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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第4章

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第54話 前夜祭

 ドラゴン祭りが開催される町は、石造りの力強い町並みで、ドラゴン一色の大通りは活気に満ちていた。

 ルイス一行はまず、祭りのメイン会場の城塞へ向かった。石の城塞を望める広場では、沢山の人が城塞の屋上を見上げていた。点在する物見台も人がいっぱいだった。


 屋上には3体の巨大な機械のドラゴンが鎮座していた。10メートルはあろうかというドラゴンは、赤青金と精巧な鱗をメタリックに輝かせていた。


「あんなに精巧に作られたドラゴンは、ここにしか無いそうです。力強さも速さも、機械の動きとは思えないそうですよ」


 ルイスはうっとりと機械式ドラゴンを眺めた。


「その昔、この辺りの町は突如、ドラゴンの群れに根城にされてしまった。国中から集まった勇者達がドラゴンを撃退し、町は救われた。それを記念して行われる祭りです。祭りの目玉は、あの機械式ドラゴンと名乗りを上げた者達の戦いです。ドラゴンを倒す祭りというのは、僕は複雑なんですが⋯⋯」


 アンドリューとペルタはルイスに釣られて、シリアスな顔を見合わせた。


「そんな祭りだってこと、知らなかったよね?」

「ああ、祭りの名前しか知らなかった。きっとカーム王子もな。俺はドラゴンは乗るもの⋯⋯仲間だと思っていたからな! この祭りに参加したことはない!」

「私も!」

「アンドリューさん! ペルたん!」


 ルイスは仲間達に力強くうなずいた。しかし、悲しげに言った。


「祭りの後で、ドラゴン料理が振る舞われます。退治したドラゴンという意味で。そういう食べ方は好きじゃないけど、仕方ないですよね⋯⋯」

「昔は本物のドラゴンを退治して、その肉を振る舞ったそうだが、ルイスのような愛好家の抗議で機械のドラゴンになったそうだ」


 アンドリューがパンフレットを見ながら言った。


「戦いの後はお腹がすくのよ」

「ドラゴンのクッキーでいいですよ!」

「荒ぶる勇者達は、褒美がクッキーじゃ納得しないのよ⋯⋯」

「王子を目指す者として、戦いの後には、優雅なお茶会を提案します。いやそれよりも、ドラゴンが敵なのはおとぎ話の世界だけでいいですよ! これからは、仲良くする祭りを開催すべきですよね!」


 強い眼差しで熱く訴えるルイスに、アンドリューとペルタは家来(けらい)の如く従順にうなずいた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 宿を決めて、同室のルイスとアンドリューは窓から町を眺めた。


「役場に行かなくていいですか? あるかはわからないけど」

「急ぎじゃない。国名変更の署名用紙が埋まったんでな。出しておこうと思っただけだ」


 ルイスは窓の外を見たまま、カッと目を見開いた。


「ここでも集めましょう! この町なら、新国名を『ドラゴニア王国』にするために、沢山の署名をもらえる!」

「⋯⋯本当にすまない、ルイス。署名用紙がないのだ!」


 ルイスはガックリしたが、気を取り直して窓枠に腰かけた。


「いいんです、またの機会で。今は祭りを楽しみます!」

「そうだな。しかし、俺はあのドラゴンと戦う気はない、ルイスもだな?」

「はい。あの機械式ドラゴンが動くところを、じっくり見物しますよ。アンドリューさん、僕に遠慮しないで戦ってください!」

「いや、それもあるが、俺の雷撃を食らわせたら、機械が壊れるだろう? 祭りがすぐ終わってしまう⋯⋯」

「大丈夫ですよ。常に改良されていて、今は電気系統がショートしないようになっているんです」

「そうなのか」

「機能を停止させるスイッチが、ドラゴンの心臓の部分にあります。そこに攻撃を当ててドラゴンを止めれば、お祭りの主役になれるんです」

「急所攻撃か、難しそうだな」


 アンドリューは興味を持ったようで、笑みを浮かべた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスとアンドリューは機械式ドラゴン退治の出場者登録と、武器屋を探して宿を出た。

 宿に残るペルタは好きにさせておくことにして、ふたりはのんびりと賑やかな通りを歩いた。


「アンドリューじゃないか」


 すれ違いさま、ただならぬ存在感の男達が、アンドリューに笑いかけた。アンドリューも嬉しそうに挨拶を返した。男達はアンドリューと同年代の勇者だった。


「髪型変わったな。一瞬気づかなかったよ」

「ドラゴンヘアというのだ。強そうか?」

「お前の雷撃に似合ってるがドラゴン? 雷の稲妻をイメージしたのかと思った」

「ドラゴンのたてがみだ」


 少しムキになるアンドリューの横で、考案者のルイスは胸を張った。


「その少年が、ビーナスさんの甥っ子の、勇者見習いか?」


 勇者達はオトギの国のベテラン案内人、ビーナスから話を聞いているようで、ルイスに興味を示した。


()()()()()の、ルイスです。はじめまして!」


 ルイスは力を込めて間違いを訂正した。勇者達はルイスが勇者から王子に鞍替えしたと誤解してしまった。


「アンドリューなにやってる、勇者姿に痺れさせるのが、お前の役目だろう? 雷撃のようにビリビリとな!」


 一人が凄みを効かせた口調で言い、全員が厳格な顔でうなずいた。真面目系勇者か、アンドリューさんと仲がいいはずだとルイスは思った。


「いや、しかしだな」

「なにか複雑な訳があるのか? 俺達は警備の為に来たんだ。できれば、今の内にゆっくり話そう」


 ルイスには勇者達は酒場で話すイメージがあった。ルイスはためらうアンドリューに言った。


「僕はひとりで町をぶらつきますよ。行ってください」

「大丈夫か?初めて来た町だぞ。それに、危ない連中もいるかもしれん」

「勇者達の前で、子供扱いはやめてください」

「そうだぞ、好きにさせてやれ。まだ酒場に連れて行くわけにはいかないだろう」


 予想が当たって、ルイスはニヤリとした。


「わかった。なにかあったら、俺達を呼ぶんだぞ」

「わかりました」


 アンドリューと別れたルイスは、すれ違う人々を注意深く見ながら歩いた。できれば、ひとり旅をする少年スリルやオトギの国に居るはずの友達、そしてドラゴンと共に暮らす町の住人に会いたかったが、ドラゴンと勇者を模したお菓子や土産物が、ルイスの気をそらせた。


 そんな中でも、ルイスはペルタの姿を見つけた。

 壁に寄りかかって飲み物を手に、ペルタは若い男と話をしていた。男は芸術作品の様に、完璧な顔とスタイルだった。ルイスはペルタが口説かれている様子に驚愕(きょうがく)したが、同時に喜びでニヤニヤした。

 ルイスは完璧な男とペルタの健闘を祈りつつ、邪魔しないように人混みに紛れた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスが宿に戻り昼食を食べ終わって、部屋でくつろいでいると、フラフラの骨抜きになったペルタが戻って来た。

 ルイスが呼び掛けると、ペルタは一瞬ギクッとしてルイスを見たが、またゆっくりと遠くを見て言った。


「なにも聞かないで。まだ、心が決まってないの⋯⋯」


 物思いに沈むペルタを、ルイスはそっと観察することにした。そこへ、酒の匂いをさせたアンドリューが戻って来た。一緒に男が居た。


「ルイス、ブロウ王子が来ていたぞ。酒場でばったり会ったんだ」


 アンドリューの隣のブロウが、ルイスに笑いかけた。

 ブロウ王子はルイスが最初に滞在した城に住む王子で、オトギの国の不思議を集めている王子だった。ルイスは一緒に海に遊びにいったりしたブロウ王子に親しみをもっていた。


「ブロウさん、お久しぶりです!」


 ルイスはブロウと再開の握手を交わした。


 ブロウは短く整えた黒髪にスラリとした長身、ラフな白シャツと黒のズボンにブーツ姿で、相変わらず大人のミステリアスな雰囲気をさせていた。しかし、寛容な微笑が親しみやすかった。


「ブロウさん、機械式ドラゴンと戦うんですか?」

「見物派だよ。祭りの酒場では、珍しい話を聞けるから来たんだ。それに、ドラゴン好きのルイス君達も来ているんじゃないかと思ったよ。会えて嬉しいな」

「ブロウ様! そんなに私の事を?」


 物思いから目覚めたペルタが、ブロウの胸に飛び込んでいった。


「いやぁ、嬉しいよ。もちろんね。ペル師匠!」

「⋯⋯ペル師匠はやめてください」


 ブロウは笑顔のままだが、やけくそ気味な勢いでペルタを抱き締めていた。ペルタにモテ期が来たのかとルイスは錯覚した。


「いけないわ。二兎を追うもの一兔も得ずと言うもの」


 ペルタは無念そうにブロウから離れた。不思議そうなアンドリューとブロウに、ルイスは説明した。


「ペルタさんはさっき、カッコいい男の人と、お茶していたんですよ」

「カッコいい男で、怪しい奴か? 見境の無いたらしか?」

「知っているよ。彫刻の様に完璧な顔をしている男だそうだね? 僕以外の男を、女性達が噂しているというから、気になっちゃってさ」


 親近感のあるブロウに突然、王子のプライドを見せつけられて、ルイスとアンドリューは少し呆然(ぼうぜん)となった。


「王子仲間ではないのですね?」

「知らないな。カロスという名の、流れ者らしい。王子になってくれると嬉しいよ。そして、ペル師匠の恋人に。完璧だよね」


 完璧の宿命を背負った男かな?とルイスは思った。


「無闇にペルタと男をくっつけるのは止めておきましょう。トラブルの元です」

「なによ! せっかくブロウ様が応援してくれているのに!」


 ペルタが腕を振り上げて抗議した。渋るアンドリューに、ブロウが笑顔に威厳のある口調で言った。


「チャンスは平等に与えたまえ。アンドリュー君」

「わ、わかりました。様子をみましょう」


 ペルタのことは成り行きを見守ることにして、ルイス一行は午後のお茶の時間をブロウと共に楽しく過ごした。

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