第21話 一組の○○誕生!?
ルイス一行は浜辺に並んで、ティアマトを見送った。雨も止んで、夕日が見えていた。
「本当に帰ってくれるとはな」
アンドリューが感心して言った。
「一度、ドラゴンと会話した事があるが、メチャクチャ頑固だったぞ。結局、どこかへ飛び去ってそれきりだ」
「いいなぁ、僕もドラゴンと話したい」
ペルタがルイスの肩に腕を回して抱き寄せた。
「ルイス君、助けてくれてありがと。神話のように私と結婚」
「しません。僕には恋人が居るので。それに、ペルたんさんは自力で助かってたじゃないですか?」
「そう! 王子様と勇者も居るのに、どっちも助けてくれなかった!」
「ごめん、間に合わなかった」
ブロウが苦笑いして言った。
「間に合わなかった」
アンドリューは腕を組んで素っ気なく言った。
「普通、間に合うでしょう! 日頃の運動不足、怠慢、それが私を危機に陥れたのです。私というか、貴方達を。絶滅の危機に。いざという時に、女性を救えない男性なんて絶滅ですよ」
耳を傾けるルイスとブロウの肩を、アンドリューが後ろから引っ張った。
「わかったら、とっととやり直し。ティアマトを呼んできなさい。私が追われてるシーンから」
「いいから、早く来い! レストランを掃除するぞ!」
アンドリューの呼び声に、ペルタは後ろを振り返った。
「もう、あんなに遠くに⋯⋯フン!」
ペルタは立腹しながらも、ルイス達の元へ走った。
◇◇◇◇◇◇◇
レストランの掃除を手伝う内に夜になってしまい、ルイス達は海岸近くのホテルに泊まる事になった。
食後に、ルイスはホテルの庭に出た。昼間ティアマトが暴れたとは思えない静かな海が見えた。
「綺麗な星空だなぁ⋯⋯」
ルイスは夜空を見上げて、思わず感動のため息をついた。
その時、ブロウとペルタが連れ立って現れたので、ルイスはとっさに、ヤシの木に隠れた。
「なんですの? 大事な話って?」
夜空を見上げるブロウの後ろから、ペルタがもじもじしながら聞いた。
ブロウは振り返って、ペルタの肩に両手をおいた。ペルタは当然ビックリしたが、ルイスもビックリした。
「ブロウさん、まさか」
ルイスは思わず呟いた。
「ペルたん。ティアマトの件、確かに僕は情けなかった。運動不足、怠慢、君に叱られて目が覚めたよ。もう一度チャンスをくれ」
「ブロウさん、まさか」
ルイスはまた呟いた。
ペルタはポカンと口を開けてブロウに釘付けになっている。呼吸さえ忘れている様にルイスには見えた。
「僕を弟子にしてくれ」
ブロウの志願に、ペルタはもう一度口をポカンと開けた。ルイスはガックリと脱力した。
「弟子にしてください。僕を鍛え直して」
「お断りします!」
ペルタは噛みつく様に言うと、ブロウに背を向けて歩き出した。
「待って、ペルたん、ペルさん、ペル師匠!」
「ペルって誰ですか? 名前も覚えてないのですか!?」
「待って!」
怒れるペルタと、それを引き留めるブロウはホテルに消えた。
ルイスはペルタには悪いと思いつつも、笑いが収まるまでしばらく立てなかった。
次の日、朝食の席で、ムッとした顔のペルタを怪しむアンドリューに、ルイスは一部始終を教えた。
「いいじゃないか、弟子にすれば」
アンドリューの説得に、しばらくムッとした顔を変えなかったペルタは、突然ニヤリとした。
「そうね、いいかもしれない。師匠と弟子、揺るぎない絆が、いつしか愛に⋯⋯」
ペルタの思わせ振りな言い方に、ブロウは食べていたスクランブルエッグを吹き出しそうになった。
「迎えます、貴方を弟子に」
ペルタは期待を込めた笑みを浮かべて、ブロウの目を見ながら言った。
「やっぱり、やめておきます」
ブロウはそう言うとペルタに頭を下げた。
ショックで口が聞けない様子のペルタを見ないようにして、三人は笑いをこらえながら食事を続けた。
♢♢♢♢♢♢♢
「王子様ー!!」
ホテルを出た帰り道、ペルタは突然浜に走って行くと、海に向かって叫んだ。
「気が済みましたか?」
ルイスは後ろからそっと声をかけた。
「うん⋯⋯」
「じゃあ、帰りますよ」
ルイスは保護者の様に、ペルタの手を引っ張って海を後にした。
町へ帰りつき、ペルタは本当にスッキリした笑顔を見せて、ルイス達にお礼を言って手を振ると家に入った。
アンドリューは別れ際、ルイスに厳重注意を与えた。
「ドラゴンを見ると、お前は我を忘れるところがある。気をつけろ、お前の為の忠告だぞ」
アンドリューは滑って転んで強打した膝を、無意識に擦っていた。
「はい、気をつけます」
「遊びに行って、叱られるなんて、ルイス君もまだ子供だね」
ブロウの言葉に、ルイスは照れ笑いするしかなかった。
「ブロウ王子、今回は助かりましたよ。また、お願いします」
アンドリューの出した手を、ブロウはしっかりと握った。
「そうだね、年に一回ならいいかな」
「少ない⋯⋯」
アンドリューは気が抜けた声で呟くと、ふたりに手を振って家路についた。
無事、城に帰りつくと、ルイスはブロウと握手した。
「楽しかったよ、ありがとう」
「僕も楽しかったです! 本当にまた、遊びに行きましょう」
「うん、僕も今度は王子様らしい、カッコいいところを見せるよ」
笑顔のブロウと別れて、ルイスは離れへ帰った。
お土産の磯蟹を夕食に出してもらい、フアンを招いて、ルイスは海での出来事を聞かせた。
食事を終えて部屋に戻ると、ルイスはリュックから綺麗な貝殻と、ティアマトの鱗を出した。
貝殻はキャロルへのプレゼントに、大切に封筒に仕舞った。
そして、ベッドに寝転がると、ティアマトが残していった鱗をいつまでも眺めていた。




