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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第51話 特別な出迎え

 カーム王子の城に帰還したルイスとアンドリューを、多くの着飾った女性が出迎えてくれた。

 何日もかけて領地の安全のために動いたふたりに対して、皆、かしこまった態度とにこやかな表情だった。その中でペルタも大人しく、嬉しそうに笑っていた。その隣にユメミヤも居てルイスに笑いかけてきた。ルイスはふたりを見てほっとした。

 そして、本当に王子になった気がして、胸が苦しいくらい気持ちが高揚した。


 ルイスとアンドリューは女性達に挨拶と礼を返して、カーム王子の元に報告に行った。大理石造りの応接間で、カームがふたりを出迎えた。


「眠り姫の管理人でしたか。彼のことは知っていますが、ずいぶん乱暴な行動をしましたね」

「誘拐されたカイトはガイドですが、人気者で中々頼めません。道でばったり会って、これ幸いと多少強引に連れていったそうです」


 カームはアンドリューの話を聞いて、困った顔で笑った。


「予約をとると、約束させました」

「よかった、ありがとうございました。アンドリューさん、ルイス君、ゆっくり休んでください」


 カームのねぎらいを受けたルイスとアンドリューは、着替えて客間でくつろぐことにした。シュバルツ王子の城に泊まったおかげで、疲れや眠気は取れていた。


 女性達が料理を作ってくれるというのを、綺麗に着飾っているペルタの淹れたお茶を飲んで待った。

 ルイスは長椅子に寝そべってくつろいだ。アンドリューとペルタとは、家族と居るような感覚になってきていた。


「こら、二度と私を置いて行かないでよね」


 ペルタがルイスをつつき、アンドリューをにらんだ。


「ごめんなさい」

「お前にとって、最善の選択をしただけだ」


 腰に手を当てて居丈高いたけだかだったペルタは、神妙な調子になり言った。


「ありがとう。でも、置いて行かれるのは好きじゃないわ」


 ルイスはペルタが、両親に捨てられた過去があることを思い出した。ペルタの繊細な部分を垣間見て、もう一度謝った。


「ルイス君、もう、気にしないで。アンドリューの気持ちもわかるのよ。この城にいると、身も心も弱体化してしまうもの⋯⋯」


 大げさに体を震わせて、ペルタがルイスに笑いかけた。


「守ってくれる王子様が、沢山居るから!」

「勇者様といる方が、弱体化しそうだけどなぁ」


 ルイスはアンドリューの頼もしさを思い返して言った。


「勇者様は厳しいのよ」

「確かに、アンドリューさんとの今回の冒険はハードだったなぁ」

「ルイス、俺の先を行ってなかったか?」


 感慨深く冒険を振り返るルイスに、アンドリューが反論した。


「コカトリスだったか、ニワトリの怪物に襲われた時、俺は奴の目を見て気絶させられたんだが、ルイスは上手く戦ったんだ」

「素敵!」

「踏みつぶされそうになっていたんですよ。アンドリューさんが起きてくれなかったら⋯⋯」

「私もそこに居たかったなぁ」


 ペルタがこぶしに力を込めて言った。


「私にも、戦わせて。一緒に冒険させてよ!」

「わかったわかった」


 今にも部屋を飛び出しそうなペルタを、アンドリューがなだめ、ルイスは笑った。


「まったく、ちょっと城に居たくらいでは、出会った頃となにも変わらないな。置いていくなだの、一緒に戦うだの。勇ましいことだ」

「必死なの。アンドリューは強いから、一緒に居たくて」

「面倒みもいいですよね」

「そうね。よく考えれば、よく今まで、私を見捨てないでいてくれたわね」


 ペルタは目を丸くして、他人事のように驚いた。


「頼ってくる者を、見捨てるなどできんからな。まぁ、少し手こずる相手でも、これも立派な勇者になる為の修業だと思えば、なんともない」


 アンドリューはペルタを見据えて、きっぱりと言ってのけた。


「アンドリューさんが修業中でよかった⋯⋯」

「生涯修業中だ、心配するな」


 アンドリューはルイスに優しく笑いかけた。それから、またペルタを見た。


「そういえば、出会った頃のお前はルイスみたいに素直で健気だったな。守ってくれるお礼だと言って、赤いリンゴをくれた。感動したぞ。大きな美味しいリンゴだった⋯⋯」

「リンゴ、採ってきます」

「待て、どこまで行く気だ?」


 神妙な態度のペルタに、アンドリューがすかさず聞いた。


「食料庫」


 ルイスとアンドリューが脱力している間に、ペルタは本当に赤いリンゴを持って戻って来た。アンドリューは可笑しそうに、ペルタの前まで行ってリンゴを受け取った。

 ルイスは仲睦まじいふたりが嬉しく、笑顔で成り行きを見守った。


「ありがとう。美味いぞ」


 目の前でリンゴをかじるアンドリューに、ペルタはムッとした顔をした。


「冒険から帰還した勇者と出迎えたお姫様。ふたりを繋ぐ意味深な思い出のリンゴ。おとぎ話なら、ここで結ばれてめでたしめでたし、でもおかしくないのに。わからない男! 本当にオトギの国出身なの?」

「俺はおとぎ話より、生の冒険譚を聞いて育った。それに、食料庫から取ってきたリンゴを食わせたくらいで、なぜそこまで大それた期待ができる? 全く」


 あきれた目でペルタを見ながら、アンドリューはイスに座った。


「それにお前はお姫様じゃない。皮をかぶっているだけだ」

「厳しい男!」


 向かい合って言い合う、いつものアンドリューとペルタに、ルイスはガックリした。


「ルイス君、ちょっとの間、私達いい雰囲気だったわよね?」

「はい。僕もちょっと期待したんですけどね」


 アンドリューがギクッとなり、ペルタがよしよしとルイスの頭を撫でた。


 その時、扉がノックされて、料理ができたことを知らせると、ペルタが席を立った。


「私のアピールタイムはここまでね。ゆっくりご馳走を食べて」


 アンドリューが安堵のため息をついたので、ルイスは思わず笑ってしまった。ペルタが鼻を鳴らして出ていくのと入れ違いに、女性達が料理を運んできた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ルイスの前には、チョコレートホールケーキが置かれた。艶やかなチョコレートケーキの上には、色々な一口チョコレートがトッピングされていた。

 アンドリューの前には置けるだけ皿が置かれていた。皿に盛られているのは、調理法の違う肉料理だった。牛豚鳥、焼き肉、煮込み、ソーセージまで自家製だと聞いて、アンドリューは喜んだ。


 驚きと嬉しさで、ルイスとアンドリューは笑い合った。ルイスは危険な冒険の後のご褒美に、うっとりとした気分になった。


「とても特別な気分で、一生の思い出です」

「ありがたく、いただこう」


 ルイスも肉料理をわけてもらった。


「美味しい。レストランみたいです」

「やっぱり、旅の中で作る料理とは、味付けが違うな。俺はブレンドしたスパイスを持ち歩いているんだが、後でどんなものを使ったか教えてくれ」

「キッチンにいらしてください。調味料が沢山ありますわ」

「料理のレシピを書いておきましょうか」


 アンドリューと女性達が楽しげなのを前に、ルイスはチョコレートケーキを食べた。アンドリューはケーキに興味を示さないので、独り占めして無心に食べた。


 ルイスは安らぎと幸福に、胸とお腹が満たされていった。ケーキはまだ半分近く残っていた。


「一生の思い出が、お腹に入りません」

「一緒に食べてあげる」

「思い出を分け合いましょう」

「ありがとうございます。僕はお茶を淹れますね」


 ルイスがお茶の用意をしている間に、ケーキはほぼなくなっていた。ルイスとアンドリューは女性達とテーブルを囲み、今回の冒険譚に花を咲かせた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 食事会もお開きになり、片付けをすませてルイスが自分の部屋に戻ると、部屋の前をユメミヤが鳩の様にせわしなく、行ったり来たりしていた。


「ユメミヤさん」

「ああ、ル、ルイ」


 ユメミヤは白いほほを赤くさせると、そでで口元を隠して、ルイスから視線をそらせた。


「私、チョコレートケーキを作ることができなくて⋯⋯」


 ユメミヤが潤んだ目でルイスを見つめた。ルイスはユメミヤの心遣いに気づいて微笑んだ。


「気にしないで、ください」


 ユメミヤのうっとりした目を見ていると、ルイスはドキドキしてきた。ユメミヤは自分と同い年くらいに見えたので、ふたりで居ることに、危なさを感じた。


「私にできることを⋯⋯お茶を淹れさせてください!」

「お茶を! ありがとうございます、いただきます!」


 まだ後一杯くらいならいけるなと思い、ルイスはユメミヤについて行った。


 ふたりきりのティールームで、ユメミヤは慣れた手つきでお茶を淹れた。


「これは、私の国のお茶ですよ。それが、このお城にあったんです。異国の王子様の城にあるとは思いませんでした。世界中のお茶を揃えてあるそうです」


 大きな棚には、数えきれない種類のお茶があった。

 ユメミヤの淹れたお茶は綺麗な黄緑で、ほのかな渋みがチョコレートの後には有り難かった。

 ルイスは軽快にお茶を飲み、お礼を言った。ユメミヤはまたうっとりした目で、ルイスに微笑みかけた。


「遠いイクサの国から来た人の、淹れてくれたお茶を飲んでいるなんて、なんだか不思議だなぁ」


 ぎこちない口調のルイスに、ユメミヤは控えめだが可笑しそうに笑った。


「ユメミヤさんは行動力が凄いですね。女の人が独りで異国へ来るなんて。僕なんて、親に連れてきてもらったんですよ⋯⋯」

「王子様になる、さだめですか?」

「定めと言えたら、カッコいいんですが、彼女に頼まれて⋯⋯」


 ルイスのお決まりの文句にも、ユメミヤは動じなかったが、ルイス本人から聞かされて、悲しくならない訳はなかった。


 突然、ユメミヤはティールームを駆け出して行った。ルイスは急いで後を追った。

 ふたりをのぞき見していたアンドリューとペルタと数人の女性達は、ティールームの大きな扉の陰に上手く隠れた。


 ユメミヤはルイスが追いかけて来ることが嬉しかった。ユメミヤが急に止まって、ルイスの手が肩を掴まえた。


 ユメミヤはルイスが城に居る間、この恋を楽しもうと思った。打たれ強さがそう思わせた。


 ルイスは微笑むユメミヤに連れられて、ティールームに戻った。ルイスは笑顔に戻ったユメミヤが不思議だったが、黙って様子を見ることにした。

 のぞき見していた者達も、あっという間に仲良く戻って来たふたりを、不思議そうに見ていた。


 夕暮れ、部屋に戻ったルイスは、一日を通して高揚した気持ちを鎮める為に、キャロル宛に今回の冒険を手紙に書いた。この時間が好きだったし、大切な時間だと思っていた。

 ルイスは書き終わると、使命を果たした気分で、机に向かったまま、暗くなっていく空を眺めていた。

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