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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第2章

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第30話  幸運な出会い

 ふたりは廃墟を通り過ぎて、また木々の迫る道を歩き出し、しばらく行くと分かれ道にたどり着いた。

 道は3本に分かれていて、どれも道幅や見た目に違いはなかった。


「ここは真っ直ぐ行くべきだろ」


 ロッドがさっさと歩き出した。


 しばらく歩くと、薄暗い道の先からなにかの、一つの足音が聞こえてきた。ふたりはライトを向けながら、緊張して立ちすくんだ。

 ふたりの前に現れたのは、黒い馬具を付けた馬に乗った、黒い甲冑をつけた人物だった。その人は馬を止めると、脇に避けたふたりを交互に見た。


「こんばんは」


 兜のなかから、年取った男の落ち着いた低い声がした。


「こんばんは。貴方は?」

「私は夜の王の忠実なる騎士、デビッド」

「夜の王? さっき昼の王に会ったばかりですよ」


 デビッドは兜の向こうで目を見開いてロッドを見て、挑戦的に胸を張った。


「名のある方ですかな?」

「名前は聞いてないです⋯⋯貴方が知らないなら、たぶん有名じゃないと思う。ただの酔っぱらいにしか見えなかったし」

「そうだね。それに、近い内に外の世界に帰るそうですよ」

「ならよろしい」

「どっち道、昼の王と夜の王じゃ闘えないんじゃ?」

「なおよろしい。我が主は平和を愛しております、国中を移動しながら、夜に晩餐会や舞踏会、その他奇怪なパーティーを開いては、お客様と歓談なさる時間をなによりも楽しんでおられます。貴殿方(あなたがた)も、もう少し時が経てばお招きにあずかることでしょう」


 デビッドは歓迎する様に穏やかに告げた。


「ありがとうございます」


 ルイスはかしこまって軽くお辞儀した。


「貴方は奇石で、騎士になったんですか?」


 ロッドの質問に、デビッドは馬具を優しく叩いて答えた。


「ご覧なさい、この頑丈な武具を。それに、馬の軽い足取りを見ましたな? 私は昔、この世界一頑丈で機能的な武具を発現させ、(おのれ)やあらゆる物に装備させては色々したものです⋯⋯悪の道に染まりかけた事も」


 ヤバい人だったかと、ふたりは少したじろいだ。


「しかし、私は指導者の器ではなかったのですな。思いきりがつかなかった。そして、今は老いた」


 デビッドは目を閉じて首を横に振った。


「安住の地を得て、今は王の騎士という名誉にあずかっているのですよ」

「これから、どこに行くんですか?」

「魔法使いの家まで。もうすぐこちらの晩餐会が開かれるのですが、魔法使いや魔女の集会も、この先の廃墟で開かれるという情報を耳にしましてな。日取りが被らないように、打ち合わせをしなければなりません」

「魔法使いの家がこの辺に?」


 ルイスとロッドは思わずキョロキョロした。


「魔法使いを探しておいでか?」

「いえ、ドラゴンを」

「ドラゴンはこの先には居ませんな。なんせ、主の仮住まいがあるのですからな」

「引き返そうぜ」

「うん」


 ルイスはデビッドに笑顔を向けて言った。


「会えてよかったです」

「無駄足にならずにすみましたな。お気をつけて」


 デビッドはふたりと握手すると、馬の手綱を持ったが動きを止めた。


「ドラゴンを見つけて、どうなさるんで?」

「乗るだけ⋯⋯です。仲良くなれればいいですけど」

「度胸試しです。でも、この夜道を歩く方が怖いかも」

「勇敢ですな。出会えた記念に、私が武具を付けてあげましょう」


 デビッドは喜ぶふたりの服に伸ばした手を、顎にやって考えながら言った。


「私の考える鎧では、古くさいかもしれませんな。その身に付けている服を強化して差し上げましょう」


 デビッドが触れた先から、透明な液体が服の上に広がっていき、やがて完全に液体と服は一体化した。服の質感や重さに変化はなかった。


「これで万全。貴殿方が、善の道に行こうと悪の道に行こうと、私の力がお役に立てれば幸いですよ」

「ありがとうございます! ドラゴンに近づいた気がします!」

「勇姿を見たかったですな」


 ふたりの礼を受けるなか、デビッドは馬を進めたが、ちょっと振り返って言った。


「服が小さくなったら、またお会いしましょう。貴殿方の成長を楽しみにしていますよ」


 ふたりはデビッドが完全に闇に消えるまで見送った。


「気前のいいジイサンだったな」

「うん、でもちょっと好戦的だね」

「どっちかって言うと、俺達に悪の道に進んでメチャクチャやってほしいんじゃないか?」

「うん、僕は断らせてもらうよ」


 ルイスが素っ気なく言うと、ロッドは目線を上にして考えた。


「俺は、考えとくよ」


 ルイスは警戒してロッドを見たが、その時が来るまで黙って様子を見ることにした。ふたりは来た道を戻り出した。


「夜の王か、どんなヤツだろ?」

「早く招待してもらいたいね」

「晩餐会はいいけど、舞踏会か。酒を飲みながら見物してていいよな?」

「そういう男を、壁のシミと言うんだよ」


 ロッドは横目でにらんだが、気を取り直して言った。


「お前は器用に踊ってそうだよな。クルクル回るヤツ」

「ワルツだね」

「女をとっかえひっかえ、器用に踊ってそうだ。軽蔑(けいべつ)するぜ」

「僕はキャロルだけだと言ったろ? それに、王子じゃない僕は、全然モテないから⋯⋯」

「女が居る事がバレてるのかも。それともドラゴンオタクなのがバレてる」


 ロッドがヤバいと思った時には、ルイスの蹴りが尻に当たっていた。しかし、ロッドはふらつくこともなかった。


「全く痛くない。衝撃さえこなかった。お前の動きを見てなかったら、蹴られた事にも気づかなかったかも」

「僕の足も衝撃を感じてないよ。これさえ着てれば安心だけど、デビッドさんは誰にでも力を貸してそうだよね」

「商売にしたら儲かりそうだな」


 ふたりは分かれ道に戻り、ルイスの直感に従って道を選んだ。しばらく歩くと、道は少しづつ広くなって行き、道端に自販機があった。ふたりは怪しみながらも、これからの事を考えてジュースを何本か買った。


「こういう時は、手から食い物を出せる人が羨ましいよな。手から出たクッキーを食べたことがあるけど、普通に美味しかった。手から滝のように出てた」

「もしもの時の候補に入れておくよ。だけど、自販機があったから、このまま行けば町につくかも」

「町に着いたら、そこに泊まって出直しだな⋯⋯町があるとは思えないけど」

「村だね、自販機を利用するくらい、文明的な村だ」


 話しながらのんびり歩いていたふたりはまた、前方からなにかの足音がするのに気づいた。

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