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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第41話 苦難の城

 夕暮れ前に目を覚ましたルイスは、とりあえず客間に向かった。客間にはすでにアンドリューとペルタが居た。


 アンドリューは相変わらず浮かない顔でイスに座り、ペルタは生き生きとした笑顔を見せていた。


「いつもと格好が違いますね」


 ルイスの見つめるペルタは、ドレスにも見える豪華なワンピースを着ていた。


「ここでは安心して、こんな格好が出来るのよね」


 ニコニコするペルタを見ながら、ルイスはイスに座りテーブルに頬杖をついた。


「カーム様になにをしてもらったんですか?」

「なにを!? 過激な」


 ペルタは興味津々なルイスに慌てた。


「よく眠れましたか? とか声をかけてもらったり、このワンピース姿を似合いますよって褒めてもらったり」

「うんうん」


 ルイスは見習うために頭のメモに書いておいた。


「この城でゆっくり過ごしてくださいって気づかってもらったりしたのよ。とにかく、気にかけてくれて」

「うんうん、僕も」

「俺も」

「誰にでも分け隔てなく、お優しい。まさに王子様よねぇ」

「見習おう」


 ルイスはエアメモに書く仕草をした。


「おかげで、ゆっくり眠れたわ。ユメミヤと一緒にね」

「僕も、女の人達と一緒に眠ってしまったのかな?」


 もしそうならキャロルになんと言えば? ルイスは苦悩に顔を歪めた。


「俺がそんな真似は許さない。安心しろ」

「ありがとうございます――」


 アンドリューさんなら信じられる。

 ペルタ


「安心したら、お腹が空きました」


 笑顔になったルイスに、ペルタが笑いかけた。


「女性陣が、夕飯を作ってくれているわよ」

「見に行って来ようかなぁ」


 空腹に突き動かされて立ち上がりかけたルイスの肩を、アンドリューが押さえた。


「下手に近づかない方がいい」


 アンドリューの圧力に、ルイスはなにも言えずに座った。


「アンドリュー、もっと楽しそうにしてよ。私やルイス君の前だからって遠慮しないでよ。ねぇ?」


 笑いかけるペルタに、ルイスも笑顔でうなずいた。


「他人のハーレムで楽しめるか⋯⋯俺の事はいい。それよりルイスに、この城で用心すべき点を教えてやれ」

「わかったわ。ルイス君、ここには沢山の女性が居るわ。だけど、みんなに平等に接すること。カーム様の奥さんになっている人も居るけど特別扱いしないこと」

「奥さんも居るんですか。恋人も⋯⋯?」

「お友達という人も居るわ。一緒にいるだけで楽しいんだから。遠くから見ているだけでいい、という人も居るの。ここは、王子様と暮らすという夢を叶える場所なのよ。叶え方は人それぞれ」

「王子様は大変だなぁ」

「何を他人事みたいに言ってるの? まぁ、ルイス君にハーレムは早いわよね。理解できてないみたい」

「理解しなくていい。俺もできてない」

「ルイス君に伝えておくことは、これくらいよね? 出会いの場でもあるけど、ルイス君と年の近い()はユメミヤ以外居ないし」

「僕にはもう恋人が居るし!」


 ペルタがビックリするほど、ルイスは身を乗り出して言った。


「そうでしたわね⋯⋯アンドリュー、せっかくだから恋人を探したら?」


 アンドリューはかたくなな顔のまま答えなかった。


「⋯⋯運命の出会いを待っている女性だって、大勢いるのよ?」

「カーム王子と決闘して、勝たないと恋人同士になれなかったりするんですか?」


 ルイスの質問にペルタとアンドリューはあっけにとられた。自分達よりもルイスの考え方が、よほどオトギの国に染まっている様に見えたから。


「バリアの前では、アンドリューさんの雷撃も効かないのでは? 夜の闇に紛れて駆け落ち? がベストかな⋯⋯オトギ話や恋愛物によくありますよね。キャロルがよく話してくれましたよ」

「なぜ、俺の恋人探しに乗り気なんだ? もうこの城に毒されたか? まぁ、ファウストの戯言(たわごと)ならしのげても、この城にいる無数のファウストの戯言には毒されても仕方ないか」

「戯言だなんて、酷い!」

「俺は決闘なんぞしない!」


 ルイスとペルタは、つまらなそうに顔を見合わせた。


「平和主義者なのね、わかったわ。お見合いしましょう。そして、粛々(しゅくしゅく)と婚姻して、城を出るのよ」

「お見合い?」

「テーブルに向かい合って座るのよ。そして、お互いを探り合うの、趣味とか好き嫌いとか」


 楽しそうに説明するペルタに、アンドリューは頬杖をついたまま素っ気なく答えた。


「趣味は旅。好きなのは独り旅、嫌いなのは欲深い女」


 ペルタは思わず、アンドリューに猛獣の様に爪を向けたが、ルイスがそっと手を伸ばして止めた。


「そっとしておいてあげましょう。深い事情があるのかもしれない」

「⋯⋯俺の事より、ルイスはここでなにを学ぶ?」


 深刻な顔を向けるルイスから逃げる様に、アンドリューは話題を変えた。


「ひとりの女を、愛し続ける根性か?」


 アンドリューとペルタは面白くなって、ニヤリとしてルイスを見た。ルイスはそんな挑発的な視線を真っ向から受け止めて胸を張った。


「簡単過ぎる事です。学ぶまでもない」


 余裕を見せる為に、髪を掻き上げて見せた。


「それより、アンドリューさんの根性が、いつまで続くか心配ですよ。禁欲の反動で快楽に溺れる、よくある話ですよね?」


 今度はアンドリューを見てニヤリとするルイスとペルタの視線。

 アンドリューも胸を張って受け止めた。


「みんな、アンドリューとルイス君が来て喜んでいるのよ? 私はその橋渡し役なのに、なぜ喜ばないの?  どうすればいいの?  神はなぜ私に試練を与えるの?」


 不可解な存在に頭を悩ませて、ペルタは深刻な顔で呟いた。


「試練を与えられているのは俺だ」

「僕ですよ⋯⋯」


 三人はしばらく、力無くぼんやりとしていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 部屋を出たペルタは、さっそく試練にぶつかった。アンドリューとお近づきになろうとする、数人に囲まれた。


「そうね、アンドリューと仲良くなるには偶然を装う出会いがいいと思うわ」

「曲がり角でぶつかるとか?」

「ベタだけど、そういうのね」


 なるべく怪しまれない場所を選び待ったが、アンドリューは出てこなかった。

 痺れを切らした娘達に、アンドリューを追い出すようにうながされたペルタは、泣き真似をしながら客間に向かった。


 客間にはアンドリューだけだった。豪華なイスに座り新聞を読んでいた。

 警戒した顔でペルタを見上げた。


「ルイス君は?」

「台所に行った。勇敢なヤツだ」

「お姫様達は台所や部屋に引っ込んでいるわ。アンドリューも気分転換に城を見て回ったら?」


 アンドリューは警戒心を解かずに、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「どうしてそんなに消極的なの? まさか」


 ペルタは自分の恐るべき予想に、しばらく硬直した。


「もう、恋人か奥さんが居るとか?」

「いいや」

「カーム様を呼んできましょうか?」

「なぜだ?」

「男が好き?」


 アンドリューは勢いよく立ち上がって、ペルタを震え上がらせた。


「誤解を解く為だ、言っておこう」


 アンドリューは極力静かに、ゆっくりと言った。


「女だらけの城に来て興奮している。朝から晩まで女の事で頭がいっばいだ」


 ペルタは素早く扉まで後ずさると、アンドリューをにらんだ。


「朝から晩まで女の事を考えながら、興奮するだけ!?」

「この城に居る間だけの、異常状態というやつだな。今だけの関係は、ここの女達の望みでは無いんだろう? ルイスの前ではそんな真似は出来んが」


 アンドリューはガックリとイスに座り、テーブルに突っ伏しそうになった。


「責任はとれないと、はっきり言っておこう! 俺の事は放っといてくれ!」


 警戒と軽蔑から横目に自分を見つめるペルタに、アンドリューは真面目な顔を向けた。


「女を傷つけないように、つらい禁欲の世界に自ら身を置いているんだぞ? 褒めてほしいものだな」


 アンドリューの態度を、やっと理解したペルタが肩の力を抜いた。


「褒めますとも⋯⋯でも、貴方に好意を寄せた女達を、がっかりさせる事になるわね」

「腐れ外道の勇者より、王子様を探せと伝えてくれ」

「わかったわ」


 自虐を聞き流したペルタを、アンドリューはにらんだ。


「しかし、このままでは終わらないわよ!」


 ペルタがアンドリューに指先を向け、負け惜しみを言って出ていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「一時の恋人でも、いいわって人は居ない?」

「腐れ外道と?」

「違う! アンドリューは真面目よ!  信じられないなら、お見合いしてよ」

「オトギの国まで来て、お見合いはないでしょ」


 ロマンチックな出会いを探しているペルタは言い返せなかった。


「様子を見させてもらうわね」


 アンドリューの希望通り王子様達の元に戻って行く後ろ姿をペルタは悲し気に見つめていた。

 しかし、気を取り直して後に続いた。

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