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オトギの国のルイス〜王子様になるために来ました〜  作者: 城壁ミラノ
第1章

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第20話 オトギの国の海遊び

 朝早く、海へ行くためルイスが城門へ向かっていると、ルイスを呼ぶブロウの声がした。


 振り向くと、ブロウが城の玄関の前で手を振っていた。ルイスは走ってそばに行った。


「おはよう、ルイス君」

「おはようございます」


 ブロウは白いワイシャツと黒ズボンに運動靴のラフな格好だった。髪も後ろになびかせて、昨日より爽やかになっていた。


「朝早くから偉いね、ルイス君。僕もこんなに早起きしたのは久しぶりなんだ。褒めてほしいな」

「え、偉いですね」


 ルイスは戸惑いながらも、素直に褒めた。


「ルイス君、嫌々じゃないんだね?」

「結構、楽しみなんですよ、オトギの国の海」

「そうかぁ⋯⋯」


 ブロウは青空を眩しそうに見つめた。


 ♢♢♢♢♢♢♢


 ペルタとアンドリューはもう、ペルタの店の前でルイスを待っていた。ペルタはルイスの横に、ブロウが居るのを見ると、笑顔で走り寄って来た。


 ペルタとブロウは握手して挨拶を交わした。


「来てくださったんですね、ブロウ様!」

「女性の誘いを断るのは、気が引けてね」

「嬉しい!」


 ペルタはよくやったと言うように、ルイスの肩を何度も優しく叩いた。ルイスは得意気な笑みを浮かべた。


 ブロウはアンドリューとも握手して挨拶を交わした。


「よろしく、アンドリュー」

「こちらこそ」


 ふたりはお互いの存在を頼もしいと称えあった。



 ♢♢♢♢♢♢♢


 海に着いた時も快晴で風も穏やかだった。海岸沿いには、レストランとパラソルやバーベキューのレンタル屋があった。しかし、暑くないせいか、海岸に人はまばらで泳いでいる人は居なかった。


 ルイス達はさっそく、白い砂浜の上に立って海を眺めた。


「綺麗ですねぇ」

「ねぇ、見て」


 ペルタが髪を掻き上げて、腰に手を当ててアピールした。水色の革の袖なしスリットドレスを着ていて、青い海と白い砂浜が中々似合っているなとルイスは思った。


 ペルタはルイスの笑顔に満足すると、ブロウとアンドリューの反応を見たが、ふたりは互いに財布を出して、レンタルする物について話し合っていて、見向きもしていなかった。


「タイミングが悪かったですね」


 ルイスが恐る恐る言った。ペルタが肩をいからせてルイスの方を向いた。


「普通、海と言えば、最初に女性の格好を気にするでしょ?」

「水着じゃないからでは?」

「夏じゃないんだもん」

「大人しく磯蟹を捕ってろ!」


 アンドリューが命じた。


「僕の分も頼むよ、低血圧でね、寝直さないと」


 ブロウはそう言ってにこやかに手を振ると、アンドリューとレンタル屋に向かって歩いて行った。


「もういい! 恐るべき水竜(ティアマト)となりて、嫌でも私の事しか見えなくしてやる!」


 ペルタの脅しを聞いて、いつもはなだめるルイスだが、ティアマトになってほしいなと思ってしまった。ペルタなら、機嫌のいい時は、背中に乗せてくれるだろう。


 ルイスの思惑を知らずに、ペルタは磯蟹を探して浜を歩き始めた。ルイスもペルタとは反対方向へ歩いて行った。

 浜はかなり長く続いていた。ルイスは蟹を見つけられずに、アンドリュー達の元へ戻った。


 アンドリューは白い半袖に黒革のズボンにブーツで、バーベキューの用意を黙々としていた。

 少し離れたところで、ブロウは宣言通りにビーチチェアに横になって、気持ちよさそうに目を閉じていた。


 王子と家来の様だなと思いながら、ルイスはブロウを起こさないように、そっと歩いてアンドリューのそばに行った。


「手伝いましょうか?」

「大丈夫だ。それより、ファウストのところに行ってくれるか?」

「わかりました」


 ルイスがペルタの後を追うと、少し離れた砂浜にペルタが居た。


「ルイス君、磯蟹よ!」


 ルイスはそばに走って行った。


「私が引きつけている内に、早く!」


 ルイスが近づいて見ると、たらば蟹位ある赤い蟹が、ペルタの足元にいた。蟹は威嚇していて、ペルタは爪先立ちになって、太いハサミの攻撃をかわしていた。


「ルイス君、早く!」

「僕、こういうモンスター系は苦手で」


 ルイスは磯蟹が結構ゴツいので、伸ばした手を引っ込めた。


「ドラゴン好きが、なにを言ってるの?」

「ドラゴンは完成されたモンスターです。磯蟹とは違う!」

「よくわからないわ! ルイス君!」

「ドラゴンは完全無欠で、非の打ち所がなく、神聖ささえあって⋯⋯」


 ルイスが現実逃避する様に熱弁をふるっていると、アンドリューがやってきた。


「なに、モタモタしてるんだ」


 アンドリューは磯蟹の甲羅を踏みつけると、電撃を食らわせた。動かなくなった磯蟹を、さっさと掴み上げた。


「なんか、可哀想です。その捕まえ方」

「これが一番、効率がいいんだ」


 アンドリューは浜を歩き出した。


「さっさと捕まえるぞ」

「多目に捕って、レストランに売りましょ」


 ペルタが商魂をあらわに、アンドリューの後に続いた。ルイスはふたりに任せて、ブロウさんのところに居ようかなと思ったが、気を取り直して追いかけた。


 昼を前に、磯蟹は沢山捕まった。ペルタは望み通り、何匹かレストランに売って嬉しそうだった。ルイスもなんとか捕獲に貢献したので、分け前を貰った。


 磯蟹は網で焼いただけで美味しかった。


「こういう、ワイルドな食べ方もいいね」


 ブロウも率先して蟹を焼きながら言った。そこへ、ペルタが近づいた。


「ワイルドな女は?」

「女性はおしとやかな方が好きだな」

「もう、今さら無理だわ」


 ワイルドに蟹を食べていたペルタは、すごすごとブロウから離れた。ブロウはしてやったりと、ニヤリとした。


 だが食後の雑談で、ブロウが迷信好きで、ペルタの事も前から知っていたと話すと、やはり自分に興味があると言い張って、ペルタはブロウを追いかけ回した。


「た、助けて、魔女に追われてるんだ⋯⋯」


 くたくたの様子で、ブロウはルイスとアンドリューの元に戻って来た。


「本望でしょう?」


 ルイスの鋭い質問に、ブロウはニヤリとした。


「まぁね、ここだけの話だよ」


 ペルタが来たので、ブロウは素早くアンドリューの後ろに隠れた。しかし、流石のペルタも疲れた様子で、荒い息をしてじっとしていた。


「これはいい運動になるな、ルイス」


 アンドリューが手で砂浜を走るようにうながした。ルイスは露骨に嫌だと顔に出した。


「競争にしましょうよ、そしたら、本気だせます」

「競争か、いいだろう。ファウストも加われよ。勇者の実力を見せてやれ」

「私、今走ったところなのに」

「丁度いいハンデだろ」


 アンドリューは勇者への信頼なのか、淡々と言ってペルタにプレッシャーを与えた。


 困った顔をしていたペルタは、砂浜の赤い点を指差した。


「あの磯蟹をゴールにしましょう! 磯蟹にタッチした人が優勝ね!」

「ズルいですよ!」


 ルイスの抗議に、ペルタは悪役の如く鼻で嗤った。


「これは、戦略というものよ。先に仕掛けた者が勝つのよ!」

「くっ!」

「ルイス、磯蟹に触ればいいだけだ。ブロウ王子、合図を頼みます」


 ブロウの合図で、三人は赤い点目掛けてダッシュした。


 赤い点は磯蟹ではなく、赤い亀だった。それにいち早く気づいたルイスはスピードを上げて、躊躇無く捕まえた。


「えーん、えーん!」


 磯蟹ではなかったショックで力が抜け、ドベになったペルタは子供の様に泣き真似をした。


「詰めが甘い! 下調べしておかないからだ!」


 アンドリューが不満もあらわに叱った。


「自分だって、負けたくせに」


 ペルタは負けじと言い返した。


「俺は、筋肉が重いんだよ。走るのに向いてない。だから、お前を加えたのに」

「惨敗ですよ。素直に負けを認めましょ」

「そうだな。ルイス、結構速いぞ」

「亀は小さい頃、飼ってたことがあるんですよ」


 ルイスは海へ帰る亀を見送りながら、得意気に笑った。

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