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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第62話 奇石誕生の地

 ドラゴン祭りは終わり、ルイス一行はオトギの国有数の観光地、アリス山に来ていた。

 アリス山は町から近く、ブロウやロッド達とせっかく再開したので、一緒に行こうという話になったのだった。


 アリス山は、奇石誕生の地だった。


 はるか昔、勇者が冒険の末、アリス山で奇石を手に入れ、最初の願いを叶えたのだ。


 ルイス達がやって来た(ふもと)は、美しい草原が広がり、草花はそよ風に揺れ、透明度の高い湖に滝と、清らかで神聖ともいえる空気に満ちていたが、厳密には奇石誕生の地ではなかった。


 勇者が奇石を手に入れた場所は、山頂なのだが、標高が高く迂闊に近づけない。人力の道のりは切り立った崖っぷちを何日も登らねばならないため、到達できる者は限られていた。

 そのため、麓に観光客向けの設備を用意して、後を断たない聖地巡礼者に対応していた。銅像に礼拝堂、カフェに土産物屋もあった。


 ルイスはまず草原の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。心地いい冷たさで、花の甘い香りがした。


「綺麗だ⋯⋯正に、聖地ですね」


 全員がしばし聖地の空気や景色に心を奪われていた。続いて、銅像に移動した。


「見たかったんです、この銅像。カッコいいなぁ!」


 若い勇者がマントをひるがえし、奇石を持った片手を高々と天にかざしている、勇ましい銅像だった。


「この名も無き勇者は、奇石に『人類に奇石を与えてくれ』と願ったんだな」


 ランサーが銅像に記された、説明文を読みながら言った。


「おかげで、俺達は奇石を持って生まれてくるようになった。感謝しかないな、この勇者には」


 そう言うと、ランサーは銅像の写真を撮り始めた。


「こいつには、敵わないな」


 自信家のタリスマンが、晴れ晴れとして言った。


「勇者が奇石を使った年齢が15だから、奇石は15才になったら現れる。僕と同い年で、こんな奇跡を起こした⋯⋯本当でしょうか?」

「そうだな、いくつも伝承があって、どれが本当かわからない。神話レベルの大昔のことだからな。奇石にも数々の謎があるし、勇者がこの後どうなったのかも伝わっていない、気になるな」


 アンドリューが深く考えるように黙りこんだ。


「きっと、お城に帰ったのよ。名も無き勇者だったって言うけど、この人は王子様だったのよ⋯⋯全ての人を幸せにする、そんなこと思いつくの、王子様しかいない!」


 ペルタは祈りを捧げながら、銅像をうっとり見つめた。


「確かに、自分の願いを叶えずに、みんなに奇石をあげるなんて⋯⋯僕にはできません⋯⋯」


 王子志望のルイスは、申し訳ない気持ちで、先輩王子ブロウとシュバルツの顔をうかがった。ブロウはルイスに慰めるような笑顔で言った。


「ルイス君、僕にもできないよ。いや、そもそも、奇石がある山頂にたどり着けないな。崖登りなんて、できないからね?」


 高いところが苦手なブロウは、想像して鳥肌がたった腕をさすった。同じくシュヴァルツも、山頂を見上げて浮かない顔で黙ってしまった。


 王子に崖登りは無理かもなと、ルイスはペルタの勇者王子説を疑った。


「これこそ、選ばれし者の所業だよね」


 ブロウの言葉に全員がうなずいた。誰にもあの山を登れる自信はなかった。


 観光客が銅像に集まって来た。オトギの国は危険なので、この聖地だけ訪れる観光客が多い。この辺りは安全対策が充実していた。ゆえに観光客はみんな軽装で、カメラや撮影機材を持っていた。


 そんな観光客が、白い(ころも)に地面につきそうな長い髪、堂々とした態度、神聖な者を装ったタリスマンに興味を抱いた。

 一通り撮影に応じた後、タリスマンは手のひらから光の玉を出して見せた。


「見るがいい、この神秘の光を。これこそが、我の神聖なる魂」


 観光客達は驚嘆して、夢中でシャッターを押した。


「タリスマンさんは、ここにいた方がよさそうだな」

「うん、伝説になる日も近いよ」


 ルイスとロッドはみんなの様子に気づいた。観光客の興味は銅像からルイス一行に移っていた。


「俺は、修行中の身で⋯⋯」


 立派な体格に黒い勇者服にマント、いかにも勇者といった装いのアンドリューは、観光客の撮影の申し出を必死に遠慮していた。


「私、今、太り気味で(コンディションが)⋯⋯」


 そう呟いて、ペルタはアンドリューのマントで体を隠すと、紫のベルベットのドレスに背中の大剣、勇者の姿でポーズをとって撮影に応じるアンドレアを羨ましそうに見ていた。


「いやぁ、これが栄光というものかな?」


 ブロウはにこやかに撮影に応じていた。紺色のワイシャツに黒ズボンに年期の入ったブーツにリュックを背負い、王子らしい物と言えば腰の剣くらいだったが、それでも女性達には王子だとわかったらしい。


「今、プライベートなのだ⋯⋯」


 シャツにネクタイにズボンに靴と黒ずくめで、少し怪しく不吉な雰囲気さえあるのに、同じく王子と見破られたシュヴァルツは、動揺を抑えた冷たい態度で女性達をあしらっていた。


 女性達はロッドにまで目をつけたが、ロッドは動揺すらせず、素っ気ない態度で気にしなかった。


「もう、移動しよう」


 シュヴァルツがキッとした顔で、全員に向かって言った。


「僕も、誰もいないところへ行きたいです⋯⋯」


 多少いじけるルイスの肩を、ロッドが軽く叩いた。


「お前はまだ王子になってないからさ、やっぱり、なにか違いがあるんじゃないか?」

「どんな違いが?」

「そうだな。オーラとか、雰囲気とか、そういう目に見えないヤツ?」


 不確かな説だが、ロッドの慰めにルイスは少し傷が癒えた。そこへ、ペルタとアンドレアが話に加わった。


「ルイス君、勇者服着てるじゃない。それじゃあ、その辺の少年も同じよ」

「そうよ、それに、ルイス君に勇者服は似合ってないわ」

「えっ?」

「王子様の格好なら、ルイス君に敵う者は⋯⋯いないと思う!」


 ペルタは王子達を横に、思いきったことを言った。


「そんな、僕が?」


 ルイスは今すぐ勇者服を脱ぎたい衝動に()られた。


「時と場合によっては、十年後には、ロッド君と並ぶほどに」


 天性の八方美人ペルタは、王子達を気にしながら続けた。

 ルイスは勇者服を脱ぐのを思い止まった。しかし、王子の格好に乗り気な様子のルイスに、ペルタとアンドレアはニコニコした。


「ルイス、お前に丁度いい場所があるぜ、行こう」


 ロッドが全員を引き連れて丘を登り、白亜の礼拝堂についた。


「ここは、まさか」


 ルイスは礼拝堂を見上げて、ロッドの考えに気づいた。

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