第4.5話 王子様への一歩
カフェを出て一緒に歩く。
王子様の隣を歩くだけでルイスはドキドキした。
もうさっそく、王子様と歩いてる。道行く人に見られるのが少なからず緊張する。従者と思われているのか……
知り合いくらいには思われているのかな?
ルイスが周りに気を取られたまま待ち合わせの服屋に入ると、ビーナスが奥の方から手招きしてきた。
ところ狭しと並ぶ服や服飾品と武具に目移りしながら、フアンの後ついてビーナスの元へ行った。
「これを、フアン王子」
「懐かしいですね」
ビーナスはフアンに剣と盾を渡した。
フアンがそれを持った姿は、おとぎ話に出てくる王子様そのものという印象をルイスに与えた。
「剣と盾が私の使っている基本武器なんだ。王子は剣と盾を持っている、という思い込みがあってね。奇石を使う時、その姿を想像したら剣と盾以外の武器が」
「えっ!? もしかして、使えない?」
「使えないというか、使いたくないというべきか。剣と盾が一番しっくりくるんだ。自分に一番相応しい武器というものだね。想像しなくてもいいけど、想像した方が武器入手も技術習得も早くなるよ」
「ふむ」
ルイスは思わず腕組みをして唸った。
武器もしっかり想像しなければ、と思ったが、王子の武器は剣以外浮かばなかった。
「ルイス君は、どんな武器に興味があるかな?」
「僕は⋯⋯」
ルイスはドラゴンに乗っている自分をイメージした。
「剣ですね。盾はいらないです!」
両手が塞がったら、ドラゴンを操る手綱が持てないから。
「流石は勇者を伯父に持つだけはあるわね。体ひとつで立ち向かう! 立派な覚悟だわ!」
ビーナスが全くの見当違いから、拍手して意気込みを称賛した。
「盾は重要ですよ。ルイス君、私の忠告を聞いてくれるかい?」
「はい。嫌ってわけじゃなくて」
「いいのよ、頑丈な服を着ていれば! ほら!」
ビーナスはルイスを引っ張り寄せると上着を脱がせ、代わりに丈夫そうな黒い革のタイトなジャケットを着せた。
ルイスは受け入れて体を動かしてみた。重くなく、動きやすく、着心地は悪くなかった。
「サイズはピッタリのようね。ズボンも穿きなさい。靴も変えるのよ」
ルイスはいわれた通りに、黒革のズボンとブーツを履いた。
「どうですか?」
「うん。似合っているよ、オトギの国のポピュラーな」
フアンはそこまで言うと、ビーナスを見た。
「夫の若い頃そっくりねぇ! 面影あるわ、ルイス」
ポピュラーな勇者の格好だなと、ルイスは察して脱力したジト目をビーナスに向けた。
「ビーナスさんっ、僕は!」
「いいじゃないの、まずは形からって言うでしょ?」
「だからまずいんです! 勇者見習いに間違えられたら、大変だ」
ルイスは服を脱ぎにかかったが、ビーナスの悲し気な顔に見つめられてやめた。
「せっかく選んでくれたから、着ます。ちょっと嬉しいし」
ビーナスが飛びかかるように、ルイスを抱き締めてきた。
「ルイス! 素直じゃないわね! 私が自由にしてあげる!」
「大丈夫です。自分で自由になります」
「素晴らしい孤高の精神! やっぱり、100人の勇者をお手本に用意しておくべきだった」
「それは困りますよ、ビーナスさん」
フアンが笑って間に入った。
「ルイス君、なにはともあれその服は頑丈だから。旅に最適だよ」
「着心地はすごくいいです。次は武器をください!」
ルイスも気を取り直して、フアンに向かって言った。
「確かに素晴らしい精神だ。まずは大事な盾をどうぞ」
フアンが腕時計のようなものをくれた。
「これは、盾の持つところですね?」
ルイスは盾を構える形でそれを握ってみた。
「握りの上の部分にボタンがあるよね、押してごらん」
確かにボタンがあった。
ルイスの親指で難なく押すことができた。
すると、青く丸いエネルギーの集合体が出現した。
出方も見た目も、傘みたいだとルイスは思った。
「最新の盾だよ。簡単に言うと、使い方は傘と同じだよ」
「やっぱり、傘っぽいと思いました」
「腕輪の様に手首につけることもできるから、使いやすい方を選んでね」
「はい」
ルイスは盾を手首につけた。
これなら、ドラゴンの手綱も持てる。安堵の笑みを浮かべた。
「ルイス君、次は剣だよ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます――」
フアンが差し出した剣をルイスは両手で慎重に受け取った。
全体が白銀に輝くような剣。刀身はルイスの腕と同じくらいあり片手で持つと少し重かった。
「グラディウスという剣だよ」
「カッコいいですね」
「本当は沢山ある中から、君に選んでもらうのが一番なんだけど。師匠から弟子に剣を渡すというのがカッコいいからね。場所は服屋だけど」
「わかります」
「わかってもらえて嬉しいよ。後からいくらでも、取り替えてくれ」
ルイスはじっくりと剣を眺めて、思わず片手で軽く素振りしてみた。
「切れないように加工してあるし、ルイス君は気性も穏やかだから言わなくてもいいと思うけど、決して闇雲に人に向けないようにね」
「はい。剣を教えてくれますか?」
「もちろん。私の実力くらいなら、直ぐに追いつけるよ」
剣を扱うフアン王子――
カッコよくて剣の腕も凄いと確信した。
弟子として受け継がないとな……ルイスは覚悟を決めてソードベルトを締めて剣を収めた。
装備が整ったルイスは、武器の受け渡しを見物していたビーナスと目があった。
ビーナスは嬉しそうにニヤリとした。ルイスもついニヤリと笑い返した。
最後にリュックを背負いなおすと、ルイスは二人に向き直った。
「素晴らしいわねぇ」
「さぁ、責任重大だ」
ビーナスがうっとりと目を細めて見つめる中、フアンは穏やかな微笑みを浮かべてルイスの前に立った。
「ルイス君、これからよろしくね」
「よろしくお願いします!」
フアンの差し出した手を、ルイスはしっかりと握った。
王子様の師弟が誕生した。