表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/184

第6.5話 王子様はどこ?

 ペルタは凶悪な顔をして奇石に手を当てた。

 男が逃げていくのはこのせいだ。

 瞬時に悟ったルイスはフアンと共に後ずさった。


「アンドリュー、貴方のせいよ。世界中の男共に命を狙われるがいいわ!」

「先に狙われるのは、お前だ」

「⋯⋯守ってよぉ。魔女になんかなりたくないよ。王子様!」


 ペルタはフアンに、チラッと視線を向けた。

 フアンは微笑みながら、ペルタとの距離を一気に縮めた。


「可哀想に。また傷を負ってしまったね。私がしばらく、こうしていよう」


 フアンはペルタを包み込むように、肩を抱いた。


 ルイスは目を離せなかった。真似しようにも胸と手足が震えるのを感じた。心の準備がまだまだだなと思った。


「元気出してください⋯⋯ペルたんさん」


 ルイスには、これが精一杯だった。


「ペルたんさん。優しいのね、ルイス君」


 ペルタは優しい笑顔を見せた。


「ペルたんさんは、どうして、勇者になったんですか?  守られたいのでは?」


 ペルタは目を閉じて、後ろで手を組んだ。


「私には、オトギの国の入口で親に捨てられた、悲しい過去があるのです」

「すみません」


 ルイスが思わず謝ると、ペルタは微笑みを浮かべて首を横に振った。


「そんな人は星の数ほどいます。だから、気にしない」

「そんなに?」


 ルイスは両親の顔と平和な日々を思い出し、言葉を失った。


「そう。私も孤独なままオトギの国に来たの。王子様と結婚したくて」


 ペルタは悲しげに瞳をふせた。


「だけど、王子様と会う前に戦いに巻き込まれたの。見た目も気も強いから、どこに行っても女の子扱いされなかった。そこで、ペルたんって可愛いあだ名を考えたのに誰も呼んでくれないし……」


 せっかく、カッコいいのに。

 可愛さアピールのために迷走してしまったんだな……

 ルイスはかける言葉がなかった。


「可愛い、お姫様どころか。孤独な冒険の日々は続き」


 ペルタは、あだ名を呼んでくれない者達をキッと見た。


「果ては勇者に!  なっていた」


 だいぶ目的と違うなと、ルイスは眉をひそめた。


「でも、凄いです。生身で勇者になるなんて」

「あの凄まじい戦いの日々。思い出すと⋯⋯」


 ペルタは泣き真似をした。


「怖い。誰か守って」

「すみません、辛い思い出を」


 ルイスは後悔の念に襲われた。

 嘘泣きでも、女性を泣かせるなんて王子様見習い失格だなと思った。フアンがそんなルイスの肩にそっと手をおいて、寄り添ってくれた。


「気にするな、ルイス。こいつはタフな女だ」


 淡々と言うアンドリュー。

 ペルタは横目で鋭く見た。


「そう、私はタフな勇者。でもね、ルイス君」


 ペルタはルイスに、悲しげな切実な瞳を向けた。


「お姫様になりたくて、オトギの国へ来たの。もうオトギの国を何度さ迷ったかわからない。だけど、めげません! 命続く限り王子様を探します。私だけの王子様を!!」


 ルイスは厳かな顔で拍手した。

 つられたのかノリなのかフアンもアンドリューもしてくれた。

 ペルタはルイスの肩に手をおいた。


「ルイス君。王子様になる人はとても少ないの。来たと思ったら、罰ゲームでとか⋯⋯まぁ、理由はいい、王子様は何人もいてほしい!」


 ペルタは深刻な顔を笑顔に変えると言った。


「貴方は希望の星よ! 私の王子様になって!」

「えっ!?」

「間違えた! 素敵な王子様になって!」

「あ、ありがとうございます。頑張ります!」


 ルイスは苦笑いしつつも、声援に力強く答えた。


「はぁ、王子様と結婚したい」


 ペルタは獲物に狙いをつける様に、フアンを見て目を細めた。


「私は恋人がいるから」

「何年、待たされているおつもり?」

「何年でも」

「⋯⋯私の王子様はどこ?」


 ペルタはアンドリューを見た。


「断る」

「はぁ。私の王子様はどこ?」


 悲しげにキョロキョロするペルタ。

 ルイスはキッパリと言った。


「探しましょう! ペルたんさんの王子様を!」

「ルイス君!」

「旅の途中で、出会えるかもしれないです。僕が協力します!」


 ルイスはペルタに強く強く抱き締められた。


「なんて優しいんでしょう。さすが、フアン様の弟子ね!  今すぐ大人になって、私の王子様になって!」

「おい!」


 アンドリューが噛みつくように突っ込みをいれた。


「すみません、ペルたんさん。僕にも恋人が」

「なんということ。じゃあ無理ね。私は略奪愛はしません」


 ルイスはほっとした。

 そんなルイスの肩を抱いて、ペルタがご満悦で道の先を指差した。


「さぁ、王子様を探しに行きましょう!」

「はい!」


 ルイスは自分でも驚くほど、威勢のいい返事をした。ほとんど条件反射だった。


「さぁ、行こう。アンドリュー」


 ルイスとペルタの後に続くフアンが、木にもたれたままのアンドリューを振り返った。


「ファウストの旅みたいになってるぞ」

「まぁまぁ。私は女性が主役で結構だよ」


 涼しい笑顔のフアン。

 少し()され気味にアンドリューはついて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ