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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第61話 ドラゴンと戦うのは

 晴天に恵まれた午後、祭りのメインイベントが始まろうとしていた。イベント会場、城塞を前にした広場に、ルイス一行とブロウ王子、アンドレアとタリスマンが集まっていた。


「さぁ、この時がやってきました! アンドリューさん、頑張ってくださいっ」


 機械式ドラゴンとの戦いを前に、アンドリューに気合いをいれるルイスに、ペルタとアンドレアも飛んだり跳ねたり、応援する準備万端だった。アンドリューは武器の短剣スティレットと瞳をギラつかせた。


「任せろ! 優勝はもらった!」

「真ん中の金色のドラゴンを仕留めると、1番注目されるよ」


 さわやかな笑顔でブロウがアドバイスした。


「1番注目されたいのに、眠い、眩しい。俺の光が目立たない⋯⋯」


 石のベンチに座って、タリスマンが力なくジュースを飲んでいた。暗いところで真価を発揮するタリスマンは夜型だった。


「タリスマン君は、防御力に欠けるから、ドラゴンと戦うのは危ないね」

「そうですね、機械相手じゃ、光で目潰しもできないし」


 ブロウとルイスが言い合うところに、ひとりの少年が近づいてきた。


「よお、ルイス」

「ロッド!? 祭りに来てたんだ!」


 ロッドはルイスが親しくなった王子だった。整えた黒髪に、いつもの飄々とした笑顔を浮かべ、スラリとした体に白いシャツに黒革のベストとズボンにブーツという姿で、腰に細い剣をたずさえていた。


「ついさっき来たんだ。ドラゴン祭りだろ? お前が来てるんじゃないかって、シュヴァルツ様が言うからさ」


 シュヴァルツの気づかいに、ルイスは嬉しくなった。


「ロッド君じゃない! 久しぶり!」


 ペルタが嬉しそうに、ロッドを後ろから抱き締めた。


「ペルたん、相変わらずだね。みなさんも、こんにちは」


 ロッドはまんべんなく、目を見て挨拶した。その落ち着いた様子に成長が見えた。ロッドが王子と知ると、アンドレアが同じ年頃の見た目になった。


「まぁ、新たな王子様? 素敵ね、待ってました!」

「アンドレア、ブロウ様とデートするんでしょ? 欲張りだわ!」


 ペルタとアンドレアがにらみ合う横で、ロッドはルイスに小声で聞いた。


「ペルタさんみたいな人が増えたな」

「アンドレアさんはペルタさんの友達だよ。同じ痛みを知る戦友なんだって」

「手強そうだな」


 ふたりは笑い軽くため息をつきあった。


「ロッド君、ひとりで来たの? シュヴァルツ王子様も一緒?」

「来てるよ。あの物見の塔に」


 ロッドは城塞の側の塔を指差した。

 バルコニーからシュヴァルツの姿がはっきりと見えた。長い黒髪を垂らして、血の気の少ない白い顔だったが、凛々しい目つきで城塞を見ていた。黒いワイシャツに黒ズボンというラフな格好だった。

 ルイスが手を振ると、シュヴァルツは気づいて片手を上げて応えた。塔から見せるその姿は、王子の風格と優美さに満ちていた。


「キャーッ、シュヴァルツ様!」


 女性陣の歓声に、シュヴァルツはすぐさま姿を隠した。


「今回は、僕のライバルがたくさんいるなぁ」


 ブロウが王子のプライドを見せて呟いた。


「あの塔は安全なんだろうか?」


 ルイスは女性陣が塔に殺到するのを心配した。


「人混みにまぎれて観戦した方がいいって言ったのに、町長の勧めを断れなくてな。律儀なとこあるから、シュヴァルツ様」

「僕も見習おう。ブロウさんは、塔にいなくていいんですか?」

「僕は、塔みたいに高いところは苦手でね。来賓(らいひん)枠はシュヴァルツ君に任せるよ」


 シュヴァルツと顔見知りのブロウは、気軽に言ってのけた。そこへ、ひとりの男が近づいてきた。


「ロッド!  ここにいたのか。塔は女の人達が集まって入れなくなってるよ。ああ、ビックリした」


 男はウェーブかかった茶髪に、白いシャツに茶色のズボンとブーツ、手には高そうなカメラをもっていた。年齢は50くらいだが、はつらつとした雰囲気で若々しさにあふれていた。


「俺の親父」

「お父さん! オトギの国に呼んだんだね」


 家出してきたと聞いていたルイスは驚いた。


「シュヴァルツ様が呼んだんだ。正式に俺を預かるから、挨拶しないといけないって。本当、律儀な王子」


 ロッドの父は、ルイス一行に陽気な笑顔を見せた。


「やぁ、みなさん、はじめまして。私はこの子の父のランサー。息子のお友達と、ご家族ですかな?」

「はい、僕はルイス。王子を目指していまして、ロッド君とは、仲良くさせてもらっています」


 ルイスは王子を意識して丁寧にお辞儀した。

 ロッドは笑いをこらえた。ルイスも最後は少し笑ってしまった。


「おお、さすが王子志望の少年の挨拶!  息子にこんな友達がいたとは、驚きだ!」


 ルイス一行の自己紹介をうけて、ランサーはさらに驚いた。


「勇者に王子様にお姫様に王様まで!  オールスターじゃないか!  さすがオトギの国だ、こんな刺激的な国は他にない!」


 ランサーはルイス一行を撮り始めた。

 そんな父に、ロッドはあきれた顔で首を振った。


「お母さんは?」

「城にいるよ、ごっこ遊びしてる」


 ロッドは開き直って言った。

 ルイスは真面目に想像してみた。


「城でごっこ遊び、女王様⋯⋯あ、お姫様かな」

「いいわねぇ、夫と子供に恵まれて、お城でお姫様ごっこをして暮らす!  最高の人生だわ!」


 ペルタが羨ましそうに、遠い目をした。


「浮かれすぎだよ。親父もお袋も」

「当然だわ!  息子が王子様になったのよ?  私なら、パレードして世界中に知らせるわね」

「ペルたんの息子が、王子にならないことを祈るぜ」


 ルイスは自分の両親を思い出した。


「ロッド、ペルたんの言うとおりだよ。息子が王子になるなんて人生で1番の出来事かもしれないし、世界でも珍しいことじゃない? 僕の父さんと母さんも、ニコニコしておめでとうって言ってくれたし」

「全く。王子の親は、みんなこんな感じなのか?」


 ふたりは、王子ブロウに聞いてみた。


「僕の両親は、特に浮かれるってことはなかったけど、王子になった姿を見せた時と城に呼んだ時、父は何度もショックで気絶していたよ。あ、もちろん、嬉しいショックでね」


 ふたりは、両親の浮かれ騒ぎを多目にみることにした。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 メインイベント開始のアナウンスに、ルイス一行は城塞に向かった。


「俺も出るんだ。アンドリューさん、よろしくな」


 ロッドの平然とした宣戦布告に、アンドリューは鋭い瞳をむけた。


「いいだろう、王子であろうと勝ちは譲らない」

「どっちを応援すればいいの?  別々のドラゴンと戦ってよ」

「そうよ、三体あるんだし。制限時間内に全部のドラゴンを止めれば、三人は表彰されるのよ。仲良く表彰されてよ」


 城塞の前のステージには、ドラゴンが刺繍された赤いマント、金のマント、青のマントと、王冠が一つ用意されていた。


「あの王冠は、金のドラゴンを仕留めた者に贈られるんだ。金のドラゴンが一番手強いからね」


 ブロウの説明に、ルイスは確信を持って予想した。


「王冠、ロッドがもらうと思います」

「⋯⋯期待には応えるぜ、俺も王子だからな」


 ロッドはニヤリと笑って、腰の剣を叩いて屋上に向かった。


 アンドリューとロッドは金のドラゴンの前でスタンバイした。ルイス一行も近くの関係者席で見物することになった。


 開始の合図が響き、ドラゴンがなめらかに動きだした。ルイスは感動と興奮の中、釘づけになった。

 ルイスだけでなく、会場中がしばしドラゴンの動きに見入っていた。


 ルイスは、ロッドが金のドラゴンを見上げて、体を動かしたのに気づいた。


 次の瞬間には、ロッドは金のドラゴンの胸の辺りにいた。そして、次の瞬間には肩に乗っていた。その時には、ドラゴンは完全に動きを止めていた。


 会場がどよめいた。金のドラゴンの左胸、停止装置の部分に剣が突き刺さっていた。


「ロッド!  ロッドがやったんですよね?」


 ルイス一行の誰にも、はっきり見えた者はいなかった。


 剣がロッドの物だと確認され、恐ろしく目のいい複数の観戦者がロッドがやったと証言したことで、会場中から喝采が起こった。

 ルイス一行も喜びの声を上げた。


 塔では、弟子ともいうべきロッドの活躍に、シュヴァルツが嬉しそうに拍手していた。ランサーも初めて見る息子の姿に興奮していた。


「さすが、俺の息子だ!  ちゃんと撮れていればいいんだが!?」


 ロッドが意気揚々と観戦席にやってきた。

 ルイスはハイタッチを交わした。


「やったね!  しかし、どうやったの?」

「奇石に『世界一早く、最速で王子になりたい』って願ったんだ。そうしたら、体を速く動かせるようになった。早く城に住みたかっただけで、別に動きが速くなりたいとは言ってないのにな」

「どんな想像したの?」

「早送りみたいに、王子になっていく自分を想像した。足や動きが速くなって当然か?」

「よくわからないけど、いい想像をしたね。スピードは最高の武器の1つだ。僕も欲しいよ!」


 羨ましがるルイスに、ロッドは得意げに笑った。


 会場はようやくロッドの騒ぎから、残るドラゴンに注目が移った。挑戦者達もロッドの活躍に触発されて、次は我がとドラゴンを見上げた。


「ドラァーッ!!」


 アンドリューは伸ばした両腕から、ドラゴンサイズの電撃を放った。

 しかし、その電撃はドラゴンには効かず、周りにいた挑戦者を一網打尽にした。


 アンドリューは挑戦者への妨害行為で失格となった。


 残るドラゴンには、倒れた挑戦者に代わり、観戦者達が飛び入りで挑み始めた。そこに復活した挑戦者も加わり、誰も彼もが暴徒のごとく、ドラゴンに襲いかかっていた。


「やめろーーっ!!」


 ルイスはドラゴンを守るべく、観戦席を飛び出し剣を抜いて走った。ルイスを止めるべく、ペルタとアンドレアとブロウも観戦席を飛び出した。ランサーはロッドを巻き込んで夢中でシャッターを押していた。

 タリスマンだけが座ったまま、太陽の下ではっちゃける人々を、あきれと羨望の混じった目で見物していた。


 こうして、混乱の内にメインイベントは中止となった。


 祭りのフィナーレ。メインステージでは金のドラゴンを仕留めたロッドが王冠とマントを頂き、祭りの主役となった。


 ルイス達は心から祝い、拍手と喝采を送った。

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