第6.5話 王子様はどこ?
ペルタは凶悪な顔をして奇石に手を当てた。
男が逃げていくのはこのせいだ。
瞬時に悟ったルイスはフアンと共に後ずさった。
「アンドリュー、貴方のせいよ。世界中の男共に命を狙われるがいいわ!」
「先に狙われるのは、お前だ」
「⋯⋯守ってよぉ。魔女になんかなりたくないよ。王子様!」
ペルタはフアンに、チラッと視線を向けた。
フアンは微笑みながら、ペルタとの距離を一気に縮めた。
「可哀想に。また傷を負ってしまったね。私がしばらく、こうしていよう」
フアンはペルタを包み込むように、肩を抱いた。
ルイスは目を離せなかった。真似しようにも胸と手足が震えるのを感じた。心の準備がまだまだだなと思った。
「元気出してください⋯⋯ペルたんさん」
ルイスには、これが精一杯だった。
「ペルたんさん。優しいのね、ルイス君」
ペルタは優しい笑顔を見せた。
「ペルたんさんは、どうして、勇者になったんですか? 守られたいのでは?」
ペルタは目を閉じて、後ろで手を組んだ。
「私には、オトギの国の入口で親に捨てられた、悲しい過去があるのです」
「すみません」
ルイスが思わず謝ると、ペルタは微笑みを浮かべて首を横に振った。
「そんな人は星の数ほどいます。だから、気にしない」
「そんなに?」
ルイスは両親の顔と平和な日々を思い出し、言葉を失った。
「そう。私も孤独なままオトギの国に来たの。王子様と結婚したくて」
ペルタは悲しげに瞳をふせた。
「だけど、王子様と会う前に戦いに巻き込まれたの。見た目も気も強いから、どこに行っても女の子扱いされなかった。そこで、ペルたんって可愛いあだ名を考えたのに誰も呼んでくれないし……」
せっかく、カッコいいのに。
可愛さアピールのために迷走してしまったんだな……
ルイスはかける言葉がなかった。
「可愛い、お姫様どころか。孤独な冒険の日々は続き」
ペルタは、あだ名を呼んでくれない者達をキッと見た。
「果ては勇者に! なっていた」
だいぶ目的と違うなと、ルイスは眉をひそめた。
「でも、凄いです。生身で勇者になるなんて」
「あの凄まじい戦いの日々。思い出すと⋯⋯」
ペルタは泣き真似をした。
「怖い。誰か守って」
「すみません、辛い思い出を」
ルイスは後悔の念に襲われた。
嘘泣きでも、女性を泣かせるなんて王子様見習い失格だなと思った。フアンがそんなルイスの肩にそっと手をおいて、寄り添ってくれた。
「気にするな、ルイス。こいつはタフな女だ」
淡々と言うアンドリュー。
ペルタは横目で鋭く見た。
「そう、私はタフな勇者。でもね、ルイス君」
ペルタはルイスに、悲しげな切実な瞳を向けた。
「お姫様になりたくて、オトギの国へ来たの。もうオトギの国を何度さ迷ったかわからない。だけど、めげません! 命続く限り王子様を探します。私だけの王子様を!!」
ルイスは厳かな顔で拍手した。
つられたのかノリなのかフアンもアンドリューもしてくれた。
ペルタはルイスの肩に手をおいた。
「ルイス君。王子様になる人はとても少ないの。来たと思ったら、罰ゲームでとか⋯⋯まぁ、理由はいい、王子様は何人もいてほしい!」
ペルタは深刻な顔を笑顔に変えると言った。
「貴方は希望の星よ! 私の王子様になって!」
「えっ!?」
「間違えた! 素敵な王子様になって!」
「あ、ありがとうございます。頑張ります!」
ルイスは苦笑いしつつも、声援に力強く答えた。
「はぁ、王子様と結婚したい」
ペルタは獲物に狙いをつける様に、フアンを見て目を細めた。
「私は恋人がいるから」
「何年、待たされているおつもり?」
「何年でも」
「⋯⋯私の王子様はどこ?」
ペルタはアンドリューを見た。
「断る」
「はぁ。私の王子様はどこ?」
悲しげにキョロキョロするペルタ。
ルイスはキッパリと言った。
「探しましょう! ペルたんさんの王子様を!」
「ルイス君!」
「旅の途中で、出会えるかもしれないです。僕が協力します!」
ルイスはペルタに強く強く抱き締められた。
「なんて優しいんでしょう。さすが、フアン様の弟子ね! 今すぐ大人になって、私の王子様になって!」
「おい!」
アンドリューが噛みつくように突っ込みをいれた。
「すみません、ペルたんさん。僕にも恋人が」
「なんということ。じゃあ無理ね。私は略奪愛はしません」
ルイスはほっとした。
そんなルイスの肩を抱いて、ペルタがご満悦で道の先を指差した。
「さぁ、王子様を探しに行きましょう!」
「はい!」
ルイスは自分でも驚くほど、威勢のいい返事をした。ほとんど条件反射だった。
「さぁ、行こう。アンドリュー」
ルイスとペルタの後に続くフアンが、木にもたれたままのアンドリューを振り返った。
「ファウストの旅みたいになってるぞ」
「まぁまぁ。私は女性が主役で結構だよ」
涼しい笑顔のフアン。
少し圧され気味にアンドリューはついて行った。