オトギの国の森
本日も晴天で、ルイス一行は気分よく出発した。
まずはアンドリューを先頭に、道から外れて森を歩いた。
「この辺は、何度も歩いているからな。多少うろついて大丈夫だぞ」
自信ありげなアンドリューを信じて、ルイスはドラゴンの痕跡を探して歩いた。
苔むした地面を見て足跡を探したり、木に爪痕がないか調べたりと、それだけでわくわくが止まらなかった。
「ここら辺は、ドラゴンは歩けないんじゃないか?」
木と木の間隔が狭い森を見回して、アンドリューがルイスに聞いた。
「子供のドラゴンなら歩けますよ、きっと。子供のドラゴンは、飛ぶより走る方が得意ですから」
「そういえば、こんな森の中を歩いてる時、後ろから走ってきたドラゴンとぶつかりそうになったことがあるわ」
こらー!気をつけなさーい!と怒っているペルタが、ルイスとアンドリューの目にはっきりと浮かんだ。
「ぶつからないよう、気をつけるとしよう」
「はい」
ドラゴンに会う期待が高まって、ルイスはさらに熱心に調べ続けた。
「ふふ、ルイス君を見てると、小さい頃、ジャングルを動物博士と冒険した時を思い出すわ」
木々を熱心に調べるルイスを立ち止まって眺めながら、ペルタがアンドリューに笑いかけた。
「ほう、なんで動物博士と冒険したんだ?」
「パパとママがベテラン冒険者だから、ガイドしてたの。だけど、あんな風に立ち止まってなかなか進まないから、ふたりともイライラしちゃって、博士をボートに乗せて川に流そうって話してたわ」
「お前はその話にノッてないだろうな?」
鋭く見つめるアンドリューに、ペルタはニッと笑った。
ルイスは一足飛びで、ふたりに近づいた。
「僕は、川に流さないでくださいよ」
「聞いてたの!?」
「安心しろ、ルイス。川に流される心配があるのは、ファウストだけだ」
「なんでよ!?」
ルイスはほっとしつつも、念の為歩みを進めた。
その日、ルイスが最初に出くわした生き物はイノシシだった。
アンドリューの指示のおかげで、木に隠れてやり過ごせたが、突進してそばを過ぎ去る姿はモンスターに見えて恐怖を感じた。
隣の木を見ると、ペルタもブルブル震えていて、本当に勇者かな?と少し疑ってしまった。
「イノシシは活きが良いな」
捕まえて食べたそうなアンドリューを見て、ルイスは今の僕に捕まえるのは無理だなぁと思った。
腰の剣では勝てる気がせず、電撃を持つアンドリューが羨ましくなった。
自分もなにか強い魔法を持ちたくなったが、剣を手放す気にはならなかった。
その後、木々の開けた地面に座り、昼食の栄養バーを食べている時、ドラゴンが飛んでいないかと空を見ていて怪鳥を発見した。
「ドラゴン! じゃない、鳥!?」
見た目はオウムのようにカラフルで、かなり上空にいるのに巨大だった。
「なんですか? あれは?」
「さぁ、わからない」
「初めて見たわ」
アンドリューとペルタも息を呑んで、怪鳥が去った空をにらんでいた。
「オトギの国には、異国で生まれたモンスターが送り込まれてくるからな。それかも知れん」
ルイスも、オトギの国は世界中で生み出されたモンスターの檻の役割があるのを知っていて、うなずいた。
「綺麗だったけど、クチバシと爪は鋭そうでしたね」
「ああ、綺麗な生き物でも、無闇に近づかないでおこうな」
「はい」
「そうね。王子様を除のぞいて、綺麗な生き物には気をつけましょ」
「……はい」
一行は気を引き締めて、再び歩き出した。
アンドリューの記憶力は確かで、一行は森をうねうね歩いていると思いきや川辺に出た。
「おお、凄い! ここは知ってるわ!」
ペルタは川を見回して伸びをした。
ルイスは砂利を踏み川に近づいてみた。幅広く深いようだが、穏やかな流れで癒やされた。川の真ん中には大きな岩場があって、なにかの絵本で見た人魚達がいる岩場を思い出した。
「体を洗いたいわ」
ペルタがアンドリューに言った。
「わかった。少し早いが、ここで野宿するか」
ルイスとペルタに異論はなかった。
ふたりとも実はくたくたで、ハアっと肩の力を抜いて笑った。
ペルタはさっそく岩場を指した。
「あそこなら、体を隠せるわ。ルイス君もアンドリューも体を洗ったら? 見張るわよ」
「お先にどうぞ。見張ってますから」
「俺は最後でいい。人のいない今のうちに、お前達が洗え」
「覗かないでね」
ペルタはキッとした顔を、ふたりに向けた。
「覗きませんよ」
「安心しろ」
ルイスは王子見習いとして即答した。それに、ペルタさんを覗いたら負けだなと思ったし、もはや姉のように思っていた。
「……あなた達なら、心配なさそうね」
お堅い勇者と王子様見習いを前に、ペルタは力を失った。
ペルタが水浴びしている間、ルイスとアンドリューは森や川に目をやり見張りに徹した。
次にペルタと交代したルイスも、小岩をつたって岩場に行き、後ろが岩で天然の脱衣所のようになっている平らな岩に立った。
服を脱ぐと心細くなり、泳ぎが得意なので思い切ってドボンと川に入った。
胸くらいの深さで水は澄み、柔らかい水流は肌に心地よく当たり、気持ちよく水浴びできた。
今度は水着を持ってきて、潜ったり泳いだりして遊びたいなと思った。
川辺に戻り髪を拭きながら、アンドリューのために見張りをした。
素早くとはいえ、三人が水浴びを終えるまで、人は現れず川辺はのどかだった。
岩場は水浴びスポットのようなので、一行は少し上流に移動した。
すると遠くに冒険者風の若い男がひとり、釣りをしているのが見えた。後ろの方で荷物を出している若い男もひとり見えた。
「俺達も、この辺にするか」
三人は近くの木に洗濯物とタオルを干して、砂利をどけて丸いスペースを作ると、真ん中に薪を積んだ。
「俺達も、晩飯は魚にしたいもんだな」
「食べたい」
「食べたい」
「よし、やってみるか」
アンドリューは立ち上がると、川に近づいて鋭く見回した。ルイスとペルタも隣に立って魚を探した。
「あそこに群れがいるな」
「大きいわね!」
「電撃で捕るんですね」
「ああ、シュヴァルツ王子と特訓したレーザーで……」
アンドリューは人差し指を出すと、腕を伸ばして川面に向けた。
「ふぬっ………当たれ!」
なにも言わないように歯を食いしばったが、まだ無理だった。
だが、レーザーは的確に下を魚が泳ぐ水面に当たった。パリッと小さな稲妻が弾けると、魚達は驚いたようにバラけた。そして、悠然と泳ぎ続けた。
「威力が弱かったか……」
アンドリューは神経を集中させて、さっきより少し強めのレーザーを一匹めがけて放った。
水面で稲妻が弾けて、魚はぷかりと浮かんで腹を見せた。
「捕れたぞ!」
「やった!」
「凄い!」
「ドラっ……段々、コツが掴めてきた!」
アンドリューは軽快に6匹をゲットした。




