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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第3章

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冒険の危険と王子様

 ルイスは見張りをアンドリューと交代すると、ペルタと笑顔を交わしつつ隣に座った。


「よかったわね、ルイス君。ドラゴンを探しましょ!」

「はい!」

「そうなると、傷よけクリームを塗った方がいいかしら?」


 ペルタはベルトの鞄から、小さな円形の缶を出した。


 出立の際、ルイスは傷よけスプレーなるものを吹きつけていた。軽い切り傷や打撲なら防げて虫よけ効果もある優れものだった。

 スプレーの他にも、ルイスが初めて見るような冒険グッズをペルタもアンドリューも持っていた。


 新しく揃えるために、ルイスもお店に買いに行ったが、品揃えが豊富で欲しい物を全部買ったら凄い荷物になりそうだった。

 商品は全て、オトギの国の雰囲気に合わせた中世のデザインだった。ルイスはリュックに収まる小さい商品をいつくか選び、その中に傷よけスプレーもあった。


 その時、ペルタがクリームを勧めてきた。


「クリームの方が安心よ。肌をしっかりコーティングしてくれるから」

「クリームは、ベタベタしそうだから」


 そんなわけで、ルイスはスプレーにしていた。


「顔には塗っておいた方がいいわ。王子様」


 ペルタはルイスに缶を差し出した。


「わかりました」


 ルイスは森深くに行くことを想定して、素直に缶を受け取った。


「それはあげるわ。まだあるからね、なくなったら言って」

「ありがとうございます」


 ルイスはクリームを頬に塗ってみたが、そうベタつかなかった。


「王子様は、顔を大事にしないとですよね」

「……ルイス君が傷ついたら、キャロルちゃんが悲しむでしょうからね」


 そうだなと、ルイスはうなずいた。


「私は、顔に傷のある王子様でも全然問題ないけど……」


 ペルタはぽーっと星空を見上げた。


 ペルタさんなら、どんな王子様でも大丈夫だろうなと、ルイスは少し脱力気味に笑った。

 そして、真面目になって、シュヴァルツさんみたいな傷ついた王子様にはペルタさんみたいな人がいいのかもしれない、もっとしてあげればよかったかなと思った。


 そうして、焚き火に照らされるペルタを眺めていると、二の腕に傷があるのに気づいた。

「この傷は、どうしたんですか? 賊と戦った時についたとか?」


 ルイスが指差した傷に、ペルタも目を向けた。


 傷跡はいびつで、切られた傷には見えないなと思った。


「これね。これは、森で王子様との出会いを探していた時に、足元が暗くて谷底に落ちてしまってついた傷よ」

「谷底に!?」


 ペルタはドジな過去を自重してニッとした。


「うん。土が柔らかめで谷も深くなくて、大怪我しなくて済んだけどね。ここは、岩かなにかにぶつかっちゃって」


 傷跡をさすり、ペルタは深い悲しみに目を閉じた。


「手当が遅くて傷が残ってしまったの。傷を跡形もなく治してくれる、治癒者ヒーラーが居てくれたらよかったんだけど……」


 ルイスも悲しい気持ちになり、目をふせた。


「その前に」


 ペルタの口調が力強くなったので、ルイスは顔を上げた。


「谷底に落ちた時に、運命の王子様に出会うものじゃない?」

「えっ」

「ボロボロに傷ついたヒロインの前に、現れて助けてくれるものじゃない?」


 王子様にありそうな展開だなとは思ったが、現実的にそう都合よく現れるかなとルイスは冷静に考えた。


「それは……そうだといいですけど、王子様が谷底にいますかね? 王子様も落ちたとか?」

「くっ……王子様が落ちるわけないでしょ? そう都合よくはいかないか」


 わかってもらえてルイスはほっとした。


「はぁ、王子様……」


 ペルタはまた悲しい顔になって、傷跡をみつめた。


「傷だらけでお姫様になれるかしら? 王子様は優しいから気にされたことはないけど、本当は傷だらけのお姫様なんて嫌だと思ってるかもしれないわよね」


「気にしないでください!」


 ルイスはキッとした顔で、すぐさま言った。


 そして、泣きそうなペルタを見て、気にしていることを無遠慮に聞いたことに気づき深く反省した。


「ごめんなさい、気にしてることを聞いて……だけど、僕は気にしませんよ。ひとりで森を歩くなんて凄いですよ! 勇者の傷だと思います。むしろ、憧れます!」

「ルイス君……」



 ペルタの今にも溢れそうな涙に濡れた瞳に、ルイスは優しく微笑んだ。


「気にしない王子様を見つけましょう。気にする王子様とは、結婚させません!」

「……ルイス君! ありがとう!」


 笑顔になったペルタに抱きしめられて、ルイスはそっと応えた。


「また怪我するような時は、王子様が助けてくれることに期待しつつ、クリームもしっかり塗っておきましょう」

「うん!」


 ふたりはクリームを塗り込み、そんなふたりの仲間愛を木にもたれて聞いていたアンドリューは、ほろりと涙をこぼしていた。

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