表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/184

第42話 嬉しい知らせ

 この城でなにを学ぼうかと悩んだルイスは、ロッドに期待されているダンスを学ぶ事にした。

 ルイスの期待通り、ダンスを得意とする女性達は何人も居た。城にはダンスを練習出来る部屋もあった。そこで、ルイスは女性達の積極的な指導を受けた。


 この城の女性達の間では、肩を出して胸の谷間を見せる服が流行っていて、ルイスを苦しめた。

 しかし、難しいステップのおかげで、ルイスは練習に集中する事が出来て、丁寧で優しい指導のおかげで、めげる事もなさそうだった。


 休憩の為に、壁にもたれたルイスの両脇を女性が挟んだ。


「ルイス君と、もう少し年が近かったからな」


 トビ色の髪をアップにして、赤い口紅が似合う美女が言った。


「ルイス君は、もう恋人が居るのよね?」


 金髪を爽やかに掻きあげて美女が聞いた。


「早まったんじゃない?」


 横腹をつつかれて焦るルイスを、女性達は面白そうに見ていた。


「み、皆さんはどんな願いを叶えたんですか?」


 女性達の魅力に、またフラフラになりそうになるのをこらえて、胸元から奇石が消えているのに目をつけて聞いた。


「⋯⋯内緒よ」

「男の子の、喜ぶような事じゃないかな」


 美に関する事だなと、ルイスは直感してうなずいた。


「ルイス君、クロニクルから、王子様達のレッスンを受けながら来たんでしょ? 皆さん、どんなご様子だったかしら?」


 ルイスは女性達がにじり寄っているのに気づいた。

 王子達のことは、ルイスが説明するまでもなく女性達の方が詳しかった。しかし、女性達の知らない情報もあった。


「シュヴァルツ様は、新しい恋人を探しているみたいですよ」


 この情報は女性達を沸き立たせた。

 瞬く間に情報は城中に広がり、シュヴァルツに会いに行く為の服選びに発展した。


「シュヴァルツ様に、この事を知らせた方がいいかな? それとも、サプライズの方が喜ぶかな?」


 ルイスは電話を借りて、シュヴァルツの城のロッドを呼び出した。


『よう、もうなにか用事か?」


 ロッドの可笑しそうな声に、ルイスも笑みを浮かべた。ルイスは簡単に、自分の居る城について話した。


『とんでもない城に居るな。想像するだけで鳥肌がたつぜ』


 ルイスの目には、ロッドが身震いする姿が浮かんだ。


『雨が止んだら、女の人達がシュヴァルツ様に会いに来るのか。俺は隠れとこ』

「シュヴァルツ様には、喜んでもらいたいんだけど」

『まだ花が恋人みたいだぜ』

「綺麗な人達だよ、花よりもね」

『⋯⋯売り込みどうも。問題は性格だろ?」

「僕には把握(はあく)出来てないよ。それに、性格はシュヴァルツ様に調べてもらわないと」

『勝手だな』


 少しムッとした声のロッドに、ルイスは困って笑った。


「頼むよ。もう女の人達を止めることは出来ないんだ。それに、上手くいったらロッドも嬉しいでしょ?」

『⋯⋯仕方ないな』


 シュヴァルツにはサプライズする事で話は決まった。


「恋人作りを競争する時は、自分が一番だって言ってたじゃないか。シュヴァルツ様に先を越されるんじゃない?」

『でも、二番は確実だろ?』


 ルイスは言い返せずに笑うしかなかった。


『それより、浮気するなよ?』

「しないよ」


 しかし、ルイスは肩を落として続けた。


「されてないか心配だよ。手紙全然来ないんだよね」

『⋯⋯雨が止んだら来るさ』


 思いの外優しい声で、ロッドは励ましてくれた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 雨が止んで地面が乾きだした頃、シュヴァルツに会いに出かける女性達と入れ違いに、郵便配達員が来た。

 玄関で女性達を見送っていたルイスは、配達員を向かえた。


「ルイス君という少年が、この城に居るそうなんですが?」

「僕です!」

「よかった。手紙ですよ」


 ルイスはカーム達宛の手紙と一緒に、ニ通の手紙を受け取った。

 ロッドの予言通り、一通はキャロルからだった。


 カームに手紙を渡したルイスは自室に戻ると、キャロルからの手紙を読んだ。


「キャロル、僕の為に沢山の習い事をしてる」


 キャロルは料理教室や、メイクアップ教室など習い事の毎日。ダンス教室に通っていると書いてあり、ルイスは感動した。


 ルイスは客間のペルタとアンドリューに報告した。


「こんなに一気に習い事をして、少し心配ですよ」


 キャロルから手紙が来たことを喜ぶペルタとアンドリューを前に立ち、ルイスはそう締めくくった。


「好きな人の為なら楽しいものよ。私も小さい頃、好きな人の為に一生懸命オシャレしたっけ」


 ペルタは遠い目をしてため息をついた。


「ルイス君みたいに、応えてはくれなかったな」


 ペルタの悲しげな目を、ルイスは見つめ返すしかなかった。


「ルイスの喜びに水を差すな」

「ごめんなさい。手紙だけで、こんなに喜んでもらえるキャロルちゃんが羨ましくて。ルイス君は理想の恋人ね」

「僕、不安だったんです。ここだけの話、今まで会った王子様達は恋人と上手くいってなかったり、沢山恋人が居たり。王子様になるのが不安だったんです」


 アンドリューとペルタは、苦笑いするしかなかった。


「だけど、キャロルは、僕が王子になる為に努力していると信じてくれてた。それに、キャロルも努力している。めげずに修業してきてよかったです」

「素敵よ、ルイス君。キャロルちゃんには負けたわ」

「よかったな、最大の魔の手を退(しりぞ)けた。この国一番の理想のカップルだ。眩しいぞ」


 ルイスは照れよりも喜びが大きく笑ってうなずいた。それを尻目に、ペルタがアンドリューに不敵な笑みを向けた。


「魔女になってキャロルちゃんを連れ去り、ルイス君の前に立ちはだかってほしかったのね?」

「やめてください」


 穏やかにだがキッパリと頼むと、ルイスは気を取り直して、もう一通の手紙を開いた。


「フアンさんからですよ」


 ペルタもアンドリューもすぐに睨み合いを止めて、手紙に注目した。


 ルイス君元気かい? 私は今オトギの国から遠く離れた国に居るよ。疎遠になっていた恋人と別れたんだ。新しい出会いを探してしばらく旅を続けるよ。お互い成長して再び会おう


「ちょっと」


 ペルタは不満をあらわに、自分を指差した。


「新しい出会いを、と書いてあるだろ」

「悪かったわね、古くて」


 アンドリューの指摘にも、ペルタは口を尖らせた。


「まぁまぁ、フアンさんの幸せを祈りましょう。フアンさんも僕達の幸せを祈ってくれたじゃないですか」

「ルイス君に諭されるとは」

「何度目だ?」


 アンドリューの突っ込みに、ペルタは肩をすくめた。


「ま、最終的には私の元へ来ることになるでしょ」

「⋯⋯お前に恋人が出来たところに、もし、万が一フアンがやって来たら、どうするつもりだ?」


 ペルタはアンドリューの疑問にギョッとした顔を見せたが、すぐに冷静に考えて答えた。


「その時は決闘してもらうわ。勝った方と結婚します」

「オトギの国って感じですね」


 乗り気なルイスを、アンドリューは驚きと動揺の目で見た。


「案外、ルイスが決闘で命を落としたりするのか?」

「なんで、僕が負ける想像をしてるんですか?」

「すまん。若さゆえに余裕を失い負ける。よくある話だからついな」


 ルイスは腕を組んで真剣に言った。


「決闘になった時の、心構えも必要なんですね」

「キャロルちゃんが羨ましい」


 ため息をつきそうになったペルタは、姿勢を正してルイスを見た。


「シュヴァルツ様の元へ、女性陣を向かわせたそうね?」


 ペルタの鋭い眼差しに、ルイスはギクッとして身構えた。


「向かわせたというか、向かったというか⋯⋯シュヴァルツ様にも幸せになってほしいですよね?」

「そうだけどぉ。置いてきぼりはイヤだわ。私の恋人探しは、もうしてくれないの?」

「しばらく休みましょう? そういうところですよね?」


 優しいルイスの笑顔に、ペルタは素直にうなずいた。


「ルイスに頼るのは止めろ、自分で探せ」

「どこを?」


 ペルタの難問に、アンドリューとルイスは答えを出せなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 夕暮れ時に、ルイスは再び電話でロッドと話した。


『綺麗な女の人が沢山来たぜ。シュヴァルツ様は結構ビビってたな。だけど、追い返さすに城に入れたよ。使ってない部屋の掃除をサボらなくてよかったぜ』

「よかった。ありがとうございますと伝えて」

『ああ。とりあえず、お見合いってやつをするみたいだ』

「お見合いを!? 偉いね⋯⋯」


 ルイスはアンドリューが拒んだお見合いを受けるシュヴァルツに、違いを見せつけられた思いで受話器を置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ