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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第40話 王子様カーム

 ルイス一行の目的地の城は礼拝堂から見えていた。しかし、なだらかな丘を歩けども歩けども、中々城に近づけなかった。

 徹夜明けのルイスは必死の歩みを止めて、アンドリューを横目に見た。


「やっぱり、ドラゴンに乗らないと。早急に相棒になってくれるドラゴンを探す必要があると思います」

「そ、そうだな。ドラゴンを探しに行くか」


 方向転換しようとしたアンドリューのマントを、ペルタが掴んだ。


「ルイスの希望を優先して、さっさとドラゴンの町に行くべきだった」

「その様子だと、今回の王子様はさりげなく飛ばして次の王子様のお城に行くつもりだったんでしょ?」

「くっ、そんなことするわけが……ただ、まずはしっかりと安全確認をしてから……」


 まだ抵抗するアンドリューをペルタが引っ張りながら、一行は城にたどり着いた。


 大きな白亜の城は絵画のように美しかった。見とれているルイスに、バルコニーから若い女性が手を振った。他のバルコニーにも女性の姿が多く見えた。


 女性が大勢居る城か⋯⋯ルイスはアンドリューが乗り気でない理由を悟った。バルコニーの女性に向かって、ペルタが手を振り返して挨拶した。


「城にはバリアが張ってあるわ。門と城壁に触らないようにね、弾き飛ばされるわよ」


 ペルタの忠告にルイス達が大人しく待っていると、門が開いて男が現れた。


 長く柔らかな金髪、穏やかな金色の瞳、引き締まった細面(ほそおもて)の美男子だった。逞しい体躯に金の刺繍がされた仕立てのいい白いコートとスラックスにエナメルの靴。

 輝かんばかりに美しい王子様にルイスが目を奪われる中、ペルタが吸い寄せられる様に王子様の前に出た。


「ああ、カーム様。お会いしたかったです」


 倒れそうなペルタを、カーム王子は優しく抱き止めた。


「ペルタ、よく無事だったね」


 カームが『嬉しいよ』と囁いたため、ペルタは喜びの悲鳴を上げて顔を両手で隠した。

 次にカームはユメミヤに近づいたが、ユメミヤが身構えるのを見て、立ち止まると胸に片手を当てて微笑んだ。


「ユメミヤさんですね? ようこそ。私はカーム、この城の責任者です。どうぞ気楽になさってください」


 ユメミヤはほっとして微笑み返して、カバンから封筒を出してカームに差し出した。


「は、はい。よろしくお願いいたします、これ、当面の滞在費です」

「要らないって言ったんですが」


 カイトが言うと、カームは差し出された封筒を優しく押し返した。


「ここでは、女性からお金を受けとることはありません。ご自分の為にお使いください」


 一瞬で、カームに囚われたユメミヤは息をのんでいたが、大人しくうなずいて封筒を仕舞った。


 次にカームは、口を開けたまま自分を見つめるルイスに向き合って、少し可笑しそうに微笑んだ。


「ルイス君だね、待っていましたよ。私はこの城の王子のひとりカームです、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


 我に返ったルイスは、差し出された手を急いで握った。


「では、カーム王子、僕は帰ります。ユメミヤさんとペルタさんをよろしくお願いします」

「カイト君、休んで行ったらどうだい?」

「ありがたいですが、次の依頼の準備がありますから」


 笑って遠慮するカイトの横に、アンドリューが並んで言った。


「俺もカイト君と一緒に、帰っていいか?」


 弱気な様子のアンドリューにカームは優しく微笑んだが、容赦無く片腕を引っ張って城に近づけた。


「勇者アンドリュー、待っていましたよ。ルイス君の護衛という立場だけでなく、ぜひこの城での生活を楽しんでほしいな」


 アンドリューはほとんど聞こえない声で了解した。


 それぞれ名残惜しく、カイトを見送ったルイス一行は、カームに案内されて城に入った。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 白を基調にした豪華な客間に通されたルイス一行は、並んで長椅子に座り、カームと隣に座るもうひとりの王子と向き合った。


「改めて、私はカーム。この城の主です」


 挨拶を交わしながらルイスは、カームをよく観察した。

 服装だけでなく、肌も髪も清潔で輝かんばかりだが、穏やかながら堂々とした態度から、城の主としての威厳を放っていた。


 ルイスはそんなカームの隣に座っている青年にも、目を奪われた。柔らかな黒髪に優しそうな顔、白い襟付きシャツに青いベストと白いスラックスを着こなした姿はフアン王子を思い出させる柔和さがあった。


「私はファルシオン。以後お見知りおきを」


 ファルシオンは胸に片手を当て、爽やかな笑顔でルイスの視線に応えた。


「どうぞ、ゆっくりしていってくださいね⋯⋯この台詞はもうカーム様から聞いたかな? 語呂力が無いからな、他に思い浮かばないや」


 ファルシオンは屈託のない笑顔で、場を和ませた。


「他に二人王子役が居るのですが、外出してまして挨拶は後程」

「王子役?」


 ルイスの質問に、カームが姿勢を正して向き合った。


「私の事をお話しておきましょう。私は祖父から、かなりの財産を受け継ぎました。そして、ひとりの女性に会い『王子になってほしい』と頼まれたのです。しかも、私にそう願っている女性は一人ではないと知りました。そこで思ったのです、多くの女性の為に王子になろうと。そして、城を買い、財産は全て王子として生きる為に使っているのです」


 カームににっこり微笑まれて、ルイスはただ圧倒された。


「私以外は全員バリアを操り、この城を守っています。機械のバリアでは充分ではありません⋯⋯バリアを使える方、王子役共に募集中です。もちろん王子役にふさわしいか審査はありますが。生粋の王子も募集中ですよ」


 カームは期待する様にルイスに微笑みかけた。ルイスが戸惑いの笑顔を返すと、カームは真剣な顔になり続けた。


「ここには多くの、旅に疲れた人々が訪れます。私達は人々を癒すために行動しています。傷ついた人々が夢を忘れない為に、再び旅に出る為に⋯⋯特に、傷ついた女性達、私達王子が癒やすことができるなら、これより嬉しいことはありません」


 ペルタとユメミヤが感動する隣で、アンドリューと不覚にもルイスも、目を開けたまま眠りつつあった。

 極限状態から脱しようと必死のルイスの眼差しを受けて、カームが驚いて聞いた。


「大丈夫ですか、ルイス君? ここまでの道のり、過酷だったんですね」

「夜中に危険に会って、実は徹夜でここまで来たんです」

「そうでしたか、では話はこの辺にしましょう。皆さんもお疲れでしょう」

「ありがとうございます。実は、全員徹夜なんです」


 眠気を隠すのを止めた徹夜組に圧倒されて、カームとファルシオンはのけぞった。

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