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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第2章

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第27話  お友達ができたから

 昼、ルイスとロッドは花を買いに出かけた。

 シュヴァルツ王子のお膝元の町に行ったが、町の様子はクロニクルと変わらず穏やかだった。

 ふたりはまずセバスチャンに頼まれた蝋燭(ろうそく)を買ってから、ドラゴンの唐揚げを買って小さな公園で食べた。

 ベンチに座って食べながら、ルイスは目の前の花を持つ子供達の銅像、その向こうのベンチに座る同い年くらいの女の子をチラッと見た。レースの付いた可愛い服を着た女の子も、ふたりをチラチラ見ていた。


「気をつけないと、オトギの国の女の子は王子様を見ると、目の色が変わるんだ」


 警戒するルイスに、ロッドが可笑(おか)しそうに笑った。


「今の俺達が、王子様に見えるか?」


 ふたりとも、無地の長袖にズボンの普段着だった。


「見えない⋯⋯あの子も、そう思ってるみたいだ」


 女の子はルイスと目が合うと、ツンッとそっぽを向いた。


「フン、僕が王子様になるってわかったら、飛びかかってくるくせに。王子様なら誰でもいいのか?」


 ルイスは思わず悪態をついた。


「お前の彼女もかもな。今頃、どっかで、別の王子を見つけてるかも」

「やめてよ。彼女は違う⋯⋯運命の人だよ」


 ロッドはわざとらしく身震いした。


「純粋な奴だな」

「キャロルが、彼女が言ったんだよ。そう言ってもらえて、僕もそんな気がしてさ」

「フム……お似合いだな」

「ありがとう」


 優しく穏やかな雰囲気のルイスを、ロッドはじっと眺めた。


「その髪型も、彼女に頼まれたのか?」

「よくわかったね。この髪型は、彼女が気に入っているんだ。童話に出てくる王子様カット、なんだって」


 ロッドは少しの間ポカンとして、金髪ストレートのボブカットを見ていたが、気を取り直して言った。


「彼女、彼女って、振り回されてるだろ確実に。いいのか?」

「僕には、彼女しかいないんだ。10才過ぎても爬虫類好きの男なんてモテないよ。でも、キャロルは僕が捕まえたトカゲを見て、可愛いと言ってくれた」

「珍しいかもな、確かに」

「キャロルの方が可愛いよと言ったら、笑ってくれた」

「トカゲより可愛いに決まってるだろ⋯⋯よく怒らなかったな。やっぱりお似合いだな」

「ありがとう。キャロルは、王子様に憧れてる。僕は王子様になるんだ」


 ロッドは脱力気味にだが拍手した。ルイスは笑顔を向けた。


「ありがとう」


 ふたりは公園を出て、花屋を探しながら商店街を歩いた。


「あった。薔薇を買ってくるから、ここで待ってて」

「わ、わかった」


 花屋に入ったルイスを、ロッドはそわそわしながら待った。


「素直で純粋な奴。ああいう奴がフラレると、シュヴァルツ様みたいになりそうだな」


 呟いたところに、ルイスが花束を持って店から出て来た。


「お待たせ」


 赤い薔薇の花束を肩に抱えて、颯爽(さっそう)と歩き出したルイスを見て、ロッドはルイスの肩を叩いた。


「まぁ、お前ならフラレても、直ぐに次の彼女が見つかるぜ」

「ちょっと、いきなり不吉な事を言わないでよ」

「ゴメン」


 気を取り直して前を向いたルイスは、すれ違った少年を見て、宝探しの旅をする少年スリルを思い出した。


「あのさ、スリルって男の子に会ったことないかな?」

「スリル⋯⋯知らないな、どんな奴?」


 ルイスはスリルの事を話した。


「ひとりで宝探しか、偉いな」


 ロッドはルイスを見て、ニヤリとして言った。


「保護者付きの冒険なんて、イカさないな」

「くっ⋯⋯ただの保護者じゃない、叔母さんの策略なんだ」

「策略?」

「叔母さんは、オトギの国の案内人をしてて、この旅の準備をしてくれたんだけど、息子の代わりに僕を勇者にしようとして、勇者の護衛をつけたんだ。勇者と旅をする間に、勇者になりたくなるのを期待してね」

「勇者になる気は無いんだろ? 断れよ!」


 苦悩の表情を浮かべて答えないルイスに、ロッドはあきれてため息をついた。


「今、アンドリューさん達と離れるのは、賢明じゃないと思うな。これから、危ない森の中を旅するんだ。勇者はとても頼りになるよ」


 ルイスはロッドの姿を眺めながら続けた。


「君なんか丸腰じゃないか。オトギの国を舐めてるんじゃないのか? よく今まで生き延びてこれたね」

「お前こそ、飾りの剣を本物にしてから言えよ」


 ふたりは歩きながら睨み合った。通りかかった服屋にロッドが急に入って行ったので、ルイスは後を追った。


 ロッドは冒険向きの、頑丈そうな上着を試着していた。ルイスのとデザインは違うが、ドラゴンの黒革のジャケットだった。


「どうする気? まさか」


 丈夫そうなブーツを履いたのを見て、ルイスは息をのんだ。ロッドは立ち上がって、声をひそめて言った。


「一緒に夜の森に行こうぜ。どっちが度胸があるか決めないとな」

「な、なにを⋯⋯行けないよ、夜の森なんて」


 ルイスは震えるのをこらえて反対した。


「城からちょっと離れたところだけど、ドラゴンが出るらしい。夜行性なんだと」

「本当?」


 ルイスはペルタがアンドリューから、ドラゴンの情報を流すなと言いつけられているのを思い出して、忌々(いまいま)しく思った。


「行こう。勇者の護衛は置いて、ね」


 ルイスの開き直った態度に、ロッドは可笑しそうに笑った。


 ふたりは帰り道で、城を抜け出す為の打ち合わせをした。


「あのアンドリューって人は、勘が良さそうだな」

「ペルたんも、クロニクルで夜遊びする子を補導してたんだよ」

「厄介な奴らを連れてるな」

「ペルたんに3回見つかったら」

「俺はもう見つかったけど」

「⋯⋯どうなった?」

「どうも、城に連れ帰されただけ」


 ロッドはあっさり言ってから、顔をしかめた。


「でも、3回目はセバスチャンを呼び出されて、罰として反省文を書かされた。あんな事って本当にあるんだな」

()めない?」

「止めない」

「シュヴァルツ様には、怒られなかった?」

「全然、俺に興味無しだから」

「アンドリューさんには、確実に怒られるよ。君もね」

「⋯⋯止めないぞ」

「わかったよ」


 (かたく)ななロッドにルイスは折れた。


「わかったよ。よし!」


 ルイスは意気込んで、城に入って行った。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 何事も無く夜になって、ルイスがセバスチャンの用意してくれた部屋に入ると、ワイシャツに黒ズボンと男装したペルタがついて来て羨ましそうに部屋を見回した。

 豪華な部屋で、ベッドカバーはほとんど金色に光って、月や星の模様が綺麗だった。


「すみません、ペルたん。僕だけベッドで寝かせてもらうなんて。藁だと寝不足になりそうで」

「いいのよ。当然の事だわ」


 ペルタはニッコリして、首を横に振った。


「ペルたんと、アンドリューさんが心配ですけど」

「私達は大人なのよ。なにも心配無いわ!」


 ペルタは愉快そうに答えた。ルイスはとりあえず納得してベッドに座った。


「それじゃあ、おやすみなさい」

「ええ⋯⋯なにか、距離が縮まった気がしたわ。なぜかしら?」


 ルイスの前でペルタが首をかしげた。


「ペルたん」

「ああ! ペルたんと呼んでくれたの!? ルイス君!」


 ペルタはのけぞるように一歩後退した。大げさな驚きにルイスは笑った。男装しているだけに、舞台役者のように見えた。


「ロッドがペルたんと呼んでるから、僕も」

「そう、お友達とはいいものね、成長させてくれるものね。ルイス君が大人に? まだ待って!」


 両手を突き出し制止するペルタに、ルイスは可笑しいやら困るやらで笑った。


「心配しなくても、そんなにすぐに大人になれませんよ」

「そうね、ひとりで寝るのが怖いでしょ? 私達と寝なさい」

「そこまで子供じゃありません。さぁ、出てください」


 ルイスはペルタの肩を押して、扉まで連れて行った。


「ペルたん達も、こっそりベッドで寝たらいいですよ」

「そうね」

「おやすみなさい」


 ルイスは微笑んで挨拶すると、扉を閉めて静かに鍵を掛けた。

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