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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第2章

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第31話 帰城

 アンドリューとペルタは城の玄関前に並んで、昼間近くの薄明かるい森を眺めていた。


「なぜ、なぜなの?」


 ペルタが愕然(がくぜん)として、遠くを見回しながら呟いた。


「アンドリュー、今度こそ貴方のせいよ」

「俺だけのせいじゃない」

「私達のせい……」


 ペルタは城を振り返って仰ぎ見た。


「あっ、シュヴァルツ様が窓から見てるわ」


 アンドリューが振り返った時には、シュヴァルツの姿は見えなかった。


「そりゃ、面倒見ている子供が行方不明になったら、夢見が悪いだろうからな」


 ペルタはシュヴァルツも心配だったが、ルイスとロッドに意識を向けた。


「私達が頼りないから、ふたりだけで出て行った⋯⋯」

「子供が仲間を見つければ、大人なんて邪魔なだけだからな」


 ペルタはショックを受けて震えだした。


「ルイスもすぐムキになる、非常に子供っぽいところがあるからな」


 アンドリューはフッと得意気に笑った。


「俺を子供扱いするなんて、100年早い!」

「まだ根に持ってたの」


 ルイスがアンドリューを子供みたいだと言ってたしなめたのを思い出して、ペルタはアンドリューの言葉に少しあきれた。


 しかし、すぐに気を取り直して森をにらんだ。


「森の木を全て伐採(ばっさい)してでも、私がふたりを見つけるわ!」

「おおざっぱな探し方だな⋯⋯ルイスの事だ、ドラゴンの居るところを探せばいい」

「食べられてるかも」


 アンドリューはルイスが、ドラゴンになら食べられても本望と言っていたのを思い出して、ペルタの絶望的な想像を否定出来なかった。

 ペルタはルイスが『幸せ』と絶叫しながら、ドラゴンの腹の中に落ちていく場面を想像して戦慄した。


「ルイス君、ロッド君、お願いだから無事でいて」

「よく会って間もない相手を、そこまで心配出来るな。異性だからか?」

「ルイス君はこんな私を、見捨てずに心配してくれた。熱心に話を聞いてくれた」

「疲れたのかもな」


 ペルタは衝撃を受けて、痺れた様に震えだした。


「ひっく、ひっく」

「泣くな、ほら」


 アンドリューの差し出した片腕に、ペルタは両腕を巻きつけて、思いきりしがみついた。


「痛い。血圧計じゃないんだ、そんなに締めるな」

「なによ⋯⋯でも、優しくなったわね。昔は泣いている私を置いて行く、氷の男だったのに。温かくなったと言うか」

「俺達までバラバラになったら、ルイスの為にならないからな」

「ルイス君、ロッド君⋯⋯やっぱり、そこらじゅうの木を伐採するわ!」


 走りだそうとするペルタの肩を、アンドリューが掴んだ。


「待て、ドラゴンに乗って上空から探せば、元気ならルイスは大喜びだ。すぐに居場所がわかる」

「そうね! ルイス君がドラゴン好きで、本当によかったわ」


 ペルタが言ったその時、木々の間からルイスとロッドが現れた。


 フラフラしながら玄関前にたどり着いたふたりを、ペルタが抱き締めた。


「よく無事で」


 絶句しているペルタとアンドリューに、ルイスはドラゴンの尻尾を差し出した。


「はいこれドラゴンの尻尾。お土産です」


 ペルタが尻尾を受け取って、信じられないという顔をした。


「ルイス君が、ドラゴンの尻尾をお土産に? どういうこと?」

「ドラゴンが落として行ったんです。もったいないから、持って帰って来たんですよ。疲れました」


 どうしても捨てようとしないルイスに根負けして、交代で持ってやったロッドが、ルイスを軽くにらんでため息をついた。


「俺も疲れたよ。早くベッドで寝たい」

「怪我は無い?」

「怪我は無いよ。変な虫に刺されてないか気になるだけ」


 ロッドは見えない背中を、手で何度も払った。


「シュバルツ様は?」

「居なくなったのは知らせたけど」


 ペルタは城を振り返った。帰ったと言った時どんな反応を見せるのか、予測がつかず全員黙り込んだ。


「アンドリューさん、ペルタさん、ごめんなさい」


 ルイスは一歩踏み出して謝ると頭を下げた。ロッドも姿勢を正して頭を下げた。


 許そうと言葉をかけようとしたペルタは、チラリとアンドリューの様子を確認した。


 アンドリューは腕を組んでいたが、面白そうに笑っていた。


「黙って出て行く必要は無かったんだ。俺は嬉しいぞ、ドラゴンの尻尾を土産にくれるとは予想外だ」


 アンドリューが声を出して笑うと、ルイスとロッドは顔を見合わせた。ペルタがアンドリューを片手で示して言った。


「見なさい。心配のし過ぎでおかしくなった人を。アンドリューの仇! この! この!」


 ペルタはこぶしで打つ真似をして、ルイスとロッドはまた頭を下げた。


錯乱(さくらん)しているのはお前だ」

「私が? アンドリュー、叱ってよ。雷を落としなさい」

「森の中で幼子みたいに泣いてたらそうした。立派に成長して帰って来て嬉しいぞ。それより、俺達の責任問題がある」

「監督不行き届きで、減給かしら?」


 ふたりは少し困った顔を見合せた。


「とにかく、中に入りましょ。尻尾が重いわ」


 肩の力を抜いたペルタの言葉に、アンドリューが尻尾を眺めた。


「結構、肉があるな」

「僕としては、ホルマリン浸けにして保存したいんですが」

「この城に置いて行くなよ」

「仕方ない、(うろこ)だけもらいます」


 ルイスの妥協を聞いて、三人は脱力しながら城に入った。

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