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第3話 差し向けられる勇者二名

 こちらはオトギの国。


 ルイスの両親から、


「ルイスがオトギの国に行くことになったんです!」


 と伯母のビーナスが電話を受けていた。


「ついに! ルイスがオトギの国に来るのね……」

『それで、姉さんに相談しようと思って』


 ルイスは伯母さんに相談するのは、気が進まなかった。

 伯母さんはオトギの国に長年住んでいるけど、勇者が大好きという理由でだったから……


『ついに、勇者になるのね?』


 やはり、聞いてきた。

 ルイスは電話を代わった。


「伯母さん」

『あぁ、未来の勇者様』

「違います。僕はドラゴンと暮らすためと」

『それはわかってるわ。ドラゴンに乗る勇者よ』


 ルイスは少し心が惹かれるのを感じた。


「ち、違いますよ。ドラゴンに乗る勇者じゃなくて――」


 一呼吸して言った。


「王子様になるんです」


 両親に宣言するのとで二回目。

 ドキドキはいくらか落ち着いていた。

 宣言を聞いた両親はキャロルを知っているので、お似合いだよと笑顔で納得してくれた。

 キャロルを知らない伯母さんは?


『王子様ですって!? えっ? 王子様?』


 これが、普通の反応だよなとルイスはうなずいた。


「はい。王子様です」

『勇者じゃなくて!?』

「勇者じゃないです」

『バカなっ!!』


 電話で話す度に勇者になってと言ってきた伯母さん。怒る気持ちもわかるけど、


「バカじゃないです。バカにしないでください!」


 キャロルの夢。ルイスは本気で怒り叱った。


『くっ……』


 長い沈黙。

 何か考えている? ルイスが不安を感じたとき、


『わかったわ。バカにしてごめんなさいね。いらっしゃい。未来の王子様。フフフ』


 笑い声にルイスはゾッとした。

 

 やっぱり、何か嫌な予感がする。

 おとぎ話に出てくる魔女の企みが頭に浮かんだ。

 伯母さんがまさか……

 しかし、行かないわけにはいかず、


「ありがとう、伯母さん」


 とりあえず言うと、父さんが電話を代わった。


「ありがとう。姉さん」

『オトギの国のことなら私に任せていらっしゃい。国中の王子様に話を通しておくわ』


 と請け負い今後の予定を話し電話を切ると、ビーナスはさっそく二名の勇者に連絡をとることにした。


 最初に居場所を探したのは。

 アンドリューという若い勇者。

 まず、いくつかの町役場に電話してみると、役場の宿舎にいるという彼に繋いでくれた。


「アンドリュー、役場仕事? 相変わらず真面目ね」

『どうも、ビーナスさん。どんな御用でしょう?』

「実は、私の甥のルイスがオトギの国を旅することになったの。護衛を頼めるかしら?」

『わかりました』


 責任感に満ちた即答。 

 ビーナスは笑顔になると、ルイスと合流するまでのことを話し合い始めた。


「王子様の城から城に移動する旅になるけど、細かい行き方なんかは全面的にあなたの判断に任せますから」

『はい』

「じゃあ、次は、ペルタに連絡をとるわ。ふたりで護衛してもらうから、よろしくね」

『ペルタですか!? なぜ!』

「女性もいた方がいいかと思って」

『それはいいですが、なぜ、ペルタ?』

「なにを慌てているのよ。ペルタしか、女勇者がパッと浮かばなかったのよ。確か、あなたと前に一緒にいなかった?」

『はい、いつも少しの間だけですが』

「なら、お互いやりやすいんじゃない? 知らない同士でギクシャクするより、ルイスもやりやすいと思うわ」

『それは、どうでしょうか。保証はできませんが』


 煮えきらないアンドリュー。

 短気なビーナスは話しを進めることにした。


「いいこと、ふたりでルイスを勇者に導くのよ。あなたの生真面目さとペルタの押しの強さがあればできるわ!」

『そのために、ペルタを? しかし、ルイスがなるのは王子様では?』

「フフ、それは、どちらに転ぶかはルイス次第だけどね。あなた達にも期待しているわ、よろしくね」

『わかり、ました……』


 微妙な反応は気にせず、電話を切る。


 続けてペルタにかける。

 彼女は旅の合間に開いている、骨董屋で電話を受けた。


「本当ですか!? ビーナス様! 私を甥っ子様の護衛にしてくださるのですか?」

『ええ、あなたになら頼めるわ。勇敢で美しい、若い頃の私のような、あなたにならね』

「あぁ、ありがとうございます! 命に変えても、未来の王子様をお守りしますわ!」

『王子様じゃないの!』

「えっ?」

『ルイスは勇者になるのよ。いいえ、なりたくなるように仕向けるの。それが、あなたのもう一つの使命よ。いいわね?』

「そんな……」

『できないの?』

「で、できます!」

『よろしい』


 ペルタは冷や汗をかきながらドキドキして、詳細を聞き逃すところだった。


 なんとか重要な部分だけはメモして。

 電話を切ってニヤリとする。

 ワクワクしてきた心を抑えて、もう一度メモを見ているとアンティークの電話が再びジリジリと鳴った。


「はい」

『ファウストか。アンドリューだ』

「アンドリュー! 久しぶりね。今、ビーナス様と電話したとこよ」

『ああ、今連絡をもらった。依頼を受けたそうだな』

「なによ、その、がっかりしたような声は?」

『はっきり言っておこう。お前と上手くやる自信はない』

「私だってないわよ! フン」

『しかし、決まったことだ。俺達で上手くルイスを守らなければならない。これだけは、絶対に成し遂げるんだ。いいな?』

「わかったわよ。言われなくても、未来の王子様は絶対に守るわ!」

『……お前なら、守るだろうな。頼もしいことだ。しかし、ビーナスさんの企みを聞いたろ?』

「ええ……でも、そこまで余裕がないっていうか」

『そうだな、とにかく、俺達はルイスを守ることを第一に考えよう』

「そうね!」

『勇者になるか、王子になるか、それはルイスに決めてもらうしかないことだ。ルイスはまだ15歳、悩む年頃だろう。あまり、迷わせるようなことはやりたくはないな』

「そうね、王子様一択よ!」

『それはお前の人生だろう』

「ところで、15歳の男の子には、どんな風に接したらいいの?」

『それは……俺もわからない。ただ』

「うん?」

『いつものお前ではいくな』

「なによ、そこは “いつものお前でいけ!” でしょ?」

『間違ってもそんな寝言は言えない。いいか、いつもよりグッと……控えめでいけ』

「……控えめと言われても難しいわ」

『――優しく、だ。優しくしろ』

「優しく」

『そうだ。練習がいるな、俺に優しく挨拶してみろ』

「難しいことを言わないでよ。あなたには、恨みつらみしかないのよ」

『恩もあるだろう? やってみろ。ルイスだと思え』

「そうね、ルイス君だと思ってえっと、こんにちは〜ルイス君。初めまして」

『うむ、言い方はそんな風でいいと思うが、態度も問題だな。一度、会って練習しよう』

「そこまでしなくても、ぶっつけ本番で大丈夫よ」

『大丈夫と思えないからやるんだ』

「フン、真面目なんだから。わかったわよ」

『明日には、店に行く』

「早朝から来ないでよ。10時過ぎてからにして」

『遅すぎる。旅に備えて早寝早起きをしておけ。8時だ』

「はぁ、ルイス君の旅が心配になるわ。アンドリュー、あなたこそ優しくしなさいよ」

『フン、わ、わかっている』


 二人は電話を切ると、同時にため息をついた。

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