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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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第39話 イクサの国からユメミヤ

 礼拝堂。

 ルイス一行がたどり着くと、白い柱に溶け込む様に白装束の若い娘が座り込んでいた。


 娘はルイス達に気づくと静かに立ち上がった。

 カイトが駆け寄った。


「ユメミヤさん! 無事でしたか」

「カイトさん、よく無事で」


 娘は(そで)で目元を押さえながらカイトを向かえた。

 カイトは片手でルイス一行を示した。


「こちらの皆さんに会えて、ここまで無事にたどり着けました。僕の旧知の間柄の人達です、恐がる事はありません」


 娘はルイス一行にお辞儀して微笑んだ。


「ありがとうございました。カイトさんを探そうにも、私ひとりで右も左もわからず、どうしようと思っていたところです」


 丁寧にお辞儀した。


「私はユメミヤと申します」

「ルイスといいます」

「私はペルタ」

「俺はアンドリューだ」


 ペルタがユメミヤの前に出た。


「来る場所、間違ってるわよ」

「えっ?」


 とっさに防御の型をとって身を縮めるユメミヤ。

 ペルタは上から下まで眺めた。


「貴女は、イクサの国に行きなさい」


 ペルタは占い師の如く断言した。

 ユメミヤは自分の服装を見下ろして笑顔になった。


「私はその、イクサの国から来たのです」


 ユメミヤは肩までの整った黒髪に、イクサの国の民族衣装キモノに見えなくもない、白いワンピースを着ていた。


「なんだ、そうだったの」

「はい。そうでした。カイトさんを助けてくださったお礼をしなければ⋯⋯」


 ユメミヤは柱のそばにしゃがんでカバンを開いた。


「イクサの国の、珍しい物とかくれるの?」


 ペルタが期待して、ユメミヤの隣にしゃがんだ。


「いえ、お金です」

「お金⋯⋯」


 がっかりするペルタを気にせずに、ユメミヤは封筒にお札を入れながら答えた。


「この世はお金です」


 悲しい顔をするペルタに気づかず、ユメミヤは淡々と続けた。


「私はイクサの国の権力者に、お金と引き換えに差し出されそうになり逃げました。それから女独りで生きるには、憎いお金しか頼る物はありませんでした⋯⋯でも今は、お金さえあれば生きていける世の中でよかったと思います。誰にも頼らずに済みますから」

「イクサの国は、殺伐としているわね」

「常に、領土を取り合う戦をしています。私のように弱い者は、さっさと切り捨てられるのです。そんな私が頼るなんて誰もが迷惑でしょう。私は誰にも迷惑だと思われたくないのです」


 刀のように研ぎ澄まされた態度のユメミヤ。

 ペルタは大いにたじろいだ。


「迷惑だなんて⋯⋯ねぇ?」


 ペルタは助けを求めて、ルイス達に回答を求めた。


「頼られると嬉しいですよ」


 ルイスは一番に笑顔で答えていた。


「なにもかも頼られるのは迷惑だがな。俺は下僕にはならない」


 アンドリューがユメミヤではなくペルタをキッと見て答えた。ペルタもキッと見返していた。


「僕は仕事柄からも言えますが、個人的にも迷惑なんて思いませんよ」


 カイトが笑顔で答えた。


「頼れる男が三人も居る! よかったわね」


 ペルタは片手で三人を示して、ユメミヤに笑いかけた。


「オトギの国の皆さん、お優しいですね。私、カイトさんのこと、幼い頃に聞いたおとぎ話の王子様みたいに思っているんです。私をここまで守ってくれて⋯⋯」

「そうでしょう!? 確かに、カイト君は王子様入ってるわよね」


 ユメミヤとペルタの言葉に、カイトは照れ笑いした。


「いやぁ、優しさも、案内員の務めですから」

「仕事と言って、乙女の淡い期待を突き放すんだから、カイト君は⋯⋯意地悪ね」

「少し、残念ですね」


 落ち込むユメミヤとペルタに、カイトは今度は慌てた。


「仕事と割りきらないと離れがたいですから!  体がいくつあっても足りませんよ」


 自分を何人でも増やせるカイトは自重するように言った。

 ルイスはカイト君はモテるなと素直に感心し、王子様に見られているカイトに、密かに尊敬の眼差しを向けた。


「仕方ない、他の王子様を探しましょ」


 ペルタの提案に、ユメミヤは笑顔でうなずいた。


「私、オトギの国の王子様に会ってみたいと思って、ここまで来たのです」

「私もよ!」


 ペルタはユメミヤの手を握って笑いかけた。


「同士であり、ライバルね!」


 ペルタの宣言にたじろぐユメミヤに、カイトが解説した。


「王子様が足りないんですよ。取り合いになる確率が高いです」

「同じ人を好きになったら、遠慮はしないわよ!」

「わかりました。受けて立ちます!」


 ユメミヤは小さくこぶしを握りしめて、笑顔で答えた。


「お前の希少価値がまた上がったな」


 アンドリューが冷静にルイスに言った。


「王子様、ですか?」


 ルイスは自分に興味を示したユメミヤに向き合った。


「見習い、修業中です」

「見習い、修業中……」


 とてもそうは見えない。

 ユメミヤは目を大きく見開いてルイスを見つめた。

 金髪碧眼で優しそうでカイトさんに似ているけど、自分と年が近そうで……

 言葉を失い、見つめるしかなかった。


 自分と同じように遠い国からやって来たユメミヤ。

 ルイスも興味津々で質問した。


「イクサの国から、お金だけを頼りにここまで来たんですか? 凄くタフですね!  オトギの国への直通便があるのかな? テレポートですか?」

「テレポートです」

「奇石の能力ですか?」

「いいえ、私は別の願いを叶えました。打たれ強さです」

「打たれ強さ?」


 ルイスだけでなく、アンドリューとペルタも興味を示した。


「例えば、物にぶつかっても痛くありませんし怪我もしません。一番助かるのは、気絶させる為に首や鳩尾(みぞおち)を殴りますが、私には効かないことです」

「上手い願い事ですね」


 ルイスとカイトは感心したが、ペルタがアンドリューを示した。


「この男は電撃を操るのよ。痺れさせて動きを奪うわ!」

「雷に打たれるって言いますから、打たれ強いなら、ユメミヤさんに電撃は効かないかもしれませんよ?」


 カイトの予想に、


「アンドリューさん、よろしければ試して頂けませんか?」


 ユメミヤが頼んだ。

 アンドリューは指先を向けようとしたが、向きを変えてペルタに言った。


「いきなりは気が引ける。お前で先に加減を試させてくれ」

「なんですって!? お断りよ!」


 当然拒否されたアンドリューは、身代わりを引き受けたカイトで試してから。


 ピリッ


 軽く痺れる電撃をユメミヤに食らわせた。


「効きません。カイトさんの予想が当たりましたね、よかった」

「もう少し、強いのをどうだ?」


 アンドリューは自分の能力が効かないことが不服で、思わず提案していた。


「どうぞ」


 ビリッ


 もう少し強い電撃を食らわせたが、ユメミヤは平気だった。


「よかったわね、アンドリュー! 怪我をさせる心配の無い女の子が現れたわよ?」


 ペルタが思わせ振りなことを言って、不服さだけを感じていたアンドリューはたじろいだ。


「もう少し訓練すれば、完全に操ることが出来るようになる。そんな女は必要ない⋯⋯いや、ユメミヤさん、君がどうとかいう問題では無いんだ。今の話は、気にしないでくれ」


 ユメミヤは優しい笑顔をアンドリューに向けた。


「大丈夫です。私、心も打たれ強いんです」

「羨ましい。私も打たれ強くなりたい!」


 胸の奇石に手を当てるペルタに、ユメミヤは警告する顔つきになった。


「いいことばかりではありません。大勢の人が感動している事に感動出来なかったり、泣いている事に泣けなかったり。胸を打たれる事、心に響く事が少なくなりますよ」

「ひとりだけ反応が薄い人、になるのね?」

「冷たい人に思われるかもしれません」

「いいことは?」


 ユメミヤは宙を見て少し考えた。


「泣いたり落ち込んだりする事が、無くなった気がします。沢山の障害がありましたが、想像以上の早さでオトギの国に来れました。立ち直りが早いのかもしれません」

「へぇ」


 ユメミヤは慌てて付け加えた。


「意地悪したりしないでくださいね。感情はあるんですからね!」


 肩を怒らせるペルタの横で、ルイスが優しく言った。


「ペルタさんは見た目は強くて恐いかもしれないけど、悪人じゃありませんよ」

「ルイス君⋯⋯嬉しいような嬉しくないような気持ちだけど、庇ってくれてありがと」


 ルイスとペルタを、ユメミヤは微笑ましく見ていた。


「優しいですね、王子様になろとなさるのも、うなずけます」

「ありがとうございます」


 ルイスとユメミヤと笑顔を交わした。

 笑顔のユメミヤは頬が桃色に染まって可愛いかった。


「微笑ましいふたりね」


 ペルタの呟きに、


「よかったですね。ユメミヤさんとルイス君の目的地は同じですよ」


 カイトが笑顔で言った。

 喜ぶユメミヤとルイスとペルタを他所(よそ)に、アンドリューはカイトを後ろから締め上げた。


「なぜあんなところに、いたいけな娘さんを連れて行く? 獣に餌をやるような真似をお前がするとはな、カイト」

「獣に餌を?  私は、旅に疲れた女性を王子様が癒してくれる場所だと聞きましたが」


 ユメミヤが首をかしげて、カイトとアンドリューを見た。締め上げられながら、カイトはユメミヤにうなずいた。


「その通りです。アンドリューさんは⋯⋯勇者仲間の噂を聞いて……勘違いしているんですよ⋯⋯待っているのは王子様達です⋯⋯あの城は旅に疲れた女性や弱い人の為の城です」

「騙されんぞ」

「カイト君が私達を、騙すわけないでしょう?」


 ペルタが止めに入って厳格な顔で言った。

 ルイスもカイトに親近感を感じていて同調した。


「そうですよ。カイト君の言うことは信じていいと思います」


 ルイスが言うならとユメミヤは自然に思った。


「アンドリューさん、参りましょう?」


 孤立無縁のアンドリューは愕然(がくぜん)としてカイトを解放した。

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