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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第65話 王子様レオドラ

 全員が座った時、ひとりの男がテラスから入って来た。


「よお、みなさん。お揃いで」


 どこかで聞いたような挨拶に、全員が驚き男を見つめた。


 三十くらいの、茶髪を適当に肩まで伸ばして、彫りの深い顔をニコニコさせた男だった。色白だが野性的な体つきで、ボタンのない白シャツに茶色いズボンにブーツと、中世の格好をしていた。酒の匂いをさせるばかりか、手にブランデーのボトルを持っていた。


「普段はお気楽、いざとなると無茶苦茶強い。そんな感じの人が来たよ」

「お約束キャラだな。オトギの国なら、居ても当然か?」


 ルイスとロッドはひそひそと話した。


「レオドラ様!?」

「なぜ、ここに?」


 ペルタとアンドレアが同時に言った。


「聖地巡礼だよ、たまには清らかにならないとな」


 両手を突き上げるレオドラを、全員が胡散臭い目で見た。


「そうしたら、王子達が来てるって聞いて、挨拶しとかないとなってね。久しぶり、ブロウさん、シュヴァルツ君」


 レオドラは親しげな笑顔で、ふたりに軽くお辞儀した。その行為に、ルイスは確かな気品を感じた。


「久しぶりだね、相変わらずのようで⋯⋯安心したよ⋯⋯」


 ブロウは安心していいのかわからず苦笑いした。


「久しぶりだな」


 シュヴァルツの冷たい挨拶に、レオドラは困ったように笑った。


「まだ立ち直ってないのか? 女なんて、酒の種類よりも多くいるってのに!」

「レオ様、いえ、ドラ様! シュヴァルツ様は繊細なんですのよ、傷つけないでくださいっ」

「そうです、飲んで忘れられる方じゃ、ないんですからっ」


 ペルタとアンドレアの注意に、レオドラはやれやれというように笑った。


「飲んだら忘れる俺は単細胞か? その通り!」


 自虐して笑うレオドラに、誰もがリアクションに困った。


「こちら、レオドラ、王子様ですよ。ルイス君、ロッド君、ご挨拶を」


 レオドラの隣に立ち、ペルタが場をとりなすように紹介した。


 ルイスとロッドは立ち上がって、レオドラにお辞儀した。


「はじめまして、ロッドです」

「話は聞いてるよ、新入りの王子。歓迎する!」


 レオドラはロッドと熱い握手を交わした。


「はじめまして、ルイスです。僕は王子を目指して修行中で、あの、いつかお世話になるかもしれません」

「いつでも来たまえ!」


 レオドラはルイスとも熱い握手を交わした。ルイスとロッドは圧倒されて、レオドラに釘つけのまま座った。


「レオドラ王子、歓迎してくれるのはありがたいですが、そのためには、ちゃんと城に居てくださらないと困りますな」


 アンドリューが厳しい顔で訴えた。しかし、レオドラはどこ吹く風というようだった。アンドリューは加勢を求めてブロウを見た。


「すまない、強く言えないんだ。僕も昔は、彼と同じことをした。ふらりと旅をしては、王子仲間の城に泊めてもらう。そんな自堕落な暮らしをね。僕はそんなに遊ばなかったけど」


 ブロウとレオドラは親しげな笑顔と視線を交わした。アンドリューはがく然として座った。


「大丈夫、連絡してくれ。ルイス君が来る時には、ちゃんと城に居るよ」

「お願いします⋯⋯」


 あまりお願いしたくなさそうに、アンドリューは頼んだ。


「よし、さぁ、固い話は終わった⋯⋯土産を持ってきたのに、同じのがあるのか」


 レオドラはイスに座ると、テーブルにある自分のと同じ酒を見て笑い、そばにいたペルタの腰を抱き寄せて膝に座らせた。


「ペルタ、やけにムッチリとしてきたな。酌をしなさい」


 ジロジロ見ながら、王子の威厳を出してレオドラは命じた。


「私、ドラ様のような王子様、苦手ですわ」


 ペルタは酌はしたが、ツンツンした態度で膝からのいた。

 ペルタは王子様の狂信者だと思っていたルイスは驚いた。そして、ペルタがワガママなのか、レオドラがヤバいのか、または両方なのか気になった。


 アンドレアも肌を鉄に変えて、レオドラの視線をよけた。


「ペルタもアンドレアも、まだ子供だな⋯⋯!」


 レオドラは気にせずに、自分で酒をついだ。そんなレオドラにランサーが喜んで近づいてきた。


「やぁ、親しみやすい王子様だ! 私はロッドの父のランサー、よろしく!」


 ふたりは仲良く飲みだした。そんなふたりを、多少あきれた目でみんな見ていた。


「レオドラさんは、どんな強さを持っていますか?」


 ルイスは片手を上げて質問した。


「俺の真の姿を見たいなら、洞窟に来てくれれば」

「洞窟だと!?」


 タリスマンが勢いよく立ち上がり、レオドラの前に仁王立ちした。タリスマンの圧力に、レオドラはのけぞり動揺した。


「洞窟は我の遊び場だ⋯⋯いや、伝説を創る場所。邪魔はさせんぞ!」


 タリスマンは両目から光線を放ち、レオドラの目を容赦なく潰しにかかった。不意打ちに、レオドラは目を押さえて呻いた。


「いや、貴方の邪魔をする気はない!」


 タリスマンを神聖な者と信じこみ、レオドラは弁解した。


「俺は、自分の城の近くの洞窟だけで、盗賊どもを従えて」

「え!?」

「レオドラ王子、まだそのような事を!」


 ルイスとロッドは驚き、テーブルを叩いて怒るアンドリューに、レオドラはイスから落ちそうにのけぞった。


「いや、世直しだよ! 罪もない者から奪われた物を、盗賊達を率いて奪い返す。まぁ、王子の息抜きの面も、ないといえば嘘になるけどな」

「息抜きですか?」

「そうだ、ルイス君。王子というもの、窮屈な事が多いからな」

「王子になったからには、息抜きなどする必要はない」


 シュヴァルツが断固とした態度で、意見を(たが)えた。


「お前にこそ、息抜きが必要だな! 俺と一仕事するか?」


 レオドラの陽気だが真面目な目つきの誘いを、シュヴァルツは顔をそむけることで断った。


「罰ゲームで王子になった俺が言うのもなんだけど、よく王子になれたね」


 ロッドの王子になった理由に、レオドラをはじめ、そのことを知らなかった者は驚いた。


「思春期らしい、向こう見ずな行為だな」


 シュヴァルツが髪を(もてあそ)びながら、やれやれと言いたげに呟いた。


「しかし、王子になったのはよかった!」


 レオドラが嬉しそうに、テーブルを手のひらで叩いて言った。


「王子になれば、人生が変わる。俺は、王子になったことが、贖罪(しょくざい)、罪滅ぼしのようなものでね。昔の俺は⋯⋯⋯⋯これ以上は、言わないでおこう!」


 レオドラが話を打ちきり、誰もが聞きたげだが、ルイスとロッドの教育によくないと思い追及しなかった。


「レオドラさんの城にいくのは、ヤバいな」

「うん、ドラ様の城ってのは惹かれるけどね。一日見学くらいにした方がいいかな」


 ルイスとロッドはひそひそと言い合った。

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