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第6話 勇者様ペルタ・ファウスト

「勇者様が来たなら、ここでお別れね。ルイス」


 ルイスはビーナスと向かい合った。


「心配しないで。さらに、女勇者様を呼んであるから」


 ビーナスは広場の先の、森に続く道を指差した。


「あそこが待ち合わせ場所」

「ここでアンドリューさんと、一緒に待っててもらえばよかったのに」

「仲間は徐々に増やしていくものでしょ?」

「こだわりですね」

「それに、あの()の若さと美しさ、嫉妬してしまう!」


 伯母さんは正直だなと、ルイスは思った。


「あの娘と居たら、大抵の男は逃げていくわ!」


 ルイスはフアンとアンドリューを見たが、ふたりともなにも言わないので、ビーナスに聞いた。


「なぜですか?」

「奇石をまだ使ってないの!  それなのに、勇敢で力強くてそれで⋯⋯とにかく頼もしい女よ!  守ってもらいなさい!」

「わかりました」


 ルイスはここでも一応、素直に了解しておいた。


「それじゃあ、アンドリュー、フアン王子。離れがたいけど。ルイスをよろしくお願いしますね」


 初めて聞く伯母の優しい声音。 

 ルイスはジンときた。


「ご心配なく」


 フアンが胸に片手を当てて答え、アンドリューが力強くうなずいた。ルイスはビーナスに骨が軋むくらい抱き締められた。


「伯母さんも元気で」


 ビーナスは折り畳んだ紙を渡してきた。


「私の住所。こっちに送る方が、早く手紙を届けられるわ」

「はい」

「呼ばれたら直ぐ行くから。行けなかったら、自分達でなんとかしなさい! 頑張るのよ!」

「はい!」

「それじゃあ、みなさん。気をつけてね!」


 ビーナスは手を振ると、チャッチャと来た道を去っていった。


「行きましょう」


 ルイスは(おごそ)かに号令をかけて歩き出した。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 待ち合わせ場所。

 たどり着いたルイスは、白土の道を眺めた。道は広く綺麗で森の木々は豊かに繁っていた。


「勇者さん、来てませんね?」

「私なら、もう来てますよ」


 道端の木の陰から、笑顔の女性が現れた。

 近くにいたルイスは逃げるように、フアンとアンドリューの側に行った。


「ペルタさん。お待たせ」

「ファウスト、驚かせるな」


 フアンとアンドリューの呼びかけに。

 ペルタは悲し気な顔をして近づいてきた。

 長く豊かな黒髪を揺らし、フアンと肩を並べる程の長身に、可愛さとキリリとしたところのある顔をしている。

 まだ少し肌寒いのにノンスリーブの、大胆に足の付け根までスリットがある赤い革のタイトドレスを着て、太ももに警棒かなにかを収めたレッグホルダーを装着してロングブーツを履いていた。


 近づく姿が雄々しく、ルイスは緊張した。


 ペルタは好奇心を(たた)えたぱっちりした目でルイスを見つめて、笑顔を見せた。

 思いの外、優しい笑顔。

 ルイスは安心して笑顔を返した。


「初めまして。ルイス君。ペルタ・ファウストです」

「初めまして、ルイスです。よろしくお願いします!」


 ルイスは深くお辞儀した。


「まぁなんて礼儀正しいんでしょ。流石、王子様に弟子入りするだけありますねぇ」

「ありがとうございます」


 ルイスは笑顔で顔を上げた。


「ああ! 未来の王子様!」


 ペルタは両手を高々と空に上げて笑った。

 ルイスが驚くなかアンドリューが「もうダメか」と呟いた。


「ペルたんって呼んでね!」


 ペルタはとびっきりの笑顔を見せた。


「……ルイス君、ペルたんと呼んでみて?」


 ルイスは口を固く閉じて、拒んだ。


「どうしたの?  ルイス君?」

「ペルたんって、感じじゃないなって」

「なんですって?」


 ペルタの瞳が見開かれた。

 ルイスはハッとしてたじろいだ。

 とっさに、魔女という単語が浮かんで緊張した。


 その時、アンドリューが鼻で(わら)った。


「ルイス、お前は人を見る目があるな」

「えっ」


 驚くルイスと一緒にペルタはアンドリューのほうを向いた。

 ルイス君と会う予行演習の時――  

 あれこれ厳しく指図してきたアンドリュー。

 黙って見ていなさい! と一喝しておいたのに。

 ペルタは後ろで手を組み、優しい笑顔と口調を努めて意識した。


「どういう意味ですか? アンドリュー君」

「お前は、男達にとっては、そんな気軽なあだ名では呼べない存在。魔女なんだ」


 ペルタはムッとした顔になり、すぐに優しい笑顔になった。


「面白いことを言うのね。ルイス君にもっと教えてあげて?」

「ペルタから男達は逃げていく。ビーナスさんがそう言ってたろう? ルイス」

「はい」

「その意味がこれから徐々にわかる。それまで、無闇にペルタの言うことは聞かないことだ」

「はい」


 粛々(しゅくしゅく)と返事をするルイス。

 ペルタが向き直った。


「ルイス君、貴方は王子様になるんでしょう?」

「はい」


 ペルタは真剣な顔で見つめてきた。


「私の味方をしなさい」

「惑わすな。 お前の味方をすると厄介なんだ。後々色々と永遠とな」


 ペルタは忌々しそうな顔をアンドリューに向けたが。

「うっうっ」


 片手で涙を拭く真似を始めた。


「どうして、味方してくれないの?  守ってくれないの?」


 ルイスは可哀想だなと思った。

 慰めようとした時、ペルタは顔を上げ言い放った。


「もういい!  恐るべき魔女となりて、この世の男共を皆とって喰ってやるわ!」

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