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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第66話 振り出しに戻る

 広大な聖地で、ルイス一行は思い思いに過ごしていた。


 アンドリュー、ランサー、タリスマン、レオドラは、カフェのテラスで、オトギの国の旅事情を話していた。


 ブロウとアンドレアは、ふたりきりで滝を眺めていた。遠くからふたりを見ていたペルタは、羨ましさを抑えられなくなった。


 そこでペルタは、少し離れたところにひとりでいるシュヴァルツに、狩りをする虎の如く目をつけると、音もなく近寄った。


 花の咲き誇る、美しい聖地の風に髪をなびかせ、シュヴァルツはネクタイをゆるめて、神聖な空気を吸い込んだ。


「素晴らしい景色。美しい花達。地上の楽園だな⋯⋯」


 ペルタが背後に現れ、シュヴァルツはギクリッと固まった。


「もう失楽園か!?」

「フフ、シュバルツ様! お一人ですのね? ご一緒してよろしいですか?」


 ペルタは不敵に微笑みながら、かしこまって聞いた。

 返答につまったシュヴァルツは、少し離れたところにいるロッドとルイスに目配せを送った。ふたりは素早くシュヴァルツの側に来た。


 ほっとするシュヴァルツだったが、ペルタはめげなかった。


「どいてなさい、ふたりとも。王子様を口説ける機会は、あまりに少ない!」


 気高い猛禽類(もうきんるい)のように、キリッとするペルタに、ルイスとロッドはたじろいだ。


「シュヴァルツ様、私の願いを叶えてくださいませんか!」


 シュヴァルツは途端に恐い顔になった。


「俺が女の願いを、今さら聞くと思うか? お前の願いなど、わかっている。ブロウ王子達が羨ましくなったんだろう? フン、懐かしいな。しかし、虚実のワルツなど、俺は二度と踊らん!」


 ルイスとロッドが頭に、はてなマークを出した時、ペルタがシュヴァルツに厳しく言い返した。


「二度とデートしないなんて、許さない!」

「キョジツのワルツ、デートのことか。踊らんは、デートしないってことね」

「なんとなく、わかったよ」

「難解、王子用語初級編ってとこだな」

 

 ルイスとロッドが、ほのぼのと言い合う間も、シュヴァルツとペルタは火花が散るような目で見つめ合った。


「女の命令など聞かぬ。それに、やはりお前はただ、他人の幸せが羨ましいだけに過ぎない!」

「ち、ちが⋯⋯そうです! 羨ましいっ。私もデートしたいっ。王子様と幸せそうに、笑い合いたい!」


 正直者のペルタの必死な言葉と眼差しに、さすがのシュヴァルツも戸惑い始めた。


「シュヴァルツさん、デートしてやってよ」

「なっ?」


 ロッドがペルタについたことに、シュヴァルツはがく然として、顔色がさらに白くなり、瞳が右往左往した。


「僕からも、お願いします」

「うっ」


 ルイスにうやうやしく頭を下げられて、シュヴァルツはさらに動揺した。


「ふたりとも、ありがとう。シュヴァルツ様、私、あなたの笑顔が見たいのです。優しく微笑んでいるお顔が!」

「⋯⋯やめろ、想像するな!」


 自分の顔を凝視するルイスとロッドを、シュヴァルツは慌てて制した。そして、気を取り直すと、ペルタを真面目な顔で見下ろした。


「本当に、俺のことを考えての言葉か? 俺だけを見ていられるか?」

「えっ?」


 本来のシュヴァルツは、女性に誠実な王子だった。

 シュヴァルツに真剣な顔で見つめられて、ペルタは最高潮に胸が高鳴り、頬が赤くなった。


「例えば⋯⋯」


 シュヴァルツの目線だけで指示を理解したロッドが仕方なく、ペルタにニヤリと笑いかけた。


「ペルたん、シュヴァルツ様より、若くて将来有望の俺と、デートしようぜ?」

「えっ?」


 ペルタは素早くロッドの方を見た。シュヴァルツは若くて将来有望の辺りに眉を動かしたが、ペルタの反応に注目した。


「え、えっと⋯⋯」


 シュヴァルツの目付きが冷たくなっていき、ルイスとロッドはため息をついた。


「ダメだろ、即断らないと。シュヴァルツ様は、浮気するような女が、きっと1番ダメなんだよ」

「そうだ、残念だな」

「そんな! 見ていたでしょう!? ロッドに誘惑されたのです⋯⋯ロッドも王子様だから、つい!」


 シュヴァルツの横顔に、ペルタは浮気の言い訳をしたが、許されるはずがなかった。そんなペルタを見かねてロッドが言った。


「もうさ、ペルたんは錬金術師になってさ、ホムンクルスの王子を作ればいいんじゃない?」


 ルイスとシュヴァルツがギョッとする中、ペルタは胸の奇石に手を当てた。


「おお、それこそ、私だけの王子様⋯⋯!」

「ロッド! 君は、なんて恐ろしい使い方を教えるんだ!」


 ルイスに指を突きつけられてハッとしたロッドは、舞台役者の様に、大げさに顔を歪め、両手で頭を抱えた。


「すまない、ルイス! どうにかしなきゃって、俺はどうかしてた!」

「ペルたんっ、ホムンクルスより、本物の王子様がいいよね?」

「もちろんよ! 錬金術師とホムンクルスなど、所詮は泥人形との1人遊び」


 ペルタは握りこぶしに力を込めて、青空を見上げた。


「王子様を求め旅する、今の暮らしが最高に幸せ! 恋はつらい⋯⋯だけど、恋のつらさは、ひとりぼっちのつらさに比べたら、100億倍意味がある! 私は人生を賭けて、自分だけの王子様を必ず見つけます!」


 ペルタの決意表明に、3人は敬意を込めて拍手した。


「健闘を祈る! さらばだ!」

「待ってー!」


 足早に立ち去るシュヴァルツを、ペルタが追いかけて寸劇は終わった。見送ったルイスとロッドは、ふうっと一息ついた。


「全く、一生⋯⋯やられたら困るから、1度デートして振るのか付き合うのか、はっきりしてほしいぜ」

「付き合うことになったら、ペルたんをよろしくね」

「あのふたりの喧嘩を、俺が止めるのはゴメンだぜ。城は俺が継ぐから、引っ越してもらわなきゃな」


 ルイスとロッドの見守る中、花畑でシュヴァルツとペルタは、ブロウとアンドレアとダブルデートの様相を見せていた。

 まさか、と近づいて注目するふたりの耳に、ペルタとシュヴァルツの会話が聞こえてきた。


「シュヴァルツ様、私と『奇跡の花』を育てましょう!」

「お前とは今日限りだ。イバラでもひとりで育てるのだな。これからは、そのイバラを俺だと思え!」

「なんてトゲトゲしい王子⋯⋯覚えてなさい! 魔女となりて、100年の眠りにつかせてくれるわ!」

武器(ムチ)がないと思ったか? 魔女など、ネクタイで充分だ!」

「まぁまぁ、アイスおごるから、仲良く頭を冷やそう!」


 シュヴァルツとペルタをブロウに任せて、ルイスとロッドは花畑から離れると、滝の見えるベンチに座った。


「振り出しに戻っちまったな」

「そうだね⋯⋯あのふたりは、無理があると思うな⋯⋯」


 ルイスとロッドはしみじみとうなずきあった。


「振り出しに戻るといえば、お前もだな。いや、前の城に戻るだな」

「うん⋯⋯」

「ここはどう見ても、パワーアップポイントだぜ」


 神聖な景色を見回して、ロッドは力なく言った。


「うん⋯⋯がっかりさせてごめん⋯⋯また来るよ。今度は、山頂で願いを叶えられるくらい、強くなってね」


 ルイスは雲に霞む山頂を見つめて答えた。


「ドラゴンなら、途中まで連れていってくれそうだな」


 ふたりは期待して笑いあった。

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