフィールドの境なんだろう。お礼を言って今度こそ塩を求めに旅立つ。金に余分があるならば香辛料を買うために大きな町に行きたいけれど、まだ金がない状況だ。あちらの村で肉は売れるだろうか。
倉庫自体はあっさりと見つかった。
「すいませーん」
扉を叩きながら誰かいないか声をかける。しばらく待つが、誰も出てこなかった。
「すいません、海側の街に行きたいんですが、倉庫はどうやったら開けられますか?」
「倉庫?出入り自由だから入って大丈夫だよ」
近くを通ったおばちゃんに聞けばそんな返答。
「では失礼します」
扉を開けると暗い。しかし何故か向こう側の方には扉が見え、そこは解放されて光が見えた。
「倉庫と言っていたけど荷物がないな」
周囲は暗くて見えにくいが予想していた小麦袋が山のように積んであると言う風ではなく、空だ。
「さて、塩を貰いに行きましょか」
光をくぐって、俺は恐らく誰も足を踏み入れた事がないだろう新フィールドへ入った。
「うおーっ来たぞーっ」
なんとなく、おそらくイベントではない初めてのフィールドという事に興奮して大声でどなってみる。村だからイベント限定ということはないはずだ。
「初めての土地で興奮するのは良いがほどほどにな」
うおう。頭上から声をかけられた。上を見ると倉庫は上はベランダ、または物見台になっていて村の兵士が笑っていた。
物凄く気まずくなったので見えなくなるまでダッシュ。≪逃げ足≫の熟練度が上がってしまった。
思ったより道は長いらしい。この世界の世界地図から行くと、海に行く最短の道は南にまっすぐ行く方向になる。王都からまっすぐ東西南に行くといつかは海に着くので普通のプレイヤーは水の都ブリュに向かう様だ。
目的地ははっきりしているので他人のお金を預かっている事もあってまっすぐ進む。
しかしやっぱり妨害があるのがゲームである所以か。敵遭遇のBGMと共に道の両側から敵モンスターが飛び出してきた。
伊達に何度も死に戻りしていた訳ではない。音がなると同時に取りあえず目の前に盾を構えて剣を抜く。
「ゴブリン?という事は普通に戦うしかないんだな」
ノンアクティブなモンスターでないという事はよく分かる。合計5匹がこちらに錆びた剣や木の棒を持って威嚇を繰り返しているのだから。
「犬と同じで行けるか?」
盾を前に構えて守りを固めつつ攻撃することにする。
ゴブリンの攻撃!盾で防げた。盾で押しつぶそう様な形でうまくゴブリンを倒したがすぐ別のゴブリンが襲い掛かって来たので手を引き上げる。
ガキンッ
間に合って相手の棍棒が盾の端に当たってそれた。しかし、やっぱり犬より大きいので戦うのが大変だ。
「うわっと」
背後に行かれそうになったので剣を振るう。ダガードックにリンチにされた記憶が新しい。これはまずいな。何しろ初心者装備なままな上、鎧系のセンスは取ってないからな。盾で防ぎつつ1匹は倒す。
結果から言うと、何とか全部倒した。盾を構えつつ相手を殴るように地面に倒し、脚と盾で抑えて剣で切る。この繰り返しだ。犬と違って最後の1匹になっても逃げなかったので全部倒したが、俺は弱いと思われていたのか?強い相手には寄って来ないらしいしな。
そして得たアイテムがこちら
『リゴブリンの耳
リゴブリンの耳。冒険者ギルドでは討伐証拠としてお金を貰える』
『錆びた剣
リゴブリンが使っていた剣。錆びていて切れ味はほぼない』
ゴブリンなのは間違いなかったがリの部分は何だろう。というか耳が討伐証拠なのか。ファンタジーだな。
そしてこの剣。錆びているのに攻撃力は俺が使ってる初心者の剣と同じというのはどういう意味だ。ここで装備すると初心者の剣が使えなくなるのでアイテムボックスから出さずにおく。出すと、剣を持ったという事になって初心者の剣は消えるそうだ。
それなりに道を進んだと思うが、この戦闘でHPは半分だ。このお使いクエストが終わったら王都に行かないと、いよいよまずい。弱いのは仕方ないから装備でなんとかしないといけない。
そこはプレイヤースキルでなんとかするもんだろうと弟に言われそうだが、それはそんな才能がある人間である。身体測定が全国平均とほぼ同じ人間に言われても困る。
足を進めていくとまたゴブリンと遭遇。ここは出やすいんだろうか。
また同じように盾を構えて守りを固めた。さっきの一団との違いは特にない。しかし今回は後ろの方にいたゴブリンが何か杖を振り上げているその目の前に炎が生まれた。
「魔術師かっ」
火の玉が浮かび、俺に向かってきた。
「うおっつ」
盾を火の玉にぶつけるように防ぐ。爆発する振動と火花を盾の裏から感じて、とにかく守りに徹する。
何とかまた1匹倒したところ、また火の玉が飛んできた。しかもカーブをして後ろに回って。
「ふぐっ」
魔法ってこんなコントロール効くのか。頭の片隅で考えながら大部分ではどうやって立戦えばいいのかという気持ちでいっぱいだ。現在出てきたゴブリン中2匹は倒した。残りは3匹、しかしそのうちの一匹は魔術師。HPはレッドゾーン。これはまた死に戻ってしまう。
そこまで考えて、今はお使いの途中だったことも思い出した。もし死に戻りしたらこのお金も半分になるのだろうか。そして現在無一文の俺が弁償するには長い事かかる。
そこまで考えた時死ねなくなった。まずは逃げ出そう。盾で守りを固めながら≪逃げ足≫センスを開いてスキルを確認する。新しいスキルは2つ。基本が普通戦闘から一定の割合で逃げられる「エスケープダッシュ」そして熟練度が上がったので新しく覚えた「ラビットジャンプ」「ボアストレート」で合計3つだ。
「ボアストレート!」
この技はまっすぐ進む、それだけの技だ。ただし、盾で周りを囲まれるなどの押し込められている場合、その囲みを突破する、と書いてあった。見事に突破してゴブリン達の後ろに回った。このまま本来なら向き直って攻撃に回る事もある技らしいが、俺は逃げるのを優先する。
「ラビットジャンプ!」
足に何か力が満ちたような感じがする。そのまま大きく前に跳ねると、今まで出したことのない記録が出た。まだ足に力があるのでスキップの要領で跳ねて逃げる。
ちらりと後ろを見ると、ゴブリン達は悔しがると言うより呆れたような目をしていたように見えるが、気のせいだろう。
スキルの効果が切れるまで飛び跳ね続けて、目の前に村の門が見えてきた。スキルが切れると、一気に脱力して足に力が入らず脱力する。
「は、は、はーっ」
深呼吸して門にもたれかかる。死なないで良かった。
「おい、アンタ大丈夫かい」
門番の兵士が声をかけてくる。
「ありがとう、大丈夫、ゴブリンに追われただけだから」
「ゴブリン?ゴブリンがこんなところで人間を襲う訳ないじゃろう。リゴブリンの方だな。空旅人はよく間違える」
うん?ゴブリンが人を襲わないでリゴブリンが襲うってどういう意味だ。
「初心者何だな」
何故かここでも言われた。何だ、何か称号が光っているとでも言うんだろうか。
「すいません、聞きたい事があるんですが」
「なんだい?」
俺は兵士に聞いてみる事にした。
「リゴブリンって、ゴブリンと何か違うんですか?」
兵士は驚いたような顔をする。
「何だ、知らないのかい。ゴブリンは妖精、リゴブリンは魔法生物だ」
何だそれ。魔術生物というとスライムとかホムンクルスとかがそういう立ち位置なはずだけども。
話から行くと、この世界のモンスターの内、他のゲームで亜人となっているような存在、この場合はゴブリンだが、それは普通に人間と交流して暮らしているという事だ。じゃあ襲ってきたのは何かというと、さかのぼる事数千年前、古代にあった超魔法帝国が作り上げた作業用の魔法生物が国が滅びた後に野生化、自然繁殖しているようだ。わざと知性は低く作ってあるので特定の魔術を使ったらコントロールできるとか。
出てきたのは人間かと言われると首を傾げる面相だったが、ゴブリンの方は有名小説でいうホビットとかハーフリンクの扱いらしい。
「成程、すると普通のゴブリンと戦ってはいけない訳ですか」
「いや盗賊や暗殺者がいるからそれは人間と変わらない。悪事を働けば逮捕だ」
リザードマンやトロールもこの扱いだ。
「それから、称号の事なんですが」
初心者初心者と言われてこちらとしても面倒くさい。
「ああ、門を担当する兵士や、村長なんかの警備に関わる人はセンスで見る事が出来る」
称号を隠す人もいるはずなんだが、それはどうなんだろう。
「これは安全に関係するから、隠していてもこちらは見る事が出来る。能力は見えないで、あくまで称号がね」
するとPKやるプレイヤーは不便だな。それを隠すセンスもあるかもしれないが。
それだけ聞けば十分だ。
「それで、今回来た目的は何だ?」
衛兵お決まりの文句が出てくる。
「はい、塩を買いに来ました」
「そうか、ビギの村から塩を買いに。よし、通って良いぞ」
目的を告げると門番は結構簡単に通してくれた。街じゃなくて村だからそんなに警備が厳しくないのか、称号を見られて判断されたのかは分からない。
「ありがとうございます」
俺はお礼を言ってついにセカの村に入った。
そして俺は今、おそらく誰も入った事のない場所に立っている。物凄く達成感を感じた。我ながら安いな。
「すいません、塩はどこで買えますか?」
近くを歩いていた村人娘に声をかける。
「塩?あっちに海があるから好きなだけ作れば?」
なぬ、作るのか、製造イベントなのか。
「こら、アンタはまたそんな事言って。ごめんね、口の悪い子で」
「え、ああ、いやいや構いませんよ。それで、村長の家を教えてもらいたいんですが」
本気で製造イベントがある訳でもなかった。良かった良かった。取りあえずこの村の村長に金を渡して塩を買うイベントを済ませよう。ただなら俺の分は作るという事で。




