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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第40.5話 歓迎

 用意されていた客室で、ルイスは手早くシャワーを済ませると寝間着に着替えて、とにかく無心にベッドに乗った。

 その時、扉がノックされた。


 眠気に支配されていたルイスが無防備に開けると、とたんに美しい女性数人に囲まれて、フローラルでフルーティーな香りにルイスは包まれた。


「ルイス君、はじめまして。仲良くしてね」

「もう寝るの? 大変な旅だったのね」


 挨拶もそこそこにルイスが後ずさると、女性達はぴったりとくっついて来た。


「あの、お話なら後で⋯⋯」


 ベッドにぶつかって仰向けに倒れたルイスは、両サイドを女性に挟まれた。


「お姉さん達が、添い寝してあげましょうか?」


 ペルタさんが沢山居る⋯⋯ここは地獄なのか?それとも⋯⋯


 そこでルイスの思考は途絶えた。女性達がつついても、ルイスからの反応はなかった。


「気絶しちゃった?」

「⋯⋯寝てるわね」

「だから女好きじゃないって言ったでしょ、ルイス君はピュアなのよ」


 ペルタが腕を組んで、自慢気にニヤリとした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 その頃、アンドリューは客間の窓の外を呆然と眺めていた。いつの間にか、横殴りの雨が降っていた。

 仮眠をとって早々に、カイトの遭遇した危険人物を探しに行こうとしていた矢先の豪雨に、アンドリューは完全に打ちのめされた。


「神は俺を見捨てたのか?」

「なに大げさな事言ってるの?」


 突然のペルタの声に、アンドリューは驚愕して振り返った。


「なんで居る? 鍵をかけたはずだぞ」


 ペルタは合鍵をかざして見せた。


「鍵をかけるなんて酷い。私とルイス君の客間でもあるのよ?」

「女に鍵を貸すなよ。約束しろ」


 アンドリューに威圧されて、ペルタは素直にうなずいた。


「どこ行ってた?」

「ルイス君の部屋。男はピュアなままでいられるか? 永遠に終わらない論争から逃げて来たとこ」

「まさか、ルイスの部屋に女オオカミ達を、置いて来たんじゃないだろうな?」

「いいじゃない。女オオカミだって必死に生きているのよ?」

「なら、男オオカミも必死に生きている、若い女の部屋に入れてもいいな?」

「⋯⋯いけません」

「わかったら、さっさと女達を追い出して来い」


 ペルタを追いたてたアンドリューが一息ついていると、カームがティーカップを盆にのせて現れた。


「アンドリューさん、気分が落ち着くハーブティーをどうぞ」

「⋯⋯ありがたいが、遠慮しておこう」


 解けそうになった警戒心を再び強めるアンドリューに、カームは余裕を見せて笑った。


「まるで、手負いの獣ですね。この城は、貴方の様な男性の為にもあるのですよ。貴方は理性的な方ですから、あえてけしかけておきましょう。女性達と心を通わせてください。運命の女性が居るかもしれません」


 アンドリューは動揺を抑える為に、カップを取ってハーブティーをほんの少し飲んだ。


「あんた達の恋人だろう?」

「まさか、全員ではありません。それに、私達の恋人だったからと言って拒む気ですか? 私達は『来るものは拒まず去る者は追わず』です」


 少し悲しげに微笑みながらも潔い言葉に、アンドリューは思わず笑みをこぼした。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 アンドリューにルイスの無事を報告し終え、ペルタが寝間着で廊下を歩いていると、同じ寝間着姿のユメミヤに呼び止められた。


「あの、ペルタさん。良ければ、ご一緒に寝かせていただいてもよろしいですか? (ひと)りでは、落ち着かなくて⋯⋯」

「ここは安全安心よ。だって、よく眠れるんだもの」


 ペルタは両手で自分の体をギュッと抱いて目を閉じた。


「どんな傷でも受け止めて包み込んでくださる王子様達がいるんですもの……」

「傷を……?」

「そうよ。信じなさい」

「そう簡単に殿方を信じてはいけません!」


 手を差し出すペルタに対しユメミヤは『ガルルルッ』とうなり声さえ聞こえそうなほど獣の如く警戒心むき出しの顔を向け、胸元に隠していた短刀を手にしてみせた。


「まるで、手負いの獣ね。思い出すわ、私がここに辿り着いたときのこと」


 懐かしい笑みを浮かべて遠い目をするペルタ。


「ペルタさんは以前にもここに来て、それで?」


 ユメミヤは少し警戒心を解いた。


「それで、王子様達に傷を癒やしてもらって、再び旅に出たの。王子様を探す旅にね。あなたもそうなれるわ、信じなさい」


 再び差し出された手をユメミヤは見つめた。


「そうですね……」


 強そうで元気いっぱいのペルタ。歴戦の武士の頼もしさと打たれ強さがあるように見える。自分もこんな風になれたならとユメミヤは思った。


「信じます」

「それでいいのよ。王子様を信じなさい」

「はい……」


 いつの間にか。

 ペルタさんを信じることから王子様を信じることに、すり替わっているけれど。

 信じてみたいとユメミヤはペルタの手を取った。


「まだ警戒してるわね、今日は一緒に寝ましょうか?」

「お願いします」

「王子様の話をしながら」

「はい」


 二人は手を繋いで部屋に向かった。

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