第3.5話 オトギの国へ
オトギの国。
唯一の入国ゲートにやって来たルイスと両親。
伯母ビーナスと息子パトリックと合流した。
「待ってたわよ! みんな元気そうね!」
ビーナスは相変わらず若々しい。
オトギの国の案内人の中でも数人しか着れない、Sランク案内人の赤い制服をキッチリ着こなしている。
弟夫婦と抱き合った後、 ルイスの肩を掴むと揺すった。
「ルイス! 貴方は私の、私達の期待の星よっ。存分にオトギの国に染まりなさい!」
「はいっ」
「お姉さん、ルイスをお願いしますね」
「大丈夫! スッゴイ助っ人、見つけておいたから」
「スッゴイですか?」
「そうよ! 行きましょ」
さっさと入国受付へ向かう後ろ姿に、ルイス達はとにかくついて行った。
ビーナスが受付と話をしている間、ルイスはゆっくりとロビーを見回した。旅支度をした人や、自分達と同じように話している人達がちらほらいた。
ビーナスが書類を渡してきた。
「これにサインしてね」
契約の書
これに名を書きし者は以下のことに同意したものとする
オトギの国は無法の国 いかなる者も法に守られることはない
たとえ命を落としても 己の運命と受け入れること
何者も責めてはならない
「つまり、死んでも国は責任取りませんよってこと」
ビーナスがサバサバ説明した。
「よいこと?」
「はい!」
ルイスは勢いよくサインした。
無事受理された時、両親が抱き合って泣いた。
しかしビーナスが手を叩いて、パァンと凄い音がしたので全員がビーナスに注目した。
「さぁ! これでルイスは私のもの、違った! オトギの国の住人ね! 高ぶってきたわ!」
「ルイスをどうするつもりです?」
両親が警戒気味な目をした。
「王子様より、会わせたい人がいるんでしょ? 姉さん?」
「バレたようね⋯⋯でも困らない! 貴方達とはここでお別れだもんね」
「母さん、不安を煽るなよ」
息子に嗜められても、ビーナスはニコニコしたまま、ルイス一家と向き合った。
「心配しないで! まずは入口付近の安全な町で、王子様と過ごすことになるわ」
「よかった」
両親はほっとして顔を見合せた。
その隙にビーナスはニヤリと笑い。
意味深な目で見られたルイスはドキリとして、隣のパトリックを見た。パトリックも母の顔を見たようで、ルイスに申し訳さそうな笑顔を見せた。
ビーナスは若い頃、勇者と結婚するためにオトギの国に来た。そして、見事結婚した。夫が戦士した後は、オトギの国の役人として国の運営に関わっている。
なによりも、勇者とオトギの国が大好きな人だった。
安全な町で過ごせないかもな。
ルイスはちょっと覚悟した。
「私が連絡係になるから。いつでも連絡して!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、叔母さん」
「オトギの国では、ビーナスさんと呼ぶのよ」
「はい!」
「では、ルイス。お別れをしなさい」
両親と抱き合った。
ルイスは王子様になるまでというより、ドラゴンと暮らす町に着くまでは帰って来ない。長い別れを覚悟していた。
ルイスは従兄弟のパトリックと向かい合った。
「パトリック、行ってくるから」
「気をつけてな。ホントに助かったぜ」
パトリックは母からの、勇者になってというプレッシャーから解放されたようで。晴れ晴れとした笑顔を見せた。
「ルイス、逃げて帰ってきても笑わないよ。王子様になったら笑うけどな」
ルイスは苦笑いしかできなかった。
「冗談だよ。頑張れよ、応援してる」
二人は笑顔で握手した。
ルイスはみんなから少し離れると、キャロルに到着の連絡をした。
「キャロル、今からオトギの国に入るよ」
『凄い! ルイス、ビックリよ。こんなに早くオトギの国に行くなんて。ゴメンね、私はまだ行けそうにないの。パパにまだ話せてないの。ママも、色々な習い事をさせてくれてるし』
「いいよ。まだ来ちゃダメだ。女の子には危なすぎるよ。僕がオトギの国で強くなるまで待って⋯⋯」
ルイスは両親達の視線に気づいた。
話は聞こえていないはずだが、全員ニヤニヤしていた。ルイスは急いで背中を向けた。
「だ、だから、待ってて?」
『ありがとう、ルイス。パパに反対されてもいい。呼んでくれたら、必ず行くから!』
「絶対に家出して来ちゃダメだよ。手紙を書くからね。とりあえず、王子様にあったら手紙を書くよ」
『待ってる! 私の為に、ありがとう。ルイス、大好きよ』
「僕も、だ、大好きだよ。キャロルの為じゃなかったら、王子様になりに来なかったよ。だから、絶対待ってて!」
『待ってる!』
「ありがとう。じゃあ、元気で!」
電話を切ると、しんみりとした気分で両親達の元へ行った。
「感動したわよ、ルイス! これよねぇ、オトギの国の醍醐味のひとつは! 別れと再会の約束!!」
ビーナスに、おもいっきり抱きしめられた。
「もう、思い残すことは無いわね?」
「はい」
「じゃあ、行きましょ」
ルイスはビーナスの隣に立つと、両親とパトリックの顔を見た。
「元気でな、ルイス。父さん達にも手紙書いてくれよ」
「そうだったね、忘れるとこだった」
「フフッ、王子様によろしくね。助っ人の方にも失礼のないようにね。後は、後は、姉さんと善良な人のいう事をよく聞くのよ」
「はい!」
ビーナスは笑顔でルイスをゲートへ促した。
「じゃあ、行ってきます!」
両親とパトリックと手を振り合う。
入国ゲートを通った。
ルイスは振り返らず、今までの暮らしに別れを告げる儀式をしているような気分で、ひたすら前に進んだ。