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第34話  仲間思い

 アンドリューとペルタはさっそく近場の崖に向かった。

 底を川が流れる、かなり高い崖にたどり着き、アンドリューは膝をついて慎重に崖を見回した。


「咲いてないな」

「来る途中に咲いてた百合を持って帰りましょ」

「仕方ないな」


 アンドリューとペルタはなんとなく崖から足を出して座った。見晴らしのいい爽快感がそうさせた。


「ふたりっきりね」

「お前とこんなところでな⋯⋯」


 ペルタはアンドリューのマントをはね上げて、むき出しの腕にしがみついて、幸せそうに目を閉じた。

 アンドリューは崖という場所に心を囚われていた。

 ペルタが奇石を男達に、いや、この国に脅威を及ぼす形で使う、そんな危機感をアンドリューは日々感じていた。それを防ぐ責務が、ペルタと行動を共にする自分にはあると思っていた。

 しかし、ペルタがこの崖から落ちて命を失えば、ルイスが葬式で泣くかもしれない。ルイスと行動している内はよくないと思った。


「ルイスの旅が終わったら、外の世界の、高層ビルにも登ってみるか」

「高いところが好きなのね」

「一緒に行くか?」


 アンドリューの顔を見たペルタは、邪悪な笑みを浮かべていた。


「貴方が私をデートに誘うなんて、この世で一番怪しい行為だと思わなかったの?」

「なっ?」

「ドラ!」


 ペルタはアンドリューの背中を両手で容赦無く押した。しかし、アンドリューは崖から落ちると確信した時、ペルタの手を掴んだ。


 アンドリューと落下しながら、ペルタは急いで胸の奇石に手を当てた。


「妙な願いを叶えるより、俺と地獄に来い!」

「アンドリュー、貴方は私の事をそこまで?」

「世界中の男をお前から守る為だ。ルイスには俺達の葬式で泣いてもらおう」

「鬼め!」

「魔女死すべし! グハハ!」

「なっ!?」


 しかし、魚を捕るために、超低空飛行していたドラゴンの背中に落ち、とっさにしがみついてふたりは生き延びた。


「ルイス君が聞いたら喜びそうな、九死に一生ね」

「崖からは、足を滑らせて落ちた事にしよう」


 アンドリューとペルタはドラゴンが着地するまで、予想外の遊覧飛行を楽しんだ。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスとロッドは日々、王子修業はともかく、城での生活に励んでいた。アンドリューとペルタはふたりを穏やかに見守っていた。


「なんだか、最近仲がいいですね。いや、いがみ合う事が無くなったと言うべきか?」


 ルイスはそんなふたりに異議を唱えた。


 ペルタは笑って首を横に振った。アンドリューとロッドも丸テーブルを囲んでお茶をしていた。


「急死に一生を得た仲だもの」


崖から誤って落ち偶然ドラゴンに助けられた話はルイスを羨ましがらせたが、冷静になった今、それだけが原因ではない気がした。


「私だけじゃなくアンドリューの恋人も探しましょう。一緒に幸せになりたいわ、お姫様と結婚すればいい」

「気持ちはありがたいが、俺はまだ⋯⋯」

「弱気は禁物よ。私みたいにグイグイ行かなきゃ!」

「それで上手く行ってたらな」


 ペルタはムッとしたが、すぐに、憑き物の落ちた様な笑顔を見せた。

 崖の一件以来、アンドリューは引き続き、奇石の悪用を防ぐという目的の元、ペルタを警戒の目で見るに戻っただけだった。

 しかし、ペルタは自分と心中しようとしたアンドリューの犠牲的精神を流石に心配して、優しい言動を心かけていた。

 それを知らないルイスは、微笑ましいやり取りを、疑いの目で見ていた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 天気のいい昼下がり、革のスリットドレスに戻ったペルタは、アンドリューの居る客間にお茶を持って来て、丸テーブルに置いた。


「男装解除で、少し、シュヴァルツ様に近づいたかしら?」

「男装解除は全員だろう。そんな事より、ルイス達は?」

「裏庭に花壇を造ってる⋯⋯シュヴァルツ様想いね」


 ペルタは感極まって目元を指で押さえた。しかし、アンドリューは窓に浮かない顔を向けた。


「よかったな」

「気のない返事」

「ルイスに避けられている、気がする」


 ペルタは息をのむと、物憂げなアンドリューを刺激しないように静かに言った。


「落ち込むのもわかるわ。ルイス君に冷たくされるなんて、絶望しろと言われているようなものよね」


 ペルタの深刻な様子に動揺したアンドリューは、落ち着く為にお茶を飲んだ。


「俺はなにをしたんだ?」

「ドラゴンを(しいた)げたり、密売したり」

「ルイスの面倒を見ながらか? 俺は悪党じゃない」

「過去が?」

「ない」


 ペルタはわからないと首を振ったが、厳しい顔つきのまま言った。


「厳し過ぎるんだわ。シュバルツ様の、のびのびした教育を受けるロッド君が、羨ましいのかもしれないわ」

「教育しているのか?」


 シュヴァルツはロッドとルイスの存在を、無視してはいなかったが、王子修業をつけてやることもなかった。


「見て学ぶのよ⋯⋯」


 シュヴァルツは昼間はほとんど、姿を見せなかった。あまり学ぶ機会がないのは明白だった。ペルタも自信無なく言っていた。


「シュヴァルツ様は近寄りがたい。貴方は恐い。シュヴァルツ様は鞭を振り回し、貴方は電撃を操る!」


 ペルタはそれだと言うようにうなずいた。


「罰や仕返しに電撃を使った事はないだろ。脅しにもない」

「でも、使えるじゃない」


 アンドリューは両手をテーブルについて、勢いよく立ち上がった。


「体罰反対派だと、はっきり言ってこよう!」


 ペルタも立ち上がって、片手でアンドリューを制した。


「待って! 私が探りをいれてくる、どんな話を聞いても決して、ルイス君だけの味方をしたりしないから! 私は男達の平等な味方よ!」


 アンドリューはペルタに気圧されて、座って頬杖をついた。


「お前が困っている男を放って置けない(たち)で助かった」


 ペルタは笑顔をみせると、早速客間を出た。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ルイスはロッドの部屋の、猫足の洒落た長椅子に座っていた。ロッドはテーブルをはさんで向かいの長椅子に横になっていた。


「崖に行ったあの日、アンドリューさんとペルたんに、なにかあったのは間違いない。あのペルたんが、アンドリューさんを諦めて笑っているなんて⋯⋯きっと電撃を食らって、脳に異常をきたしたに違いないよ」


 ロッドは信じられずに笑ったが、ルイスの真面目な顔を見て思い直した。


「アンドリューさんはそんなにヤバい人なのか? 融通の利かない、厳しいところはあるけど」

「アンドリューさんとペルたんはよく言い合いしてるからね。僕が目を離したばかりに、ふたりについに悲劇が起きたんだ」

「アンドリューさんがキレたのか。どっかで、ストレス発散くらいしてるだろ」

「僕は、あの日なにが起きたのか確かめようと思う。もしも、電撃を食らわせているなら、アンドリューさんと戦う必要がある。ペルたんの(かたき)討ちだ」


 ルイスの好戦的な発言に驚いて、ロッドは体を起こした。


「応援したいけどさ、勝てるわけないだろ?」

「でも、やらなきゃ。王子になるなら、女の人を傷つけた奴を、放っておいちゃいけないんだ」


 しかし、まさかアンドリューさんがと、ルイスは苦悩に顔を歪めた。そんなルイスに、ロッドが観念した様に笑って言った。


「理由はともかく、アンドリューさんと戦うなら、シュヴァルツ様を味方につけないとな」

「いや、これは決闘なんだ。僕だけで、アンドリューさんと戦うよ」

「と、とにかく、シュヴァルツ様には話しておかないとな」

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