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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第68話 崖を登るのは

「ドラゴンなら、山の途中まで、連れていってくれる?」

「おお、もちろん。ドラゴンなら、山頂近くだっていけるさ」


 ロッドの質問に、レオドラは自信を持って答えた。しかし、すぐに気づかうようにソニーに笑いかけた。


「ソニーには大変かもな。大人の雄のドラゴンじゃないと、山頂付近は無理かもな」


 そうか、とうなずくロッドとルイスに、レオドラが負けん気を出して力強く言った。


「だけど、途中までなら行けるよな? ソニー!」


 レオドラと同じ気質なのか、ソニーが力強くうなずいた。


「行ってどうするんだ? 王子様が崖登りするところが見たいのか。いいぞ、見せてやる」


 軽く引き受けるレオドラに、ルイスとロッドは喜び、他の者は慌てた。


「王子達、俺と一緒に勇ましいところを、見せてやろう!」


 レオドラの突拍子もない誘いに、しばしブロウとシュヴァルツは硬直していた。


「いや、僕は高いところだけは苦手でね⋯⋯シュヴァルツ君。高いところは平気だったね。それに、普段(むち)を振ってる君なら、腕力があるんじゃないかな?」

「なっ? 腕力だけを頼りに崖を登るなど、アスリートでも難しいのではないか?」

「シュヴァルツ王子、ご無理なさってはなりません。貴方のように、いつでも王子たらんとする真面目な方を、俺は失いたくありません」


 アンドリューが切実な顔で言った。レオドラに対するシュヴァルツの厳しい態度を、アンドリューは尊敬していた。


「僕は失ってもいいのかい?」


 王子のプライドを刺激されたブロウが、アンドリューを横目で見つめながら拗ねたことを言った。


「いや、そんなことは」

「ブロウ様っ、貴方には私がついています!」

「ありがとう、アンドレア君⋯⋯」


 すがる様に言ったアンドレアに、ブロウは微笑んだが、すぐにふたりは違和感に気づいた。レオドラとシュヴァルツとアンドリューも、こんな時に現れないペルタを探した。


 ペルタは少し離れたところで、ルイスに迫られていた。


「ペルたんなら、僕の味方をしてくれるよね?」

「しますけど、ちゃんと降りてくる?」

「崖を登ってなんになる? いっそ、ドラゴンフレイムまで行って、いいんじゃないか?」


 ランサーとロッドも加わって、ひそひそ話をしていた。そんな輪から、アンドリューはルイスを掴み出した。


「ルイス! こっちに来い。間違った道に行くな!」


 アンドリューはルイスをシュバルツの前に出した。


「こうなったら、シュヴァルツ王子だけが頼りです。ルイスを導いてください」


 崖登りで、と言いたげなアンドリューに、シュヴァルツは言葉を失った。


「素晴らしい、ロッドにも見せてやってください」


 ランサーがニコニコと拍手をした。レオドラがシュヴァルツに笑いかけた。


「そうだ、シュヴァルツ君なら、怪我をしないじゃないか? 安心して見ていられるな!」

「かすり傷なら負うのだぞ。手が傷だらけになりそうだな」


 シュヴァルツは手のひらを見たが、ルイスとロッドに視線を移して、諦めたように目を閉じた。


「そんなことも、言っていられないようだな⋯⋯」


 覚悟を決めたようなシュヴァルツに、ペルタとアンドレアが不安な顔を見合わせた。


「こんな時、傷を治せる力があったらと、いつも思います」


 うつ向くアンドレアにシュヴァルツは視線を向けた。


「やっぱり、私は傷を治す力を、奇石に願います⋯⋯シュヴァルツ様のためなら」


 奇石に手を当てて微笑むペルタに、シュヴァルツは衝撃を受けて、本気か見極めるようにペルタを見つめた。


「おいおい、俺も崖を登るんだぞ? 俺の手も傷だらけになるぞ?」

「えっ?」


 両手を見せてアピールするレオドラに、ペルタは素早く顔を向けた。


「僕のためには、願ってくれないのかい?」

「えっ?」


 若干意地悪な笑顔を見せるブロウにも、ペルタは顔を向けた。


「私は、私は⋯⋯全ての王子様のために⋯⋯」

「ペルたん! また、シュヴァルツさんのことを逃がしてしまったよ?」


 ルイスの厳しい視線に、ペルタはヒッと悲鳴をあげた。


「普段からフラフラしてるからだ、いい加減自重しろ!」


 アンドリューもここぞとばかりに叱りつけた。


「フンッ、王子様に引っ張りだこなんて、嬉しい悲鳴だわ!」

「開き直るな!」


 そんな移り気なペルタを見て、シュヴァルツは密かに笑った。もはや笑って許すことができた。


「本当に、治癒(ちゆ)者になるの?」

「そうね、王子様が怪我をするなんて嫌だけど、もしもの時のためにね⋯⋯!」


 アンドレアの念押しに、ペルタは覚悟の顔で答えた。


「話は決まったか?」


 王のごとく(わら)束に座って、成り行きを見ていたタリスマンが聞いた。見た目には貫禄があり、人の目を惹きつける男だった。


 一同は静かにうなずき、タリスマンは悠然と立ち上がった。


「行こうではないか」


 馬小屋を出ると、すっかり日が暮れていた。


 紫と黒のコントラストが美しい空を一同は見つめた。山頂付近はすでに暗闇に包まれているのが想像できた。


「またにしようか⋯⋯」


 一同がブロウの提案にうなずく中、ルイスはひとり慌てた。


「えっ、そんな!」


 ルイスは思わず、ソニーの首にすがりついた。


「酷いです! こんなに期待させておいて! 大人は嘘つきだ!」


 なだめる一同を、ロッドも厳しい顔で見つめていた。


「ルイス、崖は危険だわ。私は、貴方を連れていきたくない」

「えっ?」


 優しくも力強い声の主、ソニーをルイスは見つめ、思いきり抱きついた。


「ソニー! しゃべってくれたんだね!」


 ソニーの言葉で、あっさりと諦めた上、機嫌も直したルイスに、一同は脱力した。そして、ペルタとアンドリューはひそひそと話した。


「早いとこ、ドラゴンを見つけなきゃね」

「そうだな、いざという時の、唯一の存在のようだ」

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