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第17.5話 アンドリューと修業

 ルイスとアンドリューは揃いの勇者服を着て、森の中の開けた芝生に居た。


 ルイスは剣を、アンドリューに向かって構えた。


「俺は避けるだけで、反撃しないから、好きなだけかかって来い」

「はい」


 アンドリューは余裕の笑みを見せていたが、ルイスは反対に口を固く結んで、体中に力を込めた。


 ルイスは言われた通りに、アンドリューに突進し、なりふり構わず剣を振り下ろした。アンドリューはそれをスイスイと避けていった。


 それでも、ルイスは若さ故の無茶苦茶さと素早さで、アンドリューの腕を確実に打てるチャンスを掴んだ。しかし、ルイスはアンドリューの腕だと思うと打てなかった。斬れない剣とはいえ、思いきり振り下ろしたら痛いに決まっている。


 ルイスが不自然に動きを止めたので、アンドリューは体勢を整えて、少し考えてから言った。


「この服なら当たっても痛くない。最初に言っとけばよかったな」

「でも、やっぱり僕は、アンドリューさんを斬るなんて」

「アレス王子だと思って、向かって来い!」


 アンドリューはルイスから距離をとって両手を広げた。


「ここだけの話だぞ」


 ルイスはうなずいて、アンドリューに斬りかかって行った。

 そして、今度もチャンスを掴んだ。ルイスはアレスを思い出し、歯をくいしばって、二の腕に容赦無く剣を振り下ろした。


「今の一撃、効いたぞっ⋯⋯」


 アンドリューはあまり効いてなさそうに言うと、打たれた腕をおさえていたが、突然ガックリと膝をつきうなだれた。

 アンドリューの演技力はゼロだったが、ルイスはそんなアンドリューを見て、次に握りしめた剣を見つめた。ルイスは震え出した手から剣を放った。


 剣が地面に落ちる音に、アンドリューが顔を上げた。


「気がすんだか?」


 ルイスは無言のまま、自分も膝をついてうなだれた。


「僕は、後方支援にまわります⋯⋯」


 苦渋の決断に、声を絞り出した。


「お前には、そういうのは似合わない」

「似合う、似合わないの問題じゃないんです⋯⋯やられたら、やり返さないと⋯⋯この気持ちが収まらない」

「お前に、復讐や戦いは似合わない、というより、出来ないだろう?」


 ルイスは悔しいが言い返せなかった。


「優しい王子様になれ。みんなが応援してくれる」


 ルイスは地面に手をついて、草を握りしめた。


「お前に向いてるさ、優しいからな」


 ファウストみたいな手のかかる女にも優しい、中々居ない人材だと、アンドリューは心の中で続けた。


「王子様になるよう願った恋人に感謝しろ。そんな恋人が居ないばかりに、悪の道に突っ走るヤツもいる」

「はい⋯⋯」


 キャロルを思い出して、ルイスはようやく顔を上げた。心にあったアレスの顔は消えていった。


 ルイスの穏やかな顔を見て、アンドリューも安心して笑みを見せた。


「悪の道には突っ走らないけど、アレス王子を殴る機会があったら、殴りますよ、僕は」


 真顔で警告するルイスに、アンドリューはため息をついて笑った。


「アレス王子に触ったら、力が抜けるんだ。諦めろ」

「そうだった! この感情をどこにぶつければ⋯⋯」


 アンドリューは立ち上がって、距離をとった。


「打ってこい!」

「いえ、もう大丈夫です」


 ルイスは剣を拾うと腰に収めて、アンドリューに深々とお辞儀した。


「ありがとうございました」

「やるせないんじゃないのか?」

「王子ですからね、王子らしくお茶をして、落ち着こうと思います。アンドリューさんも是非」

「そうだな」


 ルイスがいつもの様に、落ち着いて笑顔を見せたので、アンドリューも納得してお茶の誘いを受けた。


 ルイスとアンドリューはさっそく、離れのリビングでリンデル夫人に淹れてもらったお茶を飲んだ。


「とても落ち着きます」


 ルイスは満足のため息をついて呟いた。リンデル夫人がお菓子の皿を出しながら言った。


「よかったわ。ルイス君、朝から笑顔がぎこちなくて、黙ると怖い顔になって。きっとなにか恐ろしい事があったんだと主人と話していたのよ」


 リンデル夫人の鋭い観察眼に、ルイスは驚き、アンドリューは感心した様子でうなずいた。


「もう、大丈夫です」

「よかったわ。でも、また恐ろしい事が起こるんでしょうね」


 リンデル夫人は深刻な顔で、自分の言った事にうなずいた。


「アンドリューさん、しっかり護衛を頼みますよ」

「かしこまりました」


 元姫の威厳のある命令に、アンドリューが厳かに返事をすると、リンデル夫人は感動した様子で胸に手を当てて微笑んだ。


 アンドリューが帰ると、ルイスはペルタの店へ行った。

 ペルタの店は閉まっていた。裏に回って、家の戸を叩いてみた。昨夜のショックで寝込んでいるのかと、心配になった時、戸が開いた。ペルタは嬉しそうに笑って、ルイスを招き入れた。


 ペルタはこじんまりとしたキッチンにルイスを案内すると、お茶を淹れてくれた。ルイスがお茶を飲んでクッキーを食べている間、ペルタはどこかへ行ったが、すぐに赤い布にくるまれた物を両手で持って現れた。


「これを、勇者、じゃなかった、勇敢な王子様、ルイス君に」


 ペルタは布を広げた。ドラゴンを型どった小さな装飾品が出てきた。

 ルイスが手にとって見ると、金細工のドラゴンが赤い火を吹き全体が艶々と光っているブローチだった。


「これを、僕に」

「商品の在庫の中を探してたら、あったのよ! まさしく、ルイス君の為にあったとしか思えないじゃない?」


 ルイスは手の中のドラゴンを見て、笑みを浮かべてペルタを見た。


「受け取っていただけるかしら?」


 ペルタがかしこまって聞いてきた。


「ありがとうございます。一生大切にします」


 ルイスはペルタに握手を求めた。ペルタはルイスの手を両手で握ると嬉しそうに微笑んだ。

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