表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/184

第58話 光るタリスマン

 裏山を歩くルイス一行は、賊のリーダーが言い残した『不気味な男』を警戒していた。


「どこから、飛び出してくるんだろう?」


 前を歩くブロウの服を、掴みそうになる気持ちを抑えて、ルイスは視線を忙しなく動かした。


「どこからでも来なさい、私が叩きふせてやるっ」


 最後尾のアンドレアが、ペルタと同じ武器、黒い棒もとい警棒を手に、暗闇をにらんだ。


 ルイスとアンドレアの心配をよそに、裏山の畑には、案外あっさりとたどり着いた。畑は森を切り開いて作ってあり、星空のおかげで、少し明るくなった。


「さて、眩し草が生えているのは⋯⋯」


 ブロウは指輪型のライトで、広い畑を照らした。


「洞窟の入り口の側、だったね⋯⋯あったよ!」


 ブロウが袋にてきぱきと、眩し草を入れている間、ルイスの警戒心は洞窟に注がれた。


「ここに、不気味な男が⋯⋯?」


 かなり大きな洞窟の、入り口の端に体をピッタリとくっつけて、ルイスは呟いた。隣にアンドレアも、同じ体勢でいた。


「私達を、待ち構えている、そんな気がする」


 アンドレアの見解に、ルイスが固唾をのんだ時、ブロウがやってきた。


「入ってみようか?」


 オトギの国の不思議が大好きで、本まで出版しているブロウは、引率者の立場を放棄した。

 ブロウは好奇心に任せて、端からひょいと洞窟の中を覗いた。


「⋯⋯ヒッ! あ、ああっ!?」


 ブロウは慌てて、洞窟の入り口から、首を引っ込めた。


「洞窟の中、不気味に光る、光る目が!」


 声も出せずに、自分にしがみついて震えるルイスとアンドレアに、ブロウは夢中で言った。


「か、帰りましょう! 眩し草はあったから、もういいですよね?」

「か、怪物っ。目が光るといえば、怪物しかいない!」


 ルイスとアンドレアは、無敵な雰囲気を出していたブロウの悲鳴と慌て振りに、すっかり腰抜けになっていた。


「いや、入ろう」

「ええ!?」

「これこそ、オトギの国の不思議! いざとなればこの、なんでも斬れるスカイソードで、たたっ斬るよ!」


 ブロウは警告するように洞窟内に叫ぶと、スカイソードを構えて、洞窟の入り口に一歩近づいた。ルイスとアンドレアは、ブロウの後ろにくっついていた。


 広い洞窟を、あえてライトをつけずに、ブロウは一歩一歩、慎重過ぎるほどで進んだ。光る目の主は、そう離れたところにいないと目測していた。


「ああ!」


 今度はルイスとアンドレアも見た。暗闇の中で、白く光る両目を。

 それの持ち主は、人間の男だった。岩に座って、不気味な両目を洞窟中を照らすほど光らせた後、両目だけを明かりのように光らせて、男は口をきいた。


「不気味な男だの、怪物だのと、酷いな君達。この光、神秘的だと思わないか?」


 まともに口を聞いた男の顔に、ブロウはライトの光を向けた。


「眩しいじゃないか」

「す、すまない。つい、お返ししてしまった」


 ブロウはライトの光をずらした。


 ライトに照らし出されたのは、長身で色素の薄い若い男で、地面につくほど長い髪を垂らし、一枚の白い(ころも)を纏っていた。光る目と合わせると、神秘的な男に見えなくもないと、ブロウとルイスは思った。


「貴方は、タリスマン!?」


 アンドレアが男に問いかけた。男は光りを消した目を、アンドレアに向けた。


「そう、我はタリスマン。どこかで会ったかな?」

「はい! ずいぶん前です。夜の森をひとりで歩いていた時、光に包まれて現れ、親切に町まで送ってくださった。貴方ですよね?」

「あなたには覚えがある。お元気そうで、なによりです」

「あの時は、本当にありがとうございました」


 アンドレアとのやりとりで、タリスマンがまともだとわかり、ルイスとブロウはほっとした。


「我はそうやって、迷える者を導いている」


 タリスマンはまた、口調を変えて言った。


「いい人ですね」

「案内係の人かな?」


 ルイスとブロウの言葉に、タリスマンはフッと笑った。


「暗い森の中、光りに包まれて現れることによって、神聖な存在と勘違いさせたり、時に洞窟に潜み、光と闇の王として、命知らずの旅人に畏怖の念を与える。そうやって遊んで、オトギの国を満喫しているだけだ」

「⋯⋯迷惑な遊びです」


 旅の途中のルイスは、キッパリと抗議したが、タリスマンはまた、フッと笑っただけだった。


「神聖な存在。そう、私もあの時、天使が降臨したのかと思いました」

「天使と勘違いされた以上、人助けはやぶさかではない。しかし、案内係という表現は、イメージに合わない。やめよ!」


 タリスマンは再び、目を(かば)わなければ耐えられない光を、両目から放った。


「わかった! 天使君」

「今は、光と闇の王、なんだ」


 タリスマンの子供じみた駄々に、ブロウは優しくうなずいた。


「わかったよ、光と闇の王」

「しかし、こんな洞窟でひとりで遊んでるの、寂しくないですか? 近くでは祭りもやってるのに。山の奥の洞窟ならわかるけど、畑が前にある洞窟なんて、雰囲気もないですもん」

「ぐっ!」


 まだ抗議中のルイスの厳しい意見に、タリスマンはしゅんとなった。


「祭りに来た人が、迷い込んで来るのを狙ったんだ。昨日から、夜はここにいるんだけど、君達が初めての客だ」


 膝を抱えるタリスマンに、ルイスは厳しい態度を引っ込めた。


「危ない遊びでもあるね。洞窟に来るのは、賊かもしれないだろう?」

「やって来るのがどんな奴か、事前チェックは欠かさない。洞窟に入ってくる前に、どんな奴かチェック。からかえそうな相手なら、奥でスタンバイだ」

「結構考えて、遊んでるんですね」

「うん。お兄さん『このなんでも斬れるスカイソードでたたっ斬るよ!』と警告してくれただろう。助かったよ。まぁ、こっちもいざとなったら、神のごとき光で目潰し余裕だけどね」

「目潰し攻撃は効いたよ。この洞窟で賊に会わなかったかい?」 

「ちょっと前に、洞窟の外を散歩中に会ったよ。かなり驚いてくれて、楽しかったな」

「賊もタリスマンさんも、オトギの国を楽しんでますね」


 得意げなタリスマンを前に、三人は顔を見合せて笑った。


「だけど、タリスマンさん、一緒に町に行きませんか? ここにいるより、楽しいと思うな、今回だけは」


 若干元気のないタリスマンに、ルイスは手を差しのべた。


「だけど、町は今、問題発生中よ。まだ危ないでしょうか?」


 アンドレアの心配に、ブロウは顎に指を当てて考えた。


「そうだね。カロスは一匹狼だから、勇者達が捕縛に成功していれば、後は男達を起こせば解決だ」


 その時、岩に座っていたタリスマンが、ゆっくりと岩から降りた。タリスマンは長身で肩幅もあり、かなり立派な体躯だった。綺麗な髪はふくらはぎまで伸びている。確かに、絵画などの天使のイメージに近いなとルイスは思った。


「我を、ここからは普段の俺でいこう。俺を見くびるな? どんな騒動が起きているか知らんが、一匹狼など敵ではない⋯⋯いや、一匹狼対決、俺の勝ちだ!」


 闘う気満々のタリスマンを、ルイス一行は歓迎した。


「タリスマン君の目潰し攻撃は、かなり有効だね」


 カロスが未だ逃走中を念頭に、ブロウが期待して言った。


威光(いこう)の矢! と言ってくれ」


 タリスマンはまた、頑なな口調で注文をつけた。おかげで、ルイスは闘うタリスマンを、かなりカッコよく想像できた。


「タリスマン君の「威光の矢」に、期待しよう!」


 ブロウもシリアスな顔を作って、タリスマンの加わった一行を率いて町に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ