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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第67話 ドラゴンフレイム

 再びカフェに集まった一同は、日暮れ前に帰ろうかという話になった。


 アンドリューは真っ先に、レオドラを気にした。


「レオドラ王子、おひとりで来たのですか? 城を守っている勇者がいますね? 迎えに来てもらいましょう」

「イヤだよ。勇者に脇を固められると、連行されてる気分になる」


 笑いがもれるなか、アンドリューはため息をついた。


「大丈夫、まっすぐ帰るよ。ドラゴンに乗って来たから」

「ドラゴン!?」


 一同の驚きに、レオドラはイスから落ちそうにのけぞった。


「ど、どうした? ドラゴンがそんなに珍しい⋯⋯珍しいよな!」

「実にいいタイミングだよ。レオドラ君。ルイス君はドラゴンが大好きでね!」


 ブロウは後ろから、ルイスをレオドラの前に押し出した。ニコニコするブロウとルイスに、レオドラも笑顔を返した。


 ルイス一行とレオドラは、ドラゴンを預かってもらっている馬小屋に向かった。


 ドラゴンは珍しく、盗難の危険もあるため、表にはわからないようにしてあった


 馬小屋に向かう道のり、ペルタはシュバルツを見ないようにしながら、アンドレアにすがるように歩いた。


「王子様から与えられる、興奮の後の虚脱(きょだつ)が⋯⋯今回は酷いわ」

「しっかりして、私が引っ張ってあげるっ」


 ルイスとロッドとタリスマン以外の男達は、そんなふたりを、見ないように歩いていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 レオドラのドラゴンは、小型のジルトニラで、馬より少し大きい黒いドラゴンだった。


「いつの間に、ドラゴンに乗るようになったんだい?」


 レオドラと親交のあるブロウが、少し離れた位置からドラゴンを愛でながら聞いた。


「つい最近、やっと乗りこなせるようになったんだ」

「どこで練習したんですか?」


 ルイスは思いきって、ドラゴンを撫でるレオドラの隣まで歩み出て聞いた。


「オトギの国にある、ドラゴンフレイムという町だ」

「やっぱり、ドラゴンフレイムですか! 僕はそこで暮らそうと思っているんです!」

「おお! いいところだぞ、あそこは!」


 レオドラとルイスの様子に、一同、特にアンドリューとペルタは不安げな視線を交わした。このふたりなら、このままドラゴンに乗って、ドラゴンフレイムへ飛んで行ってもおかしくなかった。


「レオドラ王子、ドラゴンフレイムの話は、またの機会にお願いできますか? ルイスは今、王子修行の真っ最中ですから」


 アンドリューがレオドラとルイスの間に割って入った。


「そうか、わかった。あそこはここから遠いからな。俺の城からなら近いぞっ」

「それは、嬉しいですね⋯⋯」


 喜んで良いのか悪いのか判断できずに、アンドリューは苦笑いで答えた。


 アンドリューとレオドラのやりとりを余所(よそ)に、ルイスの興味は目の前のドラゴンに移っていた。ルイスはドラゴンの、ルビーのような目に笑いかけた。


「可愛いね。僕はルイス。君の名前を教えてくれないかな?」


 アンドリューはくらくらして、心配そうに近寄ってきたペルタの肩に掴まった。


「おい、ルイスがドラゴンを口説(くど)いてるぞ、どうしたらいい?」

「そんな目で見ちゃダメ! これが、ルイス君の幸せ⋯⋯見届けましょう」


 一同が見守るなか、レオドラがルイスに加わった。


「よく(めす)だってわかったな」

「はい、首の飾りが雄と違いますから」

「雄も見せてやりたいが、(おす)とはまだ仲良くなれてないんだ」

「やっぱり、雄は難しいですか」

「男同士だからだろうか。雌なら、ルイスはすぐに乗せてもらえるかもな。初対面でこんなに近寄れるんだから」


 レオドラに誉められたが、ルイスは悲しげに笑った。


「でも、しゃべってくれません⋯⋯」

「照れてるのさ」


 ルイスまで照れた様子を見て、一同は困惑した。


「名前はソニー。ドラゴンフレイムで出会ったんだ」

「ソニー、綺麗な名前だね⋯⋯」


 ルイスはうっとりと、ドラゴンと見つめ合った。


「ルイスは、ドラゴンと結婚する気か? しないよな?」


 動かなくなったルイスを見て、ロッドは最初はからかうように笑ったが、最後は怪しむように言った。


「ドラゴンと王子がひとつになるか。まさに伝説的な神秘さだな⋯⋯」


 タリスマンは自分でもなにを言っているのかわからなくなって、首をかしげた。

 シュヴァルツは(あご)に指を当てて、なにを言うべきか考えたが答えは出ず、眉を寄せて苦悩した。


「みんな、そんな顔しないで、ルイス君の幸せなのっ」


 ペルタは気を奮い立たせて、必死の顔で言った。


「ルイスは確か、ドラゴンに変身できる王子になりたいとか、言っていたな」


 アンドリューの言葉に、一同はさらに動揺した。


 予想外の話の流れに、ブロウは(ひたい)を片手でおさえた。アンドレアは頬に手を当ててぼう然とした。


「幸せ⋯⋯幸せ⋯⋯」


 ペルタはもはや壊れたロボットだった。アンドリューは必死にペルタの肩を揺さぶった。


「ドラゴンになるなら、結婚も問題ないんじゃないか?」

「そうですね⋯⋯愛は人それぞれ」


 ランサーとブロウが落ち着いて言い合うところへ、ルイスは一同に向かって冷静に口を開いた。


「みなさん。僕はドラゴンと結婚したりしませんよ。変な方に話を進めないでください」


 一同はハッと夢から覚めた様な顔をした。


「そうよねっ、さすがにね」

「誰ですか? 変なこと言ったのは?」


 ルイスの詰問に、一同はお互いの顔を見回した。


「この(まぶ)しい男が、なにやら神聖なことを言ったのだ」


 横目でにらむシュヴァルツに、タリスマンは満足そうに笑った。


「我の神聖さが、王子様を(まど)わせたか。しかし、俺は、この少年王子の言葉に惑わされたのだ」


 肩を叩かれたロッドは少し慌て、アンドリューを見た。


「アンドリューさんが、口説いてる、なんて変なこと言うから」

「元凶は俺か。しかし、変ではないぞ。ドラゴンはしゃべれるから、会話次第では大変なことになると思って俺は」

「心配いりません。しゃべってくれませんでしたから」


 ルイスは悲しく話の輪に加わった。


「なんでドラゴンはしゃべれるの?」


 ロッドが全ての元凶と言いたげに、トゲのある言い方をした。そんなロッドに、ルイスはキッと向かい合った。


「ドラゴンだけ、おかしくない?」

「おかしくないよ! ずっと昔から、奇石でドラゴンに変身した人は何人も居たんだ。そんな人とドラゴンの間に生まれた新しいドラゴン、ジルトニラをはじめ、人の血を受け継ぐドラゴン達はしゃべったり、他にも人間のような部分を持っているんだ」

「昔から、ルイスのような奴は、沢山居たんだな」


 レオドラがしみじみ言って、一同はルイスを見つめた。


「ドラゴンに変身したいって、本気か?」


 ロッドの問いかけに、ルイスは考える様に腕を組んだ。


「だって、変身できたらカッコいいからさ。結婚したいとかじゃないよ。王子とセットで、できるかどうか」

「動物博士バルトローさんは、どんな生き物にも変身してるから、王子とドラゴンだけなら簡単にできるんじゃないか?」

「ルイスなら」

「変身願望か。我はわかるぞ」


 乗り気な男達に、ペルタとアンドレアは不安な顔を見合わせた。


「キャロルちゃんが、ビックリすると思うわ。話し合ってから決めて」

「いきなり見せたら、気絶しちゃうかもよ?」


 女達の頼みに、ルイスは笑顔でうなずいた。


「心配いりません。僕がドラゴンになれるとは、まだ思えませんから⋯⋯」

()()、ね⋯⋯」


 遠くを見るルイスを、一同は静かに見つめていた。

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