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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第57話 甦る名声

 四人は城塞の側に設置された祭りの管理者用テントにきた。大きなテントの前には、警備をしている勇者が集まっていた。


 勇者のリーダーが、ブロウの前に進み出て言った。


「今から、手分けしてカロスの捜索に行くところです。祭りに影響しないように、捕縛は迅速に行いたいところです」

「よろしく頼むよ。君達の実力なら、思い通りに行くと思う」


 リーダーはブロウにうなずくと、ペルタとルイスに気づいた。


「ペルタとルイス君か。アンドリューはどうした?」

「ああ! ごめんなさい、アンドリュー!」


 ペルタが顔を両手にうめて泣きじゃくった。リーダーは無念さに顔を歪めた。


「アンドリューの葬式の準備も必要か!?」

「必要ないですっ、寝てるだけです!」


 ルイスは思わず必死に否定し、ブロウが苦笑いしながら言った。


「眠らされた男達は、他にもいるだろう?」

「かなり居ます⋯⋯」

「男達の身の安全も、確保したほうがいいね」

「この騒ぎが広まれば、悪党どもが動き出すかもしれません」

「僕は、急いで裏山に行って、目を覚まさせる薬草を採ってくるよ。カロスと町を頼むよ」


 リーダーは力強くうなずくと、仲間の元へ戻った。


「さぁ、こっちも行こうか」

「ブロウ様、私は今回ばかりは、アンドリューのそばに居ます」


 ペルタがさすがに神妙な顔で言った。


「アンドリューは部屋で寝ていますので、一応安全だと思いますけど、宿に悪党がやってこないとも限りません。私は残って宿の警備をします!」

「わかったよ、ペル師匠。アンドリュー君と宿の人達を頼みます。でも、無理はせず、勇者達を頼るんだよ」

「はい!」

「ペルタさん、僕は行ってきます!」


 ルイスとペルタは信頼の眼差しを交わしあった。


「ルイス君、行って来て! ブロウ様、アンドレア、ルイス君をお願いします!」

「うん! 任せてくれ」

「わかった、任せて!」


 アンドレアは力強い返事と共に、その姿も、柔らかい体がしなやかな筋肉質な体に、身長まで少し伸びて、可憐なお姫様から猛々しい勇者に変わった。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 町を出たルイス一行は、裏山を目指して暗い夜道を歩いた。

 三人共、武器に剣を携えていた。ルイスとブロウは腰に。アンドレアは大剣を背負っていた。


「大きな剣ですね。でも、今のアンドレアさんなら、使いこなせる?」

「ええ、今の私ならね。だけど、さっきの私でも、この剣を背負っているだけで、男避けに役立つの。こんな大剣を振り回すのかと思ったら、迂闊に近寄れないでしょ。他にも、ひとり旅の女は、身体中にあらゆる護身具を隠しています」

「武器だけで、かなり重そうですね。大変な旅だ」


 アンドレアは強い眼差しで前を見た。


「王子様に出逢う為よ! 自分だけの、ね!」

「凄い、意気込みだ!」


 ルイスは圧倒されて、ブロウは感動に目頭を押さえた。


「でも、今回はブロウ様がいらっしゃるから、私の出番はないかも」


 アンドレアは嬉しそうに、ブロウに笑いかけた。


「もちろん、任せておくれ」


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ほどなく、ルイス一行は裏山の入り口にたどり着いた。そこからは外灯など無く、黒い木々の間に細い道がのびているだけだった。人が出入りしているとはいえ、未知の森にルイス一行は少し立ちすくんだ。

 その時、ブロウが気配を察して、ルイスとアンドレアを背中に隠した。

 数人の無骨な男が木々の陰から現れ、ルイス一行の前に立ちふさがった。


「へへへ、カロスの起こした騒ぎが怖くなって、逃げてきたのかな?」


 悪の道に堕ちている顔つきで、男のひとりが聞いた。


 ブロウの見た目は逃げてきた男、そんな風に見えるのかと、ルイスはブロウを信じつつも、この後の展開が少し不安になった。


「君達は、カロスという男の仲間かな?」


 ブロウが穏やかに聞いて、腰からスカイソードを抜いて、己の胸の前にかかげた。


「仲間じゃねぇ。奴は一匹狼だ。だが、奴の企みが面白いんで、便乗してやろうと思ってな」


 嗤う賊の手のひらに、光りの玉が現れた。エネルギー弾というやつかと、ルイスは緊張した。


「お兄さん、変わった剣を持ってるな、頂こうか?」


 余裕の賊が、エネルギー弾を使おうとした時、ブロウはスカイソードを一振りした。


 その途端、美しい空色の衝撃波が暴力的な音を立てて、賊と賊の間を突き抜けた。一瞬で、賊達は吹き飛ばされ、道にはどこまでも深い亀裂が走った。


「やめたまえ。力づくの戦いで、私に敵う者はいない!」


 悠然と王子らしからぬ台詞を、ブロウは言い放った。


「つ、強い!」

「素敵っブロウ様! 私も気絶しそう!」

「肩慣らしというやつだね。ちょっとは、カッコ良かったかい? いやぁ、昔を思い出すよ」


 ブロウが高く剣をかかげながら、爽やかな笑顔を見せる中、賊達がよろよろと近づいてきて、ブロウを見つめた。


「昔⋯⋯その青い剣⋯⋯あなたはまさか、見た目からは想像もつかない、滅茶苦茶な強さと恐れられてきた、ブロウ王子か?!」

「そう! そのブロウだよ。覚えていてくれて嬉しいな。これが名声というものかな?」


 喜ぶブロウに、賊達はガックリと膝をついた。


「分が悪いぜ。ちょっとした遊びのつもりだったのに、王子様のご出馬じゃあな」


 王子の出現に、潔く引き下がる賊を見て、王子という存在の絶大さをルイスは知った。ルイスも膝まつきたい気持ちだった。


「危険な遊びはやめて、祭りを楽しみたまえ。カロスは勇者達にいずれ捕縛される。君達も仲間と見られれば、只ではすまないよ」

「王子様は慈悲深いな⋯⋯」

「少年や女性の前で、君達を肉片にするわけにもいくまい」


 真剣な調子のブロウに、賊と一緒にルイスとアンドレアも震えた。


「君達は賊とはいえ、経験豊富で冷静な男のようだ。カロスより、僕の側についてくれるだろう?」

「⋯⋯祭りに加わろう。俺達はオトギの国を楽しみたいだけだ」


 ブロウの一撃に、すっかりやる気を折られた賊達に異論はなかった。リーダーが号令をかけて、賊達は立ち上がった。


「裏山に行くのか。気をつけてくださいや、不気味なヤツがひそんでいますぜ」


 リーダーが不敵な笑みと謎の言葉を残して去った。


「不気味な男⋯⋯?」

「一難去って、また一難かな? ルイス君、大丈夫かい?」

「はい、なにもできなかった自分が、悔しいですけど」

「駆け出しは、そんなものさ」


 優しく言うブロウを見つめながら、思わずお姫様のスタイルに戻ったアンドレアも言った。


「そうよ。ですが、ブロウ様の素早く華麗な動きに、私も剣を抜くことさえ忘れました」

「剣を使うのは、僕に任せておくれ。大事なのは心構えだ、怖じ気づいてないかい?」

「大丈夫です! 眩し草を手にいれるまで、逃げません!」


 ルイスは握りこぶしに力を込めた。


「よし、進もう!」


 ルイス一行は、改めて暗い森に、突き進んで行った。

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