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第31.5話 お土産

 ルイスとロッドは一休みして服を着替えてから、ペルタとアンドリューと共に食堂のテーブルにつき、ドラゴン料理に舌鼓をうった。

 上座には、ルイスとロッドの謝罪と誘いを受けたシュヴァルツが座っていた。ペルタは男装していた。場はかしこまった静けさに包まれていた。


 ドラゴンの肉は思いの外柔らかかった。ロッドのナイフが皿を切って高い音を立てた。全員が硬直して息をのんだ。


 ロッドの前に座るルイスは、ロッドを見てニヤリとすると、上品に肉を食べて見せた。


「ルイスが嫌味ったらしいんだけど」

「んーんーんー」


 ロッドの隣で、なるべく話さないとシュヴァルツに誓っているペルタは口を閉じたまま、叱るような顔をルイスに向けた。


「ロッドは、日頃の練習不足が祟ってますよ」

「確かに、ルイスより先に王子になっているのに、おかしいな」


 アンドリューの指摘も加わり、ロッドは劣勢になった。なにげなく、逃げた視線がシュヴァルツの手元に向かった。釣られてルイス達も注目した。

 全員に見つめられる中、シュヴァルツは素知らぬ顔でナイフを動かしたが、僅かな音を立てた。


 ルイスは軽く衝撃を受け、ペルタはまた硬直し、ロッドは仲間だとニヤリとした。


 シュヴァルツは微かな動揺に手が震えた。


「ジロジロ見るな。食べにくい」


 アンドリューがシュヴァルツを庇って三人をにらんだ。


「アンドリューさんも見てただろ」

「⋯⋯俺も見習う必要がある。肉は丸焼きにしたのを、手掴みで食べる方が多いからな」

「丸焼き美味しそう」

「唐揚げが1番美味しいと思う」

「んーん」


 話を聞いていたシュヴァルツは、手を止めて遠い目をした。王子になるために、オトギの国を一人旅した光景を思い出した。


「丸焼きに唐揚げか、懐かしい世界だ」


 シュヴァルツが初めて親しみを感じる普通のことを言ったので、一同は驚いて顔を向けた。


 ルイスは嬉しくなり、ペルタは感激で泣きそうになり、ロッドとアンドリューはほっとした。



「やっぱり、王子になると遠のく世界ですか?」


 ルイスとロッドは不安な眼差しをシュヴァルツに向けた。この堅苦しい食事だけで生きていく自信はまだなかった。


「見てくれを(いつわ)ればいいんじゃないか? 俺は億劫(おっくう)でここを動きたくはないから、お前達だけでまた行ってこい」


 ルイスとロッドは『また見てくれを偽って買い食いに行こう』と、笑顔で目線を交わした。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 食後のお茶を飲みながら、アンドリューはドラゴン探しの最中に、誰かに出会わなかったか尋ねた。


「昼の王?」

「昼は強いって、震えながら言ってましたね」

「酔っぱらいの度胸試しだよ」

「そういう人、酒場に1人は居るわよねぇ」


 ペルタは食事が済んで気が抜けたので、笑顔で普通にしゃべった。アンドリューはペルタの意見に同意して、深く追及しないことにした。


「他には?」

「動物学者バルトロー博士」

「その人なら知ってる。何度かこの国に来てるからな」

「ドラゴンの調査に来たそうですよ」


 ルイスはバルトロードラゴンに遭遇して体験を熱く語った。その間に、全員お茶を飲み干した。


「動向が気になるな。他には?」

「夜の王の、忠実なる騎士デビッド」

「服を強化してもらったよ。小さくなったらまた来いって」

「デビッドさん、まだやる気があるのか。元気なジイサマだ」


 アンドリューの感想にルイスとロッドは、やっぱり好戦的なジイサマだったんだと顔を見合せた。


「そしたら、夜の王も近くに居るな」

「夜の王! この辺に来てるの? 招待されるかしら?」


 ペルタが身を乗り出した。


「僕達は、もう少し大人になるまで招待されないそうです」

「俺は行かんぞ。堅苦しい席は(せま)苦しいからな」

「私も⋯⋯着て行くドレスがない」

「僕が」

「冗談よ。ありがと」

「シュヴァルツ様は?」

「⋯⋯億劫だ」


 ロッドの問いかけに、シュヴァルツは目を閉じたままだった。


「私が行く時、お供としてついてくればいいわ」


 ペルタの誘いに、ルイスとロッドは笑顔を見せた。


「門前払い食らわないかな?」

「その時は、私が門番を引き付けてあげる。その隙に城に入りなさい」


 ペルタは自信ありげにニヤリとしたが、ふたりは浮かない顔を見合せた。


「大人になるまで、宴会は無しだ。他には?」

「魔法使いの見習いさん。もうすぐ、集会があるそうです」

「俺としては、夜の王の宴会より魔法使いの集会の方が、お祭りの雰囲気がありそうで行ってみたい」

「僕も」


 アンドリューとペルタはまた家出するのを警戒して、目を反らして黙った。


「……簡単に行くもんじゃない。年老いたペルタが何人も居ると思え」


 アンドリューの忠告に、ルイスとロッドは悲しげに顔を見合せた。


「見習いさんが一人前になるまで、待った方がいいね」

「そうだな。俺達も俺達で、魔女を退散させる方法を考えとかないとな」


 ロッドの頼もしい言葉に、シュヴァルツは微かに笑った。ペルタは自分と魔女を混同されているような気がして、疑いの目を男達に巡らせていた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 シュヴァルツが自室に引き上げたので、ルイス達も客間に移った。


 ルイスとロッドはリュックからジュースの缶を出した。


「途中で買ったんです。好きなのをどうぞ」

「こんなに沢山。もったいない」


 アンドリューが厳しい顔で言った。ルイスとロッドは肩をすくめた。


「だって、飲むものがなくなったら困るから。つい沢山買っちゃったんです」

「冒険あるあるだよ」

「ない」


 アンドリューが断言した。


「ジュースは沢山買わず、川を探します」


 ルイスが大人しく改善点を上げた。


「地図を持っていけ」


 アンドリューはルイスに丸めた地図を差し出した。


「行っちゃいけないでしょ!」


 場の雰囲気に流されかけていたペルタが、慌てて地図を取り上げた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 寝仕度をすますと、ルイスはベッドの上に仰向けになってほっと息をついた。それから、窓に目を向けて、木々の茂る暗い森を見つめた。


 それから、ドラゴンのダイヤ型の鱗を手に持って、いつまでも見つめていた。

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