109出てきました
「ねえ空旅人さん、相談に乗ってくれないか?」
「ナントです。それで、相談というのは?」
「空旅人の交換の具合をさ、教えてほしいんだよ」
それは俺に言われても困る。基本金なわけだから。
「小人だけが持っているものというのが交換で一番いいものだと思いますけど」
「そんなものは小人虹鉱くらいしかないな。でもそんなに量があるものじゃあないんだ」
貨幣にするには一定量取れないといけないとかいう決まりはないのか?記念貨幣とかあるしそうでもないか?
「後は機人ですか?彼らの作った道具が人気ですね。どこにいるのか探したいという人もいますし、それなりに希望があるかと」
「ううん、それも難しいな。機人のアイテムは村全体で買うという形のものが多いから、個人で買うのは無理だ。それだけの小人虹鉱を渡して都合しているものだから」
小人虹鉱は貴重な物らしい。
「じゃあもう後は労働で返してもらうことにして、簡単なクエストを受発注する場所を作っておくというくらいしか思い当たりません」
「そうか、労働ね。それで行くしかないか」
店長さんは納得して頷いている。
「ところで、労働で返すにしてもこの上肉の対価はどうしようか。やってほしい事はある?」
ここで話が繋がるのか。
「いえ、全くないですね。ここでは他の村に行く準備をすると言う事ですし。俺はその時の費用の一部に肉を出しただけですから」
実際に俺ぐらい狩りをすれば肉は手に入ると思う。
「将来に小人族に認められた他の空旅人が来たとしてもお客さんみたいに持っているかどうかは分からないんだから、価値があるというんだよ」
鼠の店員が補足説明をしてくれる。
「じゃあ、もう今回は対価はいりませんので、この肉は村に寄付します」
面倒になってきたので話を終わらせようと俺は提案をする。
「え、いいの?」
「はい」
「ありがとう。じゃあ遠慮なくもらっおくよ」
店長が肉をアイテムボックスなのか一瞬でしまい込む。
「こら店長、貰ってばかりじゃ商売の仁義に反するだろうが」
店長より鼠の方が商売人としてしっかりしてるな。
「分かってるよ。ちゃんと次の村に行く時は便宜を図るくらいはするよ」
「というか、俺に相談すること自体がおかしいんだと思いますよ」
なんで俺に相談するような事態になるんだ。ただ売りたかっただけなのに。
「いや、実はな、今回が空旅人に物を売り買いする初めての出来事なんだよ」
え、β版で小人族と出会ってた人はどうしたんだ。
「神から空旅人が売り買いできる状況を整えておくようにと言われたけど、今まで売り買いって形じゃあやってこなかったから今回が初めての売り買いで、半分は問題点の洗い出しをした訳だ」
店員の言葉になんでここの店が壁際にあるのか納得した。急遽こしらえたに違いない。
「ま、今度からは物の売り買いはやめになると思うな。対価を労働で払うようになるに違いないさ」
店長が断言する。俺の言葉だけで決定するというのはそれはそれで面倒そうだ。もうちょっと意見を集約してからにしてほしい。
「他の空旅人に意見を聞かないでいいんですか?」
「他のと言っても、小人族と出会った空旅人は今のところナントだけだからね、その意見は重要だよ」
本当にβ版で小人族と付き合いのあった人は何処に行ったんだ。店長の言葉はともかく俺の買取はどうなるんだろう。
「それで、買い取ってもらえないなら俺の手持ちになる硬貨とかはどうしたらもらえるんでしょうか」
「うん、どうしようか」
「そこは先に手付で手持ちの小人虹鉱くらい払っておけよ」
店長のセリフに店員が突っ込んだ。
「小人虹鉱はできるだけ使わないのが村共通の認識だから、彼にあげてもまた問題が出る。しばらくここにいるんだろう?ここを出発するときに何かあげるよ」
問題の先送りですね。
「それじゃあ今日はこれで、失礼します」
「失礼します」
ユウリが俺の手を引っ張って挨拶したので俺も頭を下げて店を出た。
「残念ね、もうけが出なくて」
「仕方ない。俺もここで働いて小人虹鉱を集めるとしよう」
配達業とか色々と仕事はあるだろう。
「じゃあ今日は宿泊所で寝ましょ」
「寝るのはいいけど、俺は元の姿に戻らないと用が済ませられないから、それを聞いてから一回外に出るよ」
俺の言葉にユウリが少し考える。
「そうなの。じゃあナントが外にいる間私も働いてるから、資金がたまった後ナントが来たら出発しましょ」
「また準備を頼むことになるな。どうもすいません」
「別に良いわよ。でも、結構早く移動できると思うわよ。次行くのは図書館の村だから」
「高速で用を済ませてきます」
宿泊所の前でユウリと別れると、俺は受付へ向かった。
「すいませーん」
「はい、なんでしょう」
「空旅人のナントですが、元の姿に戻って王都の町へ行かないといけないんですが、元の姿に戻れて王都に行ける場所ってどこですか?」
そういえば今回王都の門を通ってないけど王都に入った事になるんだろうか。もしかして外に戻るところまでやらないといけないならひどく時間がかかる。
「分かりました。案内を頼みます。少々お待ちください」
王都の方はどうなるのか分からないが出てみれば分かるか。
「お待たせしました。案内の兵士がいますので、ついて行って下さい」
「ありがとうございます」
受付のカウンターそばにやってきた兵士を案内役として紹介された。
「よろしくお願いします」
「おう、こっちだ」
案内されていくとやっぱり壁の方に向かっている。
「もしかして壁の向こうにある謎の部屋からですか?」
「謎の部屋?いや、壁向こうからいくつか通路を通って人気のない路地に出る道がある。そこに行くんだ」
人気のない路地か。注意しないとテンプレ的には巨大化している所を見られたりするんだな。
兵士さんの案内で着いたのは門だった。鼠の穴ではなく通路がありそうだ。
「ここから好きなところへ行って外に出たらいい」
「ちょっと待ってください。中は迷路になっていませんか?」
門の向こうには三股に分岐している道が見える。迷いそうな道だ。
「安心しろ。どの道を通っても外に出られる」
「逆にここに戻ってきたいときはどうするんですか?」
「それは道を覚えておいて帰ってきてもらうしかないな」
その手の道の覚え方には全く自信がない。どうしようか。
「ついてきて案内を頼むことはお願いできませんか?」
「すまないな、兵士としてこれ以上は進めないことになってるんだ」
これ以上はついてきてもらえないらしい。目印をつけていきたいところだけどチョークとか持ってないしな。
「行かないのか?」
俺が考え込んでいると兵士さんが声をかけてきた。はたから見たら俺が怪しい人物なのはわかる。しかしどうやって目印をつけようか。
「もしかして帰ってこれなさそうなのか?」
俺の悩みを見抜かれた。ここで考え込んでいたらそんなもんだろうという予想もつきやすいか。
「はい。方向音痴なんです」
「成程」
さもあらんという顔をして頷かれた。
「仕方ない、ここを利用するコツを教えてやるよ。通路の角の手のあたる辺りに人によってマークを刻んである。小さなマークだから見落としがちだけど、ハートとかダイヤとかよく見るとそういうマークがある。それを目印にすればいい」
そんなものがあったのか。
「それはいいや。早速使わせてもらいます」
目印があればなんとかなる。そう思って門の中に足を踏み入れる。そうだな、右にしよう。全部の曲がり角を右側の通路で進んだら帰りは逆で何とかなる。後は目印でどこを通ったかを確認だ。
最初の三股に分岐している道の一番右側を選んで先に進む。手の当たる辺りにマークがあるんだな。探してみると、マークかな?〇のマークらしき物があった。小さいので欠けた跡と言われても仕方ない大きさだ。もしかすると本当にかけた跡の様な気もするがまずはマークがあるとして進もう。
とにかく右側の通路に沿って、分かれ道はマークを探してできるだけ少ない曲がり角で進み、しばらくすると光が見えてきた。
「出口だ」
出口は路地裏だった。犯罪者でも屯ってたらどうしようかと思ったけども人はいない。出口は鼠の穴のようになっている。
路地裏と言っても入り組んでいないまっすぐな道なのはここで大きくなったら通りがかった人に見つかってしまう。隠れる場所はないかと探してみれば木箱が奥に置いてあった。その裏に空きがありそうだ。人がいないのを確認して走る。人間大だとそんなにないのに小人サイズだと結構な距離だ。木箱の横の隙間をすり抜けて後ろに行くと何とか人一人が入れそうなスペースがある。少しきついかもしれない。座った姿で銀のスプーンを使って人間の大きさに戻る。ミシっと音を立てて木箱が揺れた。体が壁と木箱に挟まれてきつい。やっぱりきつかったか。
人間の姿に戻って動けないというのも間抜けな姿だ。ゆっくりと体を引き抜いて起き上がる。ふう、きつかった。
路地裏から出ても誰も注目しない。どうやら見られなかったようだ。ここは何処だろう。神殿からそんなに離れてはいないという予想だが、小人の足と人間の足では違うのでどのくらい離れたのかは分からない。まずは神殿を探そう。
神殿はすぐに見つかった。出てきた場所は神殿の裏に当たる場所から家を一軒隔てた路地だった。意外と近いな。
「さてと、用事に行く前に」
木箱をもう少しずらしておこう。中に何が入っているのかは知らないが少しだけ前に出してまた巨大化したときに体が挟まれないようにしておく。はたから見たら怪しい人間のような気もするが仕方ない。別に注目されている訳でもないから大丈夫だろう。




