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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第50話 大事な寄り道

 翌日朝、バンとウィンクルと別れたルイスとアンドリューは、バンに教えてもらった、シュヴァルツ王子の城までの近道を突き進んだ。

 森の中には、ルイスが思っていたより、ずっと多くの道と別れ道があって、道しるべや目印がなければ、とても正しい道には進めそうになかった。


 バンの正確な教えのおかげで、ルイスとアンドリューは昼を過ぎた頃にシュヴァルツ王子の城にたどり着いた。


 突然訪ねたルイスとアンドリューを、シュヴァルツ王子と居候の王子ロッドは快く迎えてくれた。

 ロッドは余りにも早いルイスとの再開にしばらく笑っていた。


 草花の鉢植えで飾られた広いバルコニーで、ルイス達はテーブルを囲んだ。

 ルイスは美味しいお茶を飲みながら、疲れた体を休めた。


「シュヴァルツ様、カーム王子の城から女達が来ていますね。どうしていますか?」


 アンドリューの問いかけに、シュヴァルツは秀麗な白い顔に戸惑いを見せた。


「どうもこうも、今の俺にはとても⋯⋯」

「連れて帰りましょう」


 シュヴァルツが皆まで言う前に、アンドリューが決めた。シュヴァルツはほっとした顔でうなずいた。


「何人か町に出ているのだ。せっかくだから、町の王子達に挨拶してくると」

「タフだなぁ」


 シュヴァルツにつれなくされても、めげない姫達に感心するルイスに、シュヴァルツは微かに可笑しそうな顔をした。


「ロッドはどうなの?  女の人達と仲良くなった?」


 ロッドはなにを言うやらと言いたげに、首を横にふった。


「頑張って隠れてたんだけどさ、女の人達からしたら、かくれんぼして遊んでることになっててさ。それで考えてみてわかった。シュヴァルツ様と一緒に居るのが安全だって。みんなシュヴァルツ様の前だとお上品になる。中々近寄って来ないしな」


 確かに、シュヴァルツ王子の前だと、はしゃぎにくいだろうなとルイスは納得した。

 シュヴァルツは初めて会った時より、顔色は良くなっていたが、未だに、もの悲しい雰囲気をまとっていた。


「だけど、シュヴァルツ様とずっと一緒なのも大変だから、帰ってくれると有難いな」


 ロッドは肩をもみながら、シュヴァルツを伺った。

 しかし、シュヴァルツはロッドの軽口も慣れた様子で気にとめなかった。


「その格好も無理しているんでしょ。違和感があるよ」


 相変わらず飄々とした態度と身のこなしのロッドが、シャツのボタンを全部留めて髪をとかしているのが、ルイスには窮屈そうに見えた。

 ロッドはまたシュヴァルツをちらりと見てから、ルイスに顔を寄せた。


「言われたんだ。『ボタンが外れてるぞ』『髪はとかしていないのか?』」

「シュヴァルツ様は引きこもりだけど、きっちり王子様してるよね」

「今度、王子達の集会について行くんだけどさ。肩がこりそうだな」

「俺は無理強いしていないぞ。無理させているのか?」


 ふたりのやりとりを聞き咎めたシュヴァルツが、少し不安そうにロッドに聞いた。


「いえ、こんな教えは基本ですよね? なんでもないです。王子達に挨拶するのも、大事だと分かってます」


 ロッドは背筋を伸ばして答えた。

 シュヴァルツが安堵してうなずいた。ルイスはロッドの成長を目の当たりにして面食らった。


 真面目な態度と整えた見た目が、ロッドを大人びて見せた。負けられないな、とルイスは確かな嫉妬を感じつつ思った。


「将来有望だな、ロッドも」


 アンドリューも感嘆した。


「女性達はいつ戻るかわからない、それにもう日が暮れる。泊まっていけ」


 シュヴァルツの好意に、ルイスとアンドリューは礼を言った。


「お姉さん達が作ってくれるご馳走も、今夜までか。好きな物を毎日食べられるのは嬉しいけど、量が多過ぎて太っちまう⋯⋯まぁ、デブな王子になってもいいか」

「早まらないでよ!  ロッド、頼みがあるんだから」


 なりかねないと思い、ルイスは慌てて止めた。


「振り出しに戻ってきた理由か。なんだよ?」


 ルイスは眠り姫のことを話した。


「変わったことをする人がいるな⋯⋯面白い話だけど、俺はね」


 モテる者の余裕で、ロッドは興味なさそうに目を閉じた。予想していたことで、ルイスは食い下がった。


「今すぐじゃなくて、何年後かにでも。お願いだよ」


 手を合わせて拝むしかなかった。

 ロッドは目を開けた。


「今から試しに会いに行ってもいいぜ?  でも、こんな軽い気持ちで行ってもいいのかな?」

「ロッド、意外に誠実なんだね」


 ロッドは真剣な顔で自分を見つめる、シュヴァルツとアンドリューをチラ見した。


「空気、読んでるだけ」


 腕組みして、考えた後言った。


「シュヴァルツ様、どうですか?  眠り姫。一途そうだしさ」


 急に矛先を向けられたシュヴァルツは、動揺を見せたが、お茶を飲んで鎮めると、鋭い眼差しをロッドに向けた。


「一途?」

「二百年もひとりの王子を待っているんですよ。まさか、三日で別れるなんてことないでしょう」


 シュヴァルツは無意識に胸をおさえ、長い黒髪の間から苦し気な顔をのぞかせた。


「まだ傷が癒えてないよ」

「早すぎたか」


 ルイスとロッドは小声で言い合った。


「シュヴァルツ様なら、俺も相手にとって不足なしと思いますよ」


 シュヴァルツは驚きの瞳を、アンドリューに向けた。ルイスも急いで付け足した。


「ロッドの名前は言ってないし、どんな人かも言ってませんから、シュヴァルツ様が行っても問題ないですよ」

「むしろ、喜ぶぜ。俺が待たせるより、ずっといいですよね?」


 シュヴァルツはルイスとロッドにも視線を走らせてから、顔をそむけて目を閉じた。


「俺はまだ、次の伴侶という訳にはいかない。同じく、何年も待たせることになるだろう」

「伴侶」


 ルイスは重厚な表現に息をのんだ。


「恋人という訳にはいくまい」

「結婚するのか、俺には無理無理」


 ルイスは泣きそうな目でロッドをにらんだ。

 ロッドは少し気にしたが、お茶を飲んではぐらかした。


「アンドリュー、お前が行け」


 シュヴァルツが多少無理して、上に立つ者のごう慢な笑みを見せて命じた。


「勇者をやめて、王子になるんだ」

「無茶なことを!」


 アンドリューは命令を振り払うように、シュヴァルツから顔をそむけた。


「俺も賛成です。王子は1人でも多い方がいいって、最近よく思う」

「僕も思うよ。お姫様が凄く多いよね」


 笑い合うルイスとロッドを、アンドリューは憎たらしげに見ていたが、難しい顔で腕組みして考え込み、やがて言った。


「俺は王子にはなれない。眠り姫に相応しい男でもない」

「それは、相手と決めることだ」


 シュヴァルツの指摘に、アンドリューはまた動揺しはじめた。


「アンドリューさん、眠り姫に興味津々だったじゃないですか。もう一度、会いに行って話をしてください」


 すがる様なルイスを、アンドリューは悲しげに見て言った。


「すまない、ルイス。俺は眠り姫に同情というか、幸せを願う気持ちはあるが、異性として気になっているわけではない。俺には眠り姫が、不可解というか、不思議な存在過ぎて⋯⋯これ以上は立ち入れない」


 アンドリューのためらいが、三人はわかる気がして、うーむと唸り合った。


「勇者にして王子、の出現を待つべきだ」

「俺達とは、この時代の男達とは、縁が無いのではないか?  後、五十年も眠れば、相応しい男が現れるかもしれない」

「でも、死ぬまでには見たいですね。眠り姫を起こした王子」


 諦めムードの三人にルイスは慌てふためいた。


「待ってください!  五十年後なんて遅すぎますよ!  せめて十年⋯⋯」

「確かに、十年も経てば相手が現れるかもな」


 のんびりムードに変わった三人に、ルイスは怒りと焦りを感じ、そして責任を果たすべく、勢いよく立ち上がった。


「いいですか!  彼女ができない限り、三人も伴侶候補ですよ!  眠り姫が気になったら、すみやかに会いに行くんです。約束してください!」


 三人は驚きに凍りついてルイスを見つめた。

 やがて全員しっかりとうなずいた。

 ルイスは安堵のため息をつくと、静かにイスに座って脱力した。

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